22 / 68
第18話 重たい蓋を、こじあけて
しおりを挟む
『お姉さんと一緒に、ぽよテトしましょ』
ぽよテト。
空から降ってくる「ぽよ」を重ねて消滅させる「ぽよぽよ」、そして同じく空から降ってくるブロックを揃えて消滅させる「テトリンヌ」が合体したゲームである。
プレイヤーは「ぽよ」か「テト」を選択して遊ぶことができる。
この際、双方で同じゲームを選択する必要は無いため、「ぽよvsテト」の対戦が実現するのだ。
果たして最強は「ぽよ」を愛する者か、それとも「テト」を愛する者か……そんな感じのゲームである。
このチョイスを見た視聴者達は……
:あっ
:うっわ
:ないわ
:鬼か?
と、新見真希を蔑むような反応を見せた。
その反応に対して、初見の視聴者達が困惑した様子を見せる。
真希はあえてコメントを無視した。
ミーコにはコメントを読む余裕が無い。
『ミーコ(呼びかけ)
どうかな? ぽよテト、楽しいよ』
:悪魔の微笑み
:これは涎垂れてない
:垂らせよ!
:涎が求められてて草
ミーコは炬燵から顔を出し、ジト目を続けている。
『……』
真希は返事を待ち、沈黙した。
彼女に釣られ、視聴者達の視線がミーコに集まる。
仮に現実世界の出来事なら、ミーコの第六感が視線を感じ取り、その重圧から意識を手放していたことだろう。
だが、今は違う。
配信を成功させたい。会話を成立させたい。
そのような願望から生み出された「重圧」が、トラウマから生み出される「重圧」を一時的に上回っている。それは決して軽いものではない。だが、彼女を狭い部屋に閉じ込めていた重圧よりは遥かに軽い。
彼女を縛る重圧は、いつの間にか誰もが知る緊張に変わっていた。
トラウマではなく、ありふれた緊張感であるならば、克服できない理由は無い。
──ミーコの口が微かに開いた。
彼女の勇気が、ほんの少しだけ、息が吸える程度に、こじ開けた。
『おっ?』
:口空いた!
:おっ^q^
: (^ω^≡^ω^)おっ、おっ?
:ためるねぇw
:ここで断ったら笑う
真希とその視聴者達が反応を示した。
:ミーコがんばれ!
:多分むしゃピョコより無害ですわよ!
:来たか?
:がんばって!
ミーコを応援する者達のコメントも、先程からずっと止まらない。
息を吸う音がした。
そして、彼女は──
『あ』
と、一言だけ声を発し、かたまった。
真希は「え、それだけ?」と驚きのあまり目を見開いた後、咄嗟にフォローする。
『や?』
:嫌?
:やっ!(拒絶)
:「あ」じゃなかった?
『や? や~、る? る?』
真希が圧をかける。
ミーコは引きこもるボタンにカーソルを合わせていた。
指先が震える。
微かな呼吸音をマイクが拾う。
気力を使い果たした。
もう無理だ。逃げたい。終わりにしたい。
でも──!
『……やる』
雪が地面に落ちたみたいに小さな音が鳴った。
『んきゃわぁぁぁゆぃぃぃいっひぃぃぃぃ!』
真希が壊れた。
アバターは硬直し、遠い所からガタガタと音が鳴り響く。
ミーコは炬燵になった。
コメント欄には爆笑が生まれた。
そして、およそ三分後。
配信画面はゲーム画面に切り替わった。
ぽよテト。
空から降ってくる「ぽよ」を重ねて消滅させる「ぽよぽよ」、そして同じく空から降ってくるブロックを揃えて消滅させる「テトリンヌ」が合体したゲームである。
プレイヤーは「ぽよ」か「テト」を選択して遊ぶことができる。
この際、双方で同じゲームを選択する必要は無いため、「ぽよvsテト」の対戦が実現するのだ。
果たして最強は「ぽよ」を愛する者か、それとも「テト」を愛する者か……そんな感じのゲームである。
このチョイスを見た視聴者達は……
:あっ
:うっわ
:ないわ
:鬼か?
と、新見真希を蔑むような反応を見せた。
その反応に対して、初見の視聴者達が困惑した様子を見せる。
真希はあえてコメントを無視した。
ミーコにはコメントを読む余裕が無い。
『ミーコ(呼びかけ)
どうかな? ぽよテト、楽しいよ』
:悪魔の微笑み
:これは涎垂れてない
:垂らせよ!
:涎が求められてて草
ミーコは炬燵から顔を出し、ジト目を続けている。
『……』
真希は返事を待ち、沈黙した。
彼女に釣られ、視聴者達の視線がミーコに集まる。
仮に現実世界の出来事なら、ミーコの第六感が視線を感じ取り、その重圧から意識を手放していたことだろう。
だが、今は違う。
配信を成功させたい。会話を成立させたい。
そのような願望から生み出された「重圧」が、トラウマから生み出される「重圧」を一時的に上回っている。それは決して軽いものではない。だが、彼女を狭い部屋に閉じ込めていた重圧よりは遥かに軽い。
彼女を縛る重圧は、いつの間にか誰もが知る緊張に変わっていた。
トラウマではなく、ありふれた緊張感であるならば、克服できない理由は無い。
──ミーコの口が微かに開いた。
彼女の勇気が、ほんの少しだけ、息が吸える程度に、こじ開けた。
『おっ?』
:口空いた!
:おっ^q^
: (^ω^≡^ω^)おっ、おっ?
:ためるねぇw
:ここで断ったら笑う
真希とその視聴者達が反応を示した。
:ミーコがんばれ!
:多分むしゃピョコより無害ですわよ!
:来たか?
:がんばって!
ミーコを応援する者達のコメントも、先程からずっと止まらない。
息を吸う音がした。
そして、彼女は──
『あ』
と、一言だけ声を発し、かたまった。
真希は「え、それだけ?」と驚きのあまり目を見開いた後、咄嗟にフォローする。
『や?』
:嫌?
:やっ!(拒絶)
:「あ」じゃなかった?
『や? や~、る? る?』
真希が圧をかける。
ミーコは引きこもるボタンにカーソルを合わせていた。
指先が震える。
微かな呼吸音をマイクが拾う。
気力を使い果たした。
もう無理だ。逃げたい。終わりにしたい。
でも──!
『……やる』
雪が地面に落ちたみたいに小さな音が鳴った。
『んきゃわぁぁぁゆぃぃぃいっひぃぃぃぃ!』
真希が壊れた。
アバターは硬直し、遠い所からガタガタと音が鳴り響く。
ミーコは炬燵になった。
コメント欄には爆笑が生まれた。
そして、およそ三分後。
配信画面はゲーム画面に切り替わった。
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
女ハッカーのコードネームは @takashi
一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか?
その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。
守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる