異世界帰りの元陰キャ、今は淫キャ

下城米雪

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5-06.友情・努力・絶頂・淫キャ

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「……ルリ、なの?」

 夏鈴が後先考えず魔力を込め、稲妻の壁によって淫魔の進撃を防ぐ中、二人の少女が会話を始めた。

「……どうして? 夢?」
「ううん、夢じゃないよ」

 ルリが胡桃の手を握る。
 胡桃は驚き、その感覚を確かめるようにしてルリの手を強く握り返した。

「……うそ、なんで」
「分かんない。でもなんか、こうなった」

 二人は見つめ合う。

「……ルリ」
「……胡桃」
「ちょっと何やってんの!? 一分しか持たないって言ったっしょ!?」

 夏鈴が叫ぶ。
 ルリは目を細めた。台無しだった。

 しかし、今は緊急事態。
 ルリは気持ちを切り替えるため息を吸い込む。

「かくかくしかじか」
「……それは、無理」

 二人の間に長々とした言葉は必要ない。
 故に「かくかくしかじか」の一言で状況が伝わった。

「どうして?」

 ルリが問う。

「……クソ陰キャ野郎は、もういない」
「違う。きっと何か考えが」
「うるさい!」

 胡桃はルリの手を叩き、触手を使って立ち上がる。
 
「……全部、消えちゃえ」
「まだなの!? もう無理! 限界! あと二十秒だかんね!!」

 夏鈴が絶叫する。
 胡桃は冷めた目を正面に向け、ステッキを構えた。

「……胡桃」

 ルリには分かった。
 胡桃は、夏鈴も含め、全てを消そうとしている。

「それは、もう見た」

 ルリは両手を広げ、胡桃の前に立ちふさがった。
 しかし胡桃はステッキの先端に魔力を込めることをやめない。

「彼に聞いたよ。今の胡桃は、本当にやりたかったことをしてるって」

 ルリは言う。
 後ろで夏鈴が絶叫しているが気にしない。

「そんな風に、笑いたかったんだね」

 ルリの知る胡桃は、表情の変化が乏しい。

「そんな風に、明るく喋りたかったんだね」

 ルリの知る胡桃は、いつも小声だった。

「そんなにも……」

 ルリの瞳に涙が浮かぶ。

「手に入らないなら、いっそ消してしまおうって思うくらいに、激重な友情を求めていたんだね」

 夏鈴が突破された。
 稲妻の壁に押し留められていた淫魔達が一気に流れ込む。

「私もだよ」
「……え?」

 ルリの瞳から、黒い涙が零れた。
 それは地面に落ちた途端、禍々しい触手に変わる。

「じゃあ、もう、一緒に壊しちゃおうか」
「……」

 その一言で、胡桃の溜めていた魔力が消失した。

「……違う」

 解釈違いだった。
 ルリは、いつも笑顔だった。世界の為に、誰かの為に身を削っていた。

 今みたいな言葉、言うわけがない。
 違う。違う。私が、言わせたんだ。私のせいで、ルリが……。

「……」

 胡桃は、この時、初めて本当の意味で周囲を見た。
 紫色の空。迫り来る淫魔。襲われ、悲鳴をあげながらも、稲妻を落として抵抗するクラスメイトの姿。

 そして今、淫魔がルリに襲い掛かった。
 その綺麗な手に、足に、砂糖に群がる蟻みたいに……。

(……なに、これ)
 
 胡桃には何も分からなかった。
 闇墜ちの反動によって、意識が朦朧としていた。

「イィィィィィヒィィィィィ!」

 血走った目をした淫魔が迫る。
 抵抗しなきゃ。そう思った時には、手足を拘束されていた。

「んぐっ」

 首元を嚙まれた。
 何か、大切なモノが吸われているような気がした。

(……あぁ)

 胡桃の手足から力が抜ける。
 膝から崩れ落ちた時、ピチャッ、という水音がした。

「──胡桃」

 ルリの声が聞こえた。
 弾かれたように顔を上げる。

「忘れないで」

 決して大きな声ではない。
 だけど、まるでその声以外の全てが消え去ったみたいに、ハッキリと聴こえた。

「あなたは、私の、一番の友達」

 ──古今東西、魔法少女の闇墜ちには、友情が一番効くと決まっている。
 どこかの淫キャは、それを試みて、失敗した。彼の言葉は胡桃に届かなかった。

(……私、バカだ)

 胡桃の瞳に涙が浮かぶ。

(……ルリは、いつも一緒だった)

 やっと理解できた。
 自分は、クソ陰キャ野郎に、ルリを求めていた。よく分からない同級生を通じて、夢の中の住人となった親友の面影を追い求めていた。

 彼を見ていなかったのは、自分の方だ。

(……私、何も変わってない)

 かつて、大切な親友を失った。
 そして今回もまた、自分の失敗によって、悲劇が繰り返された。

「  」

 とても悲しい叫び声。
 その直後、一滴の涙が零れ落ちた。

 それは足元の液体に触れ──眩い光を放つ。

「──落ちる、稲妻」

 彩音は言う。

「……少女の、涙」

 無数の淫魔に襲われ、いつか求めた暴力的な快楽に悦びを覚えながらも、ほんの
微かに残った理性で状況を判断し、呟いた。

「悲痛な、声ェ”」

 彩音は白目を剥いた。
 足元には、複数人の体から溢れ出た、あるいは搾り取られた液体がある。

 たった四人から出たとは思えない程の量。
 まるで泉のように、地面を濡らしている。
 それは淫魔に踏まれ、混ざり合い、白く濁っていた。

「……そして彼は」

 ──白き泉より現れる。
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