マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

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第24話 真夜中ミーコ

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『第一回! 真夜中ミーコ! 始まるよぉ~!』

:舞ってた
:いええぇぇぇあぁぁぁ!
:マジで深夜三時に始まって草

『ヌヒヒッ、こんな時間でもコメントくれる生徒諸君好きぃ』

:ちょっと体調良くなった?

『体調? えぇ~? それ聞いちゃうの~?』

:なんだよw
:ご機嫌ミーコ
:かわいい

『お兄ちゃんの手料理食べたら回復した~♡』

 ミーコはちょっとだけ話を盛った。
 メニューは市販のヨーグルトならびにインスタントなスープである。また、体調はあまり回復していない。関節痛が和らいだ程度で、強い倦怠感などは残っている。

 ともあれ。

 視聴者達はミーコのブラコンっぷりを見てニコニコした。
 一人だけ過剰な反応を示していたが、ミーコはそのコメントを無視する。

 一回だけ静かに深呼吸。
 そして事前に用意した言葉を口にした。

『早速だけど、この時間は……にょわ!?』

:どうした!?
:お茶こぼしたか?

『真希さんからライン来た』

:あっ
:^q^
:逃げて。ミーコ逃げて

 ミーコ、たっぷり十秒間も硬直する。

『第一回!
 ミーコのコミュ力向上計画~!』

 それは真希からの連絡を受ける以前から考えていたこと。
 今回の配信では、元々この話をする予定だった。ミーコは十秒の間に思考を重ね、ぶっつけ本番で挑むことにした。

『生徒諸君トークデッキ知ってる?』

:知ってる
:義務教育
:もちろんだぜ

 深夜という時間帯もあり、訓練された視聴者ばかりが集まっていた。
 トークデッキとは、要するに「会話のテーマを事前に決めておきましょう」ということである。今日の夕飯。私のどこが好き。などなど。たくさんのカードを用意してデッキを構築しておけば、どんなコミュ障でも会話ができる……はず。

『急募! 真希さんをどうにかするトークデッキ!』

:パンツの色
:よだれの味
:こたつデートの実現可能性

『まともなカードがひとつもない!?』

:最後真希じゃんwww
:本人おって草
:真希来てるwwww

『うぇぁ!? 本物!?』

 ミーコはコメントを見て真希の存在を認識した。
 そのタイミングを見計らったかのように、真希はコメントを連投する。

:なんで既読無視するの
:なんで
:ねぇなんで
:なんでなんでなんでなんで

『ひゃぁぁぁぁぁ……』

 ぴこん、ミーコのラインに通知が届いた。
 差出人は真希。メッセージは一言、「みてるよ」

『……』

 ミーコは気を失いかけた。
 その直後――ぴこん♪。

『……』

 声にならない悲鳴。
 ミーコは視聴者に画面を共有した。

ーーーーーーーーーーーーーーー
|コラボ配信を開始しますか?|
|  はい    いいえ  |
ーーーーーーーーーーーーーーー

:はい。はい。はい。はい。はい。
:ホラー映画かな?
:怖すぎんよ

 マウスカーソルが動く。
 ミーコは迷わず「いいえ」を押した。

 画面の表示が消えた。
 しかし数秒後、また現れた。

:これ通報した方が良いやつ?
:おもしろwww
:お兄ちゃんのツールが悪用されてんよぉ……
:こんな怖い逆凸見たことねぇよw

 コメント欄の反応は半々だった。
 ミーコを心配する者、エンタメとして楽しむ者。

 ミーコは過呼吸寸前であった。
 シンプルに怖過ぎる。相手は知人だが、このようなコミュニケーションに対応するスキルをミーコは持ち合わせていない。

 純粋な恐怖がミーコを支配する。
 それは――ほんの一時、他の全てを上回った。

 
 ――ミーコはコミュ障である。
 それは「著しくコミュニケーション能力が低い」ことを示した俗語ではない。文字通りの意味で、障害がある。

 例えば、うつ病。
 これは特定の条件を満たしたとき、脳から本人の行動を阻害する類の指令が出る病である。簡単に言えば、心は「右手を挙げろ」と指示を出しているのに、脳は「心は死ね。右手なんか挙げてやらない」という反応を示すのである。

 ミーコの脳は会話に拒絶反応を示す。
 声を聴くこと。声を出すこと。どちらにも強烈なデバフがかかっている。

 しかし、今この瞬間。
 真希のメンヘラ力によって「シンプルな恐怖」に支配された。

 ミーコが変化する。
 この一時だけは、ただの会話が苦手なヒキニートとなる。

『……出ます』

 カーソルが手の震えを反映してふらふらと動く。
 そして、「はい」という文字が無機質に明滅した。
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