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初めての人
初めての人 第52話
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自分も知りたいと不満を漏らす姉さん。
でもそれ以上食い下がることはせず、「私はお姉ちゃんなのに……」と不貞腐れるだけ。僕達の心を優先してくれる優しい姉さんに、僕はもう一度謝りながらも大好きだと笑った。
「おねーちゃーん! ケーキのじかん、まだぁ?」
ぱたぱたと軽快な足音が聞こえたと思ったら、リビングのドアが開いて姿を見せる可愛い天使。
興奮のせいか高揚した頬は赤く色づいていて、白い肌に生えるピンク色に可愛らしさが増す一方の妹に兄としては少し複雑な思いを抱いてしまう。
めのうにはこのまま大人になって欲しい。でも、可愛すぎると変な人に目を付けられることが多いだろうし、今から心配だ。
「こら、めのう。ケーキよりも先に言うことがあるでしょ?」
「? なぁに?」
自分に駆け寄ってきた妹を抱き上げて膝に座らせる姉さんは、無邪気なめのうの振る舞いを注意する。
でも、姉さんが何に注意するのかわからないめのうは、身体ごと首を傾げて見せる。その姿は本当に可愛くて、ついつい笑顔が零れてしまう。
「めのう、帰ってきてるのはだぁれ?」
「かえってきてるの? ……あ! ちゃいにぃ、とら、おかえりなさい!」
姉さんからもらったヒントに「めのうわかったよ!」と表情を輝かせて手を上げると、キラキラした笑顔がこちらに向けられる。
今ですら可愛くて綺麗なその笑顔。僕はやっぱり妹の成長が楽しみな反面心配になる。どうかめのうを傷つけるような人が近づいてきませんように。と。
「おかえりしたよ? ケーキたべていい?」
「いいわよ。でも、お昼ご飯の後でね」
「はーい!」
「あれ? お昼、まだ食べてなかったの?」
「だってお昼ご飯を一緒に食べる機会なんて早々ないでしょ? だから『待ってよう』って、ねー?」
「ねー!」
姉さんとめのうは顔を見合わせ笑い合う。めのうは何処まで意味が分かっているのか分からないけど、仲の良い姉と妹につられて僕も嬉しくなった。
僕は二人に待っててくれてありがとうってお礼を伝えると、急いで着替えてくるからもう少し待ってて欲しいとめのうのほっぺたをくすぐった。
「ちゃいにぃ、はやくはやく!」
「分かってるよ。大急ぎで着替えてくるから数えて待ってて?」
「めのう、100までかぞえられる! いーち! にー!」
「ああ、待って待って!」
スタートしていないのに数を数え始めるめのうに僕は声を出して笑うも、止めるのは可哀想だから急いで自室へと走り出す。
「こらこら家の中でそんな走らない」
「だって! あ、虎君はここで待ってて! すぐに降りてくるから!」
掛けられた声に振り替えれば、僕の後を追いかけるように歩く虎君の姿が。
きっと僕と一緒に部屋に向かうつもりなのだろう。
『少しの時間も離れたくない』と言われているようですごく嬉しかったけど、それにストップをかけるのは無邪気な妹のためだ。
だって虎君と二人きりになったら一生懸命数を数えて僕達を待っているめのうを無視してくっついちゃいそうなんだもん。
一緒に居たい気持ちをぐっと耐えて、「来ちゃだめだからね!?」と念を押してリビングを後にする僕。
100までしか数えられないめのうのために全速力で部屋に向かうと、いつもはハンガーにかける制服を椅子に投げ置いてルームウェアに着替えて再びリビングへと駆け下りた。
でも、いくら可愛い妹のためとはいえ焦りすぎるのはよくなかった。僕は慌てすぎたせいで勢い余って階段を踏み外してしまったのだ。
「!?」
一瞬何が起こったのか分からなかった。突然視界がガクンと下がって、次に断続的におしりに痛みが走った。
「―――ったぁ……」
衝撃は治まったけど、痛みは続いてる。
僕はまだ理解できない状況に瞬きを何度も繰り返し、何が起こったのか必死に頭を働かせた。
「葵!?」
「と、とらく……?」
「大丈夫か? 何処が痛い? 動かなくていいからジッとしてろ!」
自分が階段から落ちたと理解するよりも先に視界に飛び込んできたのは青褪めた虎君の顔。
僕を見下ろし、目の前で手を振り、意識の有無を確認される。見えている指の本数を尋ねられ、それに「3本……」と僕が応えれば一瞬安堵の息を漏らす虎君。
「虎! 葵大丈夫なの!?」
「ちゃいにぃ、だいじょーぶ? とら、ちゃいにぃ、いたいの?」
「だ、だいじょう――――」
「意識はしっかりしてるけど、頭を打ってるかもしれない。とりあえず病院連れて行くからお前は樹里斗さん達に連絡しといてくれ」
慌てた姉さんの声と怯えたようなめのうの声にドジな自分の失態を大事にしないでと声を上げるんだけど、それは虎君の声にかき消されてしまう。
頭は打ってないし、おしりの痛みもさっきよりマシになってる。だから、お願いだから病院に行くとか救急車を呼ぶとか本当に止めて欲しい……。
でもそれ以上食い下がることはせず、「私はお姉ちゃんなのに……」と不貞腐れるだけ。僕達の心を優先してくれる優しい姉さんに、僕はもう一度謝りながらも大好きだと笑った。
「おねーちゃーん! ケーキのじかん、まだぁ?」
ぱたぱたと軽快な足音が聞こえたと思ったら、リビングのドアが開いて姿を見せる可愛い天使。
興奮のせいか高揚した頬は赤く色づいていて、白い肌に生えるピンク色に可愛らしさが増す一方の妹に兄としては少し複雑な思いを抱いてしまう。
めのうにはこのまま大人になって欲しい。でも、可愛すぎると変な人に目を付けられることが多いだろうし、今から心配だ。
「こら、めのう。ケーキよりも先に言うことがあるでしょ?」
「? なぁに?」
自分に駆け寄ってきた妹を抱き上げて膝に座らせる姉さんは、無邪気なめのうの振る舞いを注意する。
でも、姉さんが何に注意するのかわからないめのうは、身体ごと首を傾げて見せる。その姿は本当に可愛くて、ついつい笑顔が零れてしまう。
「めのう、帰ってきてるのはだぁれ?」
「かえってきてるの? ……あ! ちゃいにぃ、とら、おかえりなさい!」
姉さんからもらったヒントに「めのうわかったよ!」と表情を輝かせて手を上げると、キラキラした笑顔がこちらに向けられる。
今ですら可愛くて綺麗なその笑顔。僕はやっぱり妹の成長が楽しみな反面心配になる。どうかめのうを傷つけるような人が近づいてきませんように。と。
「おかえりしたよ? ケーキたべていい?」
「いいわよ。でも、お昼ご飯の後でね」
「はーい!」
「あれ? お昼、まだ食べてなかったの?」
「だってお昼ご飯を一緒に食べる機会なんて早々ないでしょ? だから『待ってよう』って、ねー?」
「ねー!」
姉さんとめのうは顔を見合わせ笑い合う。めのうは何処まで意味が分かっているのか分からないけど、仲の良い姉と妹につられて僕も嬉しくなった。
僕は二人に待っててくれてありがとうってお礼を伝えると、急いで着替えてくるからもう少し待ってて欲しいとめのうのほっぺたをくすぐった。
「ちゃいにぃ、はやくはやく!」
「分かってるよ。大急ぎで着替えてくるから数えて待ってて?」
「めのう、100までかぞえられる! いーち! にー!」
「ああ、待って待って!」
スタートしていないのに数を数え始めるめのうに僕は声を出して笑うも、止めるのは可哀想だから急いで自室へと走り出す。
「こらこら家の中でそんな走らない」
「だって! あ、虎君はここで待ってて! すぐに降りてくるから!」
掛けられた声に振り替えれば、僕の後を追いかけるように歩く虎君の姿が。
きっと僕と一緒に部屋に向かうつもりなのだろう。
『少しの時間も離れたくない』と言われているようですごく嬉しかったけど、それにストップをかけるのは無邪気な妹のためだ。
だって虎君と二人きりになったら一生懸命数を数えて僕達を待っているめのうを無視してくっついちゃいそうなんだもん。
一緒に居たい気持ちをぐっと耐えて、「来ちゃだめだからね!?」と念を押してリビングを後にする僕。
100までしか数えられないめのうのために全速力で部屋に向かうと、いつもはハンガーにかける制服を椅子に投げ置いてルームウェアに着替えて再びリビングへと駆け下りた。
でも、いくら可愛い妹のためとはいえ焦りすぎるのはよくなかった。僕は慌てすぎたせいで勢い余って階段を踏み外してしまったのだ。
「!?」
一瞬何が起こったのか分からなかった。突然視界がガクンと下がって、次に断続的におしりに痛みが走った。
「―――ったぁ……」
衝撃は治まったけど、痛みは続いてる。
僕はまだ理解できない状況に瞬きを何度も繰り返し、何が起こったのか必死に頭を働かせた。
「葵!?」
「と、とらく……?」
「大丈夫か? 何処が痛い? 動かなくていいからジッとしてろ!」
自分が階段から落ちたと理解するよりも先に視界に飛び込んできたのは青褪めた虎君の顔。
僕を見下ろし、目の前で手を振り、意識の有無を確認される。見えている指の本数を尋ねられ、それに「3本……」と僕が応えれば一瞬安堵の息を漏らす虎君。
「虎! 葵大丈夫なの!?」
「ちゃいにぃ、だいじょーぶ? とら、ちゃいにぃ、いたいの?」
「だ、だいじょう――――」
「意識はしっかりしてるけど、頭を打ってるかもしれない。とりあえず病院連れて行くからお前は樹里斗さん達に連絡しといてくれ」
慌てた姉さんの声と怯えたようなめのうの声にドジな自分の失態を大事にしないでと声を上げるんだけど、それは虎君の声にかき消されてしまう。
頭は打ってないし、おしりの痛みもさっきよりマシになってる。だから、お願いだから病院に行くとか救急車を呼ぶとか本当に止めて欲しい……。
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