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初めての人
初めての人 第32話
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「そりゃそうだろ。揉めたのは申請が来た時だし、生徒が知るわけないだろ」
「それってセンセー達しか知らないってこと? なんで生徒が知らない情報をお前が知ってるんだよ?」
「俺は顔が広いから」
「面の皮が厚い、じゃなくて?」
自慢気な慶史にまた余計なちゃちゃを入れる悠栖。当たり前のように慶史は悠栖の足を踏みつけてその軽口を窘め、悠栖は座っていたから反応が遅れたと足の甲を抑えて悶絶していた。
痛がる悠栖に余計なことを言うからだと苦笑する朋喜と姫神君に僕も交じって笑うんだけど、うまく笑えてるか不安だ。
だって、慶史が話さなかった『誰から』聞いたかなんとなく分かってしまったから。
(生徒が知らないなら、先生の誰か、だよね……)
楽し気な雰囲気とは裏腹に過ったのは生々しい想像で、怖くなる。
虎君が教えてくれる『恋人』としての時間は甘くて幸せで僕を堪らない気持ちにしてくれる。でも、慶史が『誰か』と行う行為は僕達のそれと同じでも目的が全く違うから恐怖を覚えるのだ。
(虎君意外に触られるなんて絶対ヤダ……)
そう強く思いながらも、もし自分の身に慶史と同じことが起こったら同じ気持ちでいられるだろうか? と『もしも』を想像してしまう。
逃げ場がない状態で『行為』を強要され、身体を弄ばれ、人としての尊厳を踏みにじられたら、僕はどうなってしまうのだろう……。
(怖い……。怖いよ……、虎君……)
想像するだけでこんなに怖いんだから、慶史が与えられた恐怖はどれほどのものだったか想像もできない。
僕は笑いながら悠栖達とじゃれる慶史がとても強く、とても気高く感じた。僕は慶史のようにふるまうことはできないと思うから……。
「そういうことだから、葵が『入寮する!』なんて本気で言い出したら今度こそ寮夫さん達の胃に穴が開いちゃうよ」
「え……?」
だからこのまま家から通っていいんだよ。って慶史が僕を振り返り笑うんだけど、途中から話を聞いていなかった僕は突然振られた話に戸惑いを隠すことができなかった。
朋喜と那鳥君は僕の名前を呼んで首を傾げ、悠栖はニヤニヤ笑いながら「先輩のこと考えてたんだろ?」なんて言ってくる。
僕は話の前後が分からないから下手なことを言えず、「ごめん」と空笑いを返すことしかできなかった。
(うぅ……、慶史の目、気づかれたかな……)
僕がまた慶史の過去を思い落ち込んでいたと感じ取ったのか、顔は笑顔でも目が笑ってないその表情に心臓が痛くなる。
「ったく。マモも大概先輩のこと好き過ぎだよな」
「葵君『も』ってことは、自分もそうだって言ってるの? 汐君のことが大好きだってアピール?」
「ばっ! ちがっ! 先輩のことだって分かるだろうが! 空気読めよ!!」
「葵が彼氏にべた惚れだってことは同意だけど、葵の彼氏程じゃないだろ。あの人の『重さ』に張り合える奴なんて世界中探しても早々見つからないと思うぞ?」
「そりゃ『葵に振られた』って勘違いで生きることを放棄した人だからね」
「それ、ちー先輩も言ってたけど、話盛ってるんだよな?」
「いや、事実」
「実際危なかったって聞いたよ」
「ま、マジかぁ……。俺、今まで源のこと『重い』って思ってたけど、全然普通だったんだな……」
呆然と僕を見てくる那鳥君の視線に、「だから『重い』って言わないでよ」とようやく気持ちを立て直して反応を返す僕。
那鳥君はほっぺたを膨らます僕に形だけの謝罪をくれる。
「慶史も悠栖も朋喜も、迷惑かけたとは思うけどその話、あんまりして欲しくないよ」
「ごめんね、葵君。悪ふざけが過ぎたよね?」
「お、俺もごめん!」
虎君を苦しめた過去の自分を思い出すのは辛いと苦笑交じりに伝えれば、朋喜も悠栖も分かってくれたのか謝ってくれる。
でも、慶史は二人とは違い、「二度と一人でぐるぐるしないなら、もう言わない」と笑顔で話題に出さない条件を突き付けてくる。
「慶史の意地悪」
「意地悪でいいよ。俺は葵が辛い思いしないためなら喜んで悪者になれるから」
「! 慶史……」
親友からの突然の告白に、僕は不覚にも感動してしまう。でも、慶史の優しさに喜んでいる僕の耳に届く声に、せっかくの感動が台無しになってしまった。
「なぁ、あれって先輩に対する嫌味だよな?」
「そうなんじゃないか? 葵の彼氏って胸焼けするほど甘やかしてそうだし」
「確かにお兄さんって葵君のこと猫可愛がりして怒ったりしなさそうだよね」
こそこそ内緒話しているつもりの三人。僕はその声に『違うよね?』と慶史を信じようと思うんだけど―――。
「甘やかすだけの愛情とか、馬鹿でもできるよね」
満面の笑みで虎君の愛を否定してきた。その言葉を聞いた僕は当然腹を立ててしまう。虎君の想いを知らないくせに! と。
「それってセンセー達しか知らないってこと? なんで生徒が知らない情報をお前が知ってるんだよ?」
「俺は顔が広いから」
「面の皮が厚い、じゃなくて?」
自慢気な慶史にまた余計なちゃちゃを入れる悠栖。当たり前のように慶史は悠栖の足を踏みつけてその軽口を窘め、悠栖は座っていたから反応が遅れたと足の甲を抑えて悶絶していた。
痛がる悠栖に余計なことを言うからだと苦笑する朋喜と姫神君に僕も交じって笑うんだけど、うまく笑えてるか不安だ。
だって、慶史が話さなかった『誰から』聞いたかなんとなく分かってしまったから。
(生徒が知らないなら、先生の誰か、だよね……)
楽し気な雰囲気とは裏腹に過ったのは生々しい想像で、怖くなる。
虎君が教えてくれる『恋人』としての時間は甘くて幸せで僕を堪らない気持ちにしてくれる。でも、慶史が『誰か』と行う行為は僕達のそれと同じでも目的が全く違うから恐怖を覚えるのだ。
(虎君意外に触られるなんて絶対ヤダ……)
そう強く思いながらも、もし自分の身に慶史と同じことが起こったら同じ気持ちでいられるだろうか? と『もしも』を想像してしまう。
逃げ場がない状態で『行為』を強要され、身体を弄ばれ、人としての尊厳を踏みにじられたら、僕はどうなってしまうのだろう……。
(怖い……。怖いよ……、虎君……)
想像するだけでこんなに怖いんだから、慶史が与えられた恐怖はどれほどのものだったか想像もできない。
僕は笑いながら悠栖達とじゃれる慶史がとても強く、とても気高く感じた。僕は慶史のようにふるまうことはできないと思うから……。
「そういうことだから、葵が『入寮する!』なんて本気で言い出したら今度こそ寮夫さん達の胃に穴が開いちゃうよ」
「え……?」
だからこのまま家から通っていいんだよ。って慶史が僕を振り返り笑うんだけど、途中から話を聞いていなかった僕は突然振られた話に戸惑いを隠すことができなかった。
朋喜と那鳥君は僕の名前を呼んで首を傾げ、悠栖はニヤニヤ笑いながら「先輩のこと考えてたんだろ?」なんて言ってくる。
僕は話の前後が分からないから下手なことを言えず、「ごめん」と空笑いを返すことしかできなかった。
(うぅ……、慶史の目、気づかれたかな……)
僕がまた慶史の過去を思い落ち込んでいたと感じ取ったのか、顔は笑顔でも目が笑ってないその表情に心臓が痛くなる。
「ったく。マモも大概先輩のこと好き過ぎだよな」
「葵君『も』ってことは、自分もそうだって言ってるの? 汐君のことが大好きだってアピール?」
「ばっ! ちがっ! 先輩のことだって分かるだろうが! 空気読めよ!!」
「葵が彼氏にべた惚れだってことは同意だけど、葵の彼氏程じゃないだろ。あの人の『重さ』に張り合える奴なんて世界中探しても早々見つからないと思うぞ?」
「そりゃ『葵に振られた』って勘違いで生きることを放棄した人だからね」
「それ、ちー先輩も言ってたけど、話盛ってるんだよな?」
「いや、事実」
「実際危なかったって聞いたよ」
「ま、マジかぁ……。俺、今まで源のこと『重い』って思ってたけど、全然普通だったんだな……」
呆然と僕を見てくる那鳥君の視線に、「だから『重い』って言わないでよ」とようやく気持ちを立て直して反応を返す僕。
那鳥君はほっぺたを膨らます僕に形だけの謝罪をくれる。
「慶史も悠栖も朋喜も、迷惑かけたとは思うけどその話、あんまりして欲しくないよ」
「ごめんね、葵君。悪ふざけが過ぎたよね?」
「お、俺もごめん!」
虎君を苦しめた過去の自分を思い出すのは辛いと苦笑交じりに伝えれば、朋喜も悠栖も分かってくれたのか謝ってくれる。
でも、慶史は二人とは違い、「二度と一人でぐるぐるしないなら、もう言わない」と笑顔で話題に出さない条件を突き付けてくる。
「慶史の意地悪」
「意地悪でいいよ。俺は葵が辛い思いしないためなら喜んで悪者になれるから」
「! 慶史……」
親友からの突然の告白に、僕は不覚にも感動してしまう。でも、慶史の優しさに喜んでいる僕の耳に届く声に、せっかくの感動が台無しになってしまった。
「なぁ、あれって先輩に対する嫌味だよな?」
「そうなんじゃないか? 葵の彼氏って胸焼けするほど甘やかしてそうだし」
「確かにお兄さんって葵君のこと猫可愛がりして怒ったりしなさそうだよね」
こそこそ内緒話しているつもりの三人。僕はその声に『違うよね?』と慶史を信じようと思うんだけど―――。
「甘やかすだけの愛情とか、馬鹿でもできるよね」
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