新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第二章 第一部

魔道具二種

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「それで、アシルさんらしき人の居場所が分かったから、そちらの方へ進もうと思う」
「それでいいと思います。それにしてもケネスも進歩しましたね」
「何が?」
「セラとキラのことです。今回は自分から動きましたよね。これで残りはマリアンさんくらいでしょうか」
「マリアンは興味がないって言ってるんだからダメ。勝手に引っかき回されたら嫌でしょ? そこは守りなさい」
「分かりました」
「カロリッタもね」
「はい~」

 夕食後リゼッタとカロリッタの二人を呼んで今日あったことを説明した。そこで僕とセラとキラの間であったこと、アシルさんらしき人の情報を得たことを話した。

 またリゼッタが暴走しかけそうだったのでストップをかける。放っておくと妻の数を増やす方向に行くので、こうやって止めないと。勝手に連れてきたりとかはしないけど、僕と相手の背中をグイグイ押す感じにしてくるから油断ならない。



「進む方向は~マスターの好きにすればいいですよ~。そこまで危険のある場所でもないでしょうし~」
「そうですね。[地図]があればほぼ問題ないでしょうし、私とカロリッタさんで周辺警戒すればいいでしょう。

 雑貨屋で居場所が分かったアシルさんと会うには南を行く方がいいか。そうなると次のカルスナ市を出たらまっすぐ東へ向かい、山の麓に沿って森の中を進む形になる。そうするとディキリ町の西あたりに出ることになるだろうね。

「丸太の設置はかなり進みました。今日はカローラ様も設置に協力してくださったので、ケネスがいる時と同じか、それ以上のペースでした」
「それならもう少しで終わるのかな……って、しれっと言ったけど、カローラさんどうやって出たの? 僕は開けてないけど」
「マスターの魔力を元に~一瞬だけ出入り口を開ける魔道具を作ったそうです~。出るのは比較的楽だそうですが~戻るのは座標指定が大変みたいですね~」
「まあ所詮は魔法だから、あの人の方が僕よりも慣れてると言えば慣れてるから当然か……。今度その魔道具を見せてもらおう。みんなが付けるようになれば出入りが楽になるからね」
「絶対に見たがると思って貰ってきました。どうぞ」
「……ありがとう」

 リゼッタがネックレスを渡してくれた。

 魔道具作りもだいぶ慣れたから、ざっと術式を見れば、何をどう組み合わせているか、だいたい分かるようになったね。

「……なるほど、ここで同調してるのか。これなら作れそうかな」
「他人の作った異空間へのアクセスはかなり大変だと聞きますが、できそうですか?」
「そうだねえ、個人個人の魔力が違う上に、外部からは探しにくいからね」

 そもそも異空間というのはまず外からは認識できない。それができたとしても、魔力というのは指紋と同じように人それぞれ違っていて、さらにはその時の気分などにも影響される。つまり、今と五秒先ですら微妙に違うこともあるから、目の前にいる人の今の魔力だけでは完璧には座標の特定はできない。

 でも抜け道を使えばいけるかな。

「とりあえず作業は明日ね。テストに付き合ってね」
「はい、それはかまいませんが……手間賃は前払いですよね?」
~」



◆ ◆ ◆



「とりあえずちゃんとしたのは後で作るとして……はいリゼッタ、これを持って一度外に出て戻ってこられるか試してみて」
「分かりました」

 カローラさんが作ったこの異空間への転移装置を元にして、みんな用の転移魔道具を作ることにした。

 適当な大きさの金属板に術式を書き込んで、出入り口の開け閉めができるかどうか試してもらうことにした。

 リゼッタが魔力を流すと半透明の板が現れた。最近は制御が上達したので、黒いモヤモヤじゃない出入り口も作れるようになった。

 サンダルを渡すと、リゼッタはそれを履いてそこを通り抜けていった。するとその板は消えた。そしてしばらくすると家の外からリゼッタが戻ってきた。

「ありがとう。どのあたりに出た?」
「ホルスト市から少し離れたところです。通過した後に振り向くと先ほどの通り口は消えていました。再び魔力を流すとまた現れましたので、それをくぐるといつもの出入り口の横あたりに現れました」
「それならこれで大丈夫かな」
「どうやったんですか~?」
「普通の人には無理だろうけど、カロリッタとリゼッタなら分かると思うよ。カローラさんもできたことだから、ヒントはそこだね」
「ステータスですか~?」
「その通り。最初にこの異空間にある僕の魔力をインプットしておく。固定化された魔力は変化しないからね。それから[検索]で僕を地上から探し出して、魔力が一致しているのを確認する。誤差があるから仕方ないね。最後に、その時の僕の魔力を真似て、僕の代わりに出入り口を作る。僕自身が僕の魔力を使って僕の異空間を探す感じだから、他人の異空間を探すのとは全然違うよ」
「間違って非常によく似た別のケネスのところに行くことはありませんか?」
「もちろん安全装置は付けたよ。探す対象の名前が[ケネス]で、種族が[エルフ?]になっている上に、特徴に[リゼッタ]と[カロリッタ]が入っている人物なんで、他には絶対いないでしょ」
「間違いないでしょうね」
「いや~ん。照れます~」



 異空間へ出入りする魔道具について、必要な人が何人いるか確認してみた。

「この異空間に自由に出入りするための魔道具を作るから、欲しい人は手を上げて」



 サッサッサッ



 全員か。

 ミシェルはエリーと一緒という条件を付けないとね。

「カローラさんは自前でいけるのでは?」
「私だけ除け者はずるいです」
「それもそうですね。それじゃ、みんなの分ね。形なんだけど、身に付けるものがいいから、アクセサリーにしようと思う。指輪とかブローチとか、どんな形でもいいよ。順番に希望を言って」



 リゼッタは指輪。

 カロリッタは指輪。

 エリーは首輪。

 ミシェルはブローチ。

 マイカは首輪。

 マリアンはブレスレット。

 セラは指輪。

 キラは指輪。

 カローラさんは首輪。



 ……首輪?



「私の体は頭のてっぺんからつま先まで、すべて旦那様のものです。所有権をはっきりさせませんと」
「私も先輩以外は考えられません。前世も今世も、そして来世も一緒です」
「私の心と体もケネスさんのものです。従属していることをはっきりさせることは大切ですね」

 三人が円陣を組んで手を重ね合わせた。この三人は仲がいいからね。特にここ最近は料理や裁縫などで三人一緒のことが多いらしい。

「旦那様の好みとしては、あまり目立たない方がいいでしょうか。でも首輪と言えば革製でしょうね。色は黒か赤か」
「先輩の場合、あまりゴツいのは嫌がると思いますよ。細めでアクセサリーも兼ねるようなデザインがいいと思います」
「私としては、躾として引っ張ってもらうために、最初から二〇センチほど鎖を垂らしてもらえれば。同じデザインで手枷と足枷も欲しいですね」
「ちょっと、変なものを作らせないでくれる?」
「お、お前様、ワシのはブレスレットじゃぞ! 手枷ではないぞ!」
「何をどう勘違いしたらブレスレットが手枷になるの?」

 それぞれ本人たちの希望を聞いてデザインする。

 リゼッタの指輪はシンプルなウェーブ型、カロリッタはV字型、セラとキラはおそろいでやや太めのシンプルなもの。

 ミシェルのブローチは本人の希望によりミツバチのデザインになった。森で一緒に遊んでるからだろうか。

 マリアンのブレスレットは細いチェーンを重ね付けしたようなデザインにした。

 首輪は……革でできたリボンのようなチョーカーにした。さすがに犬の首輪のようなものは、一緒に隣を歩くと思うと、ねえ。もちろん鎖は付けてないよ。



 それともう一つ、新しいマジックバッグをみんなに配ることにした。

 これまで僕とリゼッタ、エリー、マイカはカローラさんから貰ったマジックバッグを使っているけど、カローラさんがこっちにいる以上は中身が追加されることはあまりないだろう。

 そして僕が作ったマジックバッグもある。これはカロリッタとマリアン、セラ、キラが使っている。

 早い話が、何かが必要になった時に毎回僕が渡すより、いつでもみんなが好きなように使える方が絶対に楽なんだよね。

 厳密に言うと、渡すのはマジックバッグそのものではなく、持ち運びのできるマジックバッグの口。本体は僕の部屋のある、新しく作ったマジックバッグ。それを開けるための口だけをみんなに渡そうと思う。

 マジックバッグの中を二つに分け、一部は共用スペース、一部は複数の個人用スペースにした。入れる際にどちらに入れるかを考えながら入れる。

 共用スペースに入れた物は、誰でも出し入れできるようにした。イメージとしてドアが複数ある倉庫だね。そのドアを各自が持つ感じ。

 個人スペースに入れた物は、別の口からは見ることができないようにした。こちらは倉庫の中に置いた、鍵付きの個人ロッカー。

 共用スペースと個人スペースはそれぞれやりとりすることができるので、共用スペースにある物を誰かが個人スペースに移動させる、あるいは個人スペースに入れていた物を共用スペースに移動させることもできる。ただし、自分の個人スペースから他人の個人スペースへは直接移動させることはできない。

「作るのが僕だから、僕は全部見ることができるからね。マジックバッグに何かが起きない限りは見るつもりはないけど、見ようと思えば見ることができるから、一応そのつもり。絶対見られたくないものは入れないように」
「ケネスさん、見てほしいものは入れるということでいいですよね?」
「何を見せるつもりですか?」



 それで形をどうするか、僕は美容師が腰に付けているシザーバッグのような形を提案した。ふた付きで、中にポケットがあって、ベルトの長さを調節して使い分けができるように。でも意見も出た。

「旦那様、着物には合わないような気がします。割烹着のポケットをマジックバッグにするのではダメでしょうか?」
「メイド服にも微妙かもしれません。私もメイド服のポケットにしてください」

 それならいっそのこと、ポケットをマジックバッグにすることになった。ポケット型なら、縫い付けるなりボタンで留めるなり、各自好きなところに付ければいい。着物の袖の内側に取り付けてしまってもいいし、エプロンのポケットの中に入れてもいいし、自分のカバンの中に付けてもいい。使い方は自由。

 ポケットの大きさは手のひらがすっぽりと入るくらいで、それを一人あたり五枚まとめて渡した。希望があれば追加を作る。

 ポケットの中は黒いモヤモヤではなく半透明になっている。中に手を入れた状態で何かに触れると、それを収納することができる。それだけでは使いにくいだろうから、結局シザーバッグ型のマジックバッグも作り、それも一緒に渡した。僕はこちらの方がいいからね。



 そういうことで、これまで僕のマジックバッグに入っていたものは一度僕の個人スペースに入れた。そこから他人に決して見せられないを除き、一般的なものは共用スペースに移していったけど、そのあまりの量にみんなが驚いていた。そしてそれだけの量を僕に渡したカローラさんの常識のなさにも。
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