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長くなりすぎた初エッチ編
そして僕達の長い一日が終わる
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ふと冷静になり、賢者モードになり、僕は気まずい気分になった。
だって鬼塚君のマンションのお風呂場で、頭を洗っている最中に盛りがついて、そのまま二人でオナニーを始めて、しまいにはダブルお漏らし射精を決めてしまったのだ。
まだ付き合って初日なのに、ついさっき初エッチをしたばかりなのに、仮にそうでなかったとしても、これはちょっと変態過ぎる。
足元は僕のおしっこで水たまりが出来ているし、お風呂場の空気はおしっこと精液の匂いでムンムンしているし。
普通に漏らしただけならば恥ずかしさで狼狽える事も出来ただろう。
恥ずかしさと惨めさで普通に泣いて謝れば良いだけだ。
でもこれは普通のお漏らしじゃない。
鬼塚君に半ば無理やりお漏らしさせられた、お漏らしプレイと言っていい代物だ。
鬼塚君が僕に望み、その結果引き起こされたお漏らしだった。
そういうプレイが好きなのか、単に僕が恥ずかしがっている姿が好きなのか。
どちらなのかは知れないけれど、その結果に鬼塚君は満足し、興奮し、僕の背中に射精した。
僕自身満更でもなく、気持ち良く射精して漏らしてしまった。
そのせいで、どうすればいいのか分からなくなってしまっている。
二人して、裸んぼうのまま無言で立ち尽くしている。
気まずい沈黙に息が詰まりそうになっている。
「……わりぃ。星野があんまり可愛くて、エロすぎて、暴走しちまった……」
鬼塚君も賢者モードになったのだろう。
ついカッとなって暴力でも振るったみたいに、とんでもない過ちをおかしてしまったみたいな顔をして、しょんぼりと肩をすくめている。
まぁ、客観的に考えると好きな相手にお漏らしプレイを強要したのだから凹む気持ちは理解出来る。
ある意味ではいたって普通の反応だと思う。
だから僕はホッとしつつも、鬼塚君がしょんぼりしているのはイヤだと思った。
「謝らないでよ。暴走してたのは僕も同じだし。その……別に嫌じゃなかったし……」
羞恥プレイと言うのだろうか。
鬼塚君に無理やり辱められるのは、イヤではなかった。
全然イヤじゃない。
むしろめちゃくちゃ興奮した。
興奮しすぎて脳みそが焼き切れるかと思った程だ。
毎回はイヤだけど、たまにならまたして欲しい。
そんな期待を遠回しに、変態だと思われない程度にやんわり伝える。
「……そか。イヤじゃなかったんならいいんだけどよ……」
僕の気持ちが伝わったのかは分からない。
鬼塚君は落ち込んだまま、バツが悪そうにしていた。
それからは普通に二人で身体を洗った。
僕としては洗いっこをしてもよかったのだけれど。
事後の余韻を楽しむ感覚で、互いに身体を洗い合いたかったのだけど。
鬼塚君はなんだか僕の身体に触れるのを恐れるような、怖がるような、そんな雰囲気で、ちょっとだけ距離を置いているようだった。
「どうかしたの?」
不安になって尋ねても、鬼塚君は力なく、「なんでもねぇよ」とはぐらかすだけだ。
それで僕はますます不安になった。
「……もしかして、僕の事嫌いになっちゃった?」
鬼塚君の目の前で限界お漏らしをしてしまったのだ。
鬼塚君が望んだ事、求めた事だとしても、実際にそれを目の当たりにしたらなんか違って、僕の事を嫌いになってしまったのかもしれない。
そう思うと、僕は不安で泣きそうになる。
先程のお漏らしが途端にただの無様な失敗に変わってしまい、恥ずかしくて情けなくて後悔する。
そんな僕を見て、鬼塚君は焦ったようだ。
「ちげぇよ! そんなわけねぇだろ! 俺はただ……」
「……ただ、なに?」
その先を僕は知りたい。
ちゃんと言葉にして欲しい。
じゃないと、勝手に不吉なワードを当てはめてしまうから。
「……だから、さっきも言っただろ。暴走して、やり過ぎちまったって……。そう思ってるだけだ」
プイと背中を向け、足元に言葉を落とす。
もっともらしく聞こえたし、同じくらい嘘っぽくも聞こえた。
どちらにせよ、それ以上追求は出来なかった。
そんな空気ではなかった。
しつこい奴だと思われたくなかった。
僕はただ、鬼塚君に嫌われたくなかった。
「……まだ時間あるか」
お風呂場から出ると、思い出したように鬼塚君が聞いてきた。
出来ることならあると答えたかった。
そのままお泊りして、朝まで一緒にいたいくらいだ。
でもダメだ。
「う~ん……。晩御飯の時間だし、そろそろ帰らないとかも……」
「……だよな」
残念そうに言うと、鬼塚君は大きな溜息を吐いた。
鬼塚君を失望させている。
その事が酷く申し訳ない。
「……ごめんね」
「謝んなよ。仕方ねぇだろ」
「そうだけど……」
だとしても、鬼塚君をガッカリさせるのはイヤだった。
どんな理由であっても、僕のせいでなくとも、元気のない姿を見るのは嫌だ。
と、そこで僕は不意に気づく。
「あぁ!? 制服どうしよう!?」
すっかり忘れていたけれど、僕のパンツと制服のズボンはお漏らし射精でドロドロのグチャグチャ、とてもではないが履いて帰れない有様だった。
「あぁ。それなら心配ねぇよ」
先に着替えた鬼塚君がボクサーパンツとTシャツ姿で脱衣所を出ていく。
戻って来た時には、僕の制服一式を抱えていた。
「星野が便所入ってる間に洗っといた」
「あ、ありがとう……」
段取りの良さにキュンとしつつ、僕は受け取った制服に着替える。
洗い立てのパンツとズボンはほんのりと暖かく、僕の恥ずかしいお漏らし射精の痕跡なんかどこにもない。
「ちゃんと乾いてるか?」
「ぅん……。大丈夫そうだけど……」
不意に僕は不安になった。
以前僕が睡眠中に男の子の恥ずかしいお漏らし、いわゆる夢精をしてしまった時、こっそり証拠を隠滅しようとそのまま洗濯機に入れたら、後でお母さんにシミになるから手洗いしてから入れなさい! と怒られた事がある。
どう見ても僕のパンツとズボンには、そのようなシミは確認できない。
「……もしかして鬼塚君、手洗いしてくれたの?」
「当たり前だろ。そのまま入れたらシミになるだろうが」
「ぎゃー!?」
猛烈に恥ずかしくなり、僕は奇声を上げて頭を抱えた。
「うぉ!? なんだよ急に!」
「だ、だってぇ! 鬼塚君にお漏らし射精したパンツ洗われるなんて、恥ずかしすぎるよ!?」
「はぁ? お漏らし射精に比べたら屁みたいなもんだろうが」
「そ、そうだけどぉ! それとこれとは話が違うって言うか……」
「意味分かんねぇ。星野は俺とエッチして、さっきなんか風呂場でジャージャー漏らしたじゃねぇか。今更射精パンツ洗われたぐらいで恥ずかしがるなっての」
「やだやだやだ! 言わないで! 僕だって恥ずかしいんだからね!」
イヤイヤと頭を振り、涙目で鬼塚君を見上げる。
鬼塚君はグッと喉を鳴らしてガシガシと塗れた頭を掻いた。
「その顔やめろ! ムラムラしてまたどうにかなっちまう!」
「そんな事言われても……」
困る。
なんの自慢にもならないけれど、基本的に僕は泣き虫で弱虫の意気地なしなのだ。
その顔やめろと言われても、どうにか出来るものではない。
「いいからさっさと着替えろ。そろそろ帰る時間なんだろ? ……遅くなって親心配させるわけにはいかねぇし」
鬼塚君がバツが悪そうに頬を掻く。
多分照れているんだと思う。
鬼塚君の優しさに僕はメロメロだ。
大事にされているんだと実感してウットリする。
そんなわけで、名残惜しいけど別れの時間だ。
「お邪魔しました」
制服に着替え終え、玄関先で頭を下げる。
「その……」
言いかけるけど、上手い言葉が見つからない。
「……なんだよ」
「えっと、うんと……あ、ありがとう」
「なにがだよ」
「い、色々、全部。僕を彼氏にしてくれた事とか……」
初エッチとか、初キッスとか、初おフェラとか、初お漏らしとか、諸々含めて。
お礼をするのは変な気もするけれど、僕の胸にあるこの気持ちは間違いなく感謝のそれで、だから僕はお礼を言った。
「うるせぇ。そんな事で礼なんか言うな」
鬼塚君は怒ったような拗ねたような、鬼塚君流の照れ顔で言うと。
「あと、彼氏じゃなく彼女な!」
念を押すように付け足した。
「ぶぅ。お言葉ですけど、一応僕、これでもれっきとした男の子なんですけど……おちんちんだってついてるし」
「皮かぶりの短小だけどな」
「皮かぶりでも短小でもおちんちんはおちんちんだもん!」
ムキになる僕に、鬼塚君がわかったわかったと適当に手を挙げる。
「けど、彼氏ってのはなんか変だろ。それじゃまるで、俺が星野の彼女みたいじゃねぇか」
「えー。そうかなぁ?」
「そうだろ。別に俺だって星野の事は女だなんて思ってねぇけどよ。……なんつーか、アレだ。彼女みたいに大事にするっつーか……。だぁ! なんだっていいだろ!」
「なんだっていいんなら彼氏でいいじゃん」
「うるせぇ! 口答えすんな!」
「むぅうううううう!」
鬼塚君が僕のほっぺを引っ張って反論を封じる。
……どうせ封じるのならキスで黙らせて欲しかったけど。
なんにしろ、僕達の彼氏彼女問題はすぐには解決しそうもない。
名残惜しいけれど、物凄く寂しいけれど、出来る事ならお泊りしちゃいたいのだけれど、このままでは無限に立ち話してしまいそうなので、僕は決心して帰る事にする。
「じゃあ、また明日」
「おう……。また明日な」
扉を開けてホテルみたいなタワマンの廊下に出る。
ドアを一枚隔てただけなのに、たった今お別れを言ったばかりなのに、もう僕は寂しくなってしまう。
また明日あえるのに、もう千年は会えないような気持ちになってしまう。
もう少しだけ話せばよかった。
もっとちゃんと鬼塚君の顔を目に焼き付けておけば良かったと後悔する。
自分でもビックリするくらい、完全に鬼塚君が大大大好きになってしまっている事を再確認する。
バシバシ叩かれて腫れたお尻と、ねちっこく弄られて充血した雄っぱいが切なくなる。
ってバカ!
もう帰るんだからそういうのはなし!
変態じゃないんだから!
いい加減発情モードは抑えないと。
なんて事を思っていると。
「なにやってんだ?」
「ふにゃあああ!?」
いきなり声をかけられて、びっくりして僕は飛び上る。
すぐ後ろに、雑誌のモデルみたいなお洒落私服に着替えた鬼塚君が立っていた。
「うるせぇ! 叫ぶな! 迷惑だろ!」
「ご、ごめんなさい! その、ビックリして……。お見送り?」
「あぁ。外暗いし、家まで送る」
「家まで!? い、いいよ! 遠いし!」
「よくねぇし。遠いなら猶更だろ。ただでさえ星野はガキみてぇな見た目してんだから。変質者にでも襲われたら大変だろうが」
「それはまぁ、否定は出来ないけども……」
見るからに弱っちそうな見た目のせいか、昔からその手の変態に目を付けられる事が少なくない僕だった。
「ほら見ろ! 星野はもう俺の物なんだ! 変態なんかに触らせるか!」
「へ、平気だよ。いざって時はブザーもあるし……」
ちょっと恥ずかしいけど。
変態対策で子供が鳴らす警報ブザーを常備している。
「俺が平気じゃねぇんだよ! 万が一星野の身になにかあってみろ! 俺はそいつを殺すぞ? それともなんだ? 星野は俺を人殺しにしてぇのか? あぁ!」
「そ、それは困るけど……」
あまりにも大袈裟な言い草に、過保護すぎるその態度に、逆に僕が恥ずかしくなる。
いや、嬉しくはあるんだけどね。
「だろ? 星野だって疲れてるだろうし。家まで呼んどいて歩きで帰せるかよ」
「え。もしかして、家まで抱えて帰るつもり!?」
流石にそれは遠慮したい。
ドラクエじゃないんだから。
流石にそれは恥ずかしすぎる。
家族だってビックリする。
「なわけねぇだろ。普通にタクシーだっての」
「い、いいよ! 僕、お金持ってないし!」
学生の少ないお小遣いだ。
タクシーを使うなんて勿体ない。
「俺は持ってる」
「でも」
「うるせぇ。彼女だって言っただろ! こういう時、普通は男が出すもんだろうが!」
「えー、そうかなぁ……」
そんな事ないと思うけど。
そんな時代でもないし。
学生カップルなら流石に割り勘が普通だと思うんだけど。
「つべこべ言わずに奢られろ! どうしても気になるって言うんなら、ご奉仕料とでも思っとけ」
「それはそれで売春みたいで問題ありな気が……」
ジロリと睨まれ、僕は慌ててお口にチャックする。
鬼塚君はフンと鼻を鳴らす。
「金さえ与えとけばそれでいいと思ってるバカ親のバカ息子が俺なんだ。だから金の事は気にすんな。むしろ無駄遣いした方が誰かの給料になって世の為だっての」
忌々しそうに鬼塚君が言う。
複雑な家庭の事情がある事は明らかで、それについて僕がとやかく言うのは得策でない事も明らかだった。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「そうだよ。星野は黙って俺に甘えてりゃいいんだ。おら、行くぞ!」
「ま、待ってよぉ~!」
僕を置いて、鬼塚君がずんずん一人で行ってしまう。
僕は慌ててそれを追いかける。
もうちょっと、あと少しだけ、鬼塚君と一緒に居られる。
今はただ、その事実だけで満足だ。
だって鬼塚君のマンションのお風呂場で、頭を洗っている最中に盛りがついて、そのまま二人でオナニーを始めて、しまいにはダブルお漏らし射精を決めてしまったのだ。
まだ付き合って初日なのに、ついさっき初エッチをしたばかりなのに、仮にそうでなかったとしても、これはちょっと変態過ぎる。
足元は僕のおしっこで水たまりが出来ているし、お風呂場の空気はおしっこと精液の匂いでムンムンしているし。
普通に漏らしただけならば恥ずかしさで狼狽える事も出来ただろう。
恥ずかしさと惨めさで普通に泣いて謝れば良いだけだ。
でもこれは普通のお漏らしじゃない。
鬼塚君に半ば無理やりお漏らしさせられた、お漏らしプレイと言っていい代物だ。
鬼塚君が僕に望み、その結果引き起こされたお漏らしだった。
そういうプレイが好きなのか、単に僕が恥ずかしがっている姿が好きなのか。
どちらなのかは知れないけれど、その結果に鬼塚君は満足し、興奮し、僕の背中に射精した。
僕自身満更でもなく、気持ち良く射精して漏らしてしまった。
そのせいで、どうすればいいのか分からなくなってしまっている。
二人して、裸んぼうのまま無言で立ち尽くしている。
気まずい沈黙に息が詰まりそうになっている。
「……わりぃ。星野があんまり可愛くて、エロすぎて、暴走しちまった……」
鬼塚君も賢者モードになったのだろう。
ついカッとなって暴力でも振るったみたいに、とんでもない過ちをおかしてしまったみたいな顔をして、しょんぼりと肩をすくめている。
まぁ、客観的に考えると好きな相手にお漏らしプレイを強要したのだから凹む気持ちは理解出来る。
ある意味ではいたって普通の反応だと思う。
だから僕はホッとしつつも、鬼塚君がしょんぼりしているのはイヤだと思った。
「謝らないでよ。暴走してたのは僕も同じだし。その……別に嫌じゃなかったし……」
羞恥プレイと言うのだろうか。
鬼塚君に無理やり辱められるのは、イヤではなかった。
全然イヤじゃない。
むしろめちゃくちゃ興奮した。
興奮しすぎて脳みそが焼き切れるかと思った程だ。
毎回はイヤだけど、たまにならまたして欲しい。
そんな期待を遠回しに、変態だと思われない程度にやんわり伝える。
「……そか。イヤじゃなかったんならいいんだけどよ……」
僕の気持ちが伝わったのかは分からない。
鬼塚君は落ち込んだまま、バツが悪そうにしていた。
それからは普通に二人で身体を洗った。
僕としては洗いっこをしてもよかったのだけれど。
事後の余韻を楽しむ感覚で、互いに身体を洗い合いたかったのだけど。
鬼塚君はなんだか僕の身体に触れるのを恐れるような、怖がるような、そんな雰囲気で、ちょっとだけ距離を置いているようだった。
「どうかしたの?」
不安になって尋ねても、鬼塚君は力なく、「なんでもねぇよ」とはぐらかすだけだ。
それで僕はますます不安になった。
「……もしかして、僕の事嫌いになっちゃった?」
鬼塚君の目の前で限界お漏らしをしてしまったのだ。
鬼塚君が望んだ事、求めた事だとしても、実際にそれを目の当たりにしたらなんか違って、僕の事を嫌いになってしまったのかもしれない。
そう思うと、僕は不安で泣きそうになる。
先程のお漏らしが途端にただの無様な失敗に変わってしまい、恥ずかしくて情けなくて後悔する。
そんな僕を見て、鬼塚君は焦ったようだ。
「ちげぇよ! そんなわけねぇだろ! 俺はただ……」
「……ただ、なに?」
その先を僕は知りたい。
ちゃんと言葉にして欲しい。
じゃないと、勝手に不吉なワードを当てはめてしまうから。
「……だから、さっきも言っただろ。暴走して、やり過ぎちまったって……。そう思ってるだけだ」
プイと背中を向け、足元に言葉を落とす。
もっともらしく聞こえたし、同じくらい嘘っぽくも聞こえた。
どちらにせよ、それ以上追求は出来なかった。
そんな空気ではなかった。
しつこい奴だと思われたくなかった。
僕はただ、鬼塚君に嫌われたくなかった。
「……まだ時間あるか」
お風呂場から出ると、思い出したように鬼塚君が聞いてきた。
出来ることならあると答えたかった。
そのままお泊りして、朝まで一緒にいたいくらいだ。
でもダメだ。
「う~ん……。晩御飯の時間だし、そろそろ帰らないとかも……」
「……だよな」
残念そうに言うと、鬼塚君は大きな溜息を吐いた。
鬼塚君を失望させている。
その事が酷く申し訳ない。
「……ごめんね」
「謝んなよ。仕方ねぇだろ」
「そうだけど……」
だとしても、鬼塚君をガッカリさせるのはイヤだった。
どんな理由であっても、僕のせいでなくとも、元気のない姿を見るのは嫌だ。
と、そこで僕は不意に気づく。
「あぁ!? 制服どうしよう!?」
すっかり忘れていたけれど、僕のパンツと制服のズボンはお漏らし射精でドロドロのグチャグチャ、とてもではないが履いて帰れない有様だった。
「あぁ。それなら心配ねぇよ」
先に着替えた鬼塚君がボクサーパンツとTシャツ姿で脱衣所を出ていく。
戻って来た時には、僕の制服一式を抱えていた。
「星野が便所入ってる間に洗っといた」
「あ、ありがとう……」
段取りの良さにキュンとしつつ、僕は受け取った制服に着替える。
洗い立てのパンツとズボンはほんのりと暖かく、僕の恥ずかしいお漏らし射精の痕跡なんかどこにもない。
「ちゃんと乾いてるか?」
「ぅん……。大丈夫そうだけど……」
不意に僕は不安になった。
以前僕が睡眠中に男の子の恥ずかしいお漏らし、いわゆる夢精をしてしまった時、こっそり証拠を隠滅しようとそのまま洗濯機に入れたら、後でお母さんにシミになるから手洗いしてから入れなさい! と怒られた事がある。
どう見ても僕のパンツとズボンには、そのようなシミは確認できない。
「……もしかして鬼塚君、手洗いしてくれたの?」
「当たり前だろ。そのまま入れたらシミになるだろうが」
「ぎゃー!?」
猛烈に恥ずかしくなり、僕は奇声を上げて頭を抱えた。
「うぉ!? なんだよ急に!」
「だ、だってぇ! 鬼塚君にお漏らし射精したパンツ洗われるなんて、恥ずかしすぎるよ!?」
「はぁ? お漏らし射精に比べたら屁みたいなもんだろうが」
「そ、そうだけどぉ! それとこれとは話が違うって言うか……」
「意味分かんねぇ。星野は俺とエッチして、さっきなんか風呂場でジャージャー漏らしたじゃねぇか。今更射精パンツ洗われたぐらいで恥ずかしがるなっての」
「やだやだやだ! 言わないで! 僕だって恥ずかしいんだからね!」
イヤイヤと頭を振り、涙目で鬼塚君を見上げる。
鬼塚君はグッと喉を鳴らしてガシガシと塗れた頭を掻いた。
「その顔やめろ! ムラムラしてまたどうにかなっちまう!」
「そんな事言われても……」
困る。
なんの自慢にもならないけれど、基本的に僕は泣き虫で弱虫の意気地なしなのだ。
その顔やめろと言われても、どうにか出来るものではない。
「いいからさっさと着替えろ。そろそろ帰る時間なんだろ? ……遅くなって親心配させるわけにはいかねぇし」
鬼塚君がバツが悪そうに頬を掻く。
多分照れているんだと思う。
鬼塚君の優しさに僕はメロメロだ。
大事にされているんだと実感してウットリする。
そんなわけで、名残惜しいけど別れの時間だ。
「お邪魔しました」
制服に着替え終え、玄関先で頭を下げる。
「その……」
言いかけるけど、上手い言葉が見つからない。
「……なんだよ」
「えっと、うんと……あ、ありがとう」
「なにがだよ」
「い、色々、全部。僕を彼氏にしてくれた事とか……」
初エッチとか、初キッスとか、初おフェラとか、初お漏らしとか、諸々含めて。
お礼をするのは変な気もするけれど、僕の胸にあるこの気持ちは間違いなく感謝のそれで、だから僕はお礼を言った。
「うるせぇ。そんな事で礼なんか言うな」
鬼塚君は怒ったような拗ねたような、鬼塚君流の照れ顔で言うと。
「あと、彼氏じゃなく彼女な!」
念を押すように付け足した。
「ぶぅ。お言葉ですけど、一応僕、これでもれっきとした男の子なんですけど……おちんちんだってついてるし」
「皮かぶりの短小だけどな」
「皮かぶりでも短小でもおちんちんはおちんちんだもん!」
ムキになる僕に、鬼塚君がわかったわかったと適当に手を挙げる。
「けど、彼氏ってのはなんか変だろ。それじゃまるで、俺が星野の彼女みたいじゃねぇか」
「えー。そうかなぁ?」
「そうだろ。別に俺だって星野の事は女だなんて思ってねぇけどよ。……なんつーか、アレだ。彼女みたいに大事にするっつーか……。だぁ! なんだっていいだろ!」
「なんだっていいんなら彼氏でいいじゃん」
「うるせぇ! 口答えすんな!」
「むぅうううううう!」
鬼塚君が僕のほっぺを引っ張って反論を封じる。
……どうせ封じるのならキスで黙らせて欲しかったけど。
なんにしろ、僕達の彼氏彼女問題はすぐには解決しそうもない。
名残惜しいけれど、物凄く寂しいけれど、出来る事ならお泊りしちゃいたいのだけれど、このままでは無限に立ち話してしまいそうなので、僕は決心して帰る事にする。
「じゃあ、また明日」
「おう……。また明日な」
扉を開けてホテルみたいなタワマンの廊下に出る。
ドアを一枚隔てただけなのに、たった今お別れを言ったばかりなのに、もう僕は寂しくなってしまう。
また明日あえるのに、もう千年は会えないような気持ちになってしまう。
もう少しだけ話せばよかった。
もっとちゃんと鬼塚君の顔を目に焼き付けておけば良かったと後悔する。
自分でもビックリするくらい、完全に鬼塚君が大大大好きになってしまっている事を再確認する。
バシバシ叩かれて腫れたお尻と、ねちっこく弄られて充血した雄っぱいが切なくなる。
ってバカ!
もう帰るんだからそういうのはなし!
変態じゃないんだから!
いい加減発情モードは抑えないと。
なんて事を思っていると。
「なにやってんだ?」
「ふにゃあああ!?」
いきなり声をかけられて、びっくりして僕は飛び上る。
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「うるせぇ! 叫ぶな! 迷惑だろ!」
「ご、ごめんなさい! その、ビックリして……。お見送り?」
「あぁ。外暗いし、家まで送る」
「家まで!? い、いいよ! 遠いし!」
「よくねぇし。遠いなら猶更だろ。ただでさえ星野はガキみてぇな見た目してんだから。変質者にでも襲われたら大変だろうが」
「それはまぁ、否定は出来ないけども……」
見るからに弱っちそうな見た目のせいか、昔からその手の変態に目を付けられる事が少なくない僕だった。
「ほら見ろ! 星野はもう俺の物なんだ! 変態なんかに触らせるか!」
「へ、平気だよ。いざって時はブザーもあるし……」
ちょっと恥ずかしいけど。
変態対策で子供が鳴らす警報ブザーを常備している。
「俺が平気じゃねぇんだよ! 万が一星野の身になにかあってみろ! 俺はそいつを殺すぞ? それともなんだ? 星野は俺を人殺しにしてぇのか? あぁ!」
「そ、それは困るけど……」
あまりにも大袈裟な言い草に、過保護すぎるその態度に、逆に僕が恥ずかしくなる。
いや、嬉しくはあるんだけどね。
「だろ? 星野だって疲れてるだろうし。家まで呼んどいて歩きで帰せるかよ」
「え。もしかして、家まで抱えて帰るつもり!?」
流石にそれは遠慮したい。
ドラクエじゃないんだから。
流石にそれは恥ずかしすぎる。
家族だってビックリする。
「なわけねぇだろ。普通にタクシーだっての」
「い、いいよ! 僕、お金持ってないし!」
学生の少ないお小遣いだ。
タクシーを使うなんて勿体ない。
「俺は持ってる」
「でも」
「うるせぇ。彼女だって言っただろ! こういう時、普通は男が出すもんだろうが!」
「えー、そうかなぁ……」
そんな事ないと思うけど。
そんな時代でもないし。
学生カップルなら流石に割り勘が普通だと思うんだけど。
「つべこべ言わずに奢られろ! どうしても気になるって言うんなら、ご奉仕料とでも思っとけ」
「それはそれで売春みたいで問題ありな気が……」
ジロリと睨まれ、僕は慌ててお口にチャックする。
鬼塚君はフンと鼻を鳴らす。
「金さえ与えとけばそれでいいと思ってるバカ親のバカ息子が俺なんだ。だから金の事は気にすんな。むしろ無駄遣いした方が誰かの給料になって世の為だっての」
忌々しそうに鬼塚君が言う。
複雑な家庭の事情がある事は明らかで、それについて僕がとやかく言うのは得策でない事も明らかだった。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「そうだよ。星野は黙って俺に甘えてりゃいいんだ。おら、行くぞ!」
「ま、待ってよぉ~!」
僕を置いて、鬼塚君がずんずん一人で行ってしまう。
僕は慌ててそれを追いかける。
もうちょっと、あと少しだけ、鬼塚君と一緒に居られる。
今はただ、その事実だけで満足だ。
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