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第18話 重たい蓋を、こじあけて

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『お姉さんと一緒に、ぽよテトしましょ』

 ぽよテト。
 空から降ってくる「ぽよ」を重ねて消滅させる「ぽよぽよ」、そして同じく空から降ってくるブロックを揃えて消滅させる「テトリンヌ」が合体したゲームである。

 プレイヤーは「ぽよ」か「テト」を選択して遊ぶことができる。
 この際、双方で同じゲームを選択する必要は無いため、「ぽよvsテト」の対戦が実現するのだ。

 果たして最強は「ぽよ」を愛する者か、それとも「テト」を愛する者か……そんな感じのゲームである。

 このチョイスを見た視聴者達は……

:あっ
:うっわ
:ないわ
:鬼か?

 と、新見真希を蔑むような反応を見せた。
 その反応に対して、初見の視聴者達が困惑した様子を見せる。

 真希はあえてコメントを無視した。
 ミーコにはコメントを読む余裕が無い。

『ミーコ(呼びかけ)
 どうかな? ぽよテト、楽しいよ』

:悪魔の微笑み
:これは涎垂れてない
:垂らせよ!
:涎が求められてて草

 ミーコは炬燵から顔を出し、ジト目を続けている。

『……』

 真希は返事を待ち、沈黙した。
 彼女に釣られ、視聴者達の視線がミーコに集まる。

 仮に現実世界の出来事なら、ミーコの第六感が視線を感じ取り、その重圧から意識を手放していたことだろう。

 だが、今は違う。
 
 配信を成功させたい。会話を成立させたい。
 そのような願望から生み出された「重圧」が、トラウマから生み出される「重圧」を一時的に上回っている。それは決して軽いものではない。だが、彼女を狭い部屋に閉じ込めていた重圧よりは遥かに軽い。

 彼女を縛る重圧は、いつの間にか誰もが知る緊張に変わっていた。
 トラウマではなく、ありふれた緊張感であるならば、克服できない理由は無い。

 ──ミーコの口が微かに開いた。
 彼女の勇気が、ほんの少しだけ、息が吸える程度に、こじ開けた。

『おっ?』

:口空いた!
:おっ^q^
: (^ω^≡^ω^)おっ、おっ?
:ためるねぇw
:ここで断ったら笑う

 真希とその視聴者達が反応を示した。

:ミーコがんばれ!
:多分むしゃピョコより無害ですわよ!
:来たか?
:がんばって!

 ミーコを応援する者達のコメントも、先程からずっと止まらない。

 息を吸う音がした。
 そして、彼女は──

『あ』

 と、一言だけ声を発し、かたまった。
 真希は「え、それだけ?」と驚きのあまり目を見開いた後、咄嗟にフォローする。

『や?』

:嫌?
:やっ!(拒絶)
:「あ」じゃなかった?

『や? や~、る? る?』

 真希が圧をかける。
 ミーコは引きこもるボタンにカーソルを合わせていた。

 指先が震える。
 微かな呼吸音をマイクが拾う。

 気力を使い果たした。
 もう無理だ。逃げたい。終わりにしたい。

 でも──!

『……やる』

 雪が地面に落ちたみたいに小さな音が鳴った。
 
『んきゃわぁぁぁゆぃぃぃいっひぃぃぃぃ!』

 真希が壊れた。
 アバターは硬直し、遠い所からガタガタと音が鳴り響く。

 ミーコは炬燵になった。
 コメント欄には爆笑が生まれた。

 そして、およそ三分後。
 配信画面はゲーム画面に切り替わった。
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