20 / 44
20.緑の魔族
しおりを挟む
緑の楽園は、主に研究開発を担っている。
例えば、三色の楽園を囲み、「敵」の探知から隠す防壁を生み出した。他にも独自の技術で魔力伝導体を量産するなど、その貢献度は計り知れない。
狩猟や農業、そして戦闘を担う赤。
美容と健康、そして安らぎをもたらす青。
ひたすらに真理を探究し、その研究によって利をもたらす緑。
それぞれが協力することで、彼女達の楽園は今日も進化を続けている。
──ここは緑の楽園の地下にある研究室。
ビンに入った怪しい液体が並べられ管と繋がっている。液体は管を通してスライムのような物質へと注がれ、その度にランダムな色の光が発生している。
それを間近で観察し、実験ノートにメモを記している者が居た。
薄緑色のショートヘアと深紅の瞳を持ち、自分の背丈より大きな白衣を着た女性。彼女の名はライム。緑の楽園の代表である。
現在、彼女は実験をしながら部下の報告を聞いていた。
しばらくは部下に目を向ける様子も無かったが、とある報告を聞き、手を止めた。
「それほんと? スカーレットとアクア負けたの?」
「はっ、確かな情報であります!」
眠そうな喋り方だが、その頭は誰よりも冴えている。
彼女は見知った二人を打ち負かした相手について考え始めた。
(スカーレットよりも強い)
彼女にはスカーレットの負ける姿が想像できない。
赤の代表が有する戦闘能力は、それくらい圧倒的だった。
(アクアを屈服させられる)
彼女にはアクアが負けを認める姿をイメージできない。
青の代表はプライドが高く、あのスカーレットに対しても常に上から目線だった。
「詳細」
「はっ、まずはスカーレット様について説明いたします」
報告をしているのは白衣を着た女性。
彼女は手元の資料を捲り、自分の認識と事実を確かめながら説明を始めた。
「対象の名前はイーロン。男性です。スカーレット様は彼に決闘を挑みました。彼はスカーレット様の攻撃を全て回避し、やがて圧倒的な魔力を放出すると、それを見て呆然とするスカーレット様を地面に叩き付け、ギャン泣きさせたそうであります!」
「え、こわ」
ライムはドン引きした。
部下は何度も頷くことで彼女に同意して、説明を続ける。
「アクア様は、『今宵、このアクア様が楽園の支配者になるわ!』と広く喧伝していたようですが、何故かイーロンを個室へ連れ込み接待を始めたようであります!」
「あー」
ライムは悟った。
アクアは弱者には高飛車な態度を示すけど、強者には全力で媚びる。恐らく、自慢の青魔法を使って勝負を仕掛けた後、あっさり返り討ちにあったのだろう。
(……戦闘能力はスカーレット以上。青魔法はアクア以上)
ライムは思う。
やばいの来ちゃった。
「それから、アクア様はイーロンと共に入浴したようです。側近の者によると、露天風呂から戻ったアクア様は、おちんちん怖い、と呟き続けていたそうであります!」
「えぇ……それ、そういうこと?」
「分かりません。側近の者……コメットは脳に深刻なダメージを負った様子でした。まともな会話が成立せず、今の情報を聞き出すだけでも一時間ほど要しました」
「やばぁ……」
ライムは震える手で頭を抱えた。
その深紅の瞳には、じわりと涙が浮かんでいる。
「明日、こちらに来ると思われます」
「拒否する」
「……はい?」
「ライムさんは体調不良。お会いできません」
「……よろしいのでありますか?」
「よろしい」
「承知いたしました!」
部下は元気な返事をして研究室を去った。
ライムは床に落とした実験ノートを拾うと、それを震える両手で抱き締める。
「絶対やだ。会いたくない」
無理無理、むーり。
戦闘は専門外。野蛮な人はお断り。
「念の為、第二研究室に移動しようかな」
ライムは全力で逃げることにした。
そして久々に地上へ出て移動する途中――敵に連れ去られた。
例えば、三色の楽園を囲み、「敵」の探知から隠す防壁を生み出した。他にも独自の技術で魔力伝導体を量産するなど、その貢献度は計り知れない。
狩猟や農業、そして戦闘を担う赤。
美容と健康、そして安らぎをもたらす青。
ひたすらに真理を探究し、その研究によって利をもたらす緑。
それぞれが協力することで、彼女達の楽園は今日も進化を続けている。
──ここは緑の楽園の地下にある研究室。
ビンに入った怪しい液体が並べられ管と繋がっている。液体は管を通してスライムのような物質へと注がれ、その度にランダムな色の光が発生している。
それを間近で観察し、実験ノートにメモを記している者が居た。
薄緑色のショートヘアと深紅の瞳を持ち、自分の背丈より大きな白衣を着た女性。彼女の名はライム。緑の楽園の代表である。
現在、彼女は実験をしながら部下の報告を聞いていた。
しばらくは部下に目を向ける様子も無かったが、とある報告を聞き、手を止めた。
「それほんと? スカーレットとアクア負けたの?」
「はっ、確かな情報であります!」
眠そうな喋り方だが、その頭は誰よりも冴えている。
彼女は見知った二人を打ち負かした相手について考え始めた。
(スカーレットよりも強い)
彼女にはスカーレットの負ける姿が想像できない。
赤の代表が有する戦闘能力は、それくらい圧倒的だった。
(アクアを屈服させられる)
彼女にはアクアが負けを認める姿をイメージできない。
青の代表はプライドが高く、あのスカーレットに対しても常に上から目線だった。
「詳細」
「はっ、まずはスカーレット様について説明いたします」
報告をしているのは白衣を着た女性。
彼女は手元の資料を捲り、自分の認識と事実を確かめながら説明を始めた。
「対象の名前はイーロン。男性です。スカーレット様は彼に決闘を挑みました。彼はスカーレット様の攻撃を全て回避し、やがて圧倒的な魔力を放出すると、それを見て呆然とするスカーレット様を地面に叩き付け、ギャン泣きさせたそうであります!」
「え、こわ」
ライムはドン引きした。
部下は何度も頷くことで彼女に同意して、説明を続ける。
「アクア様は、『今宵、このアクア様が楽園の支配者になるわ!』と広く喧伝していたようですが、何故かイーロンを個室へ連れ込み接待を始めたようであります!」
「あー」
ライムは悟った。
アクアは弱者には高飛車な態度を示すけど、強者には全力で媚びる。恐らく、自慢の青魔法を使って勝負を仕掛けた後、あっさり返り討ちにあったのだろう。
(……戦闘能力はスカーレット以上。青魔法はアクア以上)
ライムは思う。
やばいの来ちゃった。
「それから、アクア様はイーロンと共に入浴したようです。側近の者によると、露天風呂から戻ったアクア様は、おちんちん怖い、と呟き続けていたそうであります!」
「えぇ……それ、そういうこと?」
「分かりません。側近の者……コメットは脳に深刻なダメージを負った様子でした。まともな会話が成立せず、今の情報を聞き出すだけでも一時間ほど要しました」
「やばぁ……」
ライムは震える手で頭を抱えた。
その深紅の瞳には、じわりと涙が浮かんでいる。
「明日、こちらに来ると思われます」
「拒否する」
「……はい?」
「ライムさんは体調不良。お会いできません」
「……よろしいのでありますか?」
「よろしい」
「承知いたしました!」
部下は元気な返事をして研究室を去った。
ライムは床に落とした実験ノートを拾うと、それを震える両手で抱き締める。
「絶対やだ。会いたくない」
無理無理、むーり。
戦闘は専門外。野蛮な人はお断り。
「念の為、第二研究室に移動しようかな」
ライムは全力で逃げることにした。
そして久々に地上へ出て移動する途中――敵に連れ去られた。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス
優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました
お父さんは村の村長みたいな立場みたい
お母さんは病弱で家から出れないほど
二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます
ーーーーー
この作品は大変楽しく書けていましたが
49話で終わりとすることにいたしました
完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい
そんな欲求に屈してしまいましたすみません
皇女殿下は婚約破棄をお望みです!
ひよこ1号
ファンタジー
突然の王子からの破棄!と見せかけて、全て皇女様の掌の上でございます。
怒涛の婚約破棄&ざまぁの前に始まる、皇女殿下の回想の物語。
家族に溺愛され、努力も怠らない皇女の、ほのぼの有、涙有りの冒険?譚
生真面目な侍女の公爵令嬢、異世界転生した双子の伯爵令嬢など、脇役も愛してもらえたら嬉しいです。
※長編が終わったら書き始める予定です(すみません)
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる