33 / 44
2-10.何も知らない
しおりを挟む
世界が爆ぜた。それを引き起こしたのが自分自身だと気が付くよりも速く、ウチは国王に向かって拳を突き出していた。
確実に当たるタイミング。
しかし拳は当たらなかった。
「素晴らしい速さだ」
後ろから声が聞こえた。
振り向き様に拳を振り抜く。
「だが、余には届かぬ」
繰り返す。
ウチは衝動に身を任せ、拳を振り抜き続けた。
「王都の全てを破壊しようと構わぬが、いつまで続けるつもりだ?」
彼を睨み、呼吸を整える。
その際、体感時間を元に戻した。
そしてウチは気が付いた。
燃え盛る炎と、泣き喚く民衆の声に。
「何を驚いている? 貴様がやったことではないか」
「……ウチが?」
ふと子供の泣き声が聞こえた。
お母さんと叫んでいる。目を向けると、崩れた家屋に挟まれた女性と、彼女を引っ張り出そうとする少年の姿が目に映った。
──楽しいな?
ウチは歯を食い縛る。
──壊せ。もっとだ。
大きく息を吸い込む。
そして、国王を睨み付けた。
状況は何も分からない。
全く現実感が無い。だけど……あいつだけは、一発殴らないと気が済まない。
「まだ続けるのか?」
うんざりとした態度。
「無駄なことだ。余の魔法は因果を操る。貴様の攻撃は当たらず、それどころか」
彼は無造作に手を振った。
何をしているのかと疑問に思った直後、頬に殴られたような衝撃を感じた。
「余の攻撃は、必中となる。理解したか? 貴様に勝ち目など無いぞ」
口の中に不快な感覚が生まれる。
それを吐き出すと、血と一緒に折れた歯が出た。
──代われ。
うるさい。
──俺が、あいつを殺してやろう。
うるさい。
──何も知らぬガキは、黙って大人に任せておけ。
「……ああ、もう、うるさいなぁ」
ウチは──母上さまとの約束を破った。
「待て、なんだそれは」
黒魔法を全力で行使すること。
体の負担が大きく命に係わるからと禁止されていた。
でも今のウチは白魔法を使える。
ノエルの魔法を参考に練習したら、なんかできた。
「それもバーグ家の秘術か!? だが、まさかこんなっ、ありえぬ!」
彼がピーピー騒いでる。
でも、知ったことじゃない。
これ疲れるんだよね。
だから、さっさと終わらせよう。
「なぜ魔法が使えぬ!? なぜ貴様は、白と黒を同時に扱える!?」
黒魔法は、他の魔力を減衰させる。
白魔法は、他の魔力を増幅させる。
相反する属性を持った魔法を同時に行使するのは大変だ。でも、その分だけ絶大な効果を発揮できる。
「一発だけで許してあげる」
ウチは彼の懐に入り、拳を引いた。
この一撃には極限まで練り上げられた赤の魔力が込められている。
その一方で、彼は魔力を練ることができない。要するに生身だ。そんな相手に岩をも砕く拳をぶつけたら何が起きるのかなんて、流石に分かる。
でもやる。
ウチは拳を強く握り、真っ直ぐに突き出した。
彼は音もなく弾け飛んだ。
その後、ウチはしばらく空を見上げた。
──満足か?
また、この声だ。
──暴力は、気持ちよかったか?
なんなんだろうね。ほんと。
今迄、色々と分からないことを無視して、まぁ何とかなるでしょ、みたいな気持ちで生きてきたけど……流石に、ちょっと、これは、頭が痛いかも。
だから……だからこれは頭痛のせいだ。
「……あは」
燃え盛る王都。
崩れた建造物、逃げ惑う人々。
全部、ウチがやった。
ウチ以上に何も知らない人達の生活をメチャクチャにした。
それが──
「違う」
歯を食い縛る。
「気持ちよくなんかない」
これは、あれだ。なんだっけ。サブリミナル的な奴だ。
壊せ壊せみたいな声がいつも聞こえるから、きっと錯覚的なアレなんだ。
「……ノエル」
「ここに」
ダメもとで彼女を呼んだら直ぐに返事があった。
相変わらず、凄いね。ほんと。
「……どうして、こんなことになった?」
我ながら意地悪な質問だった。
彼女は何も悪くないのに、まるで責任を追及しているかのような言い方だ。
悪いのは、何も知らないウチだ。
どうしてこんなことになったのか、ウチだけが何も知らない。
「まだ、可能性はあります」
「……可能性?」
ウチはノエルを見た。
彼女は純白の瞳にウチの姿を映して、どこか寂しそうな表情で言った。
「バーグ家の秘術を使いましょう」
「……バーグ家の、秘術」
国王も同じことを言っていた。
何それ。知らないよ。そんなの。
「時戻りの秘術です」
「……時戻りの」
……あっ、
「……そうか」
二度目の人生が始まる前の出来事。
ウチはゲーム世界のイーロン・バーグとなり、ノエルにぶっ殺された。
その後、なんか、よく分からないけど赤ちゃんになった。
あの時だ。あの瞬間に、時戻りの秘術が発動したのだろう。
「……全部、やり直せば」
今、使える?
……できる気がする。
「……何か、変わるのかな?」
確実に当たるタイミング。
しかし拳は当たらなかった。
「素晴らしい速さだ」
後ろから声が聞こえた。
振り向き様に拳を振り抜く。
「だが、余には届かぬ」
繰り返す。
ウチは衝動に身を任せ、拳を振り抜き続けた。
「王都の全てを破壊しようと構わぬが、いつまで続けるつもりだ?」
彼を睨み、呼吸を整える。
その際、体感時間を元に戻した。
そしてウチは気が付いた。
燃え盛る炎と、泣き喚く民衆の声に。
「何を驚いている? 貴様がやったことではないか」
「……ウチが?」
ふと子供の泣き声が聞こえた。
お母さんと叫んでいる。目を向けると、崩れた家屋に挟まれた女性と、彼女を引っ張り出そうとする少年の姿が目に映った。
──楽しいな?
ウチは歯を食い縛る。
──壊せ。もっとだ。
大きく息を吸い込む。
そして、国王を睨み付けた。
状況は何も分からない。
全く現実感が無い。だけど……あいつだけは、一発殴らないと気が済まない。
「まだ続けるのか?」
うんざりとした態度。
「無駄なことだ。余の魔法は因果を操る。貴様の攻撃は当たらず、それどころか」
彼は無造作に手を振った。
何をしているのかと疑問に思った直後、頬に殴られたような衝撃を感じた。
「余の攻撃は、必中となる。理解したか? 貴様に勝ち目など無いぞ」
口の中に不快な感覚が生まれる。
それを吐き出すと、血と一緒に折れた歯が出た。
──代われ。
うるさい。
──俺が、あいつを殺してやろう。
うるさい。
──何も知らぬガキは、黙って大人に任せておけ。
「……ああ、もう、うるさいなぁ」
ウチは──母上さまとの約束を破った。
「待て、なんだそれは」
黒魔法を全力で行使すること。
体の負担が大きく命に係わるからと禁止されていた。
でも今のウチは白魔法を使える。
ノエルの魔法を参考に練習したら、なんかできた。
「それもバーグ家の秘術か!? だが、まさかこんなっ、ありえぬ!」
彼がピーピー騒いでる。
でも、知ったことじゃない。
これ疲れるんだよね。
だから、さっさと終わらせよう。
「なぜ魔法が使えぬ!? なぜ貴様は、白と黒を同時に扱える!?」
黒魔法は、他の魔力を減衰させる。
白魔法は、他の魔力を増幅させる。
相反する属性を持った魔法を同時に行使するのは大変だ。でも、その分だけ絶大な効果を発揮できる。
「一発だけで許してあげる」
ウチは彼の懐に入り、拳を引いた。
この一撃には極限まで練り上げられた赤の魔力が込められている。
その一方で、彼は魔力を練ることができない。要するに生身だ。そんな相手に岩をも砕く拳をぶつけたら何が起きるのかなんて、流石に分かる。
でもやる。
ウチは拳を強く握り、真っ直ぐに突き出した。
彼は音もなく弾け飛んだ。
その後、ウチはしばらく空を見上げた。
──満足か?
また、この声だ。
──暴力は、気持ちよかったか?
なんなんだろうね。ほんと。
今迄、色々と分からないことを無視して、まぁ何とかなるでしょ、みたいな気持ちで生きてきたけど……流石に、ちょっと、これは、頭が痛いかも。
だから……だからこれは頭痛のせいだ。
「……あは」
燃え盛る王都。
崩れた建造物、逃げ惑う人々。
全部、ウチがやった。
ウチ以上に何も知らない人達の生活をメチャクチャにした。
それが──
「違う」
歯を食い縛る。
「気持ちよくなんかない」
これは、あれだ。なんだっけ。サブリミナル的な奴だ。
壊せ壊せみたいな声がいつも聞こえるから、きっと錯覚的なアレなんだ。
「……ノエル」
「ここに」
ダメもとで彼女を呼んだら直ぐに返事があった。
相変わらず、凄いね。ほんと。
「……どうして、こんなことになった?」
我ながら意地悪な質問だった。
彼女は何も悪くないのに、まるで責任を追及しているかのような言い方だ。
悪いのは、何も知らないウチだ。
どうしてこんなことになったのか、ウチだけが何も知らない。
「まだ、可能性はあります」
「……可能性?」
ウチはノエルを見た。
彼女は純白の瞳にウチの姿を映して、どこか寂しそうな表情で言った。
「バーグ家の秘術を使いましょう」
「……バーグ家の、秘術」
国王も同じことを言っていた。
何それ。知らないよ。そんなの。
「時戻りの秘術です」
「……時戻りの」
……あっ、
「……そうか」
二度目の人生が始まる前の出来事。
ウチはゲーム世界のイーロン・バーグとなり、ノエルにぶっ殺された。
その後、なんか、よく分からないけど赤ちゃんになった。
あの時だ。あの瞬間に、時戻りの秘術が発動したのだろう。
「……全部、やり直せば」
今、使える?
……できる気がする。
「……何か、変わるのかな?」
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる