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一章 国王救出編
01話 剣王ギルティウス
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帝国が宣戦布告し、帝国軍が王国へと進軍したことで、王国は大混乱に陥った。
イグニス王国とアヴァロニア帝国は共に1,000年以上の歴史があり、不可侵条約も締結していた友好国だった。
しかし、153代目の帝王が退位し、元帥だったマクベスが154代目の帝王に即位して間もなく、帝国は王国との不可侵条約を破棄し、宣戦布告した。急な進軍に、帝国の戦力の3割もない王国は3日間で、王都を占領された。
国王からの任務によって帝国に在中していたギルティウスは、帝国軍に命を狙われていたが、仲間の協力によって帝国からの脱出に成功し、このウォルデン村の森を中継して各国へ援軍を要請する道中で、。
私は、王国軍の馬車の荷台でギルティウスが用意してくれた茶を飲みながら休んでいた。しばらくすると、ギルティウスがこちらに来て私の隣に座る。
「私は、今からアウラ王国へ向かう。お前も一緒に来い。ここは時期に帝国軍の支配地になる。ここにいるよりかは魔道士の多いアウラ王国にいたほうが安全だろう。」
私は、小さく頷く。
アウラ王国。イグニア王国の南西にある魔法国家だ。領土はイグニア王国より少し広いくらいだが、多くの上級魔道士が国に仕えており、戦力は帝国に匹敵するほどと聞いたことがある。
頷く私を見たギルティウスは、そっと立ち上がり、麻袋から紙袋を2つ取り出し、1つを私に差し出す。私はそれを手に取って袋を開けると、そこにはパンが入っていた。
「帝国で買っておいたパンだ。お腹空いているだろう。ただ、残りが少ない。少しずつ食べるんだ。」
ギルティウスがそう言って、また私の隣に座る。よく見ると目にクマがある。一睡もせずにここまで来たのかな。でも、その目は帝国への怒りと何があっても国王を救い出す覚悟をしているような目だった。理不尽にも信頼していた帝国に祖国を滅亡に追いやられてもなお諦めずに立ち向かおうとするその目は、私にはあまりにも眩しすぎた。
「しかし、なぜ危険な森にいたんだ?ウォルデン村の近くにいれば私たちもすぐに気づけたのに。」
ギルティウスが水筒の水を飲みながら不思議そうに私に問いかける。
「…食糧がなかったので、魔物を狩ってました。」
私がそう言うと、ギルティウスは飲んでいた水を吹き出して、恐ろしい形相で私を見る。
「お前、魔物を喰ったのか?!」
ギルティウスによると魔物の肉を喰らうのは御法度らしい。魔力を持たない人間が魔物の肉を食べると、体内に魔力が取り込まれてしまい、身体が魔力に耐えきれず、魔物化しれしまうらしい。ただ、稀に身体が魔力を受け付けて魔力持ちとなることがあるとギルティウスに説明を受けた。ただ、このような状況で生き延びるためにはそれしか手段がなかったことをギルティウスが理解してくれたみたいで、私を咎めることはなかった。
「魔物を喰らって無事なら、魔力持ちになっているだろうな。」
「魔力持ちになると、魔法が使えるようになるのですか?」
「そうだな。やってみるか?」
私は、ギルティウスに魔法について教えてもらい、やってみることにした。馬車の荷台から降りて、森の前に立つ。目を閉じて、呼吸を整える。息を軽く吸いながら、赤く燃え盛る炎をイメージする。あの燃え盛る村を思い出し、むせ返る思いを殺しつつ、両手を顔の前に出して念じる。
「バアァァァァァァーーーーン!!」
目を開くと、そこには燃え盛る木々が次々と倒れてゆく。嘘、本当に魔法が使えるとは思わなかった。すると、私の身体を押し付けるような気怠さを感じた。そのままストンと膝をついて倒れる。今度は、ひどい眠気に襲われた私はそのまま眠ってしまった。
目を覚ますと、そこは馬車の荷台だった。隣にはギルティウスがいた。どうやら私は魔力切れで倒れてしまったらしい。
「まさか、初めてであれほどの威力を出せるとは…。」
ギルティウスが呆れた声で言う。あの後、私が放った炎で、森が次々と燃えていき、鎮火が大変だったそう。今後、ギルティウスの前では魔法を唱えるのが禁止となった。
私が目覚めた時には、馬車は既にアウラ王国へと出発していた。アウラ王国では、先祖がアウラ王国の出身で元々魔力持ちである、と言う設定で通すそうだ。ギルティウスからアウラ王国で役に立つと言われてもらった首飾りを付ける。
私はアウラ王国へ着くまでの道中、ギルティウスの昔話を聞くこととなった。幼い頃から剣術が優秀で、両親からも褒められて領主が直々に会いに来たとか、軍への入隊をお願いされたとか、自慢話を聞かされていると、ギルティウスは顔を強張らせて、こう言った。
「私は幼い頃に両親を亡くしている。盗賊によってな。目の前で滅多刺しにされて、私は攫われた。その時は生きる希望も何もかも全て失った。このまま死んでもいいとまで思った。でも、私は"生きる"選択をした。」
私のことを思って話してくれているのだろうか。でも、話の切り替えが突然過ぎてこれだと丸わかりなのだけど。
「故郷も何もかも失って辛いのは分かる。だが、それで希望を捨てるのは勿体無いと思う。私は、"生きる"選択をしたことで国王様にお会いすることができた。剣王として、国王様のお力になることができたんだ。」
私はギルティウスの目を見る。やはり、私には眩し過ぎる。ギルティウスは私よりも幼い頃に両親を亡くしている。なのに、生きる選択をし、剣王にまで昇りつめたのだ。私もこんな人になれるのだろうか。強さも優しさも持ち合わせていない私が、そんな立派なものになれるのだろうか。
私はギルティウスのほうへ向かって座り直し、頭を下げて言う。
「私に…剣術を教えてください。」
頭を上げると、ギルティウスは一瞬驚いた顔をしていたが、優しく微笑み、「よろしい。私の修行は厳しいぞ。」と言った。
私はギルティウスの弟子となり、ギルティウスは私の師匠となった。
「ところでお前の名は?」
そういえば、名乗っていなかった。消魂していて、それどころではなかったが、流石に最初に名乗るべきだった。
「私は、ラフィリル・ディオーネと言います。」
「そうか。ラフィーと呼ばせてもらおう。私のことはギルと呼ぶといい。」
ギルティウスは私に手を差し出し、にっこりと笑みを浮かべた。私はその手を取り、硬い握手をした。
アウラ王国へ到着すると、ギルと私は王城へと向かった。初めて見る城に気を取られているとギルに置いていかれそうになり、走って追いかける。すっかりと日が暮れてしまっていたが、街の中はとても明るい。
王城に入るのは初めてで緊張していたけど、ギルが側にいるとなんだか少し落ち着く。広い階段を昇り、長い廊下を歩いた先には大きな扉があった。その先にはとても広い部屋にその奥には大きな椅子に座る老人が座っていた。頭に冠を乗せている。王様って本当に冠を乗せているんだ。
私とギルは国王の近くまで歩き、跪く。すると王が口を開く。
「此度の件、大変じゃったのう。情報は入ってきておる。我が軍1,500人と魔道士ギルドの冒険者2,000人ほどを用意しておる。皆、イグニア王国に恩のあるやつらじゃ。覚悟はできておる。其方らの好きに使うがよい。」
「ははっ。深く感謝申し上げます。」
ギルがハキハキとした口調で言う。
国王との挨拶を済ました私たちは、城下街にある魔道士ギルドで、イグニア国王の救出作戦をすることとなった。
魔道士ギルドは、酒場と食事処が一緒になっているようなところだった。入った瞬間、猛烈な酒臭さに酔いそうになったが、なんとか持ち堪えた。
魔道士ギルドの冒険者たちは、みんな私に優しくしてくれる。色んな料理を分けてくれるが、いつしか私の卓には食べきれないほどの料理が並んでしまった。
「お前ら、これじゃあ嬢ちゃんがどれを食べればいいか困っちまうじゃねぇか!」
冒険者の1人が高らかに言うと、続けて他の冒険者が喋り出す。
「ここのは、どれも絶品だからな!俺ならどれを食べようか吟味するだけで夜が開けちまうよ!」
ギルドに笑いが起きる。あぁ、いつぶりだろうか。こんなにも明るい夜があるなんて。私は忘れてしまっていたのだ。毎日、両親と過ごしたあの楽しくて明るい夜を。私はみんなの笑いに釣られて、笑ってしまう。涙が出るほど。その涙が悲しみなのか笑いすぎなのか分からないほどに、この場はとても暖かく、明るい場所だった。
「はは。私と出会ってから初めて笑ったな。」
隣に座っていたギルが安心したような顔で私に言う。
そうか。やっぱり、私は忘れてしまっていたんだ。失ったものだけを考え過ぎて、両親や友人から貰った沢山の愛情を。
私はこの日、失った感情を取り戻した。
イグニス王国とアヴァロニア帝国は共に1,000年以上の歴史があり、不可侵条約も締結していた友好国だった。
しかし、153代目の帝王が退位し、元帥だったマクベスが154代目の帝王に即位して間もなく、帝国は王国との不可侵条約を破棄し、宣戦布告した。急な進軍に、帝国の戦力の3割もない王国は3日間で、王都を占領された。
国王からの任務によって帝国に在中していたギルティウスは、帝国軍に命を狙われていたが、仲間の協力によって帝国からの脱出に成功し、このウォルデン村の森を中継して各国へ援軍を要請する道中で、。
私は、王国軍の馬車の荷台でギルティウスが用意してくれた茶を飲みながら休んでいた。しばらくすると、ギルティウスがこちらに来て私の隣に座る。
「私は、今からアウラ王国へ向かう。お前も一緒に来い。ここは時期に帝国軍の支配地になる。ここにいるよりかは魔道士の多いアウラ王国にいたほうが安全だろう。」
私は、小さく頷く。
アウラ王国。イグニア王国の南西にある魔法国家だ。領土はイグニア王国より少し広いくらいだが、多くの上級魔道士が国に仕えており、戦力は帝国に匹敵するほどと聞いたことがある。
頷く私を見たギルティウスは、そっと立ち上がり、麻袋から紙袋を2つ取り出し、1つを私に差し出す。私はそれを手に取って袋を開けると、そこにはパンが入っていた。
「帝国で買っておいたパンだ。お腹空いているだろう。ただ、残りが少ない。少しずつ食べるんだ。」
ギルティウスがそう言って、また私の隣に座る。よく見ると目にクマがある。一睡もせずにここまで来たのかな。でも、その目は帝国への怒りと何があっても国王を救い出す覚悟をしているような目だった。理不尽にも信頼していた帝国に祖国を滅亡に追いやられてもなお諦めずに立ち向かおうとするその目は、私にはあまりにも眩しすぎた。
「しかし、なぜ危険な森にいたんだ?ウォルデン村の近くにいれば私たちもすぐに気づけたのに。」
ギルティウスが水筒の水を飲みながら不思議そうに私に問いかける。
「…食糧がなかったので、魔物を狩ってました。」
私がそう言うと、ギルティウスは飲んでいた水を吹き出して、恐ろしい形相で私を見る。
「お前、魔物を喰ったのか?!」
ギルティウスによると魔物の肉を喰らうのは御法度らしい。魔力を持たない人間が魔物の肉を食べると、体内に魔力が取り込まれてしまい、身体が魔力に耐えきれず、魔物化しれしまうらしい。ただ、稀に身体が魔力を受け付けて魔力持ちとなることがあるとギルティウスに説明を受けた。ただ、このような状況で生き延びるためにはそれしか手段がなかったことをギルティウスが理解してくれたみたいで、私を咎めることはなかった。
「魔物を喰らって無事なら、魔力持ちになっているだろうな。」
「魔力持ちになると、魔法が使えるようになるのですか?」
「そうだな。やってみるか?」
私は、ギルティウスに魔法について教えてもらい、やってみることにした。馬車の荷台から降りて、森の前に立つ。目を閉じて、呼吸を整える。息を軽く吸いながら、赤く燃え盛る炎をイメージする。あの燃え盛る村を思い出し、むせ返る思いを殺しつつ、両手を顔の前に出して念じる。
「バアァァァァァァーーーーン!!」
目を開くと、そこには燃え盛る木々が次々と倒れてゆく。嘘、本当に魔法が使えるとは思わなかった。すると、私の身体を押し付けるような気怠さを感じた。そのままストンと膝をついて倒れる。今度は、ひどい眠気に襲われた私はそのまま眠ってしまった。
目を覚ますと、そこは馬車の荷台だった。隣にはギルティウスがいた。どうやら私は魔力切れで倒れてしまったらしい。
「まさか、初めてであれほどの威力を出せるとは…。」
ギルティウスが呆れた声で言う。あの後、私が放った炎で、森が次々と燃えていき、鎮火が大変だったそう。今後、ギルティウスの前では魔法を唱えるのが禁止となった。
私が目覚めた時には、馬車は既にアウラ王国へと出発していた。アウラ王国では、先祖がアウラ王国の出身で元々魔力持ちである、と言う設定で通すそうだ。ギルティウスからアウラ王国で役に立つと言われてもらった首飾りを付ける。
私はアウラ王国へ着くまでの道中、ギルティウスの昔話を聞くこととなった。幼い頃から剣術が優秀で、両親からも褒められて領主が直々に会いに来たとか、軍への入隊をお願いされたとか、自慢話を聞かされていると、ギルティウスは顔を強張らせて、こう言った。
「私は幼い頃に両親を亡くしている。盗賊によってな。目の前で滅多刺しにされて、私は攫われた。その時は生きる希望も何もかも全て失った。このまま死んでもいいとまで思った。でも、私は"生きる"選択をした。」
私のことを思って話してくれているのだろうか。でも、話の切り替えが突然過ぎてこれだと丸わかりなのだけど。
「故郷も何もかも失って辛いのは分かる。だが、それで希望を捨てるのは勿体無いと思う。私は、"生きる"選択をしたことで国王様にお会いすることができた。剣王として、国王様のお力になることができたんだ。」
私はギルティウスの目を見る。やはり、私には眩し過ぎる。ギルティウスは私よりも幼い頃に両親を亡くしている。なのに、生きる選択をし、剣王にまで昇りつめたのだ。私もこんな人になれるのだろうか。強さも優しさも持ち合わせていない私が、そんな立派なものになれるのだろうか。
私はギルティウスのほうへ向かって座り直し、頭を下げて言う。
「私に…剣術を教えてください。」
頭を上げると、ギルティウスは一瞬驚いた顔をしていたが、優しく微笑み、「よろしい。私の修行は厳しいぞ。」と言った。
私はギルティウスの弟子となり、ギルティウスは私の師匠となった。
「ところでお前の名は?」
そういえば、名乗っていなかった。消魂していて、それどころではなかったが、流石に最初に名乗るべきだった。
「私は、ラフィリル・ディオーネと言います。」
「そうか。ラフィーと呼ばせてもらおう。私のことはギルと呼ぶといい。」
ギルティウスは私に手を差し出し、にっこりと笑みを浮かべた。私はその手を取り、硬い握手をした。
アウラ王国へ到着すると、ギルと私は王城へと向かった。初めて見る城に気を取られているとギルに置いていかれそうになり、走って追いかける。すっかりと日が暮れてしまっていたが、街の中はとても明るい。
王城に入るのは初めてで緊張していたけど、ギルが側にいるとなんだか少し落ち着く。広い階段を昇り、長い廊下を歩いた先には大きな扉があった。その先にはとても広い部屋にその奥には大きな椅子に座る老人が座っていた。頭に冠を乗せている。王様って本当に冠を乗せているんだ。
私とギルは国王の近くまで歩き、跪く。すると王が口を開く。
「此度の件、大変じゃったのう。情報は入ってきておる。我が軍1,500人と魔道士ギルドの冒険者2,000人ほどを用意しておる。皆、イグニア王国に恩のあるやつらじゃ。覚悟はできておる。其方らの好きに使うがよい。」
「ははっ。深く感謝申し上げます。」
ギルがハキハキとした口調で言う。
国王との挨拶を済ました私たちは、城下街にある魔道士ギルドで、イグニア国王の救出作戦をすることとなった。
魔道士ギルドは、酒場と食事処が一緒になっているようなところだった。入った瞬間、猛烈な酒臭さに酔いそうになったが、なんとか持ち堪えた。
魔道士ギルドの冒険者たちは、みんな私に優しくしてくれる。色んな料理を分けてくれるが、いつしか私の卓には食べきれないほどの料理が並んでしまった。
「お前ら、これじゃあ嬢ちゃんがどれを食べればいいか困っちまうじゃねぇか!」
冒険者の1人が高らかに言うと、続けて他の冒険者が喋り出す。
「ここのは、どれも絶品だからな!俺ならどれを食べようか吟味するだけで夜が開けちまうよ!」
ギルドに笑いが起きる。あぁ、いつぶりだろうか。こんなにも明るい夜があるなんて。私は忘れてしまっていたのだ。毎日、両親と過ごしたあの楽しくて明るい夜を。私はみんなの笑いに釣られて、笑ってしまう。涙が出るほど。その涙が悲しみなのか笑いすぎなのか分からないほどに、この場はとても暖かく、明るい場所だった。
「はは。私と出会ってから初めて笑ったな。」
隣に座っていたギルが安心したような顔で私に言う。
そうか。やっぱり、私は忘れてしまっていたんだ。失ったものだけを考え過ぎて、両親や友人から貰った沢山の愛情を。
私はこの日、失った感情を取り戻した。
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