特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第144話

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「聞こえてたんじゃないか」
 聞こえない振りするなんて酷いな。
 そう苦笑する虎君は誤魔化すようにキスしてくる。
 僕は唇を舐めるようにキスしてくる虎君に流されそうになりながらも、絶対に舐めちゃダメだからね!? と必死の抵抗を試みる。
 いつもなら僕が本気で嫌がったら絶対に止めてくれる虎君。でも、今の虎君はやっぱりちょっぴり意地悪で、『舐めない』とは約束してくれなかった。
「んっ、と、とりゃ、だ、だめっ、はな、はなしっ、おわって、なっ」
 虎君がちゅっちゅっと何度もキスしてくるから全然喋れない。僕が顔を背けても強引に戻されちゃうし、本当、全然喋れない!
 ヤダヤダって抗う僕。すると虎君は今度は舌を入れてきて、言葉すら奪ってしまう。
 舌を絡めとると優しく口内を愛撫する虎君の舌に抵抗する気力はみるみる削がれ、キスに夢中になってしまう僕。
 僕が虎君のこと大好きだって伝わってるからこその行動。僕の想いが伝わっていて嬉しい半面、ズルいとも思っちゃう。
「キス、気持ちいいな」
「ん……。きもちぃ……。とりゃく、もっとぉ……」
「ああ、いいよ。沢山してあげるから、このままキスに集中してて……?」
 虎君が欲しいと誘うようにだらしなく舌を出してしまう僕の舌に虎君の舌が触れ、フレンチ・キスがより濃厚なものに変わってゆく。
 僕はそのキスに身体から力が抜けるのを感じ、虎君の腕の中で夢見心地。けど、ずっとこうしていたいとうっとりしていたら、またお尻に虎君の手が伸びてきた。
 僕は反射的に恥ずかしいと身を強張らせてしまう。これじゃ堂々巡りで先に進まないと呆れられるかもしれない。
 そう分かっているのに、どうしても恥ずかしさが拭えなくて、ドキドキし過ぎている自分の鼓動に目が回りそうだった。
「! んんっ―――!!」
 恥ずかしいと身を捩った僕の下肢に感じるのはお湯のぬくもり。そして普通なら絶対他の人に触られることのないお尻の穴にお湯とは違う何かが触れて、それが虎君の指だと理解するよりも先に反射的に逃げるように虎君にしがみついた。
 『触らないで』と、『止めて』と、訴えたかったけど、ディープ・キスのせいで声は出せなかった。
 そして僕の口から嫌がる言葉が出なかったからか、虎君はそのまま行為を続けて……。
(や、やだっ、お尻、そんな風に触らないでよぉ……)
 キスを止めてくれない虎君は器用に僕の身体の準備を進める。
 硬く閉じた蕾のようなお尻の穴を虎君の指が何度も優しく撫でまわしてきて、かと思えば蕾を無理矢理こじ開けるように指で左右に引っ張られた。
 恥ずかしさのあまり僕の身体は完全に委縮してしまっている。でも、それを分かっていながら虎君はなおも次の準備に行動を移していて、止めてくれる気配は全くなかった。
「! っ、やっ! な、やめっ」
「ちょっと気持ち悪いかもしれないけど、我慢して」
 恥ずかしさがピークに達して目尻から涙が零れる。けど、これ以上ないと思っていた恥ずかしさはこんなの序の口だと嘲笑うように更に襲い掛かってくる。
 さっきまで腰から伝ってきていたお湯。それがいつの間にかあり得ない箇所から体内に侵入してきていたのだ。
 気持ち悪いと暴れる僕。でも、暴れることを見越されていたのか、虎君にしっかりと抱きしめられていて抵抗らしい抵抗はできなかった。
 指で広げられた穴から逆流してくるお湯に僕は気持ち悪いと声をあげて泣いてしまう。すると漸く声が届いたのか、虎君はごめんと謝りながらお尻にあてていたお湯を退けてくれた。
 僕はこれで死ぬほど恥ずかしい行為が終わったと一瞬安堵した。何故一瞬かと言うと、虎君の指がまだお尻の穴に触れていたから。
 再び閉ざされたそこに栓をするように押し当てられるせいで、虎君の指の感触が嫌でも分かって僕は触らないでとまた泣き声をあげた。
「おねが、やだよぉ……はずかしぃ……」
「ごめんな。でも、セックスするためには必要な準備だからもうちょっと我慢して?」
 ポロポロ零れる涙を拭うように目尻にキスしてくれる虎君はいつも通り優しい。でも、お尻の穴をもみほぐすように指を動かす虎君はすごく意地悪。
 優しいのに意地悪な虎君。意地悪なのに優しい虎君。僕は訳が分からなくなって唸り声をあげて泣いてしまっていた。
 しかし、早く準備が終われと強く願い必死に羞恥に耐える僕に更に試練が与えられる。さっき体内に流し込まれたお湯のせいでおなかが異物を排除するがごとく気持ち悪さを訴えはじめたのだ。
(ど、どうしよ……トイレ、行きたいっ)
 エッチするための準備中なのに、トイレに行きたくなるとか最悪だ。
(でも、これって仕方ないことだよね? お尻からお湯を入れられたら、トイレに行きたくなるのは当然だよね?)
 強くなる欲求に耐えるように虎君に強くしがみついてしまう僕は、頭の中でどうやってトイレに行こうかと必死に考える。
 考えながら、ふと『勉強会』での慶史の言葉を思い出した。慶史はあの時、確かに言っていた。第一の難関はアナル洗浄だろうから気合入れて挑んでね! と。
 あの時僕は慶史の言った『難関』という言葉に、手法的な意味で難しいのかと思った。でも、それが間違いだったと今分かった。
(こんなの気合入れても絶対無理だよ!!)
 おそらく今しているのが『洗浄』という行為なのだろう。それは理解できた。
 けど、理解したからと言って事態が好転するわけじゃない。むしろこの後のことを考えて絶望してしまう。
(やだっ、虎君に見られるとか、絶対ヤダっ!!)
 おなかの気持ち悪さは増す一方で、早くトイレに行きたいと伝えなければ自分が想像した最悪の事態がこの後待っている。
 トイレに行きたいと伝えるのも物凄く勇気がいることだけど、背に腹は代えられない。僕は襲ってくる欲求を必死に耐え、震える声で虎君に伝えた。
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