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2-05.カリン皇女のダンジョン配信 前編

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 俺は頭を抱え、無機質な天井を見上げた。
 ……いや、まだだ。まだファンタジーと断定するには早過ぎる。

「それは、ゲームの話か?」
「これはゲームであって遊びではない」

 意味が分からない。

「その配信とは、どこで行うのだ?」
「ダンジョン」

 おかしい。この世界にダンジョンなど存在しないはずだ。

「胡桃、ダンジョンを知っているか」
「知らない」

 この通り胡桃も知らない。
 ……ダンジョンという名前の配信スタジオでもあるのだろうか?

「……見た方が早そうだな」

 俺は日下部夏鈴の額に触れる。

「ヒプノ・ダイブ」

 そして彼女の記憶に潜り込んだ。


 *  記憶潜入  *


 私はカリン。
 カリン・ジアス・パラドリーフ・グビアウォール。

 誰にでも優しい日下部夏鈴は仮の姿。
 本当の私は、冥界にあるジアス帝国の第二皇女。


 ──ストップ。


「……なんだ、これは」

 俺は日下部夏鈴──否、カリンから手を離して言った。

「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」

 先日、俺は魔法少女と邂逅した。
 実に非現実的な出来事だ。俺は異世界から帰還した直後で感覚が麻痺しているが、それでも二度目は無いだろうと思っていた。

 ……冥界、だと?

 空想の類ではない。
 映像を鮮明に見たから断言できる。

 薄紫色に輝く空と二つの月。
 現代とは全く異なる街並みは、宙に浮いた土地の上にあった。

 土地の外周には四つの黒い球体がある。
 それは旋回しており、より深い位置からどす黒い魔力を集めていた。

 魔力は土地を巡り、中央部分から空と大地を繋ぐ光の柱を生み出していた。
 柱は最も大きな建造物──城に囲われている。城には五つの塔がある。カリンは、ひとつの塔の最上部に位置する部屋に立ち、神々しい光の柱を眺めていた。

 ……どうする?

 胡桃は魔法少女である。
 必然的にファンタジー適正が高い。

 しかし彼女は大きな問題を乗り越えたばかりだ。
 今は安らぎを与えてやりたい。厄介ごとには巻き込めない。

 俺はどうするかって?
 もちろん、巻き込まれる。

 ──涙。
 理由は、ただそれだけ。

 カリンは物憂げな様子で光を眺めていた。
 そして彼女の瞳には、宝石のような涙が浮かんでいた。

 淫キャは美少女の涙に弱い。
 決してカリンが蠱惑的なドレスを身に着けており、嫉妬深い胡桃の目を逃れて仲良くなりたいと考えたわけではない。断じてない。十割ではない。二割くらいだ。

 ……もう少しだけ潜ろうか。

「胡桃、頼みがある」
「なんでも言って」
「これから五分、俺は無防備になる」
「落書きする?」
「良いだろう。芸術的に仕上げてくれ」
「任された」

 交渉は成立した。
 これで無防備な俺を見た店長が不審に思うことは無いだろう……ほんとか?

 まぁ、良い。
 細かいことを気にするのは器の小さい人間がやることだ。

 では、参ろうか。
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