20 / 38
2-11. レイアの問い
しおりを挟む
フィーネから上層の説明を受けた後、私達は迷宮へ向かった。
場所はルームB2。
ここではツギハギが2体同時に現れる。
目的はスキルに慣れること。
また少しでも早く10万マリを稼ぐこと。
(……レイアのために)
スキルの発動条件は彼女のために行動すること。最初は非常に強い感情が必要なのかと危惧したが、思ったよりも簡単に発動した。
その結果、私は壁に埋まった。
もちろん言葉通りの意味ではない。
「……これは、難儀だな」
「ええ、そうね」
隣で同じ状態になったレイアが言った。
私は壁から身体を出して、彼女に問う。
「平気か?」
「ご主人さまこそ」
「不思議と全く痛みがない」
「私も同じよ」
──初めてのスキル。
それは想像を絶する力を私に与えた。
数秒前のこと。
ルームに入ると二体のツギハギが同時に現れた。色は共に青。私は向かって右側をレイアに任せ、左側のツギハギに短刀を向けた。
距離は10メドル程度。
普段ならば十歩は走る必要がある。
私は軽く息を吸ってから地面を蹴った。
距離が半分になった。その事実を認識したのと、二歩目を踏み出したのは同時だった。
私の身体はツギハギを貫通して、そのまま壁に激突したのだった。
(……信じられない)
ただの体当たりで、ツギハギは灰と魔石に変わった。私は今スキルによって人生が左右される理由を痛感している。
このスキルは、どの程度なのだろうか。
身体能力だけで動いていた頃と比較すれば化け物じみた動きだが、兄上さま達はこんなものではなかった。
(……まずは、慣れよう)
それからも戦闘を続け、迷宮を出る頃にはどうにか壁に衝突しないようになっていた。
* * *
魔石の換金と食事を済ませた後、昨日までと同じ宿に向かった。またしても同じ部屋に入った後、レイアが言った。
「シャワーを浴びましょう」
「そうだな。今日も先に使うと良い」
「一緒に使いましょう」
この時、私には星空が見えた。
一緒に……? 彼女は、何を言っている?
「あら? スキルの効果、もう忘れたの?」
覚えている。
彼女の保有していた全能力向上【極小】は全力献身に変化した。
その効果は全能力向上。発動条件は、大切な相手のために行動すること。そして、
「思いの丈により効果増大」
レイアが言った。
「つまり私はご主人さまを好きになるほど強くなるのよ」
「……確かに。そういう解釈も、あるな」
「だったらもっと私を夢中にさせるべきじゃないかしら」
なるほど、筋は通っている気がする。
「なぜ、共にシャワーを浴びることになる?」
「ご主人さまのスキルは裸で一緒に寝たことによって発動したわよね」
「その可能性は、確かに否定できない」
「だからシャワーなのよ」
レイアの表情は真剣そのもの。
しかし彼女の言葉を鵜呑みにするなら、信頼とは「裸で肌を重ねること」となる。
なるほど道理で一度も発動しなかったわけだ。いや、納得してたまるものか。
「ご主人さまに全てを捧げるわ」
私が未知の感情と戦っていると、レイアがさらに一歩だけ近付いて言った。
息を吐けば当たるような距離。
私を映す宝石のような蒼い瞳が、微かに揺れている。
その目を見て理解した。
恐らく直前までの会話は冗談で、ただの前振りだったのだろう。
「だから全部、私に教えて」
顔を逸らすことはできなかった。
彼女は心の奥底まで除き見るような目をして、私に問う。
「ご主人さまは、誰に復讐するの?」
場所はルームB2。
ここではツギハギが2体同時に現れる。
目的はスキルに慣れること。
また少しでも早く10万マリを稼ぐこと。
(……レイアのために)
スキルの発動条件は彼女のために行動すること。最初は非常に強い感情が必要なのかと危惧したが、思ったよりも簡単に発動した。
その結果、私は壁に埋まった。
もちろん言葉通りの意味ではない。
「……これは、難儀だな」
「ええ、そうね」
隣で同じ状態になったレイアが言った。
私は壁から身体を出して、彼女に問う。
「平気か?」
「ご主人さまこそ」
「不思議と全く痛みがない」
「私も同じよ」
──初めてのスキル。
それは想像を絶する力を私に与えた。
数秒前のこと。
ルームに入ると二体のツギハギが同時に現れた。色は共に青。私は向かって右側をレイアに任せ、左側のツギハギに短刀を向けた。
距離は10メドル程度。
普段ならば十歩は走る必要がある。
私は軽く息を吸ってから地面を蹴った。
距離が半分になった。その事実を認識したのと、二歩目を踏み出したのは同時だった。
私の身体はツギハギを貫通して、そのまま壁に激突したのだった。
(……信じられない)
ただの体当たりで、ツギハギは灰と魔石に変わった。私は今スキルによって人生が左右される理由を痛感している。
このスキルは、どの程度なのだろうか。
身体能力だけで動いていた頃と比較すれば化け物じみた動きだが、兄上さま達はこんなものではなかった。
(……まずは、慣れよう)
それからも戦闘を続け、迷宮を出る頃にはどうにか壁に衝突しないようになっていた。
* * *
魔石の換金と食事を済ませた後、昨日までと同じ宿に向かった。またしても同じ部屋に入った後、レイアが言った。
「シャワーを浴びましょう」
「そうだな。今日も先に使うと良い」
「一緒に使いましょう」
この時、私には星空が見えた。
一緒に……? 彼女は、何を言っている?
「あら? スキルの効果、もう忘れたの?」
覚えている。
彼女の保有していた全能力向上【極小】は全力献身に変化した。
その効果は全能力向上。発動条件は、大切な相手のために行動すること。そして、
「思いの丈により効果増大」
レイアが言った。
「つまり私はご主人さまを好きになるほど強くなるのよ」
「……確かに。そういう解釈も、あるな」
「だったらもっと私を夢中にさせるべきじゃないかしら」
なるほど、筋は通っている気がする。
「なぜ、共にシャワーを浴びることになる?」
「ご主人さまのスキルは裸で一緒に寝たことによって発動したわよね」
「その可能性は、確かに否定できない」
「だからシャワーなのよ」
レイアの表情は真剣そのもの。
しかし彼女の言葉を鵜呑みにするなら、信頼とは「裸で肌を重ねること」となる。
なるほど道理で一度も発動しなかったわけだ。いや、納得してたまるものか。
「ご主人さまに全てを捧げるわ」
私が未知の感情と戦っていると、レイアがさらに一歩だけ近付いて言った。
息を吐けば当たるような距離。
私を映す宝石のような蒼い瞳が、微かに揺れている。
その目を見て理解した。
恐らく直前までの会話は冗談で、ただの前振りだったのだろう。
「だから全部、私に教えて」
顔を逸らすことはできなかった。
彼女は心の奥底まで除き見るような目をして、私に問う。
「ご主人さまは、誰に復讐するの?」
1
お気に入りに追加
723
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。
カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。
伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。
深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。
しかし。
お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。
伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。
その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。
一方で。
愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。
死へのタイムリミットまでは、あと72時間。
マモル追放をなげいても、もう遅かった。
マモルは、手にした最強の『力』を使い。
人助けや、死神助けをしながら。
10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。
これは、過去の復讐に燃える男が。
死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。
結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる