マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

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第27話 RTAチャレンジ 1

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〇前回までのあらすじ
・ヒキニートのミーコ。
 兄を安心させるため、Vtuberとして百万人のファンを集めると誓う。

・ミーコ、兄のコネでママと繋がる。
 その際「フォロワー千人」という条件を出され、がんばる。

・最終日、目標未達。
 しかし心を打たれた視聴者が「切り抜き動画」を投稿して程々にバズる。

・ミーコ学園爆誕。

・新人紹介を生業とする古参、新見真希とコラボ。程々にバズる

・「これは金になる!」と心を燃やす真希、ミーコに「RTAチャレンジ」を提案。罰ゲームは真希とオフコラボ(こたつデート)

 視聴者の反応
 ・無理ゲー
 ・ミーコ逃げて
 ・こたつデートするために無理難題を押し付ける鬼畜

・ミーコ「がんばるぞ~!」

 こうしてRTAチャレンジが始まるのだった……!


========


『RTAチャレンジ1日目!
 始まるよ~!』

 午前8時。
 ミーコは配信を開始した。

『ねむぅぃ~!』

 ミーコは3時間しか寝ていない。
 しかし眠気をやる気に変えて、いざ挑む。

『……すぴぃ』

 ダメだった。

『ハッ!? ミーコ寝てない。寝てないよぅ……』

:声が寝てんぞ
:かわいい

 視聴者からの突っ込みを受けつつ、ミーコの配信が始まった。

『今日やるのは、惑星ゲーム!
 皆これ知ってる? 何か一時期流行ってたっぽい?』

:懐かしい
:ミーコやったことあるの?

『やったことない。初見だよ!』

:マジ?
:逆に珍しい

 ――惑星ゲーム。
 箱の中に太陽系の惑星を落とすゲームである。

 同じ惑星が接触すると、ひとつ大きな惑星に進化する。これを繰り返すと最終的に太陽が誕生する。太陽をふたつ重ねると消滅する。一方で、惑星が箱から出た時にはゲームオーバーとなる。要するに太陽を消滅させてハイスコアを狙うゲームである。

 ミーコが挑むRTAは、太陽を作ること。
 世界記録は2分。目標タイムは5分。余裕があるように感じられるが、運に大きく左右される挑戦である。本番では1回しか挑戦することが許されない。この点を理解しているユーザーは、

:っぱこれ無理ゲーだろ
:真希ほんまクソ野郎で笑う

 と、楽し気だった。

『惑星に顔がある~! かわいい~!』

 早速ゲームを起動したミーコ。
 彼女は一つ目の惑星を箱の中に落下させた後、視聴者に問いかけた。

『名前わからん。生徒諸君は分かる?』

:小さい順に中性子→水星→火星→金星→地球→海王星→天王星→土星→木星→太陽
:今落ちたやつ水星

『ほえー、詳しい。ありがとー!』

 ミーコは視聴者と会話しながらサクサクとゲームを続けた。

『わっ、これ地球! 地球だよね!?』

:かわいい
:初見の割に上手い

 このゲームは非常にシンプルである。
 ルールは、ランダムな惑星を箱の中に入れるだけ。

 しかし、シンプルだからこそ難しい。
 登場する惑星の順番、落下位置によっては、あっという間に盤面が詰んでしまう。ハイスコアを獲得するためには、先を見据えたパズル力と運命力が必要となる。

『おっきくなったー!』

:かわいい
:なんか上手くね?
:これ本当に初見?

 ミーコは次々と惑星を落下させ、より大きな惑星を作成した。まるで無邪気な子供が楽しくプレイしているような様子だが、初見とは思えない程に洗練されている。

 そして15分後、ミーコは言った。

『太陽できたー!』

:ふぁっ!?
:はっやwww

『ヌヒヒッ、ミーコ落ちてくるゲーム得意かも』

 プレイ時間、15分28秒。
 ミーコ、初めての太陽作成に成功。
 
『あと10分削るぞ~!』

:かわいい
:今のペースでも15分なのかよ
:RTA勢は人間やめてるから
:がんばれ~!

『がんばる~!』

 平日、午前8時。
 多くの人が外出する時間帯。

 現在の視聴者数は、百人ちょっと。
 新人としては驚異的な数字であるけれど、百万人には程遠い。

『あと八分~!』

:成長はやくて草
:これマジで達成できたりする?

 今のミーコは数字を全く意識していない。
 目の前に吊るされた餌を追いかける馬みたいに、ひたむきだった。

『んわぁぅっ!?」

:吹っ飛んだwww
:あるあるwww

 ほとんどバグみたいな仕様でゲームオーバーになったり。

『これ行ける? みんな教えて。これ落としたら行ける?』

:いける
:OK
:大丈夫
:いけ!

『ダメじゃん!!!!!!!』

:草
:ワザップ
:この一体感すこ

 視聴者に騙されてゲームオーバーになったり。

『地球こい。地球こい。地球こい。……来ない~!』

 運に見放されてタイムが縮まなかったり。

『いい感じ。これ、ある? あるよね。よし。よしっ。よし!
 ……んぎぃぃぃ~!』

 迫真の負けボイスを披露したり。

:ミーコお昼休憩しないの?

『きゅう、けい……?』

 辞書に無い言葉に困惑したり。
 12時間、トイレ休憩すらなく駆け抜けた。

 そして午後8時直前。ミーコは視聴者達に企画の説明をして、「また一時間後!」という言葉と共に配信を終えた。

 直ぐにアーカイブが公開される。
 流石に12時間の動画をチェックするのは骨が折れるため、程々にミーコのことが好きな視聴者であっても「後で切り抜きを見ればいいや」という気持ちになり、再生数はあまり伸びなかった。 

 今、ミーコは勢いに乗っている。
 だが長時間の配信を全て追いかける程の熱量を持ったファンは、まだ少ない。このアーカイブの再生数は、それが可視化された結果と言える。

 しかし、ゼロではない。
 その数が劇的に増えるか、それとも停滞するのか。

 結果は運に大きく左右される。
 だが決して運ゲーではないと考える古参が居る。

 企画を提案した張本人。
 新見真希は、ミーコと入れ替わるようにして配信を開始した。
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