戦巫女姫は戦場で咲き誇る

アタラン

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将軍の苦悩

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将軍の家族は、王都に住み将軍と軍は西に砦を築いてその屋敷は要塞となっていた。
広場で新兵の訓練をしていた副将の一人 亜鋼は、大空を舞う軍用の黒い鳥を小さな銀色の笛で呼ぶと真っ直ぐに亜鋼の腕に止まると足を上げて筒を亜鋼が取りやすく早く取れと言わんばかりにピーッっと鳴いた。

「シレン・・急ぎなんだな。」

急ぎでなくて鳥を使う事は無いのだが、そんな急な案件の中でもシレンにとっても気に入らない事なのかと思いながら、筒を取り中身を確かめる事なく将軍の元に即座に亜鋼は持って行った。

「将軍、王都から何やら急ぎの知らせの様です。」

「王都から?また朱美が逃げ出して家出でもしたか?」

息子が娘に琴を習得させると言って凝りもせずに師匠までつけて王都に行ったが、毎回師匠が逃げ出すか娘が家出するかのどちらかで朱美が習得した試しがない。

またそんな事だろうと思いながら息子からの手紙を開け読む事にした。

「なんだとー!」

しかし、その手紙の内容は信じられない内容だった。

巫女として神殿に迎え入れたい。神託により決まった故に拒否は謀反とみなす事とする。

「朱美を巫女にだと・・馬鹿を言うな!無理だしダメだ。」

「何があったんです?」

激高する将軍の様子が異常だったが書簡の内容がいまいち理解できない亜鋼は、主である将軍に尋ねた。

「本来は、巫女というのは王族の姫から数十年に一人指名されるんだが、王族の姫はほとんど
王宮を出ないから、国民には知られていない。巫女と言えばこの国にとっては王妃より重要視
されはするが、神殿の奥深くで住み有事の際以外は外には出ないんだ。俺が前の巫女を見た
のは西の国が海を渡り攻め込んできて一度陸に上陸してしまった時だけだ。」

その戦は、海では嵐により敵の船はほとんど沈み陸にたどり着いた兵士が近隣の村を襲い食料や女を襲い男や子供を虐殺した事があった。

その村で一人闘った女の子がいて何人かの女と子供は、助かったがほとんどが殺された。
その時王都から出兵する際に巫女が戦に向かう兵士たちの為に舞を奉納したその時に見ただけだ。

巫女は、何らかの加護を持つと言われているが一般には知らされてはいない。

ただ自分の娘ながら朱美には舞の才能も歌の才能もない・・。

自由を愛する活発なあの娘に巫女など出来るはずもなく何かの間違いであるとしか思えない。

「王都へ向かう。亜綱俺の変わりにここを守れ!」

「は!」

軍馬の中でも一際大きな馬を駆り王都へ向かう。

もし、事実で間違いが無ければ将軍の職の自分は巫女を守る地位にあると言っても過言ではなく。その指名された者を守り神殿に連れて行く役目すらあった。
しかし、我が子が巫女など務まるとは到底思えないでいる。

神に仕える日々などあの娘には苦痛でしかなくまた、今の王が前王と違って名君だとはいいがたいと思っていた。西側があれほど国民を虐殺したというのに、限定的ではあるが国交を許し国益の為に無辜の民を犠牲にした。

その火種は軍部でもくすぶっていて、生き残りの子供達が今兵士として活躍している人材の中にもいる。

その一人であるのが副将でもある亜鋼だった。

亜鋼は、一人の女性の勇気をもった行動で救われた子でその女性を姉のようにしたっていた、その姉の様にしたった勇気ある女性こそ朱美や龍凱の母だ。

朱美を産んだ時に体力を消耗しすぎたのかそのまま亡くなった最愛の妻に将軍龍翔は語りかけた。

「春麗・・君ならどうする?」

娘の朱美は、容姿は妻の春麗とよく似ているが同じ強いと言っても娘の強さは武芸のみで妻の様なしなやかな強さではない。

村の生き残りの娘を妻にした時、貴族の妙齢の娘を持つ親共に良い印象はなく、穢された娘を愛人でなく正妻にするなどどうかしていると妻が側にいるのにも関わらず言う者もいた。

そんな悪意の声を彼女は「私の身が穢れがあると言うならその穢れの上で富を得ている貴方は何と言うのでしょうか?それに・・私がどうであったかは夫しか知らぬ事です。」

西との限定的な国交で富を得ているのは貴族の一部だったし西の文化を広め楽器や衣装など新しい物をはやらせて希少だから高く売れるように計画し国益という名の自分達の富の為に少なくても彼女の村の者の死を踏みつけにしていた。

何を言われてもやりすごし、精神的に強い彼女が愛しくて彼女だけを妻にと思っているのは今でも変わらない。

後添えをという話も王家からも来たがすべて断り今に至っている。

妻が最後に自分の命と引き換えに残してくれた娘が皮肉にも巫女に指名されるとは・・・。

自分以外の貴族なら名誉だと思うのかもしれないが、龍翔にしたら迷惑であり悪夢でしかなかった。

彼は、王都の将軍府の前で開門を指示して急いで馬を乗り捨て着替えもせず
そのまま、執務室へ向かう事にした。





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