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ユニコーン聖女は驚愕する
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城は国の中央にある。
国の外周が高い城壁に囲まれているのとは逆に、城は深い堀で囲まれている。侵入するには南側に一本だけある橋を渡る必要がある。普段は閉ざされているが、今日は王子が演説をするということもあり開かれていた。
橋を渡った先には庭が有る。ふわふわの草が植えられた広い場所で、普段は貴族の子供達が駆け回っている。
そこに今日は、隙間も無い程に平民達が密集していた。
当然、庭には収まらない。行列は橋を越え、街中までも続いている。
「物好きも多いですね。あの場所でも何も聞こえないでしょうに」
それを文字通り上から眺める私は、ぼんやりと呟いた。
「ノエル、これ聞く意味あるのか?」
「気になるじゃないですか」
「でも国を出るんだろ? ならもう無関係じゃないか」
「気になるじゃないですか」
同じ返事を繰り返すと、シャロは諦めた様子で溜息を吐いた。
「結界魔法って、守るだけじゃないんだな」
「あら、知らなかったのですか?」
「知るわけないだろ。見えなくしたり、空を歩いたり、訳が分からないぞ」
「良いですかシャロ。何事も本質を見極めることが大切ですよ」
ああ、シャロの口数が増えています。
それだけではありません。口調も、表情も、軟化しているのです。
嬉しいですね。
昨夜、背を重ねて寝たことが原因でしょうか?
ぐへ、ぐへへ。
これはもう一息ですね。
そんな悦びと蔑むような視線を受けながら考える。
さてさて、わたくしの元婚約者様は何を話すのでしょうか。
思えば昔から摑みどころの無い方だった。
愚かではないはずだ。他の貴族と同様に偏った思想をお持ちではあるけれど、彼の言葉からは確かな知性が感じられた。
だから不思議で仕方が無い。
彼はなぜ、私の誘いに乗ったのだろう。
確かに美しい令嬢を唆した。
その令嬢にそこそこの嫌がらせをして、国を追い出される理由を作った。
しかし……あまりにも釣り合わない。
この国には聖女信仰がある。
例えば城を囲む堀。橋が無い三方には巨大な聖女を象る像がある。
魔物の脅威は底知れない。
聖女の作り出す結界が無ければ国を護れない。
そして国を維持するには民衆が必要だ。いくら貴族とて、民の生み出す富が無ければ鍬を持ち土を耕す生活になるだろう。
国と裕福な生活。
どちらを護るにも聖女の存在は欠かせない。
……お師匠様だけで十分と考えた?
その可能性も無くはない。
お師匠様ならば、あと二十年は結界を維持できるだろう。その間に新たな聖女が生まれる可能性は十分にある。
しかし不可解だ。
何か強い違和感がある。
……シャロの言う通り、知らなくても良い話ではありますが。
この国を離れたならば、もう無関係だ。
しかし気になってしまったから仕方がない。
「おっ、あれが王子か?」
シャロの声で意識を王城へ戻す。
「はい、そろそろ始まるみたいですね」
国の中央にある城の、さらにその中央に位置する場所から天を目指して建てられた鈍色の鉄塔。その途中、地上の庭に向かって伸びる空中の庭園がある。
王子は、その先端に立ち地上の庭を見下ろした。
それから軽く手を掲げる。それだけで民衆は口を閉じ、世界に静寂が生まれた。
私を含め、この場に集まった全ての者が彼に意識を向ける。
無数の視線をその身に受けた彼は、しかし為政者らしく堂々と、何食わぬ顔で口を開いた。
「先日、我が母君である聖女シャルロッテが死んだ」
……は?
国の外周が高い城壁に囲まれているのとは逆に、城は深い堀で囲まれている。侵入するには南側に一本だけある橋を渡る必要がある。普段は閉ざされているが、今日は王子が演説をするということもあり開かれていた。
橋を渡った先には庭が有る。ふわふわの草が植えられた広い場所で、普段は貴族の子供達が駆け回っている。
そこに今日は、隙間も無い程に平民達が密集していた。
当然、庭には収まらない。行列は橋を越え、街中までも続いている。
「物好きも多いですね。あの場所でも何も聞こえないでしょうに」
それを文字通り上から眺める私は、ぼんやりと呟いた。
「ノエル、これ聞く意味あるのか?」
「気になるじゃないですか」
「でも国を出るんだろ? ならもう無関係じゃないか」
「気になるじゃないですか」
同じ返事を繰り返すと、シャロは諦めた様子で溜息を吐いた。
「結界魔法って、守るだけじゃないんだな」
「あら、知らなかったのですか?」
「知るわけないだろ。見えなくしたり、空を歩いたり、訳が分からないぞ」
「良いですかシャロ。何事も本質を見極めることが大切ですよ」
ああ、シャロの口数が増えています。
それだけではありません。口調も、表情も、軟化しているのです。
嬉しいですね。
昨夜、背を重ねて寝たことが原因でしょうか?
ぐへ、ぐへへ。
これはもう一息ですね。
そんな悦びと蔑むような視線を受けながら考える。
さてさて、わたくしの元婚約者様は何を話すのでしょうか。
思えば昔から摑みどころの無い方だった。
愚かではないはずだ。他の貴族と同様に偏った思想をお持ちではあるけれど、彼の言葉からは確かな知性が感じられた。
だから不思議で仕方が無い。
彼はなぜ、私の誘いに乗ったのだろう。
確かに美しい令嬢を唆した。
その令嬢にそこそこの嫌がらせをして、国を追い出される理由を作った。
しかし……あまりにも釣り合わない。
この国には聖女信仰がある。
例えば城を囲む堀。橋が無い三方には巨大な聖女を象る像がある。
魔物の脅威は底知れない。
聖女の作り出す結界が無ければ国を護れない。
そして国を維持するには民衆が必要だ。いくら貴族とて、民の生み出す富が無ければ鍬を持ち土を耕す生活になるだろう。
国と裕福な生活。
どちらを護るにも聖女の存在は欠かせない。
……お師匠様だけで十分と考えた?
その可能性も無くはない。
お師匠様ならば、あと二十年は結界を維持できるだろう。その間に新たな聖女が生まれる可能性は十分にある。
しかし不可解だ。
何か強い違和感がある。
……シャロの言う通り、知らなくても良い話ではありますが。
この国を離れたならば、もう無関係だ。
しかし気になってしまったから仕方がない。
「おっ、あれが王子か?」
シャロの声で意識を王城へ戻す。
「はい、そろそろ始まるみたいですね」
国の中央にある城の、さらにその中央に位置する場所から天を目指して建てられた鈍色の鉄塔。その途中、地上の庭に向かって伸びる空中の庭園がある。
王子は、その先端に立ち地上の庭を見下ろした。
それから軽く手を掲げる。それだけで民衆は口を閉じ、世界に静寂が生まれた。
私を含め、この場に集まった全ての者が彼に意識を向ける。
無数の視線をその身に受けた彼は、しかし為政者らしく堂々と、何食わぬ顔で口を開いた。
「先日、我が母君である聖女シャルロッテが死んだ」
……は?
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