黒豚の優雅な復讐 ~「お前は醜い」と追放された王子、美醜逆転世界で虐げられた美少女達と共に幸せを摑む~

下城米雪

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2-2. 迷宮

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 千年以上も前の話。
 突然、天と地を繋ぐ巨大な光が現れた。

 多くの人々は、それを神の御業と考えた。
 しかし光の中から現れたのは神などではなく、人類に害をなす魔物だったそうだ。

 結論だけ言えば、人類は勝利した。
 奪われた土地をひとつひとつ取り戻し、元凶まで辿り着いた。

 そこにあったのは巨大な穴だった。
 当時の人々は穴を塞ぐための国を作った。

 高度な建設技術によって出入口を限定し、戦闘能力の高い者を住まわせることで、穴から魔物が出てこないような仕組みを作り上げた。

 時が流れ、魔物の脅威がほぼ失われた。
 代わりに生まれたのは、穴に対する興味である。

 この穴はどこまで続いているのか。なぜ現れたのか。なぜ魔物を生み続けるのか。その好奇心は人々を冒険に誘い、有益な資源を次々と持ち帰った。

 その資材は莫大な富を生み出した。
 噂はじわじわと広まり、国には世界中から人が集まり続けた。

 こうして迷宮都市ソマリは生まれた。
 もはや国ではない。迷宮と共に生きる冒険者達の溜まり場。それがソマリである。

 ──以上、フィーネから教わった話。 


「……これが、迷宮」

 
 初めて迷宮に立ち入った私は、唖然とすることしかできなかった。

 迷宮は都市の中心部にある。
 巨大な鉄塔が目印であり、出入口の前に立っている鎧を着た職員にカードを見せることで侵入できる。

 出入口は洞穴のような形状で、五メドル程の横幅と二メドル程の縦幅があった。

 その先には地下へ続く石階段があり、薄暗い場所に繋がっていた。

 三十段ほど下りたところで足音が反響するようになった。灯は左右の壁に等間隔で設置された魔石灯だけであり、進む度に外の光が薄れて暗くなる。

 百段ほど下りても先が見えない。
 そのうち、自分が怪物の腹の中へと進んでいるかのような恐怖心が芽生え始めた。

 そのまま五分ほど下り続け、やっと平地に降り立った後で、私は最初の言葉を呟いた。

「不気味なところね」

 レイアが呟くような声で言った。
 
「ああ、十分に注意して探索しよう」

 私も自然と声をひそめた。
 フィーネの説明によると、ここは第一層と呼ばれる場所らしい。古代の冒険者達が初めて目にした階層でもあり、迷宮という名前の由来となっている。

 壁は濡れた土のような色をしており、どこを見ても歪な凹凸がある。天井は高い。剣を大振りしても問題にはならないだろう。

「どっちに進むの?」

「直進する」

 私はレイアの質問に答え、階段を降りた地点から見た三つの分かれ道のうち、正面の道へ進んだ。

 この先に「ルームA1エー・ワン」と呼ばれる場所があり、一定の間隔で魔物が現れるらしい。

 魔物の種類は、五色のツギハギ。
 1メドル程の長い胴を持ち、二本の小さな足で移動する魔物である。その外見が繰り返し修繕された人形のように見えることから、ツギハギと命名された。

 ツギハギは遅い。背後に回れば胸にある魔石をひと突きするだけで倒せるが、色に応じた属性の魔法を使う。

 青と緑は倒せ。
 赤と黄色は注意して倒せ。
 黒を見たら一目散に逃げろ。

 以上が世話役のフィーネから受けた説明。

 私は祖国で魔物の討伐をしていたが、ツギハギという魔物は初めて耳にした。

 ──大丈夫、雑魚ですよ! 黒以外は!

 フィーネは笑顔を見せてくれたが、やはり初見の魔物は怖い。

 コン、コン、と歩く度に音が鳴る。
 私はその音が魔物を引き寄せているように思えて、徐々に口の中が乾くのを感じた。

「レイアも、迷宮は初めてだったか?」

 その緊張を紛らわすため、今日知り合ったばかりの仲間に声をかける。音を気にするなら喋るべきではないが、このまま黙っていたら気がおかしくなりそうだった。

「初めてよ」

 彼女はあっけらかんとした態度で言った。
 
「その割には随分と落ち着いて見える」

「あんたが怯え過ぎなのよ」

 心なしか初めて会話した時よりも距離を感じるが、今はその堂々とした言葉が心強い。

「……ここか」

 しばらく歩いた後、広い空間に出た。
 どうやら行き止まりのようで、ここから先へ続く道は無い。

「何も無いじゃない」

 レイアが呟いた瞬間。
 岩が砕けるような音がした。

 反射的に目を向ける。
 そして私は、初めて迷宮の魔物を見た。
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