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あなたがよんでくれたから

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 待ち合わせの駅の改札で待っていると人事の男は指定した時間ぴったりに改札を抜けてやってきた。3月にしては肌寒く、小雨も降っていた。
「東京は雨が多いんですか?」
 会話のきっかけとしては悪くない天気だったので、しっかりと使わせてもらうと安っぽいビニール傘を用意しながら人事の男はのんきに答えた。
「いやー、ここ最近晴れていたから雨でびっくりしたよ」
 つまり私の幸先が悪いと言うことだろうか。

「コンビニかどこかで傘を買いますか?」
 ぱんぱんのリュックとトランクケースを引きずる私を見ながらそう提案してくれたが、いくら雨とはいえ両手をふさぎたくなかったので辞退した。

 駅から数分、マンションに着くと別の人事の女性が待っていた。軽く挨拶をして男とマンションの一階にある大家さんと管理会社の人に挨拶をして注意事項に目を通して鍵を受け取ると外で待っていた女性を入れた三人で二階の角部屋、私の新居へと向かった。
 やけに細長い鍵だなと思いながら鍵穴に差し込むと、鍵の長さには比例ぜずつっかえることなく鍵穴に収まった。鍵を回すとするりと開く感覚がした。鍵を取り出してドアノブに手をかける。ここから私の新しい生活が始まるのかと思うと神妙な気持ちになった。

「ではこちらのmacを使ってください」
 すでに届いていた家具類の梱包を三人で解くとどうやら想定していたよりも早く終わったらしく、せっかくならと早速会社へ向かうことになった。
 地方の支店にいたため本社に来たのは数えるほどしかなく若干緊張していた私はまるでお上りさんのごとくきょろきょろと会社の中を見渡していると男性から白くて四角い箱を手渡された。
 macだ。手渡されたmacの箱を開ける。最新モデルではあるが上から二つ目のモデルだった。せっかくなら一番上のモデルがとも思ったがそれは分不相応だろうと納得しさくさくと設定を進めていった。
 設定自体でつまづくことはなかったが会社の情報や導入するセキュリティソフトについて、私のあずかり知らぬ部分の設定はマンションで待ってくれていた人事の女性が教えてくれたのでそれにしたがって進めていった。

 バンドマンとか追いかけていそうな目元が濃いめのメイクに森ガール風の服装が妙にマッチしていてこの組み合わせも中々良いななどと考えていると全ての設定が終わった。
「それじゃあ、何かあったらいつでも相談してください」
 そういって自分の席に戻った彼女に軽く会釈をして設定が終わったばかりのmacを携えて人事の男の元へと向かった。

「設定終わりました」
 男のデスクは様々な書類が散らばっていたがそれに気を止めることもなく男は画面に目を凝らしていた。
「早いですね、では向かいましょうか」
 設定が終わったら帰れるものだと思っていた私は若干面食らったがmacを携え男に付いて行った。

「ここが主に企画部のデスクです。基本的にはオープンデスクなのでどこでも良いのですが、大体ここら辺で働いています」
 案内されたデスクは清潔で充電用のコンセントに筆記用具、足元にはゴミ箱が設置されており先ほどの男のデスクと比べると大違いだった。というかそもそもデスクに人がおらず開放感からか余計に清潔に見える。
「誰もいないということはおそらく会議中かもしれないですね」
 そう言うと男はスマホを操作し始めた。手持ち無沙汰の私はmacをデスクに置き明日から私が働く職場を見渡した。
「会議終わりの時間なのでもうすぐ戻ってくると思いますよ」
 男がそう言うやいなや私の視界に一人の女性が飛び込んで来た。

 5年前の私の彼女だった女性が。

 流れに流れて私は、かつての彼女と再開を果たすことになった。
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