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Side:次期国王の野望
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フラーゼ王国の地下。
そこには巨大な実験場がある。
存在を知っているのは、労働力として買われた奴隷と、一部の王族のみ。
この実験場を作ったのは、第一王子にして次期国王であるデューク。
彼の容姿は弟のエドワードと似ている。
しかし弟と違って特徴的なのは、見る者を射殺すような鋭い瞳と、その色である。
黒龍の加護。
遥か昔に人類を滅ぼしかけた存在の加護を持って生まれた彼の瞳は、血のような赤黒い色をしている。
この瞳の色は、本来ならば醜いと評されるものである。しかしデュークに対して不満を述べる者は存在しない。
単純に、美よりも力が優先されるからだ。
国外追放されたクドは、確かに容姿が原因で虐げられていた。しかし一番の理由は彼が弱かったからである。
──カツン、と来客を知らせる足音がした。
「エドワードか」
デュークは振り返らずに言った。
「君は本当に研究熱心だね」
エドワードはやれやれと首を左右に振り、彼の隣に並ぶ。そして問いかけた。
「新大陸なんて、本当にあると思うかい?」
「ああ、確信している」
フラーゼ王国が知る世界の地図は次の通りである。
形状は長方形。中央にセントラルと呼ばれる大陸があり、それを囲むようにして海がある。そして海の外側には、セントラルを中心とした輪を描くような陸地がある。
これが世界の全てだとされている。
しかし、デュークは別の解釈をした。
セントラルはフラーゼから見て東側にあるのだが、フラーゼの西側にもまた海がある。
西側の海の先を知る者は存在しない。
奥へ進むほどに海流が激しくなり、凶悪な魔物が現れるようになるからだ。
故に、ぽっかりと穴が開いたような空間が地図にある。デュークは、そこに未だ誰も知らぬ大陸があると考えた。彼の研究は、その大陸へ行くためのものである。
目的は領土の拡大。
領土を得る手段は、圧倒的な力。
仮に先住民が存在した場合にも手段が変わることは無い。歴史書には「魔物の巣窟を浄化し、人の領土とした」という一文だけが記される。
「こんなものが、本当に飛ぶのかい?」
「飛ぶ」
デュークは弟の質問に短く答えた。
彼が研究しているのは飛行手段。
危険な海を避け、空から新大陸へ辿り着こうとしている。
飛行は人類の悲願とされているが、数千年の歴史を経ても実現されていない。これを成し遂げるだけでも、その偉業は後世に語り継がれるだろう。
しかしデュークの目的は違う。
飛行手段の確立は、過程に過ぎない。
「エドワード。そろそろ本題に入れ」
「おっと流石は兄上殿。お気づきでしたか」
エドワードは飄々とした態度で言う。
「後処理の件です。クドが担っていた仕事を奴隷にやらせようとしているのですが、彼が何をしていたのか誰も知らないのです」
デュークは溜息を吐いた。
「妹達と共に書庫へ行け。ちょうど良い機会だ。この国の歴史を学ぶと良い」
「……胃が痛い指示ですね」
「見ての通り研究で忙しい。些事は任せた」
「一応は王族の責務として伝わっていた仕事です。兄上殿、何か心当たりは?」
「知らん。あの無能に務まる仕事だ。どうせくだらん伝統の類だろう」
「……まぁ、その可能性もありますね」
エドワードは諦めたような息を吐き、何も言わずに研究室から出た。
残されたデュークは、非常に高度な図面を見ながら、研究を終わらせるための思考を始める。
──クドが担っていた最も重要な仕事は、結界の維持である。
フラーゼ王国は精霊と契約した初代国王によって建国された。この時、彼は自らの血を媒介として魔物から国を守る結界を作った。
これを維持するには、彼の血を受け継いだ者による定期的な供給が必要となる。
これをデュークは知っていた。
しかしあえてエドワードに伝えなかった。
理由は、どのような魔物が現れても問題にならないと考えていたからである。むしろ、研究を加速させるため、巨大な魔石を持った魔物を呼び寄せようとしている。
要するに、計画通りなのだ。
だが彼は気が付いていない。
その計画には、大きな誤算がある。
単純に彼は、未知の世界に対する脅威を低く見積り過ぎているのだった。
これより数ヶ月後、フラーゼ王国に強大な魔物が押し寄せることとなる。
これは王族の力によって討伐され、飛行手段の研究が加速する。
そしてデュークは自らの力を過信したまま迷宮都市へ向かうことになるのだが……それはまだ、しばらく先の出来事である。
ーーーーー
以上、ここまでが第二章です。
たくさんのお気に入り登録、ありがとうございます。
公式アプリから「エール」などして頂けると、執筆の励みになります。今後ともよろしくお願いします
そこには巨大な実験場がある。
存在を知っているのは、労働力として買われた奴隷と、一部の王族のみ。
この実験場を作ったのは、第一王子にして次期国王であるデューク。
彼の容姿は弟のエドワードと似ている。
しかし弟と違って特徴的なのは、見る者を射殺すような鋭い瞳と、その色である。
黒龍の加護。
遥か昔に人類を滅ぼしかけた存在の加護を持って生まれた彼の瞳は、血のような赤黒い色をしている。
この瞳の色は、本来ならば醜いと評されるものである。しかしデュークに対して不満を述べる者は存在しない。
単純に、美よりも力が優先されるからだ。
国外追放されたクドは、確かに容姿が原因で虐げられていた。しかし一番の理由は彼が弱かったからである。
──カツン、と来客を知らせる足音がした。
「エドワードか」
デュークは振り返らずに言った。
「君は本当に研究熱心だね」
エドワードはやれやれと首を左右に振り、彼の隣に並ぶ。そして問いかけた。
「新大陸なんて、本当にあると思うかい?」
「ああ、確信している」
フラーゼ王国が知る世界の地図は次の通りである。
形状は長方形。中央にセントラルと呼ばれる大陸があり、それを囲むようにして海がある。そして海の外側には、セントラルを中心とした輪を描くような陸地がある。
これが世界の全てだとされている。
しかし、デュークは別の解釈をした。
セントラルはフラーゼから見て東側にあるのだが、フラーゼの西側にもまた海がある。
西側の海の先を知る者は存在しない。
奥へ進むほどに海流が激しくなり、凶悪な魔物が現れるようになるからだ。
故に、ぽっかりと穴が開いたような空間が地図にある。デュークは、そこに未だ誰も知らぬ大陸があると考えた。彼の研究は、その大陸へ行くためのものである。
目的は領土の拡大。
領土を得る手段は、圧倒的な力。
仮に先住民が存在した場合にも手段が変わることは無い。歴史書には「魔物の巣窟を浄化し、人の領土とした」という一文だけが記される。
「こんなものが、本当に飛ぶのかい?」
「飛ぶ」
デュークは弟の質問に短く答えた。
彼が研究しているのは飛行手段。
危険な海を避け、空から新大陸へ辿り着こうとしている。
飛行は人類の悲願とされているが、数千年の歴史を経ても実現されていない。これを成し遂げるだけでも、その偉業は後世に語り継がれるだろう。
しかしデュークの目的は違う。
飛行手段の確立は、過程に過ぎない。
「エドワード。そろそろ本題に入れ」
「おっと流石は兄上殿。お気づきでしたか」
エドワードは飄々とした態度で言う。
「後処理の件です。クドが担っていた仕事を奴隷にやらせようとしているのですが、彼が何をしていたのか誰も知らないのです」
デュークは溜息を吐いた。
「妹達と共に書庫へ行け。ちょうど良い機会だ。この国の歴史を学ぶと良い」
「……胃が痛い指示ですね」
「見ての通り研究で忙しい。些事は任せた」
「一応は王族の責務として伝わっていた仕事です。兄上殿、何か心当たりは?」
「知らん。あの無能に務まる仕事だ。どうせくだらん伝統の類だろう」
「……まぁ、その可能性もありますね」
エドワードは諦めたような息を吐き、何も言わずに研究室から出た。
残されたデュークは、非常に高度な図面を見ながら、研究を終わらせるための思考を始める。
──クドが担っていた最も重要な仕事は、結界の維持である。
フラーゼ王国は精霊と契約した初代国王によって建国された。この時、彼は自らの血を媒介として魔物から国を守る結界を作った。
これを維持するには、彼の血を受け継いだ者による定期的な供給が必要となる。
これをデュークは知っていた。
しかしあえてエドワードに伝えなかった。
理由は、どのような魔物が現れても問題にならないと考えていたからである。むしろ、研究を加速させるため、巨大な魔石を持った魔物を呼び寄せようとしている。
要するに、計画通りなのだ。
だが彼は気が付いていない。
その計画には、大きな誤算がある。
単純に彼は、未知の世界に対する脅威を低く見積り過ぎているのだった。
これより数ヶ月後、フラーゼ王国に強大な魔物が押し寄せることとなる。
これは王族の力によって討伐され、飛行手段の研究が加速する。
そしてデュークは自らの力を過信したまま迷宮都市へ向かうことになるのだが……それはまだ、しばらく先の出来事である。
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