上 下
2 / 2
後編

レイナの肌は世界に一つだけの宝物

しおりを挟む
「あ、兄上……」
「ケイ! ケイ!」
 セレアとアルがファイナに銃を撃たれて、地面に倒れて虫の息のケイの元に思わず絶叫を上げながら駆け付ける。
「しっかりしろ! 私より先に死ぬなー!」
「うう、っぐ、お、俺、父上みたいに、立派になれなか……」ケイは額から血を流しながら、涙ぐみながらアルの顔に触れようとするが、そのまま力尽きて息を引き取る。
「ケイ! しっかりしろ! お前は私の大切な子供だー! うう、あああ!」
 アルが子を失った衝撃で慟哭の声を上げてケイを生き返らそうと、ケイの遺体を揺さぶる。
「兄上ー! 死なないで! ううああああー。あああー! 嫌よ! 嫌! うう……」
 セレアはたった一人の兄の死に幼子の様にわんわんと号泣してケイに亡骸に縋り付く。
 ケイを撃ち殺したファイナは、セレアとアルの慟哭の涙を流しているのにも関わらず、フフッと鼻で笑っていた。それを見ていたレイナは、ファイナの悪魔っぷりに憤りを隠せなかった。
「ファイナ、何で? 何で、兄上を」兄の亡骸を抱きながら、セレアはファイナに憎緒を露わにする。
「役立たずは死ねってことだ」人を殺したのに、平然と残酷な言葉を言えるファイナを見たレイナは憤りを隠せなかった。
「ふざけないでよ! たった一人の兄を! それでも人間なの!?」
「バーカ。ただの駒に情なんかこれっぽちもないわ!」
「酷いわ! 私、あなたが豊穣の女神の様な人だと思っていたのに……ファイナを一番大切な友達だと思っていたのに」
 ファイナの事を一番の親友だと思っていたのに、残酷な形で裏切られて号泣するセレアにファイナは口元を歪ませながら、
「ともだちぃ? アッハッハ! バーカ、セレアなんか友達じゃないわ。金蔓しか思ってな・い・わ!」高笑いしながらセレアにプッと唾を吐いた。
 ファイナに唾を吐かれて、セレアは親友に裏切られた怒りでいっぱいだ。
「な、何と……こんな女にセレアは」怒りで泣きわめくセレアを見て、アルは我が子が無残な目に遭った事に激しく怒る。
「嘘つき! 友達もいない私に甘い言葉で騙すなんて! 許さなーい!」
「バーカ、バーカ、バーカ! てめえみたいなブスと友達になりたい奴なんていねえんだよ!」
 天を裂ける様に激しく怒りの言葉をファイナにぶつけるセレアに向かって、呪うような表情でファイナはセレアを侮蔑する。
「うぁあああああん! ファイナのバカー! ウソつき! 詐欺師! 野グソオンぁー!」
「セレア! このアマァ! 私のシアだけでなく、ケイも殺すのか!? どんなバカ息子でも、私にとっては大事な子供なんだぞ!」
 激しく泣き叫ぶセレアに駆け寄るアルは、青ざめたケイの顔にそっと触れながら、涙をこらえながらファイナに激しい殺意を露わにする。
「ハハ、アル将軍。あんたは本当にバカだよ。あんたが同性愛者だから、シアと子ども作らなかったから、こうなったんだよ。お前がすべて悪いんだよ」
 激怒するアルを止める様にファイナはアルが同性愛者だからこうなったと、アルを貶めるかの様に氷の微笑を浮かべながら、お前がすべて悪いと言い放った。
 アルが同性愛者っていう言葉にレイナはまさかアルが同性愛者である事を知らなかった。
 レイナは同性愛者である事を晒されて凍り付くアルを見て、戸惑いを隠せない。ケレスもアルが同性愛者である事を初めて知って唇を震わせた。
「え? アル将軍が同性愛者だったの?」
「嘘だろ? 最低だ!」
「信じられないわ! 同性愛者は死刑にされるのよ!」
 街の人達もアルが同性愛者である事を知って、ざわざわと騒ぎ始めた。マラウス大陸では同性愛は禁止されていて、同性愛行為を行うと死刑になるという法律がある。
 街の人達は凍り付いて立ち止まっているアルを見て、気持ち悪いとか、同性愛者は死刑になれと、批判の声を上げてきた。
 ファイナはアルが隠してきたことを冷徹にばらしていく。
「フン、何人かの兵士が言ってたわ。アル将軍と寝たって。マムル、お前もだろ?」
 ファイナが凍り付くアルを侮蔑するように暴露しながら、マムルもアルと同性愛行為をされていた事をフッと笑いながらばらしていく。
「そ、それは」ファイナにアルと同性愛行為を密かにしていた事を晒されたマムルは、冷や汗をかきながら体を震わせる。それを見たファイナはハハハと冷たく笑う。
「やめろ……やめてくれ!」
 ファイナにアルの同性愛行為を行っていた事をばらされて、民達からひどい言葉を槍の様に刺されて頭を抱えて崩れ落ちていく。
 レイナはアルの同性愛行為を晒して、自分の罪をなかったことにしようとしたファイナに憤りを隠せない。
「いい加減にしてください! あなた達は自分の犯した罪を認めればいいのよ!」レイナはファイナに抗議する。 
「ファイナ! お前は多くの人々の命と権利を奪ってまで、栄光を得たいか? 偽りの栄光を手に入れてもお前の心を満たすことはない」
 ケレスがファイナに向かって、人の命を奪うのはもうやめろと、強く言う。
「黙れ。私はどんなに辛い人生を送ったのを知らぬくせに、お前みたいな恵まれた奴に説教なんかされたくないわ!」
「いい加減に諦めなさいよ。あなたは嘘をつきすぎているのよ!」
「レイナ! 気持ち悪い肌のお前なんかに、嘘つきって言われたくない!」
 気持ち悪い肌と自分の白斑のある肌をバカにされたレイナは怒りで「気持ち悪いって言っている方が気持ち悪いのよ! ファイナは心も醜いわ!」ファイナを批判した。
「ざけんな! 正義を信じてるからっていいきになるんじゃねえよ。死ね! 死ね! 死ねえぇえええええええ!」
「人の命を蔑ろにするような奴なんか、許すことは出来ん。ファイナを捕らえよ!」
 ケレスがテレストを殺したファイナを逮捕しろと兵士達に命令する。アリア帝国の兵士達はファイナを捕らえようとするが、兵士達が血がブシュっと噴き出して急に倒れてしまう。
 広場の片隅で隠れていた武器を持った暗殺者達が風の様にピュッと素早い動きで屈強な兵士達をなぎ倒し、レイナ達の前に現れた。
「きえー! ケレス皇帝を殺してやる!」
 暗殺者達が悪魔みたいな形相でケレスを狙って襲い掛かって来る。レイナとテリレとタルトはケレスを守るためにケレスの前に立って暗殺者の攻撃を防ごうとする。
 暗殺者達が三日月状の剣をビュンビュンと、風の様に切りつけようとする。テリレが腰に巻いてある二丁拳銃をさっと取り出し、ケレスに襲い掛かってくる暗殺者に向かってバン、バン、バン!と何百発も撃っていく。
「うわあああああ!」
 テリレの銃弾を次々暗殺者に百発命中して、バタバタと倒れていく。他の暗殺者が銃の達人のテリレに恐れをなしていく。
 他の暗殺者がケレスに向かって大鎌でケレスに襲い掛かって来る。レイナがケレスを守ろうと、構えるがタルトが、「ケレス様を安全なとこへお連れなされ」とレイナに促す。
 レイナはケレスの手を取り、暗殺者から逃げようとする。それを見た暗殺者がレイナとケレスを追おうとするが、タルトが鋭い気迫で暗殺者に何千発の鉄拳を喰らわせる。
「ヒギイイイイィイイイイィイイ!」
 老人のタルトに覇気ある鉄拳を喰らわれた暗殺者達が悲鳴を上げながら、倒れていく。
 覇気あるテリレとタルトの攻撃にたじろいだ暗殺者達は武術の達人のテリレとタルトから攻撃のターゲットから外して、安全な所へ逃げようとするレイナとケレスをターゲットにしてレイナとケレスを追う。
「ムキー! 卑しい女め、ぶっ殺してやるー!」逃げようとするレイナとケレスを暗殺者が殺意をむき出しにしてレイナとケレスに襲ってくる。
「きゃああ!」
 レイナは暗殺者に剣で切られそうになって避けたが、地面に転んでしまう。転んだレイナは目の前に暗殺者が剣を構えて、立ちふさがっていた。
 レイナは恐怖で逃げたいが、足がすくんで動けない。レイナのピンチにテリレとタルトとエルフレルとアリスがレイナの所へ駆けつけようとする。暗殺者がレイナに剣で切りつけようとしたその時、
「あぶない! レイナ!」ケレスがレイナを庇って暗殺者の剣で切られてしまう。
「……う、うう」暗殺者に剣で切られて、肩から真っ赤な血がたくさん流れているケレスは苦しそうな顔をしていた。
 レイナは肩を切られて大量の血を流しているケレスの元へすぐに駆け付け、
「ケレス……!」と死にそうになっているケレスを抱きながら必死に声をかけた。
「陛下! しっかりしてください!」
「兄やん! おい! タルト、今すぐ手当をせえ!」
「ケレス様、今、手当てをしますから死んではなりませぬ!」
「皇衣を脱がさないと」
 レイナは手当てのためにケレスの皇衣を脱がそうとする。マントを脱がして、その下に着ている上衣を脱がした。
 ケレスの上衣を脱がして透明感のある素肌が皆の前に露わになった。怪我をしている方の肩を全部出した時、真っ白で柔らかなふくらみが露わになった時、皆の眼が疑ったような目になった。
「え、う、うそ、陛下、どうしてなの?」
 セレアがケレスのふくらみがある胸を見て、ショックを受けて悲鳴を上げた。
「男なのに胸のふくらみがあるって……」
 セレアがケレスがなぜ女の胸をしているのか、パニックになっている。「おい、み、見るな」大怪我をして苦しみながらケレスはセレアに自分の体を見ないでくれと懇願する。
「何で? 陛下が男じゃないって」
 街の民達がケレスがなぜ女の胸なのか、ざわざわしていた。ケレスは見た目は男だが女と男の両方の性別を持つ半陰陽だ。街の民達はケレスの体を見て自分達にない性を持っていた皇帝に戸惑いを隠せなかった。
 セレアはケレスの体を見て、違う違うと首を横に振っているのを見ていたレイナは、
「セレア皇后さま、今はそんな事言っている暇はないわ」ケレスの怪我の手当てを手伝って欲しいとセレアに頼む。
「ケレス様、しっかりしてください。お気を強く持つのです!」
 タルトがケレスの怪我をしている方の肩の傷ぐ口から流れる血を止めながら、ケレスに死ぬなと必死になって叫ぶ。セレアもレイナに懇願されて、ケレスを救おうと血を止めようとする。
「どうして。どうして今まで、私に嘘を」
「すまない、今まで嘘をついて……信じてくれないと思って……」
 いまだに現実を受け入れる事が出来ないセレアは、ケレスの傷口を抑えながら虚ろな声を上げる。ケレスは重傷を負いながらも、気丈に振る舞った。
「嫌よ、男らしい陛下であってほしい、あなた様は男なのよ! しっかりしてよ!」
「セレア! バカな事言っとる暇はあらへん!」
「フッ、ケレス皇帝が男じゃないって ハハッハ! 何て気持ち悪いのかしら!」
 ファイナがケレスが男ではないことを知って、ハハハと侮辱するかの如く嘲笑った。
「ファイナ! ケレスに何を言う!」
「く、私は、男でも、女でもない。半陰陽だ。だ、黙っていて、すまない」
 レイナはファイナがケレスの事を気持ち悪いと言った事に怒りを露わにした。ケレスはレイナの怒りを制するかのように弱々しい声で自分は半陰陽である事を皆の前に言った。
 アリア帝国の民達はケレスが男でも女でもない半陰陽である事を知った。民達はショックを隠せなかった。強国の皇帝が男ではないことにがっかりしていた。
 ケレスの傷口から血がどんどん流れていき、ケレスの意識が弱まっていく。レイナ達はケレスを死なせるかと、応急処置を施していく。
 レイナ達が必死にケレスの手当てをしているのを、バカにしたような目で見ていたファイナは、
「半陰陽だったのか。どおりで男らしくなかったわ。セレア皇后さまも不幸ね。こんな気持ち悪い奴と結婚させられてかわいそうね。ハハハ!」と、ケレスの事を見下すように笑った。
 ファイナが半陰陽であったことを隠して生きていたケレスをバカにしたのを耳にしたレイナは、腹の底から煮えくり返り、ファイナの方に顔を向けた。
 清楚だったファイナの顔は今、黒い目には光が無く、柔和な口元は醜く歪み、邪悪な女神そのものだった。
「半陰陽の皇帝がいるって事、世界中に知られたらどうなるんでしょうね? みんなからバカにされるわ! 恥知らずだわ! 気持ち悪くてしょうがない!」
 ファイナは醜い笑顔でケレスが半陰陽である事を世界に知られたら、皆にバカにされると言った。レイナの堪忍袋の緒がぷつっと、切れた。ファイナへの怒りが湧いてきた。
 レイナはファイナの元へゆっくりと歩いていた。暗殺者がレイナの怖さに怯えてたじろいでしまう。ファイナの近くまで来たレイナは「やめろよ」と凄みのある声で言った。
 ファイナは何よという顔をしていて、レイナはファイナのバカにするような顔が憎くて、
「ケレスをバカにするなぁああああああー!」と大声で叫びながら、ファイナの顔をドカッとげんこつで殴った。
「うあああああああああー!」
 レイナに強い力で殴られたファイナは地面に吹っ飛ばされた。レイナは地面に倒れたファイナをじっと見ていた。
「く、くうう。レ、レイナ」
「美しいケレスを気持ち悪いとかいう奴なんか、そっちの方が気持ち悪いんだよ!」
 ケガで苦しむケレスの方に目を向けながら、レイナはファイナに大切なケレスの存在否定したファイナに激怒した。
「いい、命は全て美しいのよ。どんな肌の色でも瞳の色でも、どんな体型でもそれぞれの美しさがあるのよ。それを気持ち悪いっていう奴なんか大嫌いよ!」
 人間にはいろんな個性があっていい。それを否定するような人間が嫌いなレイナは人を物のように扱うファイナに激を飛ばした。
「レイナ」
 ケレスは深傷に耐えながらレイナの方を見た。
「ファイナ、あなたは今まで辛い人生を歩んでいた事は日記帳で見たわ。だから障碍者を助けたいっていう気持ちがあるのは分かるわ。でも、金儲けの道具にしてまで人に褒められたいの? 違うでしょ!?」
 レイナはファイナが辛い過去があった事を考えながら、ファイナを止めようとする。ファイナはレイナにたじろぎながらこう言った。
「わ、私は……障碍者アイドルをプロデュースするのは、偉くなりたかっただけだ。弱い人に優しくするのを見せる事で、皆から称賛されたかったんだ」
 ファイナが障碍者アイドルをプロデュースを始めた理由が皆から称賛されるために始めたっていうのを聞いたデミンの家の障碍者達の怒りが頂点に達した。
「何だよ。ファイナ。僕たち障碍者はアクセサリーみたいなものだというの?」
「ひどいよ。ファイナさん。僕達はあんなに辛い事に耐えてきたのに、どうしてなの?」
「ハハハ! あんたたち障碍者なんて、私にとってはアクセサリーなんだよ。私を引き立てるアクセサリーだよ! バーカ!」
 ファイナがデミンの家の障碍者達をアクセサリー呼ばわりされて、マムルは怒りで「バカやろぅううぅうううう!」とファイナの顔を左手で殴った。
「うああ!」
 また殴られたファイナはファイナを睨んでいるマムルに向かって、
「ま、マムル! 貴様! ザコのくせに!」と雑魚呼ばわりした。今まで散々良い様にされていたマムルと障碍者達はファイナを睨んでいた。
「ファイナ、俺たち障碍者はお前ら上級国民のアクセサリーじゃない! 光り輝く命だ!」
「そうだよ。僕達は物じゃないんだ。人間だ。人を物扱いする様なファイナは奴隷以下だよ!」
「障碍者を金もうけの道具にしようとするとは、ファイナは天罰喰らったのも同然だ。てめえはケレス皇帝に罰を与えられるから、覚悟しろ!」
「黙れ!」
 障碍者は上級国民のアクセサリーじゃないと、怒りを露わにするマムルと障碍者にファイナは黙らせようと脅す。
「正義の味方なんて、嫌いだ! お前ら、こいつら全員殺せ!」
 金蔓の障碍者達に裏切られたファイナは狂気的になり、暗殺者達に自分を裏切った人間達を殺せと強く命令した。
「何やってんだよ! 早く殺せよぉおおおおおお!」
 ファイナがレイナにたじろいている暗殺者にレイナ達を殺せと罵倒してきた。ファイナに命令された暗殺者達は狂気的なファイナにオドオドしながら、レイナ達を殺すため殺意をむき出しにする。
 暗殺者達がレイナ達に殺意をむき出しにしてキシャー! と奇声を吠えながらレイナ達に襲い掛かって来る。
 レイナは傷を負っているケレスを守ろうと暗殺者に立ち向かおうとする。
 暗殺者達が凶悪な武器を持って襲い掛かってきたその時、ズバ、ズバッ! と風を切るような音が聞こえてきた。
 アルが剣でレイナ達に襲い掛かって来る暗殺者達を剛腕で一刀両断したのだ。
 レイナは瞠目して暗殺者を一刀両断するアルを見ていた。何故、暗殺者を斬ったのか、ファイナを裏切ったのか、様々な思いが交錯した。
 暗殺者全て倒したアルは、素早い剣さばきでファイナの後ろに回り背後からファイナの喉に剣を当てた。
「これ以上、未来ある命たちを失わせたくはない!」
 ファイナに剣を向けたアルは、マラウス大陸の未来を切り開くレイナとケレス達を助けるために剣を取った。ファイナはアルに刃を向けられて、恐怖で体を震わせた。
「アル・センファめ。私を裏切る気か? 私のお陰であんたは金と名声と権力を得られたのに、それをドブに捨てる気かい?」
「私が守るべき主は、お前ではない。陛下と陛下が愛するものすべてだ」
 アルが今まで自分を騙したファイナを裏切り、大切な主のケレスとケレスを愛するものすべてを取ると決意の言葉を叫んだ
「アル将軍」
 レイナは今まで自分達の邪魔をしてきたのに、何故自分達の方の味方になったのか分からない。ファイナにアルが同性愛者である事を晒されたからか、アルの妻を殺した憎しみが爆発したのかもしれないが。
「許せん! お前なんかただの駒のくせに偉そうな事言うな! 呪ってやる!」
「黙れ! アル将軍、兵士達よ……二人を捕らえて牢に入れろ……!」
 ケレスが傷を受けながら、腹の底から声を絞りながらファイナとセレアを逮捕せよと、アルや兵士達に命令する。アルと兵士達はケレスの命令は絶対と、セレアとファイナを容赦なく縄で縛りつける。
「や、やめろ! やめろ! 離せ!」
 兵士に縛り付けられたファイナは必死に抵抗した。アルは逃げようとするファイナを冷徹に平手打ちした。ファイナは自分を平手打ちしたアルを睨んだ。
 ファイナとセレアはテレストを暗殺した罪と障碍者に性接待を強要した罪で逮捕された。
 ファイナとセレアはひどい拷問の中、ファイナがセンファ一家を駒にするためにシアを殺した事、アリア帝国の金と権力を手に入れるためにセンファ一家を騙した事、テレストのシュバキアにアーモンドパウダーを混ぜてテレストにアナフラキシーショックで殺した事、障碍者達をアリア軍の兵士達に性接待を強要させた事、アリア王宮の国庫の金と財宝を横領した事をすべて自白した。
 あの日記に書かれた事は本当だった。
 セレアとファイナとアルが行った悪行がアリア帝国だけでなくマラウス大陸中に知れ渡り、セレアとファイナとアルに尋常じゃない怒りを爆発させた人間達はケレスに彼らを死刑にしろと訴える。
 肩を怪我したケレスは治療のため王宮で少しだけ休んだ。セレアとファイナの処遇の為に無理をしてでも体に鞭を打つ。
 レイナとケレスは地下牢に幽閉されているセレアとファイナに今後の処遇を告げるためにテリレと共に地下牢に向かう。
「陛下。お怪我の方はいかがでしょうか? 私のせいで」地下牢への階段を降りながら、レイナは肩のケガでまだ苦しそうなケレスを心配した。
「この傷は私が油断したから出来たものだ。いずれ治る」
 ケレスは肩を抑えながら、心配するレイナとテリレに気丈に振る舞った。
 レイナとケレスとテリレは地下牢に降りて、ざわざわと音を立てる牢屋にいる囚人たちの視線を浴びながら、一番奥にある独房まで向かった。奥にある独房は大きな犯罪を起こした罪人が収容する所だ。そのそれぞれの独房にセレアとファイナが収容されていた。
 ケレスが独房に閉じ込められているセレアの部屋のドアを兵士にコンコンと叩かせた。
 コンコンと音がしたのを聞いたセレアは、弱々しいそぶりを見せながら、ドアの方まで近づいた。
「申し訳ございませんでした……私がファイナに操られてなければ」
 セレアはドア越しで弱々しい声でケレスに謝罪した。レイナはセレアの謝罪の言葉を聞いて、言いたいことはあるが言わない事にした。
「私は陛下を愛していたわ。陛下を愛するがゆえに、皇太后さまを殺してしまった。ファイナの意のままにしたがってしまった事を後悔してる」
  ドア越しから涙声でケレスを命を変えてでも愛していた、愛していたが故に間違いを犯してしまった事を後悔していたセレアにケレスはセレアの犯した過ちを完全に許すことは出来ないが、
「何も言うな。セレアが半陰陽の私を愛してくれた事には感謝してるよ。でも、セレアも罪を贖って欲しい。それだけだ」ただ静かに罪を償えと告げた。
「あああ。お許しください」
 セレアがわああと、大きな声で泣き出した。セレアが反省の意を表しながら、隣の独房にいるファイナが、ドアをバンバンと乱暴に蹴飛ばしながら、
「ふざけるなー!」レイナ達をドア越しから罵倒した。
「呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやるぅううううう!」
 ファイナが格子の隙間から鬼の様な面持ちでレイナ達を呪詛を叫んでいた。レイナは格子の隙間から睨みつけるファイナに目をやった。
「レイナ! あんたがいけないんだ! お前なんか呪われろ!」
 何て障碍者を性の玩具にさせて、徳のある人たちの命を奪い、承認欲求を満たしたいがために戦争を起こしてまで自分を認めて欲しいと求めるファイナにレイナは怒りをこみ上げた。
 レイナとファイナは格子の隙間から火花を散らした。
「黙らんか! ファイナ、あんたのせいでパリスおじやんが汚名を着せられて死んで、オカンまで」
 独房に閉じ込められているファイナに向かってテリレは大切な人を失くした恨みを爆発させた。
「フン! 恵まれた人間なんか皆死ねばいいんだ。私は平等にさせただけだ」
「何やと! 世の中に不満があるんからって、人を殺してええ訳ねえ!」
「テリレ、やめよ」
 母やおじの仇を取りたいテリレにケレスは怒り狂うテリレを制した。ファイナは反省の色が見えない。ケレスは承認欲求を満たしたいがために多くの人を殺したファイナにケレスはファイナに声をかける。
「半陰陽の皇帝か。今まで世間に嘘ついたくせに、お説教でもしに来たのかい?」
「あなたはかわいそうな人だ。自分に自信がなくて、強い人間に寄りかからないと自分を守れない不幸な人だな」
「私は恵まれなかった。女だからって権力を持てない人生なんて嫌だから、強く生きようとしただけだ」
「そうか。私も同じだったよ。半陰陽であることを隠して強い皇帝として生きていこうと。でも、私がレイナと出会ったおかげで弱い自分も受け入れて生きていこうと。彼女は人を差別しない人だから」
「ケレス皇帝、お前だって何百万人の命を奪っているくせに、偉そうな事言えるのか?」
 ケレスはファイナを憎しみと悲哀さを併せ持った面持ちでファイナと面と向かって不幸な女と厳しい声で言った。レイナもファイナの事を不幸な女と思った。
「確かに何百万人の命を奪った事には後悔してる。その怨念を受けながら、過ちを繰り返さないように努力しなければならぬ。私は本当はセレアとファイナを死刑にはしたくないが……」
「やめろ、やめろ! 辞めろォ! 私を惑わせるなー!」
 ケレスの重みのある言葉にファイナは憎しみを爆発させて格子をギュッと掴みながらケレスを罵倒した。
「ファイナ! あなたは見返りばかり求めすぎよ。誰かに見返りばかり求めて、おかしくなっているのよ。それじゃあ、誰もあなたを愛せなくなってしまうわ」
「うるさい! 私に逆らう奴なんて愛せないよ。私に逆らう奴なんか呪われて死ねばいいんだよ!」
「何言ってるのよ! 愛する事は信じる事よ。たとえ裏切られても愛を信じる事。父と母だって私が何かやらかしても、私を捨てたりはしなかったよ。見返りばかり求めても意味ないじゃないの? あなたはそれを忘れてる」
「そうだわ。愛する事は信じる事か。そうね、私はそれを忘れていたわ」
 レイナの真摯な言葉にフッと何かを思い出したような顔をしたセレアは、涙をこぼしながら微笑んだ。
「セレア。お前」
 セレアが初めて笑ったのを見たケレスは何か言葉を出そうとするが思う様に出せない。
 セレアはふ、ふ、ははと穏やかな笑みをレイナとケレス達に見せた。悪魔の様だったセレアが初めて人間らしい姿を見せた。
「確かに私は父上と母上に愛されていたわ。こんなブスな私に対して、大好きって抱きしめてくれたわ。私がひねくれてなければ、もっと幸せになってたわ。ハハハ」
 セレアは淡々とケレスに呟いた。
「私ももっとに人に優しく出来たらよかったかもね」
 素直に生きていればよかったかも、レイナもその気持ちが痛いほど分かる。愛して欲しいなら、取り繕わずに素直に愛してると伝えれば良いのかもしれないが、なかなか上手くいかないのが現実だ。
 セレアがケレスやレイナに謝罪したのに対し、ファイナは自分の野心を潰された憎しみで、独房のドア越しから罵倒する。
「ちくしょう、みんな大嫌いだ。何で心がピュアな奴ばっかなんだよ。ピュアな奴なんか嫌いだあ!」
「馬鹿者! てめえこそピュアな奴を見習って生きてればこうならなかったんや! あんたはマラウス大陸の癌や!」
「黙れ! 恵まれた奴に言われたくないわ!」
 テリレの言う事は理解できる。計算して生き続けていたら人間の本当の愛なんか永遠に手に入れられない。ファイナは人に見返りばかり求めて生きていたから恨みを買うことになったのだから。
「ファイナ、よく聞け」
 ファイナに憤怒の眼で睨まれるケレスは、
「人を恨んでいる暇があるなら、明日の裁判を受けろ。民達が納得いく判決にするつもりだ。それを受け入れる覚悟をしておけ」とセレアとファイナに明日の裁判の事を言い、マントを翻しながらレイナとテリレと共に地下牢から去った。セレアは去るケレスに何度も泣きながら謝罪した。罪を償おうとしないファイナはドア越しから何度もレイナとケレスに呪ってやると罵倒した。
 ファイナとセレアは裁判によって、死罪判決を受け、即日死刑執行された。民達の意見を聞きながら、ケレスはファイナとセレアを死刑に処した。どんな身分の者でも罪を償う必要があるからだ。民から重税を課し、民に苦しい生活を送らせているのに、自分達は贅沢な生活を送っていたセレアとファイナが処刑されてよかったと民達はホッとしているそうだ。
 王宮で軟禁状態のアルはアリア軍の兵士がデミンの家の障碍者に性行為を強要させた罪と複数の兵士達との同性愛行為を行った罪として生涯監視の対象となった。
 ケレスは平和なマラウス大陸を取り戻すために、寝ずに働き続けた。アリア帝国に占領された他国を独立させた。対等な関係になる様に他国と平和条約を結んだ。占領されていたイリア王国も独立させて、奴隷になったイリア人も解放させてイリア王国に帰すことになった。イリア王国がケレスによって解放されたことで、レイナも奴隷の身分から解放された。レイナはイリア王国に戻れるようになった。
 忙しいケレスの公務を手伝うレイナは、ようやく故郷に戻れるとケレスと楽しそうに話してた。
「ねえ、イリア王国の奴隷たちをすべて解放できるのね」
「ああ。奴隷制度を廃止したから、皆自由だ。私は早くから奴隷制度を廃止したかった。人は物じゃない。命を粗末にしたくはないわ」
 ケレスが長い睫毛を伏せながら、もっと早くアリア帝国の古い制度をやめさせたかった事をようやく終わらせる事が出来て、レイナもホッとした。
「陛下がいて良かった。そうでなければ私だってどうなっていたか」
 レイナはケレスの手を取り、ありがとうと小さな声で言った。ケレスもレイナの手を握り返して、小さい声でありがとうと囁いた。
「そういえば、アル将軍はどうなるの?」
 レイナはケレスの顔を見上げながら、アルはこれからどうなるのかと聞いた。
 タルトから聞いたが、アルは将軍の地位を剥奪され、今まで築いた財産も全て没収されたらしい。アルは一生屋敷で監視されながら生きるという話は聞いた。レイナはアルの過去をファイナの日記で知ったが、世間から非難を受け続ける事にどこか疑問があった。
 レイナとケレスがアルのこれからに心配をしているうちに、ケレスの執務室の外から何かドタバタと大きな足音が聞こえてきた。
「大変だ! 陛下! た、大変です!」
 バーンと大きな音でドアを開けたタルトが、大汗かきながら焦った様子でレイナとケレスの元へ駆けつけてきた。
「どうしたのだ? タルト、何かあったのか?」
 大汗かいて焦っているタルトにケレスは、どうしたのかと、真剣な顔で聞く。
「大変なんです! あ、アル将軍が!」
「アル将軍に何かあったのか?」
 タルトから軟禁状態だったアルが監視の目からすり抜けて、王宮の庭園で短剣を持って自殺しようとしていると聞いたレイナとケレスは、すぐに庭園まで走った。
「ウゥウウ! アアああああ! うあああああ!」
 庭園の池の前にいるアルが短剣を持って狂気的泣き叫びながら、手首を切ろうとしていた。周りにいる兵士と女官達はアルを止めようとするが、こわくて近づけない。
「ちょ、ちょっと! おやめください!」
「ぐうう、ううう、わ、私はもう! もう!」
 一人の兵士が恐る恐る自殺しようと手首を切ろうとするアルを止めようとするが、狂ったように暴れるアルに短剣で切られそうになって思わず逃げた。
「死んでやる! 死んでやるー!」
 青い眼から滝の様に涙を流しながら、気がふれたように叫ぶアルを見たレイナとケレスは、
「アル将軍! 何をしている!?」アルを止めようと駆け付ける。
「ううああああ! 私はもう終わりだぁー! 死んでやる! しんでぇやるぅうう!」
 何もかも失って絶望的になったアルは泣き叫びながら、短剣を喉につきつけようとする。
 レイナは短剣で自ら死のうとするアルを止めようとしたその時、バシッ! と何かぶつけられた様な大きな音が聞こえた。
 ケレスがとっさにアルの短剣を奪い取り、アルの顔を思いっきり殴った。ケレスに殴られたアルは地面にガタンと、倒れる。
「馬鹿者! 自ら命を絶って逃げようとするな!」
 ケレスが地面に倒れたアルにカンカンと火山が噴火したように激怒していた。
「なぜです? 私は多くの人を傷つけた。私が嘘をついて生きてきたから、天罰が下ったんです。死んで当然です」
「死んで良い命があると思っているのか!? いい加減にしろ!」
 ケレスが強い眼と声でアルに死んで良い命なんてない、と力強く叫んだ。それを聞いたレイナはある種の衝撃を受けた。
「アル将軍、命は一つしかない。だから大切にしなければならぬ。お前はどんな苦境に対しても何度も立ち上がって来たんだろう? どんな批判があっても生きろ。お前の為に死んだ人たちの為にも這い上がってこい!」
 どんな批判を受けても決してあきらめる事無く何度でも這い上がれと、言うケレスの強い言葉にアルはぷつっと何かの糸が途切れたかのようにワンワン泣きじゃくる。
 地面に伏せて号泣するアルにマムルは、アルの背中を撫でながらこう言った。
「アル。俺はあんたの事好きだったんだよ。一人だった俺の事好きって言ってくれたから、愛したのに、俺が右腕失くして軍をやめる時どうして俺を捨てたんだよ」
「マムル、すまない。本当はお前のそばにいたかったんだ。ごめん。うう、ふあああ~! ぐう、ゥゥア~!」
 マムルが目頭を熱くしながら、アルの事を真摯に愛していた事を吐露した。それなのに自分を無残に扱った事への怒りも含まれていた。マムルの本心を聞いたアルはううと泣きながらマムルに抱きしめようとするが、逆に拒まれる。
「あんたは勝手だよ。人を散々振り回して、そばにいたいなんてあんたの我儘に振り回されたくない」
「何でだよ? もうお前を捨てたりしないから。本当だ。うう、はああ~!」
「ごめん」
 マムルはアルに従順だったが、ひどい目にも遭わされていたためこれ以上アルに振り回されたくないと、アルを突き放す。
「ううっま、うあああああ! 何でだぁ? 私はどうすればいいんだ? 私は何を生きがいにして生きればいいんだああ!?」
「ああ、アル将軍は弱ってるんだ。どうすれば」
「兄やん、ほっとこうぜ。こいつに構ってもええ事あらへん」
「うううん、ああああん! 死にたいよ! 死んでやる!」
 ワンワンワンとおもちゃを取られた子供みたいに鼻水垂らして泣いて暴れるアルは、もう誰でもいいから慰めて欲しいとあちらこちらの人間達に構って欲しいアピールする。
 周囲の人間達から、わがままな子供みたいに大暴れするアルの事がもう付き合ってられないと、呆れていた。
 周囲に人達からボロクソにされて、どうしようもないアルは青い瞳から滝のような涙を流して、ひどく号泣した。ケレスもテリレもマムルも弱い子どもみたいなアルの事を哀れに見ていた。レイナも自分を散々な目に合わせたアルが憎くてたまらなかった。アルに殺された両親の為にも一矢報いたい。辛い過去があった事には同情するが、両親と故郷を奪った罪をなかったことにするのは出来ない。
「ふぎいいい! うう、がああ~! レイナー! 貴様のせいでこうなったんだ! お前なんか、大嫌い! 大嫌いだ!」
 アルがゴロゴロと芋虫みたいに転がって、泣きわめいているのを見ていたレイナは、
「人のせいにして、バカじゃない?」とアルの主張をひっくり返すようにに言った。
 レイナの突然の一言に庭園の人達の声で一気に静まった。ケレスは整った唇を震わせながら、何かを悟ったような佇まいをするレイナを見た。テリレもアリスも、レイナがバカじゃないのと、いう想像もつかない様な事を言うのに体を震わせていた。
「く、な、何でお前は自由に生きてられるんだ? 自由に生きれない私はお前が憎かった。お前を見てるたびにムカついてくるんだ」
「ふう、人間って不満があるたびに人のせいにしたくなるわよ。私もそうよ。それでも前向いて生きるしかないわ」
 レイナはふと何か、思いついた。ケレス達は何か満たされなくてイライラしている。レイナはケレス達の方を見ながら、
「みんな、何か食べませんか? 私が作るからちょっと来て欲しいわ」明るい声で何か満たされなくてイライラしているアルやケレス達に向かって王宮の中へと軽やかな足取りで向かっていく。
 何だよと不満げな顔をしているアルは、レイナを懲らしめようとするが、タルトがアルの前に立って冷静な声でこう言った。
「ホッホ。少しはレイナさんを信じてみたらどうじゃ?」
 タルトに窘められて、怒れなくなったアルはしょうがないという顔をしてレイナについて行った。
 厨房に入ったレイナは、厨房の担当の若い女官にに食材はどこにあるのかと聞いてさっそく何か作る事にした。まずセモリナ粉が入っている袋から計量カップでセモリナ粉を出してボウルに入れた。
 それから卵と牛乳をボウルに入れて泡立て器で混ぜた。生地がもったりし過ぎないようにさっと混ぜた。レイナは出来上がった生地をフライパンに流して、お玉で丸い形を作っていく。あまり火が強過ぎないように調節しながら、焼いていく。
 ぷつぷつと蜂の巣みたいに生地に穴が開き始めたら、ひっくり返してまた焼いていく。 
 両面に焼き色が付いてから、フライ返しで生地を皿に取り出して、蜂の巣みたいにたくさん穴が開いた生地に蜂蜜とアルガンオイルをトロリとかけていく。
 出来立てほわほわのシンプルなパンケーキが完成した。
 レイナは皆の分のパンケーキを完成させてから、食堂にいるケレス達に出来立てのパンケーキを運んで行った。
 女官や兵士達が使う大きな食堂に待っていたケレス達にレイナは作ったパンケーキを丁寧に配っていった。
 蜂の巣みたいにたくさん穴が開いているきつね色の生地にとろりとした蜂蜜と、黄金色のアルガンオイルの色合いが美しいパンケーキがおいしそうな匂いが立ち込めている。
「美味しそうですね」
「シンプルなパンケーキだな」
 ケレス達が香ばしい匂いがするパンケーキを見て、美味しそうだと舌鼓する。
「そ。このパンケーキは一見シンプルだけど、パンケーキの中にいろんな思いが詰まっているの」
「まあ、食べてみて」
 レイナがケレス達にほっかほかのパンケーキをもてなした。ケレス達は出来立てのパンケーキをフォークとナイフでパンケーキを小さく切ってから、パクッと食べた。
「美味しい。モチモチしてて」
 パンケーキを口に入れたアリスが美味しいと喜んだ。
「アルガンオイルの香ばしい香りが良いな。母上が良く作ってたの思い出す」
 ケレスもテリレもタルトもマムルも香ばしくてあったかくてもちもちのパンケーキが、あまりにもおいしくてとろけそうな顔をしていた。レイナはみんな喜んで食べてくれて、嬉しくなった。
「う、うう、うう~」
 その一方で、パンケーキを食べて号泣している人が一人いるが、「おい、また泣いとるのか?」テリレがやれやれとパンケーキ食べてワンワン泣いているアルに呆れている。
アルが泣きながらパンケーキを食べながら、「こ、このパンケーキ……シアが作ってくれたのと同じ味だ」レイナが作ったパンケーキの味を懐かしんでいた。
「そうなのか? いつもこういうの作ってたのかい?」
ケレスの問いにアルがうんうんと頷きながら、「私が任務から帰ってくるたびにシアが私の為に心を込めて作ってくれた。もっちりとした生地ととろける蜂蜜と香ばしいアルガンオイルの香りがシアの優しさがあふれていた。
 私はシアを愛していた。同性愛者の私を陰から愛してくれた。私はシアだけは失いたくなかった」
 妻のシアが愛するアルの為にパンケーキを作ってくれた事を呟いていた。アルは同性愛者の自分を何の見返りもなく愛していたシアを守りたかったという言葉にレイナは、アルは男としての責任と、自由に生きられない辛さを持った哀れな男だと、レイナはパンケーキを涙流しながら美味しい美味しいと、食べるアルを見てそう思った。
「あなたは奥様を心の底から愛してたのね」
「もっと、ありのままに生きればシアも幸せだったのかもしれない。同性愛を否定する様な世の中じゃなければ」
「私はあなたが憎かった。本当のあなたを知るまでは。強い男を演じなければならない苦しみを知って、私も変わったわ」
「変わった? フッ、お前は変わってない。レイナはわがままな女だ。何もとらわれずに生きる風だよ」
「そう? 私はケレスと出会ってから変わったよ。人は皆、弱い存在だってね。強くならなくていいのよ。ファイナもセレア皇后さまも可哀そうな人だっていうの分かったし」
「弱くても良いか」レイナが弱くてもいいから、とにかく生きろという優しい言葉にケレスは穏やかに目を閉じて、ホッとしている。
 レイナが弱くても生きろという言葉に、アルはレイナをジーッとバカにするような目で見られてレイナは何だと身構えた。
「お前は自由気ままだな。私の事散々刃向かったくせに、私を助けるなんてな」
「何よ。また私とケンカする気?」
「私はレイナなんか嫌いだ。お前みたいなわがまま女のせいでめちゃくちゃにされて最悪だ!」
 レイナはアルにわがままな女扱いされて、頭に来てまたアルと睨み合ってケンカになった。レイナとアルはお互いに睨み合って、険悪な雰囲気になっている所にケレスが、にこやかな顔をしながら
「お前達、ケンカするな。パンケーキが冷めてまずくなるよ」厳しい声でレイナとアルに言いつけた。
 睨み合っていたレイナとアルは、ケレスが天使みたいな顔で怒られて、ウッとなった。
「へい、分かりましたよ! ケレス皇帝陛下!」二人はそそくさにケレスに謝って、ケンカをやめた。
「皆、レイナがパンケーキを作ってくれたんだ。レイナー、もっと欲しいよー」
 ケレスが口の中にパンケーキを頬張りながらもっと欲しいと言われて、レイナはフフッと微笑みながら
「もっと欲しいのですか? じゃあ、たくさん食べてー」もっともっとみんなに食べてもらいたくて、またパンケーキ作りに励む。
「ハハハハハー」
 レイナは今まで憎んでいたアルと少しだけ距離が変わった。たとえ敵同士でも、言えない事情もあったからレイナの考え方も少しだけ変わった。
 レイナは明日は奴隷の身分から解放されたイリア王国の民達と共にイリア王国に戻る事になるが、ベッドで寝転がるレイナはなかなか眠れない。ようやく故郷に帰れるのに、レイナのモヤモヤはなかなか消えない。
 故郷に帰っても両親がもういない。今までと違った人生を歩まなけれならない。レイナのモヤモヤは消えないまま明日を迎えた。
 次の日の朝、レイナとイリア王国の民達がアリア帝国の出入り口の前にいた。解放されたイリア王国の民達は過酷な奴隷労働から解放されてすがすがしい笑顔でいっぱいだ。レイナは久しぶりに再会したイリア人達の笑顔にホッとする。ケレスとテリレとアリスとエルフレルやマムルとヨミと障碍者達が自由になったレイナ達を見送りの為に色んなものを用意してきた。
「レイナ、ようやく自由になれて」
「うん。ケレスのおかげでイリア王国に帰れるわ。ありがとう」
「レイナはん、あんたがイリア王国に帰るなんて、寂しいやな」
 テリレがレイナにアリア方言で、名残惜しそうに言われて、レイナもちょっと寂しい気持ちになる。
「テリレ皇子さまもアリス妃さまもエルフレルさんにも会えて良かったです。ありがとうございます」
「レイナ様、また会えますよね? 私は寂しいですぅー。せっかくお友達になれたのに」
「大丈夫だよ。エルフレルさん。また会いに来るよ」
「ううう、レイナ様ー!」レイナと別れたくないエルフレルは、泣きながらレイナをギューッと抱きついてきた。エルフレルに抱きしめられて、少し照れるレイナはやっぱりエルフレルは良い人だと改めて分かった。
「絶対ですよ? またアリア共和国に来てくださいよ。約束ですよ? うう」
「エルフレル。わんわん泣くとはなー」
「テリレ、別れは誰だって悲しいもんだ。それを乗り越えぬと」
「せっかくのお友達です。別れたくないの分かるわ」
「そやな」
 テリレもアリスも、レイナがイリア王国に帰ってしまうのが口惜しいと、レイナも分かる。
「また会いに来ます」
 レイナはエルフレルやテリレ、アリスにまた会おうと、明るく言う。もう会えなくなるのはわかっているが。
 デミンの家の障碍者達がレイナと別れるのを惜しみながら、レイナに自分達を自由にしてくれた事に感謝する。
「マムル君、ヨミ君、みんなもお元気で」
 レイナは障碍者達との別れを惜しみながら、元気でいてねと明るく言う。障碍者達も涙をこらえながら、頷く。
「レイナお姉ちゃん。これあげる」
 ヨミが涙をこらえながら、ヨミの車いすの後ろから何か取り出す。ヨミが白いマーガレットの花束を取り出してレイナに渡した。
「お花? 私にくれるの?」
 レイナはヨミから白くて可愛いマーガレットの花束をもらって、可愛いと目を輝かせた。
「ぼくらはお花をあげることぐらいしか出来ないけど、気持ちはすごくあるよ」
「ありがとう。嬉しい」
 レイナはヨミや障碍者達の心の温かさに触れて、嬉しいと喜んだ。
「やっぱりヨミ君は良い子だね。あなたは立派な男よ。アル将軍より男前よ」
「何言ってるんだ? レイナ、ヨミは女の子だよ」
 マムルがちょっと冗談に聞こえない様な発言をして、レイナはへっ?って変な声が出た。
 ヨミが女の子ってどういう事ってレイナは驚いて、ヨミは女性的な男だと思っていたが、ヨミにレイナの手を取ってヨミのほんのりと膨らみがある胸元を触れた。
 ヨミのふくらみがある胸元を触れたレイナは、嘘でしょと、口が開いてしまった。ヨミはフフフと柔らかく笑いながら、
「そうだよ。僕は本当は女だよ。女の格好してるとバカにされるから、男の格好してるんだよ」と、男装して生きていた事を明かした。
「ええ? そんな……ふえええ」
「何しょぼくれたんだよ。どっちでも良いんだよ。悪い事しなければダイジョーブだから。な? ヨミ?」
 ヨミが男装している女の子である事を知って、ショック受けているレイナにヨミとマムルは、ハハハハとさっぱりとした感じで笑い合っていた。
 そういえばマムルはデミンの家の障碍者達と一緒にお店を開くという話を聞いたレイナは、
「マムル君はお店開くっていうけど、お金とか大丈夫なの?」お金は大丈夫かと、尋ねてみた。
 するとマムルは、懐から袋を取り出してたくさんのキラキラした金貨を取り出した。レイナはマムルの手にたくさんの金貨を持っているのを見て、えーって、両手を上げて驚いた。
「安心しろ。俺が競馬でこっそり稼いだ金があるから、開業資金は大丈夫だ」
「にー!」
 他の障碍者達もマムルが競馬で稼いだ金貨をニコーッとした顔でたくさん持っていた。マムルはギャンブル好きと聞いていたが、ギャンブル運が相当強い事にレイナとケレスは、すごいと感心した。
「すごいわ。マムル君は立派な人だわ」
「俺らは何度でも這い上がるぜ。障碍者でもしぶとく生きてやる。アルも辛い状況から這い上がってきてもらいたいよ」
 マムルが青い空を見上げながら、アルが底辺から這い上がってもう一度輝いて欲しいと、穏やかな笑みで呟いた。レイナはマムルがアルの事を大事に思っているのが分かった。
「そうね。みんなが生きやすい世界になれたら良いね」
「俺はあいつが元気でいてくれれば、それでいいんだ。あいつに嫌な事もされたけど、あいつだって人に言えない悩みがあったから」
 レイナも空を見上げながら、変なしがらみに縛られない様な自由な世界が出来る日がやって来ることを願った。レイナはケレスやテリレ、アリスやマムル、アリア帝国の人々の希望にあふれる笑顔を見て希望を持った。
「レイナ。君のおかげでマラウス大陸が平和になって良かったよ。ありがとう」
 ケレスがふんわりした声でマラウス大陸を平和に導いてくれた事にレイナに礼を言い、握手を求めた。ケレスに礼を言われて、恥ずかしがりながらケレスと握手を交わす。
「私一人の力ではないよ。君がいてくれたから、暗闇の世界から抜け出す事が出来た。レイナは私の大切な友だ。これからも」
「ケレス、私もあなたの事は忘れないわ。私の一番の友達よ。私の肌を世界に一つだけの肌って褒めてくれたもん」
 レイナはケレスは幸福を呼ぶ人魚だと、改めて感じた。自分の肌を世界に一つだけの肌って褒めてくれたケレスを絶対に忘れないと。
 ケレスは長い両腕を伸ばして、レイナと抱きしめ合った。ケレスはあったかいお日様みたいな匂いがした。
「大好きだよ」
「私も大好き」
 大好きといい合いながら、形にとらわれない絆を大事にしたいという抱擁だ。
 レイナはケレス達に見送られて、イリア王国の民達と一緒にアリア帝国を出た。
 レイナとイリア王国の民達はアリア帝国の城門を出て、広大なオレンジの砂漠を歩み始める。一列に並んでオレンジ色の砂漠をサクサクと歩くレイナとイリア人達は、まっすぐイリア王国に向かう。
 イリア王国に帰ろうとするレイナはどこか浮かない顔だ。レイナは徐々に遠くなっていくアリア帝国の城門を振り返りながら、せつない顔で見つめる。
「なぜ、私は嘘をついたんだろう。もう会えなくなるのに、また会えるって」レイナはポツンと寂しげにつぶやいた。
 レイナの後ろにいるふっくらとした美人のイリア人女性がしょんぼりとしているレイナを心配そうに見つめられる。
 レイナは立ち止まり、アリア帝国の方角に向けて、何か忘れられない様な顔をして見つめる。
「やっぱり寂しいよ。テリレ皇子さま、エルフレルさん、アリス妃さま、マムル君、ヨミ君、ケレス……あなた達がいなくなれば私は一人ぼっちだよ……」
 レイナの黒い瞳からツーッと何かが流れてきた。これからの人生を歩む不安の涙だ。
 レイナのモヤモヤの灰色の煙がレイナの周りにまとわりついて、離れられなくなる。レイナと一緒に並んでいるイリア人達もどこかに消えていく。
 灰色の煙に包まれたレイナは、ポロポロと涙を流して座り込む。灰色の煙はますますモヤモヤとまとわりつかれて、レイナはうあああと泣き崩れる。
 レイナがえんえんと泣き崩れている時、おーい、おーい!と、男らしい声で誰かを呼んでいる様な声が遠くの方から聞こえてくる。
 レイナはおーい、おーいと、何か呼ばれている様な気がして思わず、立ち上がってキョロキョロと辺りを見回す。灰色の煙が立ち込められて、声の主が見えない。
「レイナ! どこにいる!?」
 灰色の煙の中から前に聞いたことがある声がレイナの耳に入る。誰?と、レイナは聞き覚えのある声の主を探そうと、声が聞こえる方向に向かって走っていく。
 灰色の煙の中を走るレイナは、声の主を探す。
「レイナ! 私との勝負はまだ終わってないぞ!」
 煙の中から、茶色い馬に乗ったアルがレイナを探していたのが分かった。レイナは驚きを隠せなかった。
「何で、アル将軍がここにいるのよ!?」何で自分を追いかけてきたのかと、レイナは泣きながら怒っていた。あんな苛立つような男にまだしつこくされなければならないのか、腹の底からぶちまけたくなる。
 レイナを追いかけてきたアルは、馬から降りて真剣な顔をしてレイナを見つめてくる。
「お前がいなくなるのは嫌だ。私はお前のおかげで立ち直ろうとしてるのに、本当に腹正しいわ!」
 灰色の煙が立ち込める中でアルにレイナがいなくなる事に嫌だと言いながら、腹立たしいとか言われたレイナは何でよと、口を震わせてくる。
「私は、これ以上アリア帝国にいるとみんなに迷惑がかかると思って、故郷に帰るつもりだったのに」
「フッ、レイナよ。本当はアリア帝国にいたいだろう? どうして嘘をつく?」
「それは。私はイリア人よ。そりゃケレスと一緒にいたいよ。でも、ケレスやみんなに迷惑かけれないよ」
「何を言ってる!? お前は寂しいって顔に書いてるじゃないか!?」
 レイナはアルに寂しいと、顔に書かれているって真剣な声で言われてエエッと、顔に手を当てる。慌てるレイナを見てアルはハハハッと甘い声で笑われて、レイナはプーッと怒って顔を膨らませる。
「レイナー! 私はレイナと友達でいたい! だから私と一緒に戻ろう!」
 アルに笑顔でレイナと友達でいたいという、真摯な思いを聞いたレイナは、思わずドキッとしてしまう。
「お前がいなければ、アリア帝国はファイナみたいな悪魔に支配されていた。アリア帝国を救ってくれたお前に礼を言いたい。ありがとう」
「でも、でも……アル将軍を許すことは出来ないわ。私の両親を殺したくせに」
 アルにアリア帝国をファイナの魔の手から守ってくれたからって急にお礼を言われて、レイナは両親を殺したくせに何でよと、戸惑う。
「分かっている。だから、この罪は一生かけて償う。一緒に戻ろう。お前は私の心の恩人だ。陛下もきっとお喜びになるはずだ」
 アルの言葉に偽りがあるかどうか分からない。今まで自分に酷い事たくさんしたくせに、急に改心なんかされてアルに振り回させそうになるレイナは、思わずアルの視線からそむいてしまう。
「私は……」
 言葉を詰まらすレイナは、アリア帝国に戻るかどうか迷っている所に、急に星々が瞬く空間に落ちていく。
「心のままに生きなさい。レイナ」 
 星々が瞬く空間の中に落ちていくレイナの手を取る、アレルアの幻影がレイナに微笑みながら心のままに生きろと、エールを送る。
「レイナー! もう好きな様に生きて良いんだよ。お前はもう大人なんだから、自分で決めなさい」
 レイナの肩をポンと叩く、マルクの幻影に好きなように生きろと、大らかな笑みでレイナを応援される。
 マルクとアレルアの幻影がレイナを応援してくれている。宇宙空間に舞うレイナは、掌を天に向ける。暗い宇宙空間が一瞬で消えて、晴天が一気に広がって来る。
「……私は、みんなといたい! ケレス達と一緒にいたい!」煙だらけの世界から晴天が広がる世界に変わった。もう迷わないと、レイナはアルに向かって思いっきり走った。笑顔でアルの手を握る。今までの心のしこりが一気に取れて、新しい道が開いてきた。
「一緒に帰ろう。大切な人たちの元へ」レイナへの憎しみの縄が解けたアルは、甘い笑みでレイナと一緒に帰ろうとレイナの手を取る。
「行きましょう。ケレスやみんなが待っていると思う。私がいるべき場所はこのポーラスターの片隅にあるアリア帝国だもん」
 レイナはアルの馬に乗って、アルと共にアリア帝国に向かって駆けていく。レイナとアルの表情は希望に満ち溢れていた。
 それから一年後。アリア帝国は他国と手を取り合いながら独裁政権だったのが共和制に変えてアリア共和国となった。貧しい民達を優先的に助ける政治を行うケレスは、暴君扱いされていたのが類まれなる名君と呼ばれるようになった。
 アリア共和国に戻ったレイナは、アルと一緒に貧困地区のカサミ区の再開発に携わるようになった。ゴミと糞尿まみれのカサミ区の街を綺麗に清掃して清潔な街にした。貧しい暮らしをしていた住民を救うための保護施設を建設した。お金が無くて学ぶ事が出来ない子どもたちの為に学校も作った。貧しかった街がレイナやアル達の努力によって、住民たちの自立を促す事が出来た。
 貧しかったカサミ区がマラウス大陸で一番美しい街に変わった。真っ暗なスラム街が白と青が美しい街並みになった。
 レイナもアリア共和国に暮らし始めて、アリア帝国の民達と関わる様になってからますます変わっていった。ネガティブになる事をやめて、ありのままに生きる様になった。何かやらかしても騒がずに冷静になる様になった。
 傲慢だったアルもすっかり反省して、皆の気持ちを汲み取るように行動する事が出来るようになれた。アルを許せない者もいるが、それでもアルは誠実に貧しい民達を救う努力を欠かせなかった。
 春のバラ祭りの日に、アリア共和国の広場にたくさんの人達がダマスクローズの花を持ってバラ祭りに参加する。ダマスクローズの花束を持った華やかなカフタンを身にまとった若い娘たちが、虹が出てきそうな華やかな歌や踊りを踊ってみんなを楽しませていた。ファイナから解放されたデミンの家の障碍者達も一緒に歌や踊りを楽しんでいた。
 レイナとケレスも華やかで幻想的なデザインのカフタンを身にまとってお日様みたいな明るい笑顔で皆と楽しく踊っている。
 一緒に踊るレイナは、隣にいるケレスが最初に出会った時はどこか闇を持っていたオーラがすっかり消えて、艶やかなピンクのカフタンが良く似合う柔らかいオーラを輝かせているケレスが今、ここにいる。
 アルも初めはレイナに女のくせにとか言って、イジメてきたけど今はすっかりファイナのマインドコントロールから解放されて、ありのままに生きている。レイナは、優しくなったアルを見て、良かったと呟いた。
 レイナとケレスとアリア共和国の民達は、未来の為に笑い続ける。どんな辛い事があっても決して逃げたりしない。何度でも這い上がってくる事こそがポーラスターを輝かせる秘密かもしれない。
 どんな事があってもあきらめるな。たとえ批判されても何度も這い上がれ。とにかく生きろ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...