さみしがりやの恋中さんはあまあまをご所望~お隣の天才プログラマーが俺を離してくれないので諦めてイチャイチャしてたらいつの間にか両想いでした~

下城米雪

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恋中さんと友達になるまで

第1話 恋中さんとの出会い

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「こんな所に穴がある」

 そう呟いて、僕は胸の高さにある穴の中に顔を入れて覗いてみる。

「暗くてわからないけど外に繋がってる?」
「たぶん。それを調べたくてここに来ました。他にも何ヶ所か同じような穴がありましたよ。フィル様、少しの間ここで待っていてください。調べてきます」
「僕も行く」
「安全が確認できるまでダメです。一応この周辺に結界を張っておきます。異変があれば、すぐに俺を呼んでください」
「…わかったよ」

 僕は不満げに唇を突き出した。
 ラズールが困ったように息を吐いて手を伸ばしてくる。軽く僕の頬に触れてから穴に両手をかけ、軽々と登って穴の中へと入っていった。 
 どんどんと奥へと進むラズールに「気をつけてね」と声をかける。
 ラズールの姿が暗い穴の中に消え、ついには見えなくなってしまった。
 採掘場の中は静かだ。僕の息づかいと天井からボトリと落ちる水の音しか聞こえない。
 昨夜、ゼノ達をここに残して村長の家に戻ると、ラズールが村長に「今日明日は村人は採掘場に行かないように」と頼んでいた。実際は脅していたのだけど。
 村長の話だと、村人達が石を採掘する時には、歌を歌ったり大声で掛け声をかけたりして賑やかだそうだ。その賑やかな声が、今日は響かなかった。だから余計に静かに感じるのだろうか。
 そんなことを考えながら、ラズールが入った穴の下で、膝を抱えて座る。
 夜の穴の中はとても冷える。暗くてよく見えないけど吐く息はきっと真っ白だ。村長の家を出る時にはそんなに寒いと思わなかったから、ラズールが持つ荷物の中にストールを入れて、採掘場の外の茂みの中に置いてきてしまった。
 
「寒い…」

 指先も冷えて感覚が鈍くなっている。
 僕はフードを脱ぐと、茶色のカツラを取って結い上げていた銀髪を解いた。そして長い髪で首を覆って、もう一度フードをかぶる。

「長すぎるから切りたいと思ってたけど、役に立つもんだな」

 ブツブツと呟きながら、カツラを上着のポケットに突っ込む。動かないから余計に寒いのかと立ち上がったその時、誰かが採掘場の中に入ってきたような気がした。
 僕は足音を立てないように入口に向かおうとした。直後に後ろでタンと音がして「どこへ行くのですか」とラズールの声が聞こえた。
 僕は振り向きラズールに走り寄る。
 ラズールは、服についた汚れを叩いて落とし、僕を見た。

「どうだった?外に出れそう?」
「はい。少し狭いですが外と繋がってます。ところでどこへ行こうとしてたのですか?」
「入口に行こうかと…。誰かが入ってきた気がする」
「ああ。またバイロン国の騎士が来たのか?しかしまだ夜なのに…」
「でも…入ってきてると思う。…ほらっ、足音が聞こえない?」
「たしかに。二人…か。フィル様、とりあえずこの穴に隠れましょう」

 カツカツという足音がどんどんと近づいてくる。何か話してるようだけど、声がかすかにしか聞こえない。
 早く隠れなければと思っていると、近づいていた足音が遠ざかっていく。

「横穴の方へ行きましたね。さて、倒れているバイロン国の騎士を見つけてどうするか…」
「ラズール、様子を見に行こう」
「そうですね」

 僕はラズールの前に出て先に歩く。
 しかし横穴に入る時には、ラズールが前に出て僕を守るようにして進んだ。

 



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