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みんなの反応:真希の場合
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「……はぁ、はぁ、はぁ」
普通の人々が寝静まった頃。
新見真希は、パソコンの前で悶えていた。
「……これ、やば、お”、イぐ」
配信はしていない。
こんな姿、ファンには見せられない。
「…………」
だらりと脱力した四肢。お気に入りのゲーミングチェアに体重を預け、恍惚とした表情を浮かべ、口の端から粘りとした涎を垂らしながら天井を見上げている。
「……ぁ、ぁへ、ァへへ、ヘェェ」
モニターに表示されているのは、この世で最も甘美な画面。
そう、アナリティクスである。
視聴回数。
総再生時間。
チャンネル登録者数の増減。
そして、今月の想定収益額が表示された画面。
「2年振りの月収50万円きちゃぁぁぁ」
びくん、びくんと体が痙攣する。
今、お金が大好きな真希の収入にはミーコバブルが起きていた。
50万円の臨時収入。確かに大金だが、サラリーマンとして働いている真希の収入を考えると、決して涎を垂らしながら痙攣するような金額ではない。
だが、会社員としてボーナスのような大金を得るよりも、自分の生み出したコンテンツによって大金を得る方が何倍も心地よい。例えるなら、ちょっと無理して食べた高級肉よりも、他人に奢らせた焼肉食べ放題の方が美味しい、みたいな感覚である。
チャンネル登録者、20万人超。
十分に成功している数字だが、世の中そんなに甘くない。
いわゆる「ガチ恋勢」を量産するアイドルみたいなスタイルなら、熱心なファンが百人も居れば生活できるレベルの「副収入」が得られることだろう。しかし、真希の配信スタイルは……まあ、そういうことである。
今月は、攻めた。
攻めて攻めて攻めまくった。
その結果が数字として表れている。
それがとてもンギモヂィィィィィィィイ――!!
『……ふぅ』
真希はティッシュで涎を拭い、体を起こした。
『さて、仕事するか』
賢者タイム。
『ん-、ここは矯正した方が良いかな』
直前まで収益に関する統計情報が記されていたモニターには、現在、別の統計情報が記されている。全て、ミーコの対戦に関する内容だ。
彼女は今、全否定ペンギンの着ぐるみパジャマを着ている。
髪は雑に結んであり、化粧はしていない。ブルーライトカットを目的とした眼鏡を装備して、背中を丸め、キーボードだけで「自作の分析ツール」を操作していた。
『流石に高レート帯は勝率が……練習期間を考えたら普通に優秀なんだけどねぇ』
彼女はデータ人間である。
配信中は常に涎を垂らしている変態のように見えるが、いや実際にそうなのだが、これまでの活動は、常にデータを参考にしていた。
偶然の成功に縋ることなく、常に再現性を求めている。だから、生き残っている。登録者数百万人を超える配信者達が毎日活動する激戦区において、ミーコとのコラボでは、瞬間的な最大値として一万人を集めることに成功した。
『……』
手が止まる。
『……』
顎に手を当て、配信中の姿からは想像できないような鋭い目つきで画面を見る。
『……入こたしたい』
強いストレスを受け、うっかり現実逃避。
その後、軽く首を振ってから溜息交じりに言った。
『二ノ宮ホタルかぁ』
真希は彼のプレイを見たことがない。
だから、どの程度ぽよテトが得意なのか全く分からない。
ただ、数々の大会で結果を残すホタルのことは知っている。
もしもミーコと対戦することになった場合、どちらが勝つのか分からない。
『…………』
正直、勝敗はどちらでも良い。
多くの人がミーコを知ることになれば、真希の目論見は成功である。
しかし――リスクが大きい。
普通の配信者ならば、ちょっとコメントを荒らされたくらいでは何も思わないかもしれない。同業者に愚痴を零す程度で済むかもしれない。だけど、ミーコは……。
「……入こたしなきゃ」
真希は強い使命感を胸に抱いた。
決して邪な気持ちがあるわけではないことはない。
もしもの時、直ぐに駆け付けたい。
純粋に、一点の曇りも打算も無く、そう思った。
「……んま、なんとかなるっしょ」
真希は軽く息を吐くことで不安を吹き飛ばし、コーチング業務の準備を再開した。
ミーコを愛する者達の心配を他所に、平和な日々が続く。
練習して、配信をして、また練習して……ミーコは、今日も楽しく頑張っている。
――大会まで、残り4日。
普通の人々が寝静まった頃。
新見真希は、パソコンの前で悶えていた。
「……これ、やば、お”、イぐ」
配信はしていない。
こんな姿、ファンには見せられない。
「…………」
だらりと脱力した四肢。お気に入りのゲーミングチェアに体重を預け、恍惚とした表情を浮かべ、口の端から粘りとした涎を垂らしながら天井を見上げている。
「……ぁ、ぁへ、ァへへ、ヘェェ」
モニターに表示されているのは、この世で最も甘美な画面。
そう、アナリティクスである。
視聴回数。
総再生時間。
チャンネル登録者数の増減。
そして、今月の想定収益額が表示された画面。
「2年振りの月収50万円きちゃぁぁぁ」
びくん、びくんと体が痙攣する。
今、お金が大好きな真希の収入にはミーコバブルが起きていた。
50万円の臨時収入。確かに大金だが、サラリーマンとして働いている真希の収入を考えると、決して涎を垂らしながら痙攣するような金額ではない。
だが、会社員としてボーナスのような大金を得るよりも、自分の生み出したコンテンツによって大金を得る方が何倍も心地よい。例えるなら、ちょっと無理して食べた高級肉よりも、他人に奢らせた焼肉食べ放題の方が美味しい、みたいな感覚である。
チャンネル登録者、20万人超。
十分に成功している数字だが、世の中そんなに甘くない。
いわゆる「ガチ恋勢」を量産するアイドルみたいなスタイルなら、熱心なファンが百人も居れば生活できるレベルの「副収入」が得られることだろう。しかし、真希の配信スタイルは……まあ、そういうことである。
今月は、攻めた。
攻めて攻めて攻めまくった。
その結果が数字として表れている。
それがとてもンギモヂィィィィィィィイ――!!
『……ふぅ』
真希はティッシュで涎を拭い、体を起こした。
『さて、仕事するか』
賢者タイム。
『ん-、ここは矯正した方が良いかな』
直前まで収益に関する統計情報が記されていたモニターには、現在、別の統計情報が記されている。全て、ミーコの対戦に関する内容だ。
彼女は今、全否定ペンギンの着ぐるみパジャマを着ている。
髪は雑に結んであり、化粧はしていない。ブルーライトカットを目的とした眼鏡を装備して、背中を丸め、キーボードだけで「自作の分析ツール」を操作していた。
『流石に高レート帯は勝率が……練習期間を考えたら普通に優秀なんだけどねぇ』
彼女はデータ人間である。
配信中は常に涎を垂らしている変態のように見えるが、いや実際にそうなのだが、これまでの活動は、常にデータを参考にしていた。
偶然の成功に縋ることなく、常に再現性を求めている。だから、生き残っている。登録者数百万人を超える配信者達が毎日活動する激戦区において、ミーコとのコラボでは、瞬間的な最大値として一万人を集めることに成功した。
『……』
手が止まる。
『……』
顎に手を当て、配信中の姿からは想像できないような鋭い目つきで画面を見る。
『……入こたしたい』
強いストレスを受け、うっかり現実逃避。
その後、軽く首を振ってから溜息交じりに言った。
『二ノ宮ホタルかぁ』
真希は彼のプレイを見たことがない。
だから、どの程度ぽよテトが得意なのか全く分からない。
ただ、数々の大会で結果を残すホタルのことは知っている。
もしもミーコと対戦することになった場合、どちらが勝つのか分からない。
『…………』
正直、勝敗はどちらでも良い。
多くの人がミーコを知ることになれば、真希の目論見は成功である。
しかし――リスクが大きい。
普通の配信者ならば、ちょっとコメントを荒らされたくらいでは何も思わないかもしれない。同業者に愚痴を零す程度で済むかもしれない。だけど、ミーコは……。
「……入こたしなきゃ」
真希は強い使命感を胸に抱いた。
決して邪な気持ちがあるわけではないことはない。
もしもの時、直ぐに駆け付けたい。
純粋に、一点の曇りも打算も無く、そう思った。
「……んま、なんとかなるっしょ」
真希は軽く息を吐くことで不安を吹き飛ばし、コーチング業務の準備を再開した。
ミーコを愛する者達の心配を他所に、平和な日々が続く。
練習して、配信をして、また練習して……ミーコは、今日も楽しく頑張っている。
――大会まで、残り4日。
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