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不死身のアルス
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城の地下にある祭壇。
地下と呼ぶにはあまりに広く、あまりに煌びやかな場所。
その場所に、青年の姿がひとつ。
黒い短髪と赤黒い鎧。彼の名はアルス・アンドレイク。
ノルマルド王国が要する騎士団の団長であり、歴代最強と評されている。
その剣は巨大な魔物を一撃で屠る。
その一撃は聖女の結界すらも砕く。
しかし彼の強さは剣の威力だけではない。
攻撃よりも、むしろ守りの方が得意である。
付与された二つ名は不死身。あまり知名度の高くないノルマルド王国において、しかし不死身のアルスという名だけは遥か遠方の地にまで伝わっている。
「……俺は、どうすれば」
祈り手を失った祭壇。
青年の低い声が寂しく響いた。
アルスは聖女を守護する騎士の家に生まれた。不吉の象徴とされる黒髪を持つ彼は様々な者から恐れられていたが、聖女だけは違った。
彼は聖女を親のように思っていた。
自らの命に代えても必ず守ると決めていた。
しかし守れなかった。
彼以外の手には余る魔物が現れ、遠征から戻った時に訃報を聞いた。
下手人は、次の聖女ノエルだと言われている。
アルスには信じられなかった。
彼女はアルスと同様に、シャルロッテを親のように思っている。
彼自身、何度も話をした。
それこそ妹のように思っていた。
ノエルは自由奔放な娘だった。
無駄に聡く、アルスは何度も騙された思い出がある。それを見抜いたシャルロッテから指摘を受けては、馬鹿正直に問い詰め、気が付けば言い包められるということを繰り返していた。
アルスの剣と魔法は一流だが、頭の方はお世辞にも良いとは言えない。
故に彼は思い悩む。ノエルがシャルロッテを殺害したという話に強い違和感を覚えながらも、真相に至れるだけの思考能力が無い。
そんな彼が祭壇に訪れたのは、既に亡き聖女の声を求めたからではない。
この祭壇を──その中央にある古代の遺物を破壊せよと、王子に命じられたからである。
彼は命令に従い、祭壇へ足を運んだ。
そして古代の遺物の前で剣を構えた時、過去の思い出が蘇り動けなくなった。
「……せめて、王がご壮健であれば」
現在、国王は寝たきりの生活となっている。
正式な王位の継承は行われていないが、政を指揮しているのは王子である。
第一王子ルカ。第二以下は王に似て病弱であり、既にこの世を去っている。
次の国王はルカとなる。即ち彼の命令は既に王の命令と同義。騎士であるアルスに逆らう選択肢は無い。アルスが王命よりも優先するとしたら、それはシャルロッテの言葉だけである。しかし彼女は既にこの世を去った。
故に彼は考える。
自らの意思で、違和感と向き合う。
──妙に懐かしい気配を感じた。
彼は手に力を込め、振り向くと同時、何も無い空間に剣先を向ける。
「ちょうど、話がしたいと思っていた」
その頬に微かな笑みが浮かぶ。ノエルがシャルロッテの魔力を感じ取れるように、アルスもノエルの魔力を感じ取れる。
無論、それはノエルも知るところである。
だから彼女は無意味な魔法の行使を止め、その姿を現した。
地下と呼ぶにはあまりに広く、あまりに煌びやかな場所。
その場所に、青年の姿がひとつ。
黒い短髪と赤黒い鎧。彼の名はアルス・アンドレイク。
ノルマルド王国が要する騎士団の団長であり、歴代最強と評されている。
その剣は巨大な魔物を一撃で屠る。
その一撃は聖女の結界すらも砕く。
しかし彼の強さは剣の威力だけではない。
攻撃よりも、むしろ守りの方が得意である。
付与された二つ名は不死身。あまり知名度の高くないノルマルド王国において、しかし不死身のアルスという名だけは遥か遠方の地にまで伝わっている。
「……俺は、どうすれば」
祈り手を失った祭壇。
青年の低い声が寂しく響いた。
アルスは聖女を守護する騎士の家に生まれた。不吉の象徴とされる黒髪を持つ彼は様々な者から恐れられていたが、聖女だけは違った。
彼は聖女を親のように思っていた。
自らの命に代えても必ず守ると決めていた。
しかし守れなかった。
彼以外の手には余る魔物が現れ、遠征から戻った時に訃報を聞いた。
下手人は、次の聖女ノエルだと言われている。
アルスには信じられなかった。
彼女はアルスと同様に、シャルロッテを親のように思っている。
彼自身、何度も話をした。
それこそ妹のように思っていた。
ノエルは自由奔放な娘だった。
無駄に聡く、アルスは何度も騙された思い出がある。それを見抜いたシャルロッテから指摘を受けては、馬鹿正直に問い詰め、気が付けば言い包められるということを繰り返していた。
アルスの剣と魔法は一流だが、頭の方はお世辞にも良いとは言えない。
故に彼は思い悩む。ノエルがシャルロッテを殺害したという話に強い違和感を覚えながらも、真相に至れるだけの思考能力が無い。
そんな彼が祭壇に訪れたのは、既に亡き聖女の声を求めたからではない。
この祭壇を──その中央にある古代の遺物を破壊せよと、王子に命じられたからである。
彼は命令に従い、祭壇へ足を運んだ。
そして古代の遺物の前で剣を構えた時、過去の思い出が蘇り動けなくなった。
「……せめて、王がご壮健であれば」
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故に彼は考える。
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「ちょうど、話がしたいと思っていた」
その頬に微かな笑みが浮かぶ。ノエルがシャルロッテの魔力を感じ取れるように、アルスもノエルの魔力を感じ取れる。
無論、それはノエルも知るところである。
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