マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

文字の大きさ
上 下
62 / 68

第50話 約束ミーコ

しおりを挟む
 真夜中のミーコタイム。
 今宵も心の安寧を求めた生徒達が、PTA会議に集まっていた。

:ここも人数が増えてきたな
:そろそろミーコとの会話も難しくなりそうで寂しい
:はよ収益化してくれ。スパチャしたい
:運営くん美少女コンテンツに当たり強いから……
:ミーコは美少女コンテンツだった……?
:かわいいけど、そういう表現されると何か違うかもなw

 配信開始前の待機所。
 すっかり常連になった生徒達による雑談が繰り広げられていた。

『にゃほぉ』

 コメントの勢いは、ミーコの登場によって加速した。
 それは昨日よりもさらに速いが、ミーコの動体視力もまた成長している。

 しかし、ミーコはあえてひとつも返事をしないで言うことにした。

『最後のスキルを覚えました!』

 それは……!

『力こそパワー!』

 ミーコは真希の長文解説のうち、理解できた部分だけを口にした。
 もちろん何も分かっていないわけではない。ほとんどの内容をフィーリングで理解しているため、言語化して説明できる部分が極端に少ないのである。

『今のミーコには弱点があるみたいです』

 困惑した様子のコメントを見て、ミーコはもう少し頑張ることにした。

『それをさらなるパワーでパワー!!』

:この語彙力よ
:癖になる
:かわいい
:なるほど、完全に理解した

 よっしゃ、伝わった。
 ミーコは心の中で歓喜した。

 しかし、確かに生徒は「完全に理解した」とコメントしたが、その主語までは名言されていない。つまり「理解できないことを理解した」という可能性もある。

『それから、AIと戦った!』

:賢そう
:もはや人間では相手にならないか……

『真希さんより強かった……』

:流石にねw
:あれは人間が勝てるように設計されてないから

『勝てたよ?』

:え
:え?
:( ゚Д゚)?

『……ミーコ、人間じゃなかった?』

:猫だから(震え声)

『真希さんもっと勝ってた』

:あいつは人間じゃない定期
:妖怪よだれ垂らし

『色んな対策覚えたよ!』

 ――ミーコは、ぽよテトのプロになりたいわけではない。
 真希としても、決勝トーナメントに出場できた時点で目的を達したと言える。だがその練習内容を見ると、本気で優勝を狙っているように思える。

 理由はシンプルだ。
 やるからには勝つ。それだけ。

 ただそれだけの理由で本気になれる。
 そして、その姿が人々の「応援したい」という気持ちを刺激する。

:がんばれ~!

『がんばる~!』

:今日もミーコが元気で嬉しい

『あっ、そうだ!』

:お?
:なんだ?
:迷言の予感

『りっすん!』

:りす?
:り……?

『聴け!』

:はい
:ごめんてw

『ミーコ、真希さんと今日のアーカイブ見てた!』

:研究かな?
:え、オフコラボしたの?

『リモート!』

:良かった
:危なかった

(……危なかった?)

 ミーコは不思議なコメントに首を傾けた。
 しかし、今は気にせず話を優先させる。

『コメントが残像だった!』

:残像www
:ミーコしか見てなかった

『こう! こうだよ! こう!』

 彼女は指をぶんぶんさせた。
 しかし、配信画面に映るミーコは残像を作れない。

『兄ィ! FPS足りないィ!』

:お兄ちゃん怒られてて草
:珍しいwww
:これは切り抜かれる
:かわいい
:お兄ちゃんwwww

 ミーコは理不尽にぷんすかした後、ふと気が付いた様子で言う。

『予選、何人くらい観てたの?』

:ミーコの時は8万人くらいだよ
:8万~9万だったはず

『はっ……はぁっちゃまぁちゃまぁ!?』

:それはまずいですよ!
:草
:八万ね。八万

『…………はっちゃまぁ』

:【全体通知】今日から八万の読み方は「はっちゃまぁ」です
:はい
:分かりました

『ど、どうしよ。てて手が震えてきたかも』

:((((;゚Д゚))))
:FPS足りてないよ!
:ワイも震えてきた

『明日……はっちゃまぁが……ミーコを見る……ってコト?」

:もっと多いと思う
:10万超えるはず

『じゅみゃぁ!?』

:かわいい
:テンションwww
:理想のリアクション

『……はっ、はっ、はっ、はっ』

:犬ミーコ
:わんこ
:かわいい
:落ち着けw

『……うぅぅ』

:ミーコ?

『わにゃぁぁぁぁあああああ!』

:情緒w
:大丈夫?
:かわいい
:あらぶってるwww

『……はっちゃまぁ』

:めっちゃ噛み締めてる
:ミーコ、わたくしには分かります。そうですよね。嬉しいですよね
:かわいい
:158人の頃が懐かしいよ

『……』

 ミーコ、しばらくコメントを眺めた。
 全部、温かい。ミーコのことが大好きな生徒達の言葉である。

『……今日は、ミーコの話するね』

:お?
:雑談か
:わくわく
:気になる

『今のミーコは理事長。
 だけど、学校に居た頃は、いろいろ上手にできなくて……

 逃げちゃった。そのまま、ずっと逃げてた。
 ずっと、ずっと、ずっと……ミーコの居場所は、どこにもなかった。

 ……難しいよねぇ。
 このままじゃダメ。良くない。

 分かってるよ。分かってる。
 毎日ずっと思ってた。でも……心と体が動かなくて。

 このまま、ずっと一人なのかなって。
 全部、辛くて苦しいまま、終わるのかなって。

 ……熱が出たんだよ。
 ミーコお外に出ないのに、体ぽかぽかしちゃった。
 
 その時、初めて気が付いたんだ。
 一人だけ、ミーコのこと悪く言わない人が居たの。

 兄が、ずっと傍に居てくれた。
 そのことに気が付いたら、なんか、もう、うわーってなった。

 やっと、体が動いてくれた。
 相変わらず、お家からは出てないけどね。

 でも、そのまま走り続けてたら、
 いつの間にか魂も知らない肉体があって、理事長になってた。

 ……なんか、夢みたいだよ。
 こんなに沢山の人が……ミーコのこと嫌いじゃない人が、こんなに。


 彼女は、息を止めた。
 唇を嚙み、今にも溢れ出しそうな感情をグッと堪えた。

:……ミーコ、お前、消えるんか?

『ヌヒヒッ、消えないよ。
 だってまだ途中だもん。
 ミーコの夢は、まだ終わってない』

 息を吸い込む。
 新しい空気を取り入れて、もう一度、口を開いた。

『ミーコは、強くなりたいんだよ』

 ゆっくりと、その想いを言葉にする。

『今でもまだ、弱いままだから。
 全然足りない。もっともっと強くなりたい』

 声が震えないように。
 お腹に力を込めて、一生懸命、言葉にする。

『もっともっと強くならないと、
 お兄ちゃんに、もう大丈夫だよって、言えないから』

 彼女は俯き、直ぐにハッとした様子で顔を上げる。
 それから笑みを浮かべて、少しだけ照れたような声色で言った。

『正直ね、ずっと不安なんだよ。
 ミーコのやってることは、正しいのかなって。意味があるのかなって。

 でも、ひとつだけ決めてることがある。
 ミーコは、逃げない。絶対、二度と、逃げないよ。

 だから……見ててね。
 明日も、明後日も、その先もずっと。

 ミーコのこと、見てて。
 絶対だよ。絶対、見ててね!』

 約束だよ。
 その言葉を口にした後、直前まで静かだったコメント欄が爆発した。

 ミーコのしんみりした話を聴いた数百人の生徒達が、これまで楽しいと思えた分だけ、笑わせて貰った分だけ、愛を叫んだ。

 ミーコはずっとニコニコしていた。
 多くのコメントを読み上げて、楽しそうに笑った。



 ――決勝トーナメント、開幕。
 開始予定時刻、午後八時。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

処理中です...