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第三章 私だけを見て
茶番は終わり
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「えへへ、今日は本当に良い一日でした」
輝夜の寝室。
「出版社、良かったなあ。本好きの方と対面で話せるのは、やっぱり楽しいです」
勉強机に頬杖を付いた彼女は、プリントアウトした写真を眺めながら言う。
「それから、春樹さんとの写真……うふふ」
手元には使い終わったペンがある。
「スカイツリーで抱き付いてしまったことは反省点ですけど……でも幸せでした」
その表情は恍惚としている。
「それに、春樹さん……」
無邪気に笑う子どものように彼女は言う。
「なんて、残酷なのでしょう」
輝夜は写真を見た。それは江戸城跡へ行く前に三人で撮ったもの。
「春樹さんの願いなら叶えますけど……」
写真には春樹と輝夜、そして、黒く塗り潰された人物が写っている。
「優愛さん、とってもかわいそう」
言葉とは裏腹にその声は弾んでいた。
なぜならば、これは彼女が望んだ結果でもあるからだ。
「輝夜ちゃん」
笑いを堪える。
「どこまで本気なのでしょうね」
春樹を傷付けた優愛を地獄に堕とす。
これは輝夜の中で決定事項となっている。
今後よほどのことが起こらない限り、心変わりすることはない。
優愛は春樹を諦めないことにした。
輝夜は大歓迎だった。だって、それは優愛が最も苦しむ選択なのだから。
輝夜はそれを知っている。
好きな人が別の誰かと幸せそうに話している姿を見ることが、どれだけ苦しいことなのか知っている。気が狂いそうになるような胸の痛みを今でも覚えている。
「優愛さんの心が折れた後なら、本当の意味で友達になれるかもしれませんね」
輝夜はハッとした。
「ああ、それ良い。良いですね」
輝夜が考える友達の条件。
互いの気持ちを分け合えること。
輝夜は優愛が嫌いなわけではない。
ただ、春樹を傷付けたことが許せないだけ。
もちろん永遠に恨み続けることは無い。
相応の罰を与えることに成功したならば、この件については忘れる。
逆に、この件だけは絶対に忘れない。
例え春樹が受け入れたとしても、輝夜だけは絶対に罰を与えることを諦めない。
「茶番は終わり」
輝夜は不思議な気持ちだった。
「一日でも早く、彼女の心を折りましょう」
長いこと他人を避けていた。
友人はもちろん、普通に会話できるような相手も皆無だった。
「大丈夫、きちんと慰めてあげます」
人が嫌いなわけではない。
寂しいと感じる心なら輝夜にもある。
むしろ、友達が欲しい。
心から笑い合えるような相手が欲しい。
だから──
「私と春樹さんが結ばれた後で、本当の友達になりましょうね。優愛さん」
輝夜は、うっとりとした表情をして、写真の黒く塗りつぶされた部分を撫でた。
「大丈夫。悪いことは何もしません」
輝夜は攻撃的な人間ではない。目的のために手段を選ばないタイプではあるけれど、他者を傷付けるだけの行動を選ぶことは絶対に無い。
輝夜は決して春樹を傷付けない。
だから優愛を攻撃することは無い。
彼の精神的負担を増やすことになるからだ。
輝夜がやろうとしていることは、とてもシンプル。
春樹とイチャイチャするだけ。仲睦まじい姿を優愛に見せつけるだけ。
もしも輝夜が悪い人間ならば、優愛はダメージを受けないだろう。
むしろ「悪女から春樹を助ける」というモチベーションを得るかもしれない。
しかし輝夜が善人だった場合はどうだろう。
自らも「友人」として接することができる相手だったならば、どうだろう。
輝夜は知っている。
ほんの数週間前、輝夜の目から見た優愛は善人だった。春樹の隣に立つに相応しい人物に思えた。だからこそ輝夜は身を引いた。
「次は、優愛さんの番です」
輝夜は写真を大切そうに両手で持った。
それから微笑を浮かべ、優愛の写った部分を引き裂いた。
「次の次は、絶対に無いですけどね」
優愛の写った部分を握りつぶしてゴミ箱に捨てる。
そして手元に残った「綺麗な写真」を幸せそうな表情で見つめる。
「そうだ、明日は土曜日ですね」
輝夜はスマホを手に取る。
そして、春樹にメッセージを送った。
輝夜の寝室。
「出版社、良かったなあ。本好きの方と対面で話せるのは、やっぱり楽しいです」
勉強机に頬杖を付いた彼女は、プリントアウトした写真を眺めながら言う。
「それから、春樹さんとの写真……うふふ」
手元には使い終わったペンがある。
「スカイツリーで抱き付いてしまったことは反省点ですけど……でも幸せでした」
その表情は恍惚としている。
「それに、春樹さん……」
無邪気に笑う子どものように彼女は言う。
「なんて、残酷なのでしょう」
輝夜は写真を見た。それは江戸城跡へ行く前に三人で撮ったもの。
「春樹さんの願いなら叶えますけど……」
写真には春樹と輝夜、そして、黒く塗り潰された人物が写っている。
「優愛さん、とってもかわいそう」
言葉とは裏腹にその声は弾んでいた。
なぜならば、これは彼女が望んだ結果でもあるからだ。
「輝夜ちゃん」
笑いを堪える。
「どこまで本気なのでしょうね」
春樹を傷付けた優愛を地獄に堕とす。
これは輝夜の中で決定事項となっている。
今後よほどのことが起こらない限り、心変わりすることはない。
優愛は春樹を諦めないことにした。
輝夜は大歓迎だった。だって、それは優愛が最も苦しむ選択なのだから。
輝夜はそれを知っている。
好きな人が別の誰かと幸せそうに話している姿を見ることが、どれだけ苦しいことなのか知っている。気が狂いそうになるような胸の痛みを今でも覚えている。
「優愛さんの心が折れた後なら、本当の意味で友達になれるかもしれませんね」
輝夜はハッとした。
「ああ、それ良い。良いですね」
輝夜が考える友達の条件。
互いの気持ちを分け合えること。
輝夜は優愛が嫌いなわけではない。
ただ、春樹を傷付けたことが許せないだけ。
もちろん永遠に恨み続けることは無い。
相応の罰を与えることに成功したならば、この件については忘れる。
逆に、この件だけは絶対に忘れない。
例え春樹が受け入れたとしても、輝夜だけは絶対に罰を与えることを諦めない。
「茶番は終わり」
輝夜は不思議な気持ちだった。
「一日でも早く、彼女の心を折りましょう」
長いこと他人を避けていた。
友人はもちろん、普通に会話できるような相手も皆無だった。
「大丈夫、きちんと慰めてあげます」
人が嫌いなわけではない。
寂しいと感じる心なら輝夜にもある。
むしろ、友達が欲しい。
心から笑い合えるような相手が欲しい。
だから──
「私と春樹さんが結ばれた後で、本当の友達になりましょうね。優愛さん」
輝夜は、うっとりとした表情をして、写真の黒く塗りつぶされた部分を撫でた。
「大丈夫。悪いことは何もしません」
輝夜は攻撃的な人間ではない。目的のために手段を選ばないタイプではあるけれど、他者を傷付けるだけの行動を選ぶことは絶対に無い。
輝夜は決して春樹を傷付けない。
だから優愛を攻撃することは無い。
彼の精神的負担を増やすことになるからだ。
輝夜がやろうとしていることは、とてもシンプル。
春樹とイチャイチャするだけ。仲睦まじい姿を優愛に見せつけるだけ。
もしも輝夜が悪い人間ならば、優愛はダメージを受けないだろう。
むしろ「悪女から春樹を助ける」というモチベーションを得るかもしれない。
しかし輝夜が善人だった場合はどうだろう。
自らも「友人」として接することができる相手だったならば、どうだろう。
輝夜は知っている。
ほんの数週間前、輝夜の目から見た優愛は善人だった。春樹の隣に立つに相応しい人物に思えた。だからこそ輝夜は身を引いた。
「次は、優愛さんの番です」
輝夜は写真を大切そうに両手で持った。
それから微笑を浮かべ、優愛の写った部分を引き裂いた。
「次の次は、絶対に無いですけどね」
優愛の写った部分を握りつぶしてゴミ箱に捨てる。
そして手元に残った「綺麗な写真」を幸せそうな表情で見つめる。
「そうだ、明日は土曜日ですね」
輝夜はスマホを手に取る。
そして、春樹にメッセージを送った。
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