さみしがりやの恋中さんはあまあまをご所望~お隣の天才プログラマーが俺を離してくれないので諦めてイチャイチャしてたらいつの間にか両想いでした~

下城米雪

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恋中さんとの隣人生活2

恋中さんと朝の誘い

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 翌朝、火曜日。
 心なしか昨日よりも身体が軽い。

 普段より早起きした俺は、床に敷いた布団の上でスマホを弄っていた。

 この部屋には家具が全く無い。
 布団を除けば、ほぼ空き部屋みたいな状態になる。

 これは俺のワガママだ。

 親に頼らず自由に生きる。
 そのために一人暮らしを始めた。

 自由には責任が伴う。
 家具は全て自力で揃えると決めた。

 最初は布団も受け取らないつもりだった。しかし体調を崩しては元も子もないと親に説得され、最終的には折れた。

 ぴろりん、と唐突に音が鳴る。
 画面上部に通知が現れ、親からラインを通じて連絡があったことを理解した。
 
「……またか」

 溜息を吐きながら内容を確認する。
 パンダが物陰からこっちを見てるスタンプがひとつあるだけだった。

 俺は「おやすみ」という文字のあるスタンプを返した。その直後に既読が付き、パンダが踊っているスタンプが返ってきた。

『早起きしてて偉い!』

 舌打ちをしてラインを閉じる。
 既読無視だ。相手してたらキリが無い。

 親に家賃やら初期費用やら出して貰っている身ではあるが、いちいち連絡してくるなと思ってしまう。

 いわゆる反抗期なのだろうか。
 客観的に評価することはできても、ムカッとするのは我慢できない。

 悪い親ではないのだと思う。
 必要な物は買ってくれるし、学校行事には必ず参加してくれる。

 ただ、人前でも「やっくん」とか言うし、中学生になってもベタベタくっ付くし、家に居ると休む間もなく愛でてくる。たまに友達付き合いにも口を出される。

 愛が過剰なんだ。
 それは俺にとって苦痛だった。

 もっと適度に距離を置いて欲しい。
 その感情が強過ぎたから、俺は一人暮らしを始めることにした。

 しかし今の俺は、親が抱いていたような感情を、他の誰かに向けようとしている。

 笑ってしまうような話だ。
 血は争えないというか、子は親に似るというか、どうして嫌いだった行動まで再現してしまうのだろう。

「……恋中さん、何時に起きるのかな」

 彼女とのトークを開いた。
 当然、新しいメッセージは無い。

 画面には「おやすみ」で終わった会話履歴が残っている。

「……何ニヤけてんだよバカ」

 我ながら重症である。
 だが俺は悪くない。自分の魅力を理解せずグイグイ来る恋中さんが悪い。

 だけど指摘するのは何か違う。
 俺は彼女が本気で友達を欲していることを知っているから、多少は許容したい。

 そう、開き直るんだ。
 素直になれ。役得だ。イチャイチャしろ。

 ──瞬間、画面が動いた。
 現れたのは、謎のペンギンが転がっているスタンプ。

 全く意図が分からない。
 顎に手を当てて考えていると、

『起きてますか?』

 というメッセージがあった。

「おはよう」

 返事をすると直ぐにペンギンが踊っているスタンプが返ってきた。

 よく分からないのでパンダが踊るスタンプを返して共鳴しておく。

『学校、何時に行きますか?』

 始業時間は9時。
 距離は徒歩10分で、さらに10分前には着席したいから、いつも20分前くらいに家を出ることにしている。

 俺は「8:40」と返した。
 ふと現在時刻を見ると、午前6時くらい。

「……まだ2時間以上もあるのか」

 昨日までは8時くらいに起床していた。
 今日に限って早起きしたのは、ゆっくりと風呂に入ったことが原因だろうか? むしろ長く寝そうなイメージだけど。

 さて、どうしよう。やることがない。
 二度寝するか? そう思って布団を被り直した直後、通知があった。
 
『朝食、ご一緒にどうですか?』

 目が覚めた。

『パソコンのレンタルもできます』

 俺は少し考えて、

「恋中さんの部屋?」

 直ぐに既読が付き、YESという札を持ったペンギンのスタンプが返ってきた。

「了解」

 俺は悩まず返事をした。
 どう考えても友達の距離感ではないけれど、これが彼女のスタンダードなのだ。俺は開き直ってイチャイチャすると決めた。

『鍵を開けて待ってます』

 一旦、会話終了。
 文字を見ると淡白だけど、彼女はどんな表情をしていたのだろうか。

 喜んでくれていたら嬉しい。
 そんなことを思いながら制服に着替えて、俺は隣の部屋へ移動した。
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