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第50話 約束ミーコ

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 真夜中のミーコタイム。
 今宵も心の安寧を求めた生徒達が、PTA会議に集まっていた。

:ここも人数が増えてきたな
:そろそろミーコとの会話も難しくなりそうで寂しい
:はよ収益化してくれ。スパチャしたい
:運営くん美少女コンテンツに当たり強いから……
:ミーコは美少女コンテンツだった……?
:かわいいけど、そういう表現されると何か違うかもなw

 配信開始前の待機所。
 すっかり常連になった生徒達による雑談が繰り広げられていた。

『にゃほぉ』

 コメントの勢いは、ミーコの登場によって加速した。
 それは昨日よりもさらに速いが、ミーコの動体視力もまた成長している。

 しかし、ミーコはあえてひとつも返事をしないで言うことにした。

『最後のスキルを覚えました!』

 それは……!

『力こそパワー!』

 ミーコは真希の長文解説のうち、理解できた部分だけを口にした。
 もちろん何も分かっていないわけではない。ほとんどの内容をフィーリングで理解しているため、言語化して説明できる部分が極端に少ないのである。

『今のミーコには弱点があるみたいです』

 困惑した様子のコメントを見て、ミーコはもう少し頑張ることにした。

『それをさらなるパワーでパワー!!』

:この語彙力よ
:癖になる
:かわいい
:なるほど、完全に理解した

 よっしゃ、伝わった。
 ミーコは心の中で歓喜した。

 しかし、確かに生徒は「完全に理解した」とコメントしたが、その主語までは名言されていない。つまり「理解できないことを理解した」という可能性もある。

『それから、AIと戦った!』

:賢そう
:もはや人間では相手にならないか……

『真希さんより強かった……』

:流石にねw
:あれは人間が勝てるように設計されてないから

『勝てたよ?』

:え
:え?
:( ゚Д゚)?

『……ミーコ、人間じゃなかった?』

:猫だから(震え声)

『真希さんもっと勝ってた』

:あいつは人間じゃない定期
:妖怪よだれ垂らし

『色んな対策覚えたよ!』

 ――ミーコは、ぽよテトのプロになりたいわけではない。
 真希としても、決勝トーナメントに出場できた時点で目的を達したと言える。だがその練習内容を見ると、本気で優勝を狙っているように思える。

 理由はシンプルだ。
 やるからには勝つ。それだけ。

 ただそれだけの理由で本気になれる。
 そして、その姿が人々の「応援したい」という気持ちを刺激する。

:がんばれ~!

『がんばる~!』

:今日もミーコが元気で嬉しい

『あっ、そうだ!』

:お?
:なんだ?
:迷言の予感

『りっすん!』

:りす?
:り……?

『聴け!』

:はい
:ごめんてw

『ミーコ、真希さんと今日のアーカイブ見てた!』

:研究かな?
:え、オフコラボしたの?

『リモート!』

:良かった
:危なかった

(……危なかった?)

 ミーコは不思議なコメントに首を傾けた。
 しかし、今は気にせず話を優先させる。

『コメントが残像だった!』

:残像www
:ミーコしか見てなかった

『こう! こうだよ! こう!』

 彼女は指をぶんぶんさせた。
 しかし、配信画面に映るミーコは残像を作れない。

『兄ィ! FPS足りないィ!』

:お兄ちゃん怒られてて草
:珍しいwww
:これは切り抜かれる
:かわいい
:お兄ちゃんwwww

 ミーコは理不尽にぷんすかした後、ふと気が付いた様子で言う。

『予選、何人くらい観てたの?』

:ミーコの時は8万人くらいだよ
:8万~9万だったはず

『はっ……はぁっちゃまぁちゃまぁ!?』

:それはまずいですよ!
:草
:八万ね。八万

『…………はっちゃまぁ』

:【全体通知】今日から八万の読み方は「はっちゃまぁ」です
:はい
:分かりました

『ど、どうしよ。てて手が震えてきたかも』

:((((;゚Д゚))))
:FPS足りてないよ!
:ワイも震えてきた

『明日……はっちゃまぁが……ミーコを見る……ってコト?」

:もっと多いと思う
:10万超えるはず

『じゅみゃぁ!?』

:かわいい
:テンションwww
:理想のリアクション

『……はっ、はっ、はっ、はっ』

:犬ミーコ
:わんこ
:かわいい
:落ち着けw

『……うぅぅ』

:ミーコ?

『わにゃぁぁぁぁあああああ!』

:情緒w
:大丈夫?
:かわいい
:あらぶってるwww

『……はっちゃまぁ』

:めっちゃ噛み締めてる
:ミーコ、わたくしには分かります。そうですよね。嬉しいですよね
:かわいい
:158人の頃が懐かしいよ

『……』

 ミーコ、しばらくコメントを眺めた。
 全部、温かい。ミーコのことが大好きな生徒達の言葉である。

『……今日は、ミーコの話するね』

:お?
:雑談か
:わくわく
:気になる

『今のミーコは理事長。
 だけど、学校に居た頃は、いろいろ上手にできなくて……

 逃げちゃった。そのまま、ずっと逃げてた。
 ずっと、ずっと、ずっと……ミーコの居場所は、どこにもなかった。

 ……難しいよねぇ。
 このままじゃダメ。良くない。

 分かってるよ。分かってる。
 毎日ずっと思ってた。でも……心と体が動かなくて。

 このまま、ずっと一人なのかなって。
 全部、辛くて苦しいまま、終わるのかなって。

 ……熱が出たんだよ。
 ミーコお外に出ないのに、体ぽかぽかしちゃった。
 
 その時、初めて気が付いたんだ。
 一人だけ、ミーコのこと悪く言わない人が居たの。

 兄が、ずっと傍に居てくれた。
 そのことに気が付いたら、なんか、もう、うわーってなった。

 やっと、体が動いてくれた。
 相変わらず、お家からは出てないけどね。

 でも、そのまま走り続けてたら、
 いつの間にか魂も知らない肉体があって、理事長になってた。

 ……なんか、夢みたいだよ。
 こんなに沢山の人が……ミーコのこと嫌いじゃない人が、こんなに。


 彼女は、息を止めた。
 唇を嚙み、今にも溢れ出しそうな感情をグッと堪えた。

:……ミーコ、お前、消えるんか?

『ヌヒヒッ、消えないよ。
 だってまだ途中だもん。
 ミーコの夢は、まだ終わってない』

 息を吸い込む。
 新しい空気を取り入れて、もう一度、口を開いた。

『ミーコは、強くなりたいんだよ』

 ゆっくりと、その想いを言葉にする。

『今でもまだ、弱いままだから。
 全然足りない。もっともっと強くなりたい』

 声が震えないように。
 お腹に力を込めて、一生懸命、言葉にする。

『もっともっと強くならないと、
 お兄ちゃんに、もう大丈夫だよって、言えないから』

 彼女は俯き、直ぐにハッとした様子で顔を上げる。
 それから笑みを浮かべて、少しだけ照れたような声色で言った。

『正直ね、ずっと不安なんだよ。
 ミーコのやってることは、正しいのかなって。意味があるのかなって。

 でも、ひとつだけ決めてることがある。
 ミーコは、逃げない。絶対、二度と、逃げないよ。

 だから……見ててね。
 明日も、明後日も、その先もずっと。

 ミーコのこと、見てて。
 絶対だよ。絶対、見ててね!』

 約束だよ。
 その言葉を口にした後、直前まで静かだったコメント欄が爆発した。

 ミーコのしんみりした話を聴いた数百人の生徒達が、これまで楽しいと思えた分だけ、笑わせて貰った分だけ、愛を叫んだ。

 ミーコはずっとニコニコしていた。
 多くのコメントを読み上げて、楽しそうに笑った。



 ――決勝トーナメント、開幕。
 開始予定時刻、午後八時。
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