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ありきたりだけど、一番大事な心掛け
しおりを挟む二〇二〇年の暑い夏、今年はすごく変わってしまった。いつもの様に海で海水浴を楽しんだり、花火大会でワイワイ楽しみ事が出来なくなってしまった。楽しい夏を過ごせなくなった人達。
消費社会の世の中を見直す必要になったと考える。もっとも日本の消費社会で生きている東京都港区がありきたりだけど、一番大切な心掛けを取り戻す人達が現れ始めた。
港区にある高級マンションに住む悠希という高級エステを経営するエステティシャンだ。
悠希は背が高くてスリムで、和顔美人だ。
二〇二〇年になって世界が大きく変わって、悠希の店を閉めなければならない。店を閉めて暇になった悠希はセレブな生活をやめて、地方に引っ越すことになった。
「さあ、いらないものを捨てなきゃ……」
悠希はたくさんの高級コスメやブランドバッグ、ハイヒールを一堂に集めて段ボールに詰めている。リサイクルショップに処分してもらう事にした。引っ越す時に出来るだけものを減らそうと、悠希は考えている。
「あんまりにも先の事を考えずに買いまくってたから、結局いらない物になったんだよね」
「そうだよ、悠希。君はアベノミクスにうかれてエステの経営が上手くいったからって調子に乗りすぎてたからこんな事になるんだよ」
悠希の夫の正高はしょうがないなと、諦めたような顔をして部屋の片づけをしていた。
悠希と正高の部屋は港区らしく、オシャレで洗練されたインテリアに囲まれていた。
正高はオシャレな部屋を見回しながら、呟いた。
「何で東京って、いつもキラキラした生活を人に押し付けるんだろうね。みんなから褒められたい、お金持ちになって良い思いしたいって、邪な考えで変になるんだよ」
悠希もしみじみ思った。エステティシャンの仕事を始めたら、高級美顔器を無理して買ったり、コラーゲンをとりたくてわざわざサプリメントを飲んだり、このクリームが良いと、無理してまで高いクリームを買ったりしていた。
「テレビもネットもそうだよね。話題の商品を買えとか、人気のパワースポットに行けとか、何でも私らに押し付けるのよね。私も何度か乗せられたわ」
「テレビもネットも人の生活に関わっているし、何でも盛らないと出来ない感じが嫌なんだよな。俺の友達もアイドルアニメが好きで、そのために有り金はたいてDVDとCDとアニメグッズやコンサートに費やしてた奴がいるんだよ」
「ホント? すごいね」
悠希が正高のオタク友達がこんなにもアイドルアニメが好きという事にすごいと、大口を開けた。
「でもな、急に世界が変わってそのアイドルアニメのコンサートがすべて中止になって、すごく落ち込んでいるんだよ。ほら」
正高のスマホにはたくさんのアニメグッズを持って泣いている友人が映っていた。
ああ、本当にこの友人はアニメが好きなんだなと分かり、何かに熱中する事は良い事だなと改めて思った。
人が生きていくためには夢中になれる何かが必要なのか。例えば犬だったり、花だったり、人生が変わるくらい好きになる事は良い事だと思う。何かを好きになる事で社会の為になったり、自分の人生の為になったりしていいことはたくさんある。
何も関心持たないで生きる事は淋しすぎる。無関心から何も生まない。人は何かを好きになる事が人生にとって大切な事だと思う。
後悔するなら、とことん好きになる事が幸せだ。
「そのお友達は本当に好きだったんだね。そのアニメに命を捧げているくらい大好きなんだよね。私も美容が大好きよ。美容が大好きでエステティシャンになるくらいだからね。やめる事できないね」
悠希はそう言い切ると、自然に笑顔になる。
「そうだよな。悠希はエステで人をいっぱい幸せにしてたんだよな。地方に引っ越したら、どんなエステサロンにしたい?」
「そうね。地元に人達に優しいエステサロンかな。あったかいエステサロンにしたい」
「あったかいエステサロンか。いいな」
悠希と正高は地方に引っ越した後の生活にワクワクしながら、語り合った。
未来の夢を語りながら、二人は部屋の断捨離を進めていた。クタクタのTシャツを捨てたり、汚れがこびりついたフライパンを捨てていた。
お気に入りのTシャツに思い出に浸りながら、捨てた。古い物にとらわれたままでは何も始まらない、そう感謝しながら塩をTシャツにふりかけながら、ごみ袋に捨てた。
正高も部屋の断捨離を進めていた。ボロボロになったアイマスクや、よれよれのスラックス、お菓子の箱に今までありがとうと、呟きながら次々と物を捨てた。
悠希が正高の部屋の本棚の本を断捨離していると、何だか色っぽい女の人のDVDを見つけてムムッと、眉間にしわを寄せた。
「ねえ、このDVD、捨てて良いよね?」
DVDを持ちながら、正高に見せた。
いかがわしいDVDを見つけられた正高は、冷や汗をかいて、
「う、うん。いい、良いよ! 捨てて良いですよ! ハハハ、ハ!」
慌てながら、悠希にいかがわしいDVDを捨てて良いよと言った。
「じゃあ、捨てるよ」
悠希がニッコリと微笑みながら、いかがわしいDVDをゴミ袋の中にぽいと捨てた。
正高は冷や汗をかきながら、「ああ、もう少し、観とけばよかった」と、弱々しく呟いた。
「このDVDも捨てて良いよね?」
悠希が正高の本棚にあるいかがわしいDVDをまた正高に見せながら、重みのある声で聞いた。
「まーったく。私という美人嫁がいながら、こんなの観るとはね」
「す、すんませーん!」
正高が悠希にきつく睨まれ、そそくさと謝った。
「それでいいの」
正高にキツーイお仕置きをしたら、悠希はまた断捨離を再開した。いらない文房具を捨てたり、フレームの描けたサングラスを捨てたり、昔貰った手紙を処分したりした。
全てに感謝の言葉をかけながら断捨離した。
断捨離って初めは大変そうな感じがしたが、やってみると楽しい。先の事を考えずに買い込んで、結局使わずしまいになったものが沢山あった事に、無駄遣いしてたなと思った。
悠希と正高は断捨離を終えて、いらない物を詰め込んだゴミ袋と段ボールがたくさんある。
ゴミ捨て場に捨てる物と、リサイクルショップに売るものと、フリマアプリに出品する物と分けてある。
さっきまで物が多かった部屋は今やスッキリして、綺麗に片付いている。
悠希は綺麗になった部屋を見て、
「なんだか、溜まっていた毒が抜けてデトックスされた感じがするわ」と、しみじみ思った。
「うん。なんか嫌な感情も川の様に綺麗に流れていく感じがして、良いね」
二人はお互いに微笑んだ。
断捨離して、少しお腹が空いたので小腹を満たすために簡単で美味しいスープを悠希が作る事にした。
どこでも買える普通のめんつゆと豆乳を鍋に入れて温めるだけの簡単スープだ。
悠希が上京したばかりの頃に覚えた味だ。
スープをマグカップに入れて、テーブルに持っていく。
「出来たわよ。良い匂いがするでしょ?」
だしの香ばしい香りが部屋中に漂っていた。
「おいしそうな匂いがするな。飲もう、飲もう!」
「じゃあいただきます」
お腹を空かした二人は、スープを一口飲んだ。めんつゆの旨味と豆乳のまろやかさが合わさり、優しい懐かしい味がした。
うーんと、二人は美味しそうな顔をする。
「何て美味しいの。心と体に染み渡る味よね」
悠希な懐かしいスープの味に素直に感謝する。グルメを気取っていた自分が恥ずかしくなる。値段だけが味じゃない。
今まで経済を発展させるために物を沢山買え、お金を貯めるな、消費しろと、おかしくなっていった人達。それが二〇二〇年になってその考えが一気に変わっていった。
私達現代人の消費社会に反省し、新しい生き方を世の中に提示しなければならない。
優しく平和な暮らし、ありきたりだけどシンプルで幸せな事だと、悠希はしみじみ感じる。
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