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夏の魔物

夏の魔物

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 海の家の板間で目覚める。

 すぐ隣にはカステットがいて、いきなり目覚めた僕になんて声をかけていいのか分からないって顔をしている。

「看ててくれたんだ」

 そんな必要はなかったけど、気遣いには感謝しないと。

 案の定、カステットは照れくさそうにそっぽを向いた――バニーユ程じゃないけど、カステットは結構照れ屋な所がある。

「だって……泳げないせいで足引っ張っちゃったし……」

 口を尖らせ、バツが悪そうに言う。

「それを言うなら僕だって。主を任されたのに、結局みんなに助けて貰っちゃったしね」
「ハルは頑張ったでしょ。あんな大きな主一発で倒しちゃったんだもん」

 笑い出した僕をカステットが変な目で見る。

「なにがおかしいのよ」
「うん。多分さ、みんな同じように思ってるんじゃないかなと思って」

「同じように?」
「今回は足を引っ張っちゃった、みんなは頑張ったのにって」

 反論しかけてカステットは言葉を飲み込む。

「かもね。自信家のマーセリスも珍しく落ち込んでたし。こんなに危険だと分かってたらあたし達だけで行かせたりしなかった、僕は保護者失格だって」
「保護者なんだ?」
「勝手に言ってるだけ。あんたん所のエンキオと同じよ」

 カステットが肩をすくめる。

「ああ見えて責任感強いんだから」

 面白くて僕は笑ってしまう。

「それ、二人の前で言ったら嫌がるだろうね」

 カステットも小さく吹きだす。

「言えてる。なんであの二人仲が悪いのかしら」

「似てるからでしょ」
「そんなもん?」
「さぁね。みんなは?」

 外から香るお肉の匂いで大体想像はつくけど。

「夏の魔物」

 澄ました顔でカステットが言う。

「明日には浜辺を解放するから、楽しむなら今の内だって。バーベキューとか花火とか」
「じゃあ、僕達も行こうか」

 起き上がってカステットを手で招く。

「もういいの?」
「お腹空いちゃったしね。折角海に来たんだし、花火くらいはしたいかなって」
「そういうの、興味ないんじゃなかったっけ?」

 意地悪っぽくカステットが笑う。

「うん。興味ない。でも、みんなと一緒なら話は別」

 カステットは肩をすくめて立ち上がる。

「それじゃ、あたし達も夏の魔物に狂うとしましょうか」 
「泳ぎ、教えてあげようか?」
「……やだ。みんながいない時にお願い」
「憶えてたらね」

 外に出ると、夏の魔物に狂った冒険者達が花火を振り回し、酒を片手にお肉を焼いている。

 雲一つない星空の下、踏み出した足がさくりと砂を踏みしめる。

「ずるいよみんな、僕抜きで楽しんじゃってさ」
「呑気に寝てたやつがなに言ってんすか」

 呆れ顔に安心を滲ませて、エンキオがビールの入った冷たい瓶を僕に放った。
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