新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
102 / 278
第二章 第二部

領主邸の建て直し

しおりを挟む
「お前様、代官邸はどうじゃった?」

 マリアンに正面から飛びつかれてキスをされた。お返しに抱き上げてクルクル回る。新婚かな?



 新婚だね。



 家はマリアンだけだった。一足先に夕食の準備に戻ったらしい。

「うん、かなり傷んでいたから建て直すことにした。明日また行って建て直すつもりだけど、マリアンも手伝ってくれる?」
「もちろんじゃ。また夫婦の共同作業じゃのう」

 先日の一件以来、マリアンのテンションが高い。彼女はとんでもなく長い時間を生きてきた。人里に下りることはあったけど、こうやって人と一緒に暮らすことまではしていなかったそうだから、今が楽しいのだとか。さすがに妻になりたいと言った時はびっくりしたけど。

 そして今まで距離を置いていたからか、あれからスキンシップがすごい。「頑張って励むから」と言っていた通り、夜の頑張りがすごかった。「ワシは女じゃぞ」と言っていたけど、尽くすというか勢いだった。

「カローラにも声をかけるつもりだけど、それでもいい?」
「もちろんじゃ」



 夕食の時にみんなで近況報告。店の方は順調。クレープ屋も順調。

「カローラ、明日領主邸を建てるから、それを手伝ってほしいんだけど、仕事は大丈夫そう?」
「はい、大丈夫です。みなさん物覚えがいいですので」
「ギルドから応援が来ていますから、いずれ私たちがいなくなっても大丈夫ですよ。それはそれで寂しいですけど」
「マイカが言ったように応援が来てくれているなら、いずれあの店は公営という形にしてもいいと思う。在庫のチェックとかをするために、みんなが交代で店に入ってもいいと思うけどね」
「他にクレープ屋をしたいという人が出始めましたので、基本のレシピを教えました。その中の一人はコンロ型の魔道具を持っているそうで、それを使うと言っていましたねぇ」
「領主夫人が屋台でクレープを焼くのはギルドとしてはどうなんだろ?」
「旦那様、マノンさんの戦う力は問題ないでしょう。ですが領主夫人が人前でものを売ることについてのギルドの不安を考えるなら、屋台での販売はいずれはやめた方がいいと思います。むしろ飲食店を経営するのはいかがでしょうか?」
「いいですねぇ。おしゃれな飲食店」
「じゃあマノン、そのあたりも順番に考えていこうか」

「セラとキラは接客は慣れてきた?」
「慣れてきたと思いますが、クレープを作る方が好きです。でも接客も嫌ではないですよ?」
「私も調理の方が楽しい」
「二人は飲食店をするなら厨房に入ってもらってもいいかもね。ところで、リゼッタとカロリッタは?」
「もりへいくっていってたよ」
「じゃあ、後で甘いものを準備しておくか」

 リゼッタは僕がやりやすいように先回りして準備してくれるからね。たまにやり過ぎるけど。カロリッタは付き合わされたんだろう。

 大森林に置いた魔素吸引丸太から専用の異空間には魔素が貯められ続けている。現在はとんでもない量になっている。異空間だから外には影響はないけどね。

 カローラが改良してくれた自動移動型の魔素吸引丸太は勝手に魔素が多いところまで転がっていくし、それぞれが距離を保つようになっているから一ヶ所に固まる心配もない。

 それでも移動には時間がかかるから、ある程度奥まで移動してから置く必要がある。そのついでに危険そうな魔獣を狩って、売っても大丈夫なものは冒険者ギルドで売却するというのが最近の二人。最初の頃は店や屋台の手伝いをしていたけど、スタッフが増えたから別行動を取り始めた。だからたまに夕食に遅れることもある。



 夕食後、僕はカステラを作ることにした。おそらくこの国では作られていないと思う。パウンドケーキと似ているといえば似ているかな。

 使うのは卵四個、小麦粉と砂糖が一〇〇グラム、水飴と蜂蜜と植物油が大さじ二。小麦粉は強力粉がいいけど、薄力粉でもできなくはない。ただしふかふかになる。ザラメは使っていない。

 小麦粉はふるいにかけておく。

 卵を割ってよく混ぜる。

 砂糖を入れてよく混ぜる。

 水飴と蜂蜜と植物油を入れてよく混ぜる。

 小麦粉を三回に分けて混ぜる。混ぜすぎないように。

 型に流し入れ、一八〇度で予熱したオーブンで一〇分程度焼く。

 温度を下げて三〇分程度焼く。



 卵黄と卵白に分ける作り方もあるし、牛乳を入れたり、水飴の代わりにみりんを入れたりする作り方もある。それなりに高価な食材が使われているから、この国ではあまり一般的ではないだろう。一本焼くならそれなりに高くなるけど、カットすればお店で出しても大丈夫かな?

「ただいま戻りました」
「戻りました~」
「お帰り、二人とも。お菓子を焼いたから、先に食事を済ませてね」
「はい」
「はい~」



「それでこのカステラは何ですか? ものすごく美味しいですね」
「マスターの優しさが~お腹の奥の奥までが染みます~」
「領主の妻が道で屋台を出すというのは問題があるだろうから、いずれは店にするのもありだと思ってね。そこでお菓子を出すならカステラもどうかなと思っただけ。シンプルだけど高い素材を使うからね」
「高級感を出すお店でしょうか。それなら納得できます」
「ちょっと背伸びした感じでしょうか~」

 そう。屋台のクレープは、他の屋台よりもちょっと高いけど美味しいという位置づけ。もし飲食店をするなら、他の店よりも高いけど美味しい、という位置づけにしたい。でも料理を出すと他の飲食店に影響が出るかもしれないから、出すとすれば軽食と喫茶かなと思っている。



◆ ◆ ◆



「では今から使用人寮を建てます」

 三人でどうやって建てるのかが気になるのか、使用人のみんなが集まっている。

「僕が基礎と骨格を作るから、マリアンとカローラは窓や建具をお願い」
「分かった」
「分かりました」

 まずは地面をならして、さらに一段上げる。基礎とは言っても魔法で固定するから厳密には基礎は必要ないので、通風のためだけかな?

 その上にマジックバッグから建材を取り出していく、骨格は砂や土を魔法で石のように固めたもの。石を砕いて砂や土にできるのなら、砂や土を固めれば石にできる。これを板状に加工しておき、これを並べて接合する。異世界版プレハブ工法と言うべきかPC工法と言うべきか。

 異空間の家とは違って排水を考えないといけない。温泉旅館と同じように、汚水は[浄化]と[分解]で無害にしてから地面に返す。そのまま流すと地下水に影響が出るからね。そのための配管を壁の隙間に通す。

 このような無茶ができるのは、この三人が[魔力紐]や[魔力手]を使えるから。ふわふわと浮きながら、床、壁、天井、屋根、と組み立てていく。長さが余れば切ればいい。

 窓を付けるところはくり抜いて、窓枠をはめ込んで固定する。三階建てにしたので、最上階だけは屋根にも窓を付け、星空を眺めることができるようにした。外壁は漆喰を塗って乾燥させる。

 内部は板張りにする。うちの家とは違って靴のままは入るから、玄関のところで土を落とせるようにする。階段に手すりを付け、壁や天井には断熱の意味も持たせた漆喰を塗って乾燥させる。

 個室は日本式の1LDKで、そこにお風呂とトイレを設置した。個室にお風呂やトイレを設置したのは、門衛四人の生活時間がそれぞれ違うので、個室の中の方が楽だろうと思ったからだ。窓枠の上にはカーテンレールを付けたから、カーテンは自分の好みのものを付けてもらえばいいかな。

 そして玄関と廊下と個室の各所に照明を取り付ける。真っ暗にならないように、うっすらと光る照明も取り付けておく。

「お前様、屋根は終わったぞ」
「ご主人様、窓のひさしなどはあれでいいでしょうか?」
「二人ともご苦労様」

 後ろを見ると、使用人のみんながポカーンとした顔で使用人寮を見ている。

「では次は本館の方を建てます。荷物を片付けますね」
「はい、玄関横の部屋に集めてあります」

 昨日頼んでおいた通り、この建物にあるものはすべてこの部屋にまとめられていた。すべてマジックバッグに入れたら建物を解体する。

「それじゃあ、さっきと同じように建てるから」
「分かった」
「分かりました」



◆ ◆ ◆



 執事のイェルンと門衛のレンスには奥さんがいることが分かったので、それぞれ家を用意することにした。二人とも通いで働いていたけど、奥さんが近くにいる方がいいだろう。一応奥さんに引っ越しについて聞いてもらうことにした。

 フランカも通いだけど、旦那さんが衛兵をしているので、今の家で大丈夫だということだった。

 結果としてはイェルンとレンスは領主邸の敷地に作った家に引っ越すことになった。イェルンは子供たちは独立しているので奥さんのイレーナだけ、レンスは奥さんのヤコミナと双子の娘カリンとリーセを連れて引っ越してきた。

 レンスの娘はミシェルと同じくらいだから。仲良くなってくれるといいね。

 そこまで考えて、異空間の家をどうするかということになった。領主としてこの町で暮らすことを考えれば、あの家はあまり使わなくなる。でもなくしてしまうのはもったいないから別荘として使うことになった。そして畑や森は実験農場としての働きもあるから、なくすのは難しい。

「図書室は領主邸にそのまま移してほしいです」
「そうだね。衣装室もそのまま移すね」
「厨房はほぼ同じですので問題ありません」
「サランたちはどうしますか~?」
「いずれはあの異空間と領主邸を繋いで、移動しやすいようにしようか。馬たちもそれでいいと思う。基本は向こうにいてもらうけどね」
「はちはむり?」
「蜂ねえ。敷地内にちょっとした藪があるから、その木でも大丈夫なさそうなら一部に移ってもらうのもありだけど、こっちの環境に適合できるかだよね」

 異空間は魔素や魔力を細かく調整できるけど、さすがに領主邸の周辺ではそれは難しいと思うんだけど。

「ご主人様、管理者なら地上世界でもある程度は調整できますよ」
「え? そうなの?」
「はい。要領は同じです」
「それなら、特定の場所の魔素を調整したりできるの?」
「はい、できます。ただし範囲は広くありませんので、大森林の魔素を減らすのは無理です。せいぜい家の敷地くらいの範囲です」
「それでも調整が可能ならありがたいね」

 それぞれの村で作ってもらおうと思っている果物や砂糖の元になるサトウキビも、収穫量が増えれば手に入りやすくなるからね。もちろん無茶なことをして経済を崩壊させるようなことはしないよ。

「そろそろ商人ギルド経由でそれぞれの村に連絡をしようと思う。みんなもコロコロと環境が変わって大変だと思うけど、店と屋台の方をよろしくね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

処理中です...