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恋しい人
恋しい人 第16話
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「何? 僕達に応えられることだったらいいんだけど」
質問を促す朋喜。姫神君は口を開くも少し間を置いて「やっぱりいい」と口を閉ざして踵を返す。
言いかけて止めるその姿に朋喜も悠栖も不思議そうな顔をしてお互いを見て首を傾げ、慶史は肩を竦ませ姫神君を追いかけるように歩き出した。
「そういうの、気になるんだけど」
「悪かった。くだらない事だから気にしないでくれ」
「『くだらない事』なら言えるんじゃないのー?」
慌てて二人の後を追えば慶史が姫神君に突っかかる言葉を口にしていてハラハラしてしまう。慶史が口は悪いけど友達想いだってこと、姫神君はまだ知らないだろうから……。
「だから、言うのも憚られるぐらいくだらない事なんだよ」
「あっそ。でも―――」
「慶史! 慶史!!」
「! 何?」
姫神君がしようとした質問を聞き出そうとする慶史はちょっぴり強引。
僕が慌てて名前を呼べば、慶史は小さく舌打ちをした。
足を止める慶史と、歩き続ける姫神君。姫神君へのフォローは悠栖と朋喜に任せて僕は三人と距離を明けて少し歩調を遅く慶史と歩いた。
「……なんで止めたの?」
「そんなの分かってるくせに」
不貞腐れた慶史の声は想定の範囲内。僕は苦笑を漏らし、姫神君と喧嘩したかったのかと尋ねた。今喧嘩したらこの先仲良くなれないって分かってるよね? と。
窘める僕に慶史は肩を竦ませ、「止めてくれてありがとう」とぶっきらぼうなお礼を口にした。
(もう。素直じゃないんだから)
慶史は絶対姫神君と仲良くなりたいって思ってると思う。でも友達作りがちょっぴり不器用だから、偶に失敗しそうになっていた。
まぁ失敗しそうになるだけで失敗したことは今までないからもしかしたら姫神君も大丈夫だったかもしれないけど。
(そう言えば、悠栖と朋喜と初めて喋った時もこうだった気がする)
思い出すのは3年前の中等部の入学式。悠栖と朋喜と出会った時のことだ。
入寮したばかりの慶史と瑛大と正門前で待ち合わせた僕は、慶史から凄く可愛い生徒が2人いると教えられた。
2人を見るとクライストは共学だったのかと勘違いするほどだと言っていた慶史の言葉に僕は興味津々で、いざ出会った2人の姿に、慶史と3人並んだらアイドルグループみたいだと思ったものだ。
(あの頃は瑛大も一緒にいたんだよね……)
思い出した過去に気持ちがドンヨリする。
すると慶史から「朋喜はともかく悠栖はガバガバだったよね」と話を振られた。
「何の話?」
「出会った頃の話。朋喜は笑顔で俺達のこと警戒してたけど、悠栖の奴、警戒って単語なんて知らないって感じで俺達にしっぽ振ってたじゃん?」
「『しっぽ』って。まぁ悠栖は犬っぽいけど」
なんか思い出しちゃった。
そう笑った慶史に笑い返し、自分もだと目を伏せた。
「……瑛大のこと考えてるでしょ?」
「ん……。あの時は、一緒にいたよね……」
僕が考えていたから、バレたわけじゃない。だって慶史の声、覇気がなかったから。
(親友、だもんね)
親友『だった』とは言いたくない。慶史だって瑛大のことを今も親友だと思っているはずだから。
「大丈夫だよ。先輩と茂斗も『大丈夫』って言ってるんでしょ?」
「うん。言ってる」
「なら、絶対大丈夫。……俺は微妙だろうけど」
慶史は信じて待っていればいいと言う。そして、何があっても自分は瑛大と昔のように親友には戻れない気がする。とも……。
慶史を見れば「だから笑ってな」と笑顔で言われる。
笑顔になる寸前慶史の表情が辛そうだったと僕は気づいたけど、何も言えなかった。
「姫神は悠栖とは真逆。警戒心の塊みたいな奴だよ」
「仲良くなるの、手こずりそう?」
「俺だけだったら、超手こずりそう。でも、葵と悠栖が居れば、問題ないかな」
視線を向けてくる慶史が何を期待しているのか分からないけど、僕と悠栖が居れば問題ないってどういう事だろう?
「性格的な話。姫神は俺や朋喜寄りだと思うんだよね。でも、葵と悠栖は俺達とは真逆でしょ?」
「? よくわからないよ」
「そうだなぁ……、葵と悠栖は、人の言葉を言葉通りに受け取るでしょ? でも、俺と朋喜はその人の言葉の裏に隠れた汚い欲を見ようとするところがあるんだよね」
慶史は、もし姫神君も同じ性格だとすれば、慶史や朋喜と喋る時は腹の探り合いになるからと笑った。
そして僕や悠栖と喋る時は、裏を見なくていいから打ち解けやすいと思うと言葉を続けた。
質問を促す朋喜。姫神君は口を開くも少し間を置いて「やっぱりいい」と口を閉ざして踵を返す。
言いかけて止めるその姿に朋喜も悠栖も不思議そうな顔をしてお互いを見て首を傾げ、慶史は肩を竦ませ姫神君を追いかけるように歩き出した。
「そういうの、気になるんだけど」
「悪かった。くだらない事だから気にしないでくれ」
「『くだらない事』なら言えるんじゃないのー?」
慌てて二人の後を追えば慶史が姫神君に突っかかる言葉を口にしていてハラハラしてしまう。慶史が口は悪いけど友達想いだってこと、姫神君はまだ知らないだろうから……。
「だから、言うのも憚られるぐらいくだらない事なんだよ」
「あっそ。でも―――」
「慶史! 慶史!!」
「! 何?」
姫神君がしようとした質問を聞き出そうとする慶史はちょっぴり強引。
僕が慌てて名前を呼べば、慶史は小さく舌打ちをした。
足を止める慶史と、歩き続ける姫神君。姫神君へのフォローは悠栖と朋喜に任せて僕は三人と距離を明けて少し歩調を遅く慶史と歩いた。
「……なんで止めたの?」
「そんなの分かってるくせに」
不貞腐れた慶史の声は想定の範囲内。僕は苦笑を漏らし、姫神君と喧嘩したかったのかと尋ねた。今喧嘩したらこの先仲良くなれないって分かってるよね? と。
窘める僕に慶史は肩を竦ませ、「止めてくれてありがとう」とぶっきらぼうなお礼を口にした。
(もう。素直じゃないんだから)
慶史は絶対姫神君と仲良くなりたいって思ってると思う。でも友達作りがちょっぴり不器用だから、偶に失敗しそうになっていた。
まぁ失敗しそうになるだけで失敗したことは今までないからもしかしたら姫神君も大丈夫だったかもしれないけど。
(そう言えば、悠栖と朋喜と初めて喋った時もこうだった気がする)
思い出すのは3年前の中等部の入学式。悠栖と朋喜と出会った時のことだ。
入寮したばかりの慶史と瑛大と正門前で待ち合わせた僕は、慶史から凄く可愛い生徒が2人いると教えられた。
2人を見るとクライストは共学だったのかと勘違いするほどだと言っていた慶史の言葉に僕は興味津々で、いざ出会った2人の姿に、慶史と3人並んだらアイドルグループみたいだと思ったものだ。
(あの頃は瑛大も一緒にいたんだよね……)
思い出した過去に気持ちがドンヨリする。
すると慶史から「朋喜はともかく悠栖はガバガバだったよね」と話を振られた。
「何の話?」
「出会った頃の話。朋喜は笑顔で俺達のこと警戒してたけど、悠栖の奴、警戒って単語なんて知らないって感じで俺達にしっぽ振ってたじゃん?」
「『しっぽ』って。まぁ悠栖は犬っぽいけど」
なんか思い出しちゃった。
そう笑った慶史に笑い返し、自分もだと目を伏せた。
「……瑛大のこと考えてるでしょ?」
「ん……。あの時は、一緒にいたよね……」
僕が考えていたから、バレたわけじゃない。だって慶史の声、覇気がなかったから。
(親友、だもんね)
親友『だった』とは言いたくない。慶史だって瑛大のことを今も親友だと思っているはずだから。
「大丈夫だよ。先輩と茂斗も『大丈夫』って言ってるんでしょ?」
「うん。言ってる」
「なら、絶対大丈夫。……俺は微妙だろうけど」
慶史は信じて待っていればいいと言う。そして、何があっても自分は瑛大と昔のように親友には戻れない気がする。とも……。
慶史を見れば「だから笑ってな」と笑顔で言われる。
笑顔になる寸前慶史の表情が辛そうだったと僕は気づいたけど、何も言えなかった。
「姫神は悠栖とは真逆。警戒心の塊みたいな奴だよ」
「仲良くなるの、手こずりそう?」
「俺だけだったら、超手こずりそう。でも、葵と悠栖が居れば、問題ないかな」
視線を向けてくる慶史が何を期待しているのか分からないけど、僕と悠栖が居れば問題ないってどういう事だろう?
「性格的な話。姫神は俺や朋喜寄りだと思うんだよね。でも、葵と悠栖は俺達とは真逆でしょ?」
「? よくわからないよ」
「そうだなぁ……、葵と悠栖は、人の言葉を言葉通りに受け取るでしょ? でも、俺と朋喜はその人の言葉の裏に隠れた汚い欲を見ようとするところがあるんだよね」
慶史は、もし姫神君も同じ性格だとすれば、慶史や朋喜と喋る時は腹の探り合いになるからと笑った。
そして僕や悠栖と喋る時は、裏を見なくていいから打ち解けやすいと思うと言葉を続けた。
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