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【 38 】
しおりを挟む──── 劇の本番って言っても( 笑 )、要は客席に人がいるかどうかの違いしかないし ‥‥‥ 演じる当事者からすると退屈なルーチン消化 ? みたいな ? そういう一面もあるんですよ実は。 練習で何回もセリフは言ってるし聞いてるし、あとは位置取りぐらいですか、注意するとしたら。 そういう意味では自分を驚かせる要素 ? って考えてみたら何もないですね ( 笑 )。
クラスメートとかによく聞かれるんですけど、ミスとか意識しての緊張とか気後れとか、そういうのは事前の練習が十分にできてれば、舞台にいる時は感じませんねほとんどね。 僕、ミスらしいミスってした事ないんで。 失敗とかを無くす事を目的に僕らはずっと練習してきたわけで、そういう意味では何も考えずその練習通りに動くのが、実はもっとも簡単なんですよね要は。
仮にまあ( 笑 )何かアクシデントが起きても、大抵はリハーサルのどこかで誰かが同じ事やってたりしますし、そういう意味ではアクシデントが起きても対処はすぐにできるんですよ逆に言えば。 トラブルとかはあったらあったで、それをどう活かすか ? っていうのも器量ですよね要は役者のね。 そうい「 ちょっと ? 」うのも含めて楽し「 あの、ちょっと ? 」まないと ───
「 ねーちょっと ! 大丈夫 ? ! なんかずっと一人で送風調整紐に話しかけてるけど大丈夫っ ? ! 」
気がつくと、心配そうなメガネフレームが僕の肩をがくがく揺さぶっていた。 あ ‥‥‥ 副部長。 「 舞台袖まで来て緊張で自我喪失しないでね ! もうすぐだよ ! 本番だよ ! 」
‥‥‥ 僕は講堂の舞台脇、上手側にある掃除用具立て掛けスペースにしゃがんでいた。 暗くて狭いこの場所はいつの間にか、もうすぐ出番が来る僕が待機するための専用引きこもりポイントとして定着している。 ここに普段は不自然に立って待つ僕が、背を向けてうずくまってガクガクしているのでより一層不自然に見えたらしい。
「 おーい ‥‥‥ 」
だだだだ大丈夫です。 緊張を和らげるために脳内名優キャラで脳内インタビューに答えてただけです大丈夫です現実逃避式イメージトレーニングです僕はきっと大丈夫。
「 そうだ、掌にさ、人って書いて ‥‥‥ 」
すでに三千万人分くらい飲んでますので大丈夫ですしそんなん気休めだと分かったんでやんなくて大丈夫です。
「 でも君、未知の宇宙生物に脳を支配されたモブ犠牲者みたいになってるけど。 ストーリー展開的に絶対助からない震え方だけど 」
この震えは武者震いです大丈夫です。 汗は武者汗です。 水とタオルもらいます。
ついにやって来た文化祭当日、劇の開演を控えた講堂は立ち見エリアまで人が一杯で、もう今さら来てもムダだ的な札止め放送が全校内に繰り返し流れるほどの活況を呈している。 プログラムの前後を音楽系の部活で構成して全体の流れに変化をつけているせいもあるけど、上演時間の割り当てや発表順を見れば、僕たち演劇部が今年のメイン扱いになっているのは間違いなかった。 見慣れた制服だけでなく私服も目立つ客席には、超満員ならではの、音にならない衣擦れや呼吸の気配がみなぎっていて、非日常の時間が始まるのを誰もが今や遅しと待ち構えている。
生徒会のタイムキーパーさん二人が舞台の両端でバサバサ、と厚めの白布をはためかせた。
準備完了の合図だ。
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