上 下
33 / 41
最終章 カノジョの選択

春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん春樹さん

しおりを挟む
 春樹さんと別れたのは日曜日の14時18分。今は月曜日の11時53分だから、21時間と35分も経過した。7時間程度の睡眠を抜いても14時間。

 たったの14時間。
 何も無い日なら一瞬で過ぎ去るような時間なのに、昔お父さまに叱られて一ヵ月も本を読めなかった時より遥かに辛い。

 春樹さんに会いたい。 
 春樹さんの声が聞きたい。
 春樹さんの言葉が聞きたい。
 春樹さんに言葉を聞かせたい。
 春樹さんの優しい笑みが見たい。
 春樹さんを私の言葉で笑わせたい。
 春樹さんの困ったような表情が見たい。
 春樹さんを私の言葉で困らせたい。
 春樹さんの目に映りたい。
 春樹さんを目に映したい。
 春樹さんに私だけを見て欲しい。
 春樹さんだけを私の目に映したい。
 春樹さんの耳に声を届けたい。
 春樹さんに私以外の声を聞かせたくない。
 春樹さんの手に触れたい。
 春樹さんの頬に触れたい。
 春樹さんの目に触れたい。
 春樹さんの唇に触れたい。
 春樹さんの舌を舐めたい。
 春樹さんに舌を吸わせたい。
 春樹さんにお預けしたい。
 春樹さんの物欲しそうな顔をもう一度見たい。
 春樹さんと私だけの世界を創りたい。
 春樹さん、春樹さん……早く来てください。

 ああ、でも、どうしましょう。
 以前よりも気持ちが溢れて、感情を制御できる気がしません。

 先日、電車で帰る時も大変でした。
 とにかく春樹さんのことが気になって、人の目が無ければ暴走していたかも。
 
 ああ、でも、そういう意味なら杞憂かもしれないですね。
 どうせ今日もあの害虫が一緒なので……はぁ、憂鬱です。

 ──ドアが開く音。
 うっかり気を抜いていた私は、授業中の居眠りを指摘された時みたいに背筋を伸ばしました。

「お待たせ」

 春樹さん!

「いいえ、私も今来たところですよ」

 制服姿の春樹さん。
 たった三日振りなのに随分と新鮮に感じられます。

 ああ、今日も素敵です。
 少し跳ねたクセ毛も、優しい目付きも、爽やかな微笑みも、何もかも。

 ……おや?

「春樹さん? 優愛さんは、どうしましたか?」
「あー、今日は来ないよ」

 私は首を傾けました。
 彼は照れたような表情をして、私に言います。

「今日は、輝夜と二人で話したくて」

 ……。

「輝夜?」
「……ごめんなさい。十秒待ってください」

 危なかった。
 咄嗟に唇を嚙まなければ、襲い掛かっていたかもしれない。

「……お待たせしました」

 笑顔を浮かべ、彼に顔を向ける。

「何か、大事なお話ですか?」

 冷静になる。
 彼の話したいことが、必ずしも私にとって良い内容とは限らない。

「ああ、ごめん、普通そうなるよね……」

 不思議な反応です。
 春樹さんは後頭部に手を当てた後、どこか照れた様子で言いました。

「特に用事は無いよ。ただ、二人になりたかっただけ」

 私は再び目を逸らします。
 なんでしょう、なんなのでしょう。まさか先日のアレが? あのキスで春樹さんの心境に変化が? ……いいえ、都合の良い解釈はダメです。あれだけ優愛さんを大切にしていた春樹さんが、一度のキスで心変わりするなんて考えられません。

 何か、もっと合理的な理由が……無理ッ、頭が回りません!

「ごめん、なんか恥ずかしいこと言ったかも」
「……いえ、恥ずかしいことなんて無いですよ。恋人、なんですから」

 気恥ずかしい雰囲気。

「……お昼、食べましょうか!」
「……そうだな。時間も無いしな!」

 なんでしょう、この世間一般にイメージするような初々しい雰囲気。

「今日はハンバーグです」
「ありがと……これ、もしかして手作り?」
「……はい、頑張りました」
「マジか。俺メッチャ幸せじゃん」

 なんでしょう、これ!
 ……まさか夢落ちですか? 目が覚めたら授業中だったりしますか?

「あのさ、輝夜は、何か俺にして欲しいことってある?」
「……私は一緒に居られるだけで幸せです」
「本当に? 悩み事とか、欲しい物とか、なんでも言ってくれたら嬉しいんだけど」

 春樹さん、本当に、どうしたのでしょうか?
 やはり夢ですか? あまりにも過剰なストレスによる防衛反応?

(……それなら、少しくらい、わがままを言っても)

 春樹さんの唇を見る。 
 いえっ、食事の直後はダメです。味の感想とか言われたら耐えられません。

 ああ……好きです。春樹さん、春樹さん。
 今すぐに抱きしめて、あの時みたいにドロドロになりたい。

 ──でも、きっと楽しい理由じゃないんだろうなぁ。

「そこまで言うのなら、当ててみてください」

 ああ、ダメです。冷静になり始めています。
 こんなの絶対におかしい。何か理由があるはず。どのような可能性が考えられる? 春樹さんの行動パターンから推測できるはず。家に帰って、恐らくまたあの女と話をして、学校へ行って……その僅かな時間の中で、こんなにも気を遣ってくれるような出来事が起きるとしたら、それはどんな出来事?

「もしも不正解だとしても怒ったりしません。春樹さんが私のことを考えて、私を喜ばせるためだけに何かしてくれるのなら、それ以上の幸せは無いのですから」

 どうして私はこうも面倒な思考を持っているのでしょう。
 もっと恋に盲目になれたら、どれだけ幸せなのでしょう。

 ああ、春樹さん、大好きです。
 好き。好き。日に日に気持ちが大きくなります。

 だから──だから、隠し事はダメですよ?

 私が知っているのは、興味のあることだけ。
 何度も言っている通り──春樹さんのことなら、ぜんぶ、知っちゃいますからね。

「ん-、難しいなあ」

 春樹さん、無邪気な顔も素敵です。
 でも私ちゃーんと知ってますからね。春樹さんは思慮深くて、賢い人です。

「うふふ、いっぱい悩んでくださいね」

 ああ、楽しみだなぁ。
 春樹さんは……一体、何を企んでいるのでしょうか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰ってきたら彼女がNTRされてたんだけど、二人の女の子からプロポーズされた件

ケイティBr
恋愛
感情の矛先をどこに向けたらいいのか分からないよ!と言う物語を貴方に ある日、俺が日本に帰ると唐突に二人の女性からプロポーズされた。 二人共、俺と結婚したいと言うが、それにはそれぞれの事情があって、、、、 で始まる三角関係ストーリー ※NTRだけど結末が胸糞にならない。そんな物語だといいな? ※それにしても初期設定が酷すぎる。事に改めて気づく。さてどうしたもんか。でもこの物語の元ネタを作者なりに救いたい。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~

ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。 僕はどうしていけばいいんだろう。 どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。

処理中です...