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2-2.リリエラ・バーグの所在
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今からおよそ二ヵ月前のこと。
あたしは少数の精鋭部下を連れ、海を渡った。
行き先はムッチッチ大陸。
グレン兄さんが使っていた拠点。
指定された場所に拠点は無かった。
その代わり、あたし達を出迎えたのは廃墟だった。
「……まさか、敵が?」
誰かが呟いた。その一言で部隊の緊張感が高まる。今自分達の居る場所が敵地なのだと本当の意味で理解したのは、きっとこの瞬間だった。
あたしは周囲を観察して、魔力伝導体を見つけた。
あれは恐らく旧式だが、魔力を満タンまで補充すれば、一年は形を保つ。兄さんが戻ってから半年も経過しておらず、仮に敵が無人の拠点を襲ったなら貴重な魔力伝導体を放置する理由も分からない。つまり、この拠点はずっと前に放棄された場所だ。
あえてそんな場所を指定するわけがない。
だからこれは、兄さんからのメッセージだ。
ムッチッチ大陸に安全な場所は無い。
まずは、それを作るところから始めろ。
(兄さん! あたし、頑張るからね!)
あたしには使命がある。
それはイロハのお母さんを探すこと。
バーグ家は何かを知っている。
それを知らない限り、あたし達はイロハと同じ視点に立てない。
不安はゼロじゃない。
だけど、今は確かな自信がある。
イロハと共に三ヵ月も修行した。
今のあたしは、赤の楽園の代表だった頃とは違う。
赤のスカーレット。
グレイ・キャンバスの最高戦力。
(やるわよ。初仕事!)
気合は十分。
あたしは、早速部下に指示を出した。
* * *
一ヵ月後、安全な拠点が完成した。
王都から離れた場所にあり、魔力探知はもちろん、肉眼で見つけることも難しい。
「……まずいことになったわね」
あたしは部下からの報告を聞き、頭を抱えた。
「事態は一刻を争います。ご判断を」
「ごめんなさい。五分だけ一人にして」
部下は静かに頷き、部屋を出た。
スカーレットは少し間を開けてから長い溜息を吐き出す。
「イロハのお母さん、リリエラ・バーグの所在が分かった。これは良い知らせよ」
ムッチッチ大陸に到達し、拠点を探すと同時に諜報活動を行っていた。そして拠点を確保した直後に目的の人物を発見した。この点だけ捉えれば、大成功だ。
だが、彼女を早期に発見できたのは、スカーレットの部隊の諜報能力が優れていたからではない。
「……公開処刑、ですって?」
スカーレットは歯を食い縛る。
彼女の救出は困難だ。最悪、王国との大規模な戦闘に発展する。
見殺しにする選択肢は無い。
このため考えるべきは、最悪のパターン。
「……あたしの部隊だけで、勝てるの?」
スカーレットは思考する。
「……分からない」
まだ本格的な諜報活動を始めてから一ヵ月も経過していない。グレイ・キャンバスは王国に対して無知だ。故に、答えなど出るわけがなかった。
「いきなりでカッコ悪いけど、仕方ないか」
以前のあたしなら不確実な要素があっても突き進むしかなかった。そのせいで仲間を失ったこともある。でも今は違う。あたしには、頼れる存在が居る。
「待たせたわね」
ドアの向こうに向かって言う。
あたしは顔を見せた部下に指示を出し、手紙を送らせた。
これでイロハが来てくれるはず。
しかし、早くとも十日は先になるだろう。
それまでにできることをする。
だって、今ここでリリエラ・バーグを失うわけにはいかないんだから。
「……いきなり勝負どころね」
あたしは少数の精鋭部下を連れ、海を渡った。
行き先はムッチッチ大陸。
グレン兄さんが使っていた拠点。
指定された場所に拠点は無かった。
その代わり、あたし達を出迎えたのは廃墟だった。
「……まさか、敵が?」
誰かが呟いた。その一言で部隊の緊張感が高まる。今自分達の居る場所が敵地なのだと本当の意味で理解したのは、きっとこの瞬間だった。
あたしは周囲を観察して、魔力伝導体を見つけた。
あれは恐らく旧式だが、魔力を満タンまで補充すれば、一年は形を保つ。兄さんが戻ってから半年も経過しておらず、仮に敵が無人の拠点を襲ったなら貴重な魔力伝導体を放置する理由も分からない。つまり、この拠点はずっと前に放棄された場所だ。
あえてそんな場所を指定するわけがない。
だからこれは、兄さんからのメッセージだ。
ムッチッチ大陸に安全な場所は無い。
まずは、それを作るところから始めろ。
(兄さん! あたし、頑張るからね!)
あたしには使命がある。
それはイロハのお母さんを探すこと。
バーグ家は何かを知っている。
それを知らない限り、あたし達はイロハと同じ視点に立てない。
不安はゼロじゃない。
だけど、今は確かな自信がある。
イロハと共に三ヵ月も修行した。
今のあたしは、赤の楽園の代表だった頃とは違う。
赤のスカーレット。
グレイ・キャンバスの最高戦力。
(やるわよ。初仕事!)
気合は十分。
あたしは、早速部下に指示を出した。
* * *
一ヵ月後、安全な拠点が完成した。
王都から離れた場所にあり、魔力探知はもちろん、肉眼で見つけることも難しい。
「……まずいことになったわね」
あたしは部下からの報告を聞き、頭を抱えた。
「事態は一刻を争います。ご判断を」
「ごめんなさい。五分だけ一人にして」
部下は静かに頷き、部屋を出た。
スカーレットは少し間を開けてから長い溜息を吐き出す。
「イロハのお母さん、リリエラ・バーグの所在が分かった。これは良い知らせよ」
ムッチッチ大陸に到達し、拠点を探すと同時に諜報活動を行っていた。そして拠点を確保した直後に目的の人物を発見した。この点だけ捉えれば、大成功だ。
だが、彼女を早期に発見できたのは、スカーレットの部隊の諜報能力が優れていたからではない。
「……公開処刑、ですって?」
スカーレットは歯を食い縛る。
彼女の救出は困難だ。最悪、王国との大規模な戦闘に発展する。
見殺しにする選択肢は無い。
このため考えるべきは、最悪のパターン。
「……あたしの部隊だけで、勝てるの?」
スカーレットは思考する。
「……分からない」
まだ本格的な諜報活動を始めてから一ヵ月も経過していない。グレイ・キャンバスは王国に対して無知だ。故に、答えなど出るわけがなかった。
「いきなりでカッコ悪いけど、仕方ないか」
以前のあたしなら不確実な要素があっても突き進むしかなかった。そのせいで仲間を失ったこともある。でも今は違う。あたしには、頼れる存在が居る。
「待たせたわね」
ドアの向こうに向かって言う。
あたしは顔を見せた部下に指示を出し、手紙を送らせた。
これでイロハが来てくれるはず。
しかし、早くとも十日は先になるだろう。
それまでにできることをする。
だって、今ここでリリエラ・バーグを失うわけにはいかないんだから。
「……いきなり勝負どころね」
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