上 下
14 / 41
第二章 綺麗じゃないから

歪な関係の始まり

しおりを挟む
 ボクの名前は秋月あきづき秋穂あきほ
 今は図書室で一人、ライトノベルを読んで時間を潰しているところさ。

 ひどいよね。
 三人以上で班を作れ、とかさ。

 この学校では二年生になると社会科見学があるんだけど、直前の一週間は毎日五限が準備時間になるんだ。

 今日は初日。班のメンバーと希望の行き先を提出したら授業終わりね。班の人数は三人から五人で、別のクラスでも大丈夫。行き先は学校が用意したリストから選ぶ感じだよ。

 初日に仲間を見つけられなかった人は二日目で自動的に班を組まされる。ボッチだらけの闇鍋お仲間ガチャってわけさ。

 要するに今日はやることが無い。
 やれやれ、ソロプレイは効率は悪いぜ。

「あっれぇ? 坂下さん一人ぃ? んじゃ俺らと組もうぜぇ?」

 ──あ、あれは!?
 坂下輝夜! その美貌で入学当初から注目を集め、図書委員を選ばなかった男子を絶望の淵へと叩き落とした孤高の美少女!

 最も有名なのは、三年生のイケメンに口説かれても愛想笑いひとつせず黙々と読書を続けた事件だろうか。もちろんボクは彼女と会話したことが無いけど、彼女の笑顔を見た人は宝くじに当たるという噂が流れる程度に無口で不愛想という印象がある。

「ちょぉ、坂下さん無視は寂しいってぇ」

 流石は坂下さん! 
 チャラ男の勧誘にも全く動じない!

「輝夜、お待たせ」

 ──あ、あれは!?
 小倉春樹と新見優愛! 二年生ならば誰もが知るベストカップルだ!

 本人達は交際を否定しているものの、周囲の人間を「〇〇さん系ラブコメで授業中にイチャイチャする二人と同じ教室で必死に無視しているモブ」のような気分にさせることで有名な二人! 爆発しろ!

「春樹さん! 優愛さんも!」

 ──瞬間、図書室は驚愕に包まれた。

「春樹さん、こちらの席に座ってください」
「えっと……? この二人は大丈夫?」
「はい、知らない人です」

 あの坂下輝夜が笑顔を見せた。
 ボクの耳は、それはもうたくさんの小声を捉えた。

 え、うそ、坂下さんって笑うの?
 てか小倉くん輝夜って呼ばなかった?
 坂下さんの方も、春樹さんって……。
 新見さんと付き合ってるんじゃないの?
 いやでも本人達は否定してるって。
 そんなの先生怒ってないから正直に言いなさいくらいの信頼度でしょ!

(……ど、どうなってるの?)

 三人は一瞬で注目を集めた。

「んぇ~? 坂下さん小倉っちと組むなら言ってよぉ~」
「……ごめんなさい。どちら様ですか」

 坂下さん冷たい。怖い。ボクなら泣いちゃう。

「小倉っちぃ~、坂下さん怖ぃ~!」
「お前その喋り方やめた方が良いよ」
「んぇ~!?」

 あのチャラ男は芸人でも目指してるのかな。
 ここかなり偏差値が高い進学校なんだけどな……。

「小倉っち三人っしょ? 俺ら二人じゃん? 合体するしか無くね?」
「ごめん、他を当たってくれ」
「そこを何とか!」

 諦めない。すごい。不屈。
 それにしても小倉くん、あのチャラ男とも友達なんだ。噂通り顔が広い。

「やっぱ無理かぁ……。んじゃ他行くわ。邪魔してごめんねぇ~!」
「二度と来るなよ」

 チャラ男は撃退された。
 その後、新見さんが言う。

「ねぇハルくん。さっきの人って友達なの?」
「いや、知らない人。今初めて話した」

 コミュ力ぅ~!
 そのスキルどこで買えますか!? 

「春樹さん、行きたい場所は決めてますか?」
「決めてないよ。これから考える予定」
「それでは、こちらの出版社はどうですか?」

 待って無理。坂下さん可愛い。
 何あれ別人? ギャップが半端ないんだけど。

「俺は良いけど……」

 小倉くんは新見さんを見た。

「私も特に希望とか無いよ」
「それではっ、決まりですね!」
 
 決めるの早過ぎ。これが天上の人々か。
 我々下々の者は貯め続けた石を放出することでしか天井に触れられないのに。

 それにしてもビックリだよ。
 あの坂下さんがソロプレイをやめるなんて、どうなってるの?
 
 随分と仲良さそうだけど……あの三人は、どういう関係なのかな?

「発表の準備をしましょう!」

 坂下さんが提案した。
 社会科見学は行くだけで終わりではない。むしろその後の発表が本番である。

 まずは班を十個のグループに分け、予選が行われる。それを突破した班が本選へと進出して二年生全員の前で発表を行う。そして見事に最優秀賞を獲得した班には豪華景品が与えられるのだ。

 まぁボクとは無縁の世界だけどね。
 きっと、ああいうキラキラしたグループが最優秀賞の景品をゲットするんだろうなぁ。

 くそぅ。世の中は不公平だ。
 輝けるのは、いつだって最初からキラキラしている人達なんだから。爆発しろ。

「ところで春樹さん、次の日曜日はお暇ですか?」

 おっと会話再開だ。
 日曜日……まさか休日にも準備をするガチ勢なのか?

「良ければ、私とデートしませんか?」

 ──ガタッ!

 多くの生徒が一斉に立ち上がった。
 小倉くんはビクリと肩を揺らした後、困惑した様子で周囲を見る。

 一瞬の静寂。
 そして、誰かが言った。

「春樹ィ~!?」

 数十人の生徒達が一斉に群がる。
 そして小倉くんに対する質問……いや、尋問が始まった。

 ──ボクは見た。

 ギュッと唇を結び俯いた新見さん。
 その様子を見て、恍惚とした表情を浮かべた坂下さん。

 どちらも一瞬だった。
 だけど、事情を察するには十分だった。

 ……爆発しろとか言ってごめんなさい。

 ボクは図書室から退散する。
 あの空間に居るだけで胃が痛くなりそうだった。

 ……昔から人の顔色を見ることだけは得意なんだよね。うへへ、将来はメンタリストにでもなろうかな。

「あっれぇ~? 君ぃ、もしかして一人?」

 ……ぁ、ぅ、ぁ。

 秋月秋穂、十七歳。
 人生最大の危機が始まりました。


 ──実はチャラ男が高校デビューの方向性を間違えた同志だったことを知るのは、また別の物語。


 秋月秋穂アッキーの目に映った輝夜と優愛の姿は、正しい。

 少女マンガのような甘酸っぱい三角関係とは違う。三者三様の感情が複雑に絡み合い、とても歪な関係性が構築されている。しかもそれは時間と共に変化する。

 彼と彼女達にとって、一生忘れられない時間が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

処理中です...