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1話
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新は正座をし、チラリと目の前の人物の顔色を伺う。切れ長の目と視線が合う。目線だけで人を殺せるんじゃないかと思うほとんど殺気を感じ、新は咄嗟に目を逸らす。
「………これはどういうことか説明していただけませんか?」
「………すみませんでした」
「謝れとは言っていません。私は、なぜ間に合わなかったのか理由を説明して下さいと言ったんです」
(……また始まった)
あの後、必死に執筆したが案の定間に合わなかった。上杉が到着し、近所の美味しいパンを献上して時間稼ぎをしようと思ったが、上杉はパンには目もくれず、真っ先に向かったのは新のパソコン。パソコンに映し出されている中途半端の文章を見てブチギレ。現在、新は機嫌が悪い上杉の前に正座をさせられ説教を受けていた。
「私は締め切り日は今日だと何ヶ月も前から言ってたはずです。あなた大丈夫だって言ってましたよね」
「……はい」
「それで、なぜ終わってないんですか?」
切れ長の目が新を見下ろす。チクチクと刺さる目線が痛い。
「……飲みに行ってました」
「また運命の番探しですか?」
「うん」
「あなたも懲りませんね」
上杉は呆れたように頭を抱え、ため息をついた。
上杉は新が運命の番になるオメガを探していることを知っている。そのせいで変な事件に巻き込まれたり、騒動に発展したのことも何度もある。その度に上杉に迷惑をかけている自覚がある。今まで何度怒られてきたことか…。
「生きている間に運命の番に出会える確率など0.01%ほどだとあなたも知っているはずですが」
「わかってるけど……」
「しかも生きているか死んでいるのかさえもわからない相手を探すのは時間と労力の無駄でしかありません。そんなことするくらいなら原稿を書いて下さい」
そんなこととはなんだ。自分にとっては原稿よりも大切なことなのだ。0.01%でも生きている間に運命の番に出会える確率があるならやる価値はあると新は考えている。
小さい頃に読んだ運命で結ばれているアルファとオメガの物語。その本を読んだことがきっかけで新は小説家になったようなものだ。
いつか運命の番と巡り合い、あの本のように人に希望と勇気を与えられるような本を書くことが新の夢だ。
その為には新が運命の番に巡り合わなければならない。作家の仕事をしていると家に篭りがちになるため、度々飲みにいきオメガを探すがオメガ自体希少なため出会える機会も少なく、出会えたとしても既に番持ちだったり、偽オメガだったりする。
「原稿ばかり書いてたら、あっという間に爺ちゃんになっちゃうじゃん。僕のアルファの血が途絶えちゃうよ……」
「それは大変だ。あなたの孫の代まで小説を書いてもらう予定だったのに、あなたの子が生まれなければ我が社の売上が下がってしまいます」
「金目当てとか酷くない?」
「あなたの価値なんて小説書けるくらいでしょう」
「潤に文句言ってやる」
「どうぞ。編集長もあなたのことは金づるとしか思ってませんから」
新はぐぬぬ……と悔しさで唇を噛みしめる。
せっかくアルファとして生まれてきたのだから、運命のオメガと出会ってみたいし恋愛がしてみたい。この気持ちを上杉はちっともわかってくれないのだ。
堅物過ぎて恋愛なんてしてなさそうだ。きっと上杉は未だに童貞に違いない。など心の中で悪口を言う。
「いっそのこと婚活パーティーに参加してみてはいかがですか?」
「ぜぇっっったいイヤ‼︎」
上杉のいう婚活パーティーとは、アルファとオメガの婚活パーティーである。その場で相性診断をして相性のいいアルファとオメガを引き合わせてくれるらしい。機械に恋愛相手を勝手に振り分けられているようで新はイヤだった。
「もしかしたら運命の番がいるかもしれませんよ」
「そんなのロマンチックじゃないだろ。僕はもっと運命的な出会いがしたいんだよ」
出会いの場に行って出会っても面白くもなんともない。あの本のようにいろんな国を渡り歩き、やっと出会えたみたいな出会い方が理想なのだ。
「そんなこと気にしてるからいつまで経っても出会えないんですよ」
上杉の言葉がぐさりと胸に刺さる。
「あなたが変な女とばかり出会っているせいで小説に出てくる女がどんどんメンヘラ化してきてるんです」
「メンヘラ女と詐欺女としか出会ってないからね」
「あなたの小説の内容は最高なのに、毎回ヒロインだけが残念でなりません」
「それよくファンから言われる」
新はよくエゴサーチをする。自分の書いた小説の評価が気になるからだ。だいたい評価は5段階評価の★5~4の間。少数だが★2や1があり、見ると"小説の内容は◎だけど、ヒロインが最悪なので★1"と書かれている。
素敵なヒロインが書けないのには理由がある。新は生まれてから一度もいい恋愛をしたことがない。大体は顔とアルファの性別に寄ってくる人ばかりで、新の内面を知るとだいたいが去っていってしまう。
出会った当初は、見た目が美しく王子様のようだと言っていた女も付き合い始めてしばらくして、新が甘党であり毎日お菓子を食べている姿をみて幻滅。「私の理想の王子様は甘い物なんて食べないの」と言われ、他の男をつくり去っていった。
また別な相手では、甘い物を食べる新ごと受け入れてくれたが、毎日会ったり連絡をしないとヒステリックを起こす相手だった。新は執筆に集中すると「相手をしてくれない」と嘆いた。仕事が進まないため新は女に距離を置こうと話すと、女は怒り狂い、パソコンを破壊。カバンからナイフを持ち出し「私と一緒に死んで」と言ってきた。ちょうどその日は上杉が原稿を受け取りにくる日で、女が馬乗りになり新をナイフで刺そうとしているところを発見された。上杉が女を取り押さえ、新は一命を取り留めたこともあった。警察沙汰になり、女は逮捕された。しかし、女が破壊したパソコンのデータは元には戻らず、一から全て書き直す羽目になった。
その後も偽オメガやら、詐欺女やらに引っかかり、恋愛感の乱れから新の小説に登場してくるヒロインは最低最悪なメンヘラ女になっていったのだ。
「僕の性格も彼女らのせいで歪んじゃったしね」
「あなたの性格は元々歪んでいましたよ。類は友を呼ぶというでしょ。彼女たちのせいにしないで頂きたい」
「僕が昔から性格悪かったって言いたいわけ?」
「昔からあなたは忘れっぽいし、いい加減でしたよ。だから締め切りも守れないから今こうして私に怒られてるんです」
本当に痛いところをつく。高校の後輩だが、社会経験が長いからか新よりもしっかりしているし、潤からの信頼も厚い。だから締め切り違反の常習犯である新の担当に上杉があてがわれたのだ。
「書き終わるまで出禁ですよ」
「えぇ~」
「嫌ならさっさと書いてください」
「……はい」
締め切り日を伸ばしてほしいとお願いしたところで上杉には通じないことはわかっている。新はパソコンに向かい執筆を始めた。
「言い忘れてましたが、来週からここに住み込みであなたの監視役を編集長が雇ったそうです」
「えっ‼︎ なんで勝手にそんなこと決めるんだよ‼︎」
「ほら、手を動かす」
「う~…鬼」
「私も他の業務があるので24時間あなたの監視をしているわけにはいきません。何度注意しても締め切りを守れない癖をどうにかできないかと編集長に相談したところ、あなたに監視をつけることに決定しました」
「いつまで?」
「さあ。あなたが締め切りを守れるまでですかね」
親友である潤の会社と契約を結んだのはいいものの、人を馬車馬のように働かせる親友と後輩に嫌気がさす。その上、プライベートな時間まで取り上げられては元も子もない。
「プライベートが欲しければ締め切りを守って下さい。社会の常識です」
厳しい後輩の監視の元、新はその日のうちに原稿を書き終えた。上杉は原稿を受け取ると、疲れ果て廃人となっている新を放置し、会社へと帰っていった。
「………これはどういうことか説明していただけませんか?」
「………すみませんでした」
「謝れとは言っていません。私は、なぜ間に合わなかったのか理由を説明して下さいと言ったんです」
(……また始まった)
あの後、必死に執筆したが案の定間に合わなかった。上杉が到着し、近所の美味しいパンを献上して時間稼ぎをしようと思ったが、上杉はパンには目もくれず、真っ先に向かったのは新のパソコン。パソコンに映し出されている中途半端の文章を見てブチギレ。現在、新は機嫌が悪い上杉の前に正座をさせられ説教を受けていた。
「私は締め切り日は今日だと何ヶ月も前から言ってたはずです。あなた大丈夫だって言ってましたよね」
「……はい」
「それで、なぜ終わってないんですか?」
切れ長の目が新を見下ろす。チクチクと刺さる目線が痛い。
「……飲みに行ってました」
「また運命の番探しですか?」
「うん」
「あなたも懲りませんね」
上杉は呆れたように頭を抱え、ため息をついた。
上杉は新が運命の番になるオメガを探していることを知っている。そのせいで変な事件に巻き込まれたり、騒動に発展したのことも何度もある。その度に上杉に迷惑をかけている自覚がある。今まで何度怒られてきたことか…。
「生きている間に運命の番に出会える確率など0.01%ほどだとあなたも知っているはずですが」
「わかってるけど……」
「しかも生きているか死んでいるのかさえもわからない相手を探すのは時間と労力の無駄でしかありません。そんなことするくらいなら原稿を書いて下さい」
そんなこととはなんだ。自分にとっては原稿よりも大切なことなのだ。0.01%でも生きている間に運命の番に出会える確率があるならやる価値はあると新は考えている。
小さい頃に読んだ運命で結ばれているアルファとオメガの物語。その本を読んだことがきっかけで新は小説家になったようなものだ。
いつか運命の番と巡り合い、あの本のように人に希望と勇気を与えられるような本を書くことが新の夢だ。
その為には新が運命の番に巡り合わなければならない。作家の仕事をしていると家に篭りがちになるため、度々飲みにいきオメガを探すがオメガ自体希少なため出会える機会も少なく、出会えたとしても既に番持ちだったり、偽オメガだったりする。
「原稿ばかり書いてたら、あっという間に爺ちゃんになっちゃうじゃん。僕のアルファの血が途絶えちゃうよ……」
「それは大変だ。あなたの孫の代まで小説を書いてもらう予定だったのに、あなたの子が生まれなければ我が社の売上が下がってしまいます」
「金目当てとか酷くない?」
「あなたの価値なんて小説書けるくらいでしょう」
「潤に文句言ってやる」
「どうぞ。編集長もあなたのことは金づるとしか思ってませんから」
新はぐぬぬ……と悔しさで唇を噛みしめる。
せっかくアルファとして生まれてきたのだから、運命のオメガと出会ってみたいし恋愛がしてみたい。この気持ちを上杉はちっともわかってくれないのだ。
堅物過ぎて恋愛なんてしてなさそうだ。きっと上杉は未だに童貞に違いない。など心の中で悪口を言う。
「いっそのこと婚活パーティーに参加してみてはいかがですか?」
「ぜぇっっったいイヤ‼︎」
上杉のいう婚活パーティーとは、アルファとオメガの婚活パーティーである。その場で相性診断をして相性のいいアルファとオメガを引き合わせてくれるらしい。機械に恋愛相手を勝手に振り分けられているようで新はイヤだった。
「もしかしたら運命の番がいるかもしれませんよ」
「そんなのロマンチックじゃないだろ。僕はもっと運命的な出会いがしたいんだよ」
出会いの場に行って出会っても面白くもなんともない。あの本のようにいろんな国を渡り歩き、やっと出会えたみたいな出会い方が理想なのだ。
「そんなこと気にしてるからいつまで経っても出会えないんですよ」
上杉の言葉がぐさりと胸に刺さる。
「あなたが変な女とばかり出会っているせいで小説に出てくる女がどんどんメンヘラ化してきてるんです」
「メンヘラ女と詐欺女としか出会ってないからね」
「あなたの小説の内容は最高なのに、毎回ヒロインだけが残念でなりません」
「それよくファンから言われる」
新はよくエゴサーチをする。自分の書いた小説の評価が気になるからだ。だいたい評価は5段階評価の★5~4の間。少数だが★2や1があり、見ると"小説の内容は◎だけど、ヒロインが最悪なので★1"と書かれている。
素敵なヒロインが書けないのには理由がある。新は生まれてから一度もいい恋愛をしたことがない。大体は顔とアルファの性別に寄ってくる人ばかりで、新の内面を知るとだいたいが去っていってしまう。
出会った当初は、見た目が美しく王子様のようだと言っていた女も付き合い始めてしばらくして、新が甘党であり毎日お菓子を食べている姿をみて幻滅。「私の理想の王子様は甘い物なんて食べないの」と言われ、他の男をつくり去っていった。
また別な相手では、甘い物を食べる新ごと受け入れてくれたが、毎日会ったり連絡をしないとヒステリックを起こす相手だった。新は執筆に集中すると「相手をしてくれない」と嘆いた。仕事が進まないため新は女に距離を置こうと話すと、女は怒り狂い、パソコンを破壊。カバンからナイフを持ち出し「私と一緒に死んで」と言ってきた。ちょうどその日は上杉が原稿を受け取りにくる日で、女が馬乗りになり新をナイフで刺そうとしているところを発見された。上杉が女を取り押さえ、新は一命を取り留めたこともあった。警察沙汰になり、女は逮捕された。しかし、女が破壊したパソコンのデータは元には戻らず、一から全て書き直す羽目になった。
その後も偽オメガやら、詐欺女やらに引っかかり、恋愛感の乱れから新の小説に登場してくるヒロインは最低最悪なメンヘラ女になっていったのだ。
「僕の性格も彼女らのせいで歪んじゃったしね」
「あなたの性格は元々歪んでいましたよ。類は友を呼ぶというでしょ。彼女たちのせいにしないで頂きたい」
「僕が昔から性格悪かったって言いたいわけ?」
「昔からあなたは忘れっぽいし、いい加減でしたよ。だから締め切りも守れないから今こうして私に怒られてるんです」
本当に痛いところをつく。高校の後輩だが、社会経験が長いからか新よりもしっかりしているし、潤からの信頼も厚い。だから締め切り違反の常習犯である新の担当に上杉があてがわれたのだ。
「書き終わるまで出禁ですよ」
「えぇ~」
「嫌ならさっさと書いてください」
「……はい」
締め切り日を伸ばしてほしいとお願いしたところで上杉には通じないことはわかっている。新はパソコンに向かい執筆を始めた。
「言い忘れてましたが、来週からここに住み込みであなたの監視役を編集長が雇ったそうです」
「えっ‼︎ なんで勝手にそんなこと決めるんだよ‼︎」
「ほら、手を動かす」
「う~…鬼」
「私も他の業務があるので24時間あなたの監視をしているわけにはいきません。何度注意しても締め切りを守れない癖をどうにかできないかと編集長に相談したところ、あなたに監視をつけることに決定しました」
「いつまで?」
「さあ。あなたが締め切りを守れるまでですかね」
親友である潤の会社と契約を結んだのはいいものの、人を馬車馬のように働かせる親友と後輩に嫌気がさす。その上、プライベートな時間まで取り上げられては元も子もない。
「プライベートが欲しければ締め切りを守って下さい。社会の常識です」
厳しい後輩の監視の元、新はその日のうちに原稿を書き終えた。上杉は原稿を受け取ると、疲れ果て廃人となっている新を放置し、会社へと帰っていった。
応援ありがとうございます!
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