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夏の魔物
カイヴァリビーチにて
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夏の中で好きなのは梅雨ぐらいだ。雨音をBGMに、クーラーを少し強めに設定して、ベッドの中で本を読むのは気持ちがいい。
あとは駄目。眩しすぎる日差しも、暑すぎる気温も、半袖と短パンも――その頃の僕はマッチ棒みたいに痩せていたから――それから蝉も。なにか夏らしい事をしないといけないと誰も彼もが浮足立って無理をするあの感じも。海や花火や夏祭り、それらとイコールである人ごみと不良が僕は好きじゃなかった。
「はぁ? てめぇ、なんだよ」
どこにでもいるような――実際どこにでもいる――不良だった。夏仕様で、染めた金髪が安っぽい。肌は小麦を超えて焦げ色で、派手な海パンに金色のネックレスをぶら下げている――それが彼らの本体であるかのように、不良達はみんな金色のネックレスを下げている。
「冒険者ですよ。カイヴァリ市の依頼でビーチの治安維持を行っています。この夏を病院のベッドの上で過ごしたくなかったら、金輪際しつこいナンパはやめてください」
異世界で一年間冒険者をやって学んだ事がある。この手の連中に遠回しな忠告は意味がない。どうせ言い直す事になるから。どの道揉める事になるんだし、黙ってぶっ飛ばした方がいい気もするけど――他の冒険者はそうしている――まだ僕はそこまで染まりきれてはいない――けど、それも時間の問題だろう。
わかりきっていた事だけど、不良達は――不良は群体生物なので、大抵の場合三人以上で行動している――顔を見合わせてわざとらしく僕を笑った。
「お前みたいなチビのガキになにが出来るってんだよ!」
そして、やはりわかりきっていた事だけど、真ん中に立つリーダー格の男が僕の胸を小突こうとする――それか胸倉を掴むかの二パターンしかない。僕は手首を掴み返し、福引きのガラガラを回すようにして一回転させる。
「いぎゃああ!」
抗うと折れるので、男は自分から転ぶようにして仰向けに倒れる。
サンダルを履いた足を思い切り振り上げ、不良の鼻面で寸止めにした。
「なんだって出来ますよ。どうして欲しいですか?」
二人の仲間は石化の呪いをかけられたみたいに動かない。この群体は頭が制御しているから、頭を抑えられると何も出来ないのだ。
「……は、はは、や、やだなぁ、冗談じゃないっすか」
で、これもわかりきっていた事だけど、こうやって後出しで誤魔化す。
「なんでもいいですけど、次に同じ事をしたら忠告はしませんから」
ごくりと喉をならし、不良達はばたばたと逃げていった。
「ありがとう! 君、小さいのに強いんだね!」
「ねぇ、お姉さん達と遊ばない?」
「冒険者って事はさ、他にも仲間とかいるよね。その人達も呼んじゃってさ!」
絡まれていた水着のお姉さん達が口々に言う。それもそれでどうかと思うけど。
「すみません。僕も仲間も仕事中なので」
「え~残念」
「どこから来たの?」
「ちょっとだけならよくな~い? あたし、冒険者の友達欲しかったんだよね~」
ある意味こっちの方が厄介だ。不良を追い払うのは慣れてるけど、助けた人を追い払うのは経験不足。
はっきり言って迷惑だけど、お互いに嫌な気持ちにならないように追い払うのは難しい。のらりくらりと躱していると、甲高い笛の音が近づいてきた。
「そこ! ライフガードをナンパするのはやめてください!」
「「「は~い」」」
毅然とした声に、お姉さん達は残念そうに去っていく。
ほっとして、僕はライフガードの制服を――ロゴの入ったTシャツ――着た水着の女の子を振り返る。
「ありがとうカステット。おかげで助かったよ」
「べ、別に、あんたの為じゃないんだから! 仕事よ仕事! 勘違いしないで!」
真っ赤になってカステットがそっぽを向く。なにをどう勘違いする余地があったのか僕には分からない。女の子の考える事はいつだって理解不能だ。
カイヴァリ市はアーテックの南西に位置する港の街だ。海に突きだした角のような形をしていて、海辺をぐるりと砂浜が囲んでいる。海が綺麗で夏場は観光客が多い。地元の人間だけでは対応出来ないので、この時期になると冒険者のライフガードを雇っている。
この手の大掛かりな仕事は複数の冒険者の店に依頼される事が多い。一つの冒険者の店に頼っているとなにかあった時に――突然大規模な魔境が出現したり――人が集まらないかもしれないし、あとはまぁ、大人の事情というか、義理人情で仕事を回している所もあるのだろう。
毎年恒例の仕事だ。去年は異世界に来て間もなかったので声をかけられなかったから、経験の為に行って来いと言われた。カステットも同じような理由らしい。他にも何人か、黒猫亭と白狼亭の冒険者がライフガードとして参加している。
他のみんなはある程度の範囲を一人で担当しているけど、僕とカステットは初参加なので二人で一つのエリアを担当している――どちらの冒険者の店の人達も、僕らが年の近いルーキーだからってなにかと一緒にして張り合わせようとしている感じがある。迷惑とまでは言わないけど、巻き添えを食うカステットはちょっと可哀想だ
あとは駄目。眩しすぎる日差しも、暑すぎる気温も、半袖と短パンも――その頃の僕はマッチ棒みたいに痩せていたから――それから蝉も。なにか夏らしい事をしないといけないと誰も彼もが浮足立って無理をするあの感じも。海や花火や夏祭り、それらとイコールである人ごみと不良が僕は好きじゃなかった。
「はぁ? てめぇ、なんだよ」
どこにでもいるような――実際どこにでもいる――不良だった。夏仕様で、染めた金髪が安っぽい。肌は小麦を超えて焦げ色で、派手な海パンに金色のネックレスをぶら下げている――それが彼らの本体であるかのように、不良達はみんな金色のネックレスを下げている。
「冒険者ですよ。カイヴァリ市の依頼でビーチの治安維持を行っています。この夏を病院のベッドの上で過ごしたくなかったら、金輪際しつこいナンパはやめてください」
異世界で一年間冒険者をやって学んだ事がある。この手の連中に遠回しな忠告は意味がない。どうせ言い直す事になるから。どの道揉める事になるんだし、黙ってぶっ飛ばした方がいい気もするけど――他の冒険者はそうしている――まだ僕はそこまで染まりきれてはいない――けど、それも時間の問題だろう。
わかりきっていた事だけど、不良達は――不良は群体生物なので、大抵の場合三人以上で行動している――顔を見合わせてわざとらしく僕を笑った。
「お前みたいなチビのガキになにが出来るってんだよ!」
そして、やはりわかりきっていた事だけど、真ん中に立つリーダー格の男が僕の胸を小突こうとする――それか胸倉を掴むかの二パターンしかない。僕は手首を掴み返し、福引きのガラガラを回すようにして一回転させる。
「いぎゃああ!」
抗うと折れるので、男は自分から転ぶようにして仰向けに倒れる。
サンダルを履いた足を思い切り振り上げ、不良の鼻面で寸止めにした。
「なんだって出来ますよ。どうして欲しいですか?」
二人の仲間は石化の呪いをかけられたみたいに動かない。この群体は頭が制御しているから、頭を抑えられると何も出来ないのだ。
「……は、はは、や、やだなぁ、冗談じゃないっすか」
で、これもわかりきっていた事だけど、こうやって後出しで誤魔化す。
「なんでもいいですけど、次に同じ事をしたら忠告はしませんから」
ごくりと喉をならし、不良達はばたばたと逃げていった。
「ありがとう! 君、小さいのに強いんだね!」
「ねぇ、お姉さん達と遊ばない?」
「冒険者って事はさ、他にも仲間とかいるよね。その人達も呼んじゃってさ!」
絡まれていた水着のお姉さん達が口々に言う。それもそれでどうかと思うけど。
「すみません。僕も仲間も仕事中なので」
「え~残念」
「どこから来たの?」
「ちょっとだけならよくな~い? あたし、冒険者の友達欲しかったんだよね~」
ある意味こっちの方が厄介だ。不良を追い払うのは慣れてるけど、助けた人を追い払うのは経験不足。
はっきり言って迷惑だけど、お互いに嫌な気持ちにならないように追い払うのは難しい。のらりくらりと躱していると、甲高い笛の音が近づいてきた。
「そこ! ライフガードをナンパするのはやめてください!」
「「「は~い」」」
毅然とした声に、お姉さん達は残念そうに去っていく。
ほっとして、僕はライフガードの制服を――ロゴの入ったTシャツ――着た水着の女の子を振り返る。
「ありがとうカステット。おかげで助かったよ」
「べ、別に、あんたの為じゃないんだから! 仕事よ仕事! 勘違いしないで!」
真っ赤になってカステットがそっぽを向く。なにをどう勘違いする余地があったのか僕には分からない。女の子の考える事はいつだって理解不能だ。
カイヴァリ市はアーテックの南西に位置する港の街だ。海に突きだした角のような形をしていて、海辺をぐるりと砂浜が囲んでいる。海が綺麗で夏場は観光客が多い。地元の人間だけでは対応出来ないので、この時期になると冒険者のライフガードを雇っている。
この手の大掛かりな仕事は複数の冒険者の店に依頼される事が多い。一つの冒険者の店に頼っているとなにかあった時に――突然大規模な魔境が出現したり――人が集まらないかもしれないし、あとはまぁ、大人の事情というか、義理人情で仕事を回している所もあるのだろう。
毎年恒例の仕事だ。去年は異世界に来て間もなかったので声をかけられなかったから、経験の為に行って来いと言われた。カステットも同じような理由らしい。他にも何人か、黒猫亭と白狼亭の冒険者がライフガードとして参加している。
他のみんなはある程度の範囲を一人で担当しているけど、僕とカステットは初参加なので二人で一つのエリアを担当している――どちらの冒険者の店の人達も、僕らが年の近いルーキーだからってなにかと一緒にして張り合わせようとしている感じがある。迷惑とまでは言わないけど、巻き添えを食うカステットはちょっと可哀想だ
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