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2-1.ウチ、再び王国の土を踏む
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楽園に亡命してから早くも半年が経った。
ウチが苦し紛れに名付けた「グレイ・キャンバス」という名前は怖いくらいにウケが良かったようで、楽園は「グレイ・キャンバス」と呼ばれるようになった。
恥ずかしい。と思ったのは最初の十日間だけ。
皆が当たり前のように「グレイ・キャンバス」と連呼するから、慣れちゃった。
ウチは頭の中で灰色画布と変換している。
なんか、漢字が並んでるのってかっこいいよね。
さて、この半年で色々なことがあった。
ウチにとって一番大きいのは、お引越しかな?
ノエル曰く、ここは敵に知られている。
要するに、ちょっと壁を出ただけで襲われるような治安の悪い場所には居られないということだ。楽園の人達も同意見みたいで、直ぐに移住先を探し始めた。
見つかったのは、どこかの島。
軽い調査をした後、良さげな場所をスカーレットが平らにして、ライムさんが一夜で豪華な家を作った。家というか、屋敷というか、お城かな? とりあえず、沢山の人が住めそうな建物だ。素材は魔力伝導体、あれは革新的だね。
その後、自給自足する為の農地を作った。
ウチは仕事を探していたので、張り切って手伝った。
でも不思議なことに、ウチが手伝うと、一週間くらいで謎の自動化システムが完成して、ウチの仕事が無くなってしまう。
働かざる者、喰うべからず。
なんかノエルが色々とくれるから、それに甘えたくなっちゃうけど、やっぱり皆が忙しく働いている中、自分だけ何もしないのは気が引ける。
そんなこんなで忙しい日々が過ぎ──
「……暇だ」
お城の最上階にある部屋。
ウチは無駄に豪華なベッドに座って、窓の外を見ながら呟いた。
うーむ、平和なのは良いことだ。
ウチは今の生を得た瞬間からこれを望んでいた。
いざ手に入ると悩んでしまう。
ウチは、そもそも何がしたいんだっけ。
やりたいことを全部やる。
これは絶対。大事な指針だ。
やりたいこと。
……それは、なに?
──壊せ。
「……またか」
──奪え。
「最近、あの夢を見る頻度が増えてるんだよなぁ」
──とても気持ちが良いぞ。
「うっさい」
頭の中の声にペッと気持ち的な唾を吐く。
それから腕を組み、ああでもないこうでもないと考えている時だった。
「イロハ様、ご報告がありますわ」
ノエルが背後に現れた。
この子はどうして気配を消すんだろうね。もう慣れたけど。
「どうした?」
ウチは背中越しに言った。
楽園──今は灰色画布か。この治安の悪い世界において強い人は貴重らしい。もう認める。ウチはとても強い。だから皆にヨイショされて、リーダー的なポジションになった。ウチは空気を読み、なるべく偉そうな口調と態度を心掛けている。素の反応を見せるとビックリされちゃうからね……。
もちろんノエルとか一部の人は平気。
でも、なんだろね。なんかクセになってきたよ。この態度。
「まずは各案件の進捗について……」
ノエルは相変わらず陰謀論にハマっている。
絶妙なのは、架空の設定にウチも知ってる真実を交ぜることだ。
「──魔導国についてはアクアを中心とした青色部隊が潜入調査を続けております。まだ大きな進展は得られておらず、年単位の時間を要すると思われますわ」
「……そうか」
アクアちゃんは旅行が好き。今の住居が安定した後は、あちこち飛び回っている。今回は特に長いようで、一年くらい帰らないそうだ。寂しい。
でも、楽しみでもある。
旅行から帰ったアクアちゃんは色々な話をしてくれる。
それに、ウチが生命の真理について話すと喜ぶんだよね。
次はどんな話ができるのかな。まだ先だけど、今から楽しみだよ。
「続いて、王国に関する報告ですわ」
「……ふむ」
王国とは、ムッチッチ王国のこと。
あの大陸は魔族を奴隷のように扱っている。
ウチも何度か本で読んだことがあるけど、黒髪というだけで差別されるみたいだ。なんだか他人事みたいな言い方になったけど、多分、ウチもその被害を受けていた。
幼い頃、ノエルと会った後。
ウチは彼女以外の子供とも会話する機会があった。
でも一度も仲良くなれなかった。
それどころか、ちょっと怖がられていたような気がする。
その理由が、多分、この黒髪だ。
なーんか、嫌な感じだよね。ただ髪が黒いだけなのにさ。
ノエルは「同胞を救い出す」と言って、不当な扱いを受けている黒髪の子達を保護する活動を始めたようだ。素直に尊敬する。難しいと思うけど、頑張って欲しい。
「スカーレットより、救援要請が届きました」
「……む?」
ノエルに意識を戻す。
救援要請? なにそれ、ヤバい感じ?
「とても心苦しいのですが、彼女が助けを求めたとなれば、イロハ様に出向いて頂く他ありません」
ノエルは書類を持つ手を震わせ、深刻そうな様子で言った。
「分かった。行こう」
「よろしいのですか?」
「……ああ、丁度やることが無かった」
「ふふ、そのようなウソまで吐いて……相変わらず、お優しいのですわね」
本当に暇だったんだけども。
まあ、いつものことだ。ノエルの設定に付き合うよ。
スカーレットちゃん、どうしたのかな。
本当に危ないことになってたら……その時は、がんばろう。
「行くぞ」
「はゎぁ~! 迅速果断な対応、この事態の行く末が既に見えているかのような凛々しい瞳! 素敵ですイロハ様!」
盛り上げ上手だなぁ。
なんてことを思いながら、ウチは船に乗る。
そして半年振りにムッチッチ大陸の土を踏んだ。
ふと思い出す。
母上さま、元気かな?
ウチが苦し紛れに名付けた「グレイ・キャンバス」という名前は怖いくらいにウケが良かったようで、楽園は「グレイ・キャンバス」と呼ばれるようになった。
恥ずかしい。と思ったのは最初の十日間だけ。
皆が当たり前のように「グレイ・キャンバス」と連呼するから、慣れちゃった。
ウチは頭の中で灰色画布と変換している。
なんか、漢字が並んでるのってかっこいいよね。
さて、この半年で色々なことがあった。
ウチにとって一番大きいのは、お引越しかな?
ノエル曰く、ここは敵に知られている。
要するに、ちょっと壁を出ただけで襲われるような治安の悪い場所には居られないということだ。楽園の人達も同意見みたいで、直ぐに移住先を探し始めた。
見つかったのは、どこかの島。
軽い調査をした後、良さげな場所をスカーレットが平らにして、ライムさんが一夜で豪華な家を作った。家というか、屋敷というか、お城かな? とりあえず、沢山の人が住めそうな建物だ。素材は魔力伝導体、あれは革新的だね。
その後、自給自足する為の農地を作った。
ウチは仕事を探していたので、張り切って手伝った。
でも不思議なことに、ウチが手伝うと、一週間くらいで謎の自動化システムが完成して、ウチの仕事が無くなってしまう。
働かざる者、喰うべからず。
なんかノエルが色々とくれるから、それに甘えたくなっちゃうけど、やっぱり皆が忙しく働いている中、自分だけ何もしないのは気が引ける。
そんなこんなで忙しい日々が過ぎ──
「……暇だ」
お城の最上階にある部屋。
ウチは無駄に豪華なベッドに座って、窓の外を見ながら呟いた。
うーむ、平和なのは良いことだ。
ウチは今の生を得た瞬間からこれを望んでいた。
いざ手に入ると悩んでしまう。
ウチは、そもそも何がしたいんだっけ。
やりたいことを全部やる。
これは絶対。大事な指針だ。
やりたいこと。
……それは、なに?
──壊せ。
「……またか」
──奪え。
「最近、あの夢を見る頻度が増えてるんだよなぁ」
──とても気持ちが良いぞ。
「うっさい」
頭の中の声にペッと気持ち的な唾を吐く。
それから腕を組み、ああでもないこうでもないと考えている時だった。
「イロハ様、ご報告がありますわ」
ノエルが背後に現れた。
この子はどうして気配を消すんだろうね。もう慣れたけど。
「どうした?」
ウチは背中越しに言った。
楽園──今は灰色画布か。この治安の悪い世界において強い人は貴重らしい。もう認める。ウチはとても強い。だから皆にヨイショされて、リーダー的なポジションになった。ウチは空気を読み、なるべく偉そうな口調と態度を心掛けている。素の反応を見せるとビックリされちゃうからね……。
もちろんノエルとか一部の人は平気。
でも、なんだろね。なんかクセになってきたよ。この態度。
「まずは各案件の進捗について……」
ノエルは相変わらず陰謀論にハマっている。
絶妙なのは、架空の設定にウチも知ってる真実を交ぜることだ。
「──魔導国についてはアクアを中心とした青色部隊が潜入調査を続けております。まだ大きな進展は得られておらず、年単位の時間を要すると思われますわ」
「……そうか」
アクアちゃんは旅行が好き。今の住居が安定した後は、あちこち飛び回っている。今回は特に長いようで、一年くらい帰らないそうだ。寂しい。
でも、楽しみでもある。
旅行から帰ったアクアちゃんは色々な話をしてくれる。
それに、ウチが生命の真理について話すと喜ぶんだよね。
次はどんな話ができるのかな。まだ先だけど、今から楽しみだよ。
「続いて、王国に関する報告ですわ」
「……ふむ」
王国とは、ムッチッチ王国のこと。
あの大陸は魔族を奴隷のように扱っている。
ウチも何度か本で読んだことがあるけど、黒髪というだけで差別されるみたいだ。なんだか他人事みたいな言い方になったけど、多分、ウチもその被害を受けていた。
幼い頃、ノエルと会った後。
ウチは彼女以外の子供とも会話する機会があった。
でも一度も仲良くなれなかった。
それどころか、ちょっと怖がられていたような気がする。
その理由が、多分、この黒髪だ。
なーんか、嫌な感じだよね。ただ髪が黒いだけなのにさ。
ノエルは「同胞を救い出す」と言って、不当な扱いを受けている黒髪の子達を保護する活動を始めたようだ。素直に尊敬する。難しいと思うけど、頑張って欲しい。
「スカーレットより、救援要請が届きました」
「……む?」
ノエルに意識を戻す。
救援要請? なにそれ、ヤバい感じ?
「とても心苦しいのですが、彼女が助けを求めたとなれば、イロハ様に出向いて頂く他ありません」
ノエルは書類を持つ手を震わせ、深刻そうな様子で言った。
「分かった。行こう」
「よろしいのですか?」
「……ああ、丁度やることが無かった」
「ふふ、そのようなウソまで吐いて……相変わらず、お優しいのですわね」
本当に暇だったんだけども。
まあ、いつものことだ。ノエルの設定に付き合うよ。
スカーレットちゃん、どうしたのかな。
本当に危ないことになってたら……その時は、がんばろう。
「行くぞ」
「はゎぁ~! 迅速果断な対応、この事態の行く末が既に見えているかのような凛々しい瞳! 素敵ですイロハ様!」
盛り上げ上手だなぁ。
なんてことを思いながら、ウチは船に乗る。
そして半年振りにムッチッチ大陸の土を踏んだ。
ふと思い出す。
母上さま、元気かな?
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