一輪だけのユリ

三日月李衣

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一輪だけのユリ

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ああああ、ああああ、ユリさん、ユリさん、あなたはどうして美しいの?

小汚い醜い女が誰もいない崖の上で酷く叫ぶ。


醜い女は歯垢まみれの歯を晒しながら、シジミみたいな目から汚らしい涙を流す。女は誰を思って泣いているのか?


ユリさんは私という良い女がいたのに、ただ背が高いだけの脳みそ空っぽの男と浮気して私を捨てるなんて……絶対に許さない―――――!

女は醜い顔で自分を捨てて、他の男と共にした想い人が憎くて憎くて尋常じゃない嫉妬を叫ぶ。


永遠に許さない! あなたが生きてこれたのは私があなたに尽くしていたのに、どうして、どうしてほかの男に走るのよ!? 私は何でもしてあげたのよ! ご飯も毎日作ってやったし、誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントもバレンタインデーもたくさん良い物あげたのに何で?

私は美しいあなたを愛してたのよ。あなたは一輪のユリの花のように綺麗で涼やかで、私にはない物をたくさん持っていたわ。私は背が低く、顔が赤ら顔でウエストも太くて最悪なのよ。友達も彼氏もいない寂しい人生を送っていたわ。

そんな時あなたと出会って、あなたは私に優しくしてくれたわよね? ユリの花を送ってくれたし、醜い私を可愛いって言ってくれたり、大好きといって抱きしめてくれたわよね?

それを何で裏切るようなことをするの? 私が重いっていうの?

女はひたすら崖の上で嘆く。誰からも愛されなくて寂しい人生を送っていた醜い女は愛するユリという名の女を忘れる事が出来なくてひたすら泣き叫ぶ。寒い北風がビュービューと、冷たく吹く北日本海。

私はあなたの会社の秘書を何年も務めたのよ。長い間就職できなかった私を救ってくれた貴女に感謝してるの。あなたに助けられたから私はあなたに恩返しをしたくて、頑張って秘書を務めたのよ。それなのに急に会社を畳んで、遠い海の向こうの男に惚れて、愛に生きるなんておかしいわよ。男なんか裏切る物なのに、愛を信じて生きていくなんて言っておかしいわよ。
悔しいわよ。私は職を失って家賃二万円のボロアパートに住んでいるのよ。一日五十円で生活しているのよ。ご飯だって毎日食べられないの。それなのにあなたは背が高いだけの空っぽの男と贅沢に暮らしてるなんて不公平よ!

女は裏切られた女に向かって延々と闇にまみれた声で叫び続ける。女は愛と金が欲しくて仕方ない。恵まれなかった女は一時は愛と富を与えられたが、それを失った時人間は怖くなっていくのかも。
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