マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

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第33話 収益化1

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 真夜中のPTA会議。
 真希に「休め」と言われた直後だが、ミーコは普通に配信を開始した。

『にゃっほろ~!』

 朝でも夜でも同じ挨拶。
 ちょっとごきげんなミーコの声が鳴り響いた。

:結局寝てないの草
:ミーコ複数人説
:体力無限猫
:かわいい

 視聴者達は、やれやれ、という反応をした。
 PTA会議という名に相応しく、こんな時間にも配信を見に来る人々は、保護者に近い感情を抱くようになっていた。

 しかし、過度な干渉はしない。
 多くの「Vtuber炎上事件」「メンタル崩壊による引退」を経験した熟練の視聴者達は推しの扱い方を心得ている。時間も良い。午前三時。まだ人生経験の浅いキッズ達は寝ている時間であり、コメントは非常に平和だった。

:ミーコクリアおめでとう!
:すごかったよ!
:泣いた

『えへへぇ、ありがとぉ』

 ミーコは嬉しそうに言った。
 それから雑談を続け、ふと、ひとつのコメントが目に留まる。

:そろそろ収益化しないん? スパチャしたいんだが

『収益化?』

 知らない言葉だった。
 ミーコは「百万人」という目標しか見ていない。

 視聴者達はミーコに説明した。

『えっ!? お金もらえるの!?』

:知らないとかある?
:ま?
:かわいい

『やりたた教えて!』

:やりたたww
:落ち着けw
:動画の視聴時間とか大丈夫か?

 視聴者達による丁寧な説明が続く。
 ミーコは苦戦しながらも手続きを進め、そして――

『……ぎん、こう、こう、ざ?』

 悲報。ヒキニート、詰む。
 口座開設。年齢を考えれば全く問題にならない行為だが、十年間、時間が止まっていた「彼女」は、そのようなスキルを全く持ち合わせていない。

『……お外でなきゃダメ?』

:今はネットで申し込めるよ
:身分証とか大丈夫か?
:とりまお兄ちゃんに相談すればいいんじゃね?

『……相談してみるぅ』

 ミーコは少し悩みながら返事をした。
 兄の負担になりたくない。彼女が持つモチベーションのひとつである。

 でも、それ以上にやりたいことがある。
 だから、ほんの少しだけ悩んだ後、相談することに決めた。

『生徒諸君、色々ありがとね』

:良いってことよ
:理事長を支えるのは生徒の務め
:生徒に教わる先生とかおる~?w

『生徒に教わる先生?
 そんなの居るわけ……おりゅ~!』

:乗りツッコミ草
:ご機嫌じゃん
:かわいい

 深夜三時。ヒキニートのゴールデンタイム。
 ミーコは教室ひとつでは収まらない数の視聴者達と雑談を続けた。

『んじゃ、そろそろ寝る~』

 およそ一時間後、終わりの挨拶。

『また朝~』

:また朝~
:朝!? 明日じゃなくて!?

『おやすみ~』

 急に現れた「収益化」というワード。
 ミーコは多くの助言を受け、あとは口座を用意するだけ、という段階になった。

 明確な目的がある。
 それはまだ本人しか知らない。
 とっておきのシークレット任務なのである。
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