11 / 26
【 11 】
しおりを挟む長城。
この物語当時における長城、 という言葉は、はるか後の時代に栄え滅んだ統一帝国諸王朝で使われた『 万里の長城 』とは、意味も在りようも些か異なっていた。
宋の国があった春秋時代には明確に中原と北方を区画する長大な防衛線が完成していたわけではなく、個々バラバラに点在する城砦群が地勢に沿って緩やかな領域らしきものを主張しているに過ぎない。
それらは国勢と実状に応じてその都度築かれ、一時的に進出した軍兵の駐屯・支配域となったり、交易拠点として機能したり、また必要を認められない時期には特に固執する者もなく見捨てられ、遂には廃墟と成り果てることも珍しくない。
鄭欣と寛承君は、ひと月ほどを掛けて人くさい中華文明圏そのものと言っても良い中原・宋の地から、“ 長城 ” を目指し北へ北へと馬車を移動させ続けた。 幾つかの国を縫って進むうち徐々に人と耕作地が疎になり、不毛の荒野を過ぎた後に、馬上から弓を操る遊牧民と家畜の集団が珍しい見ものではなくなっていく。
「この辺りだろう」
やがて彼らはどうやら自分達が長城の南部に達したらしいと結論し、気休めの目印と定めた泥壁の残骸そばに馬車を停めた。 念のためそう考える根拠を問いたげな寛承君に「ここではもう、我々の存在の方が珍しいからさ」と煙に巻くように答えた鄭欣は 「仕事を始めるとしよう」 と短く嘯いて淡緑一望の周囲を見わたす。
そこは草原の世界だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
仇討ちの娘
サクラ近衛将監
歴史・時代
父の仇を追う姉弟と従者、しかしながらその行く手には暗雲が広がる。藩の闇が仇討ちを様々に妨害するが、仇討の成否や如何に?娘をヒロインとして思わぬ人物が手助けをしてくれることになる。
毎週木曜日22時の投稿を目指します。
忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……
藤散華
水城真以
歴史・時代
――藤と梅の下に埋められた、禁忌と、恋と、呪い。
時は平安――左大臣の一の姫・彰子は、父・道長の命令で今上帝の女御となる。顔も知らない夫となった人に焦がれる彰子だが、既に帝には、定子という最愛の妃がいた。
やがて年月は過ぎ、定子の夭折により、帝と彰子の距離は必然的に近づいたように見えたが、彰子は新たな中宮となって数年が経っても懐妊の兆しはなかった。焦燥に駆られた左大臣に、妖しの影が忍び寄る。
非凡な運命に絡め取られた少女の命運は。
信長最後の五日間
石川 武義
歴史・時代
天下統一を目前にしていた信長は、1582年本能寺で明智光秀の謀反により自刃する。
その時、信長の家臣はどのような行動をしたのだろう。
信長の最後の五日間が今始まる。
和ませ屋仇討ち始末
志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。
門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。
久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。
父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。
「目に焼き付けてください」
久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。
新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。
「江戸に向かいます」
同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。
父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。
他サイトでも掲載しています
表紙は写真ACより引用しています
R15は保険です
小さなメアリー
のーまじん
歴史・時代
19世紀のバイエルン地方の物語です。
小貴族の娘、メアリーはとても悩んでいました。
3つ年上の幼馴染のフランクへ渡したクリスマスプレゼントについて。
メアリは、フランクのお家の使用人ジョージに相談するのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる