上 下
28 / 44

2-5.国王の力

しおりを挟む
「ウチの子が迷惑をかけました。ごめんなさい」

 あたしはルビィの口を手で塞ぎ、会話を試みた。

「あぁ!? ンァに謝ってんだァ!?」
「下がれ」

 キングは隣の男を黙らせ、一歩前に出た。
 なんだか親近感を覚えたけど、そんな穏やかな状況じゃないわよね。

「貴様、そこそこ強いな。何者だ?」
「……スカーレット」
「聞いたことが無い。どこの生まれだ?」

 会話に応じた。
 余裕がある? それとも情報を求めている?

「どうした? 何か、話せぬ事情でもあるのか?」
「……まさか、王様がいらっしゃるとは思わず、口を開くことすら恐れ多く」
「ああ、少しばかり人を探しているものでな。気になる報告を聞き、走ってきた」

 王都、ここから二百キロは離れていなかった?
 随分とフットワークが軽い王様なのね。恐れ入るわ。

「イーロン・バーグという名前に聞き覚えはあるか?」
「……さあ、聞いたことがありません」

 キングがイロハを探している?
 どういうこと? 一体、何が目的なの?

「そうか、知っているのか」

 まずい、ルビィの表情を読まれたか!?
 迷ってる時間は無い。一秒でも早く離脱する!

「どこへ行く?」
「っ!?」

 あたしは後方に離脱した。
 しかし、一瞬で回り込まれた。

 慌てて急停止する。
 そのまま後方に距離を取り、再び違和感を覚えた。

「余は無駄なことが嫌いだ。故に、教えてやろう」

 キングは正面に手を伸ばした。
 その瞬間、周囲が青い光に包まれる。

「三色混合魔法、ロイヤルブルー。余の魔力は因果を操る」
「……因果、ですって?」
「貴様が逃げた先に余は存在しなかった。故に、存在していたことにした。これ以上の説明が必要か?」

 そうか、これが違和感の正体か。
 どれだけ相手が速いとしても、その動きが全く見えないなんてありえない。だけど彼の言ったことが本当なら、見えなかったことにも説明がつく。

(……何よ、それ。反則じゃない)

 逃げられないことを理解した。
 そして、恐らく戦っても勝てない。

「理解したようだな。直ぐに居場所を話せば、見逃してやっても良いぞ」

 どうしよう。完全に失敗した。こんな相手が出てくるなんて思わなかった。
 でも思考を止めたらダメ。今のあたしにできる最善を考えないと。

「ふむ、何か考えているな。面倒だ。地下に入れて拷問するか」
「オォイ!? ボス待ってくれ。その前に、一発ヤラせてくれよ。せっかく歯応えのありそうな獲物が来たんだ。お預けなんて、そりゃ酷い話だぜぇ!?」
「認めぬ。貴様が戦えば、何も残らぬ」
「残す戦い方もできるよぅ! 生け捕りにすれば良いんだろ? 分かってるともさ」
「……」
「ボスゥ! 後生だ! ヤラせてくれよぉ!?」

 キングは不愉快そうに目を細めた。
 その後、ふと、あらぬ方向に目を向ける。
 それから少し考えるような間が空き、やがて彼は溜息を吐いた。

「必ず生け捕りにしろ。失敗した場合、貴様を殺す」
「分かったァ! 生け捕りにする。しくじったらボスに殺される。それで良い!」
「期限は二日後の夜明けだ。間に合わなかった場合も貴様を殺す」
「ありがてぇ……ありがてぇ……」

 キングは呆れた様子で彼を見る。
 それから数秒だけあたしに目を向け、何も言わず姿を消した。

(……行ってくれた)

 よく分からないけど助かった。

「おぉん? テメェなんか安心してねぇかァ?」

 こいつ本当に気持ち悪いわね。
 ヤバい薬でもキメてるのかしら?

「スカーレット様ァ! こいつは、こいつはルビィにやらせてください!」
「あぁん? テメェには興味ねぇよ。引っ込んでろ」
「……ッ! お前ェ!?」

 ルビィが興奮している。
 まぁ、理由は想像できるけどね。

 キングは言った。貴様が戦えば、何も残らぬ。
 ルビィが激怒している。他の仲間は姿が見えない。

「オレァ……アァ、なんだったか? ……そう、ユビサキーガ・ムッチッチ! ボスに貰った名前だァ。この意味、分かるかァ?」

 むっちっち……確か、この国では王族が認めた強者に「むっちっち」という古代語が与えられるんだっけ。意味は、偉大なる存在だったかしら?

「スカーレット様、もう我慢しなくて良いですよね?」
「ルビィ、落ち着きなさい」
「あいつらは! いつも急に現れて、ルビィ達の大切なモノを奪っていく!」

 ……これはダメね。
 強制的に言うことを聞かせても良いけど、戦わせた方が良さそう。

「気を付けて」

 あたしはルビィの後ろに下がった。
 その直後、激しい戦闘が始まった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...