49 / 278
第一章 第三部
直轄領へ
しおりを挟む
マリアンが居候となり、マイカとはそういう関係になってしばらく経ち、ある意味では落ち着いた日常になったとも言える。グダグダ言ってはいたけど、結局は僕の覚悟次第なんだよね。
俺TUEEEしたいわけじゃないし、ハーレムを作りたいわけでもない。そういうのはできれば全力で回避したいけど、カローラさんの庇護下に入ったおかげでそれは到底無理な話だと最近は思うようになった。でも回避できるなら回避するよ。諦めかけてはいるけどまだ投げ出してはいないから。
今はラクヴィ伯爵領の一番東の町であるパイデ市を横目に通り過ぎ、もうそろそろ王家の直轄領。僕のお供は相変わらずリゼッタとカロリッタ。マイカは図書室の司書とミシェルの家庭教師をしつつエリーやマリアンの手伝いという、なんでも屋をしている。社会人時代は少し気が弱いところがあったけど、それもこの一八年で治ったのか、そういうところは見えない。むしろ強くなった気がする。
フェリン王国は中央やや北寄りに直轄領があって、南北を公爵領、東西を伯爵領が守っている。子爵領と男爵領はその外側。侯爵は宮廷貴族だけにある爵位で領地は持たない。領地貴族として侯爵と同等の地位にあるのが辺境伯。辺境伯領は東から南東にかけての国境にある。
マイカの情報によると、ラクヴィ伯爵領より西側にはあまり貴族領がないそうだ。あってもほとんどが男爵領。ラクヴィ伯爵領だって東に町が多いしね。
そもそも国を守るために貴族がいるわけなので、北のヴェリキ王国、東のレトモ王国、南のクルディ王国から国を守るというのが本来の仕事。西は国境を接している国がないのでどちらかと言えば放ったらかしらしい。そりゃ当時のキヴィオ男爵が躍起になって領地を広げて住民を増やそうとしたのがよく分かる。中央を見返してやりたいよね。
直轄領はかなり広いけど、貴族を全て敵に回して勝てるほどの力はない。だから王家と貴族は表面上は仲良くやっているようだ。
王都のヴィリョンは当然この国で一番大きく、人口は一五万人を超えている。ヴィリョンを中心として八方向に、それぞれ五日ほどの距離に町があり、町と町とが輪のように街道で結ばれている。さらにその外側にもぐるっと一二の町があり、外側の輪を作っている。二重都市群と言われているらしい。
初代国王がこの国を建国した時、自分を助けてくれた八人の仲間たちに、王都防衛のための砦を作って一つずつ任せることにした。その砦が発展して人口五〇〇〇人から一万人ほどの町になった。さらにその外側にこれら八つの町を守るために一二の町ができ、今のような二重構造になったのだと。元々は外敵から王都を守るための町だったけど、今ではそのような意味も薄れ、単に王都を中心とした大経済圏となっている。
実際のところ、人口一〇万人を超える町は王都しかなく、王都と二重都市群だけで三〇万人、直轄領全体で五〇万人を超えている。まさにこの国の人と経済の中心地。二重都市群は物資の集積、保管、配送のための物流拠点となっている。
◆ ◆ ◆
この街道のずっと先に見えてきたのが直轄領の一番西の端にあるトゥーリ市。ここからスーレ市、パルツィ市、そして王都ヴィリョンの順に通る予定。スーレ市は二重都市群の外側の輪っか、パルツィ市は内側の輪っかのそれぞれ一番西側、王都から見たら真西になる。トゥーリ市は輪っかの外側にある直轄領の入り口のような町。
明日あたりにはトゥーリ市に入れるだろうか。そう言えば、マイカだけ仮証明書を書いてもらう必要があるのかな?
「急いで出てきたけど、マイカは何か身分証は持ってる?」
「はい、レオニートさんからの手紙に同封されてました。一応貴族としての身分証も持ってきましたけど、見せる場所を選びますから」
「でもさすがに領外までは手を伸ばしてはこないよね」
「はい、さすがに父にも限界があるでしょう。レオニートさんは本名と偽名の二つを用意してくれてました。時間がなかったので、母にお礼の手紙を頼んでおきました。自分で書けたらよかったんですけど」
「どこまで見越してたのか分からないけど、敵に回したくない人だね。あっそうだ、聞くのを忘れてたけど、エリアスさんが王都に戻る時に追いつかれることはないの? たまたま戻ってただけでしょ? 近付かれた気配はないけど」
「大丈夫だと思いますよ。しばらく父と兄には躾をすると母が言ってましたから。執事のルスランは父と兄が若い頃に教育係をしていたそうで、もう一度躾をやり直す必要があると張り切ってました。私も忘れてましたけど、先輩に肉体回復薬のお礼を伝えておいてほしいとルスランが言ってましたよ」
「あっ、お礼ね」
「はい、母からもです。あれだけあれば相当しっかりと躾ができると二人とも笑ってましたね。父と兄にはいい薬です」
「文字通り命が懸かったいい薬だね」
ルスランさんは大丈夫かなと心配したけど、問題なさそうだね。
「マリアンは人の町に出入りしていたんだから身分証は持ってるんだよね」
「うむ、商人ギルドのを持っておる」
「まだそれ使えるの?」
「これまで特に問題はなかったのう。あんなもの、そもそも形だけじゃろ。なくても入る方法はいくらでもあるしの」
「それを言ってしまえば終わりだけどね」
極端な話、僕だけが入ってどこかでみんなを外に出せばそれで済む話なんだけど、悪いことをするわけじゃないんだから、建前はできれば無視したくないんだよ。
冷房二八度はほとんど意味がないとしても、最終的にそこを目指すことは悪いことではないと思うんだよね。最初から無理と決めつけて冷房をガンガンに効かせるよりは、二五度か二六度くらいで様子を見ながら二七度の可能性を試すくらいはしてもいいんじゃないかなあ。
「とりあえず明日にはトゥーリ市に入る予定だから、みんなもそのつもりでね」
◆ ◆ ◆
「王都まではそれほど大きな都市はありませんけど、少しずつカラフルになりますね」
そう教えてくれたのは伯爵家令嬢として何度もここを通ったことがあるマイカ。箱入り娘だったけど、貴族の娘として社交のために王都へ行くのはある意味では仕事。父のエリアスさんもさすがに連れて行かないということはできなかったらしいとで、毎年は無理だったけど、この町にも寄ったことがあるらしい。
トゥーリ市は王家直轄領の中では一番西にある市。人口はそこまで多いわけではなく、五〇〇〇人程度。貴族領の領都であるキヴィオ市の二万人、ラクヴィ市の五万人と比べればずいぶん少なく感じる。ちなみにユーヴィ市は一五〇〇人。ルボルさんが人も物もないってぼやいてたのがよく分かる。戸籍管理をしているわけじゃないから、かなり誤差は出そうだけどね。
直轄領の中は市の数は多いけど、一つ一つはそこまで規模が大きくない。そりゃ王都周辺の二〇の市が全部五万人とかなら経済が崩壊するだろう。物資が絶対に足りないだろうし。
トゥーリ市は規模的にはそこまで大きくないけど、雰囲気は王都に近付いてきたからかカラフルになっている。建物の壁の色とか、人の着ている服の色とか。ユーヴィ市などは良く言えば落ち着いている、悪く言えば地味。ここでは服も綿と麻だけじゃなくて絹も見かけるね。
そう言いながら歩いている僕たちの服はエリーとマリアンが仕立てたもの。素材はユーヴィ市とキヴィオ市で買った物に加えてカローラさんから送られてきたらしい物も使われている。いつの間にか染色をするための小屋が解体小屋の近くに作られていて、衣装室に織り機が並んでいた。そのうち蚕とかを飼いそうな気がする。
このあたりは全てカローラさん事案なので、完成した織物は王族や貴族が土下座して欲しがる品質になるとか、そういうこともありそう。まあうちには貴族の娘もいるけどね。とりあえず外套を着てるから悪目立ちはしないだろうけど。
城門で教えてもらった宿屋にチェックインした。このあたりまで来れば物価も上がってくる。居間と四人用の寝室が二つある部屋で、一泊が一〇〇〇フローリン。キヴィオ市の金鶏亭が五泊で二〇〇〇フローリンだったので、広さも人数も違うけど二倍半になった。
商人が泊まるような宿屋はあるかと門衛に聞いたんだけど、思った以上に高級な宿屋を紹介してくれたらしい。お金があると思われたんだろうか。
でも裕福な人間なら歩いて旅はしないよね。女性が多い上に子連れで歩いて旅をしているから強いと思われたんだろうか。その方がありそう。
「ひろーい」
「さすがにこれ以上高いところに泊まるのはもったいないから、これが上限だね」
「お前様、金ならワシのところにある宝石やら壺やらを適当に売ればいくらでも作れるじゃろ。他に使い道もないしのう。家賃と思うていくらでも使っとくれ」
「それは最終手段にさせてもらうよ」
マリアンはうちで居候をしてるけど、家賃を受け取らない代わりにエリーの手伝いをしてもらってる。手伝いと言っても服関係がほとんどで、さすがに炊事洗濯までしてもらうつもりはない。そちらはマイカが「花嫁修業です」と頑張っている。
その花嫁修業という言葉に刺激されたのか、リゼッタとカロリッタもこれまで以上に家事をするようになったのはいいけど、「もっと家事を頑張ります」って、いや、裸エプロンは家事とは関係ないと思うよ。
さて、宿屋で部屋を確保したら、一度外に出てマーケティング・リサーチ。漢字にすると市場調査。ただの買い物だけど。
女性陣はやはり布物やアクセサリーが気になるらしい。変な言い方になるけど、服の質はおそらくうちの服の方が高い。でも派手すぎて着れない服が多いから、町中で着る無難な服は町で買った方がいい。流行も分かるしね。
「もう少し色味が強い方が好みなんじゃが」
「マリアン様は綺麗な黒髪ですから、淡い色もお似合いだと思いますよ」
「そうですよ、私なんて髪が真っ白だから、淡い色のドレスや着物が映えないんですよね。遠目にぼやけるそうです」
「綺麗な髪じゃと思うが、それはそれで難儀じゃのう」
もちろん、この町にだって派手な格好をしてる人はいる。でもそういう人は地位が高いかお金を持っているかのどちらか。そんな格好を真似する必要はないから、細かな装飾は付いているけど一見無難な服を僕たちは着ている。マリアンは除いて。
「この組紐は私の着物の帯留めと似ていますね」
「おお、リゼッタ殿の帯留めに使う組紐のう。あれはなかなかに華やかじゃのう」
「あれは故郷でよく見た図案を使いました。素材はカローラ様からいただいたものです。色合いはリゼッタ様に合うようにしましたが」
最近リゼッタは家で着物が多くなってきた。これがまたよく似合うんだ。小柄な若女将。
マイカもほとんどがメイド服か着物。カロリッタは着物はたまに着るくらいで、エリーはほとんど着物と割烹着。そんな状態になったのも、みんなが『あ~れ~』をやりたがったからなんだよね。
あれは実際にはネタとか宴会芸だと思うんだけど、くるくる回るのがどうも楽しかったらしい。回されるのも楽しいけど、回されている人を見るのはもっと楽しいとか。
そしてわざわざそれ用の長い帯や美しく脱げる着物を作ったり、布団に倒れる時のポーズを研究したりしていた。何度も付き合わされたけど、あれはあれでいいものだった。和室を用意させられた甲斐があったよ。マイカが来てからは回数が増えた気がする。
そんなことを考えている間にも、女性陣は大きめの商店に入って次から次へと商品を選んでいる。主に美容関係の商品を扱う店だね。店主と目が合った。気の毒なものを見る目でうんうんと頷いている。お金の面では問題ないよ。どちらかと言うと時間かな?
「必要なものがあれば並べていってね」
「旦那様、店には必要なものしか置かないものですよ。つまりここにある全てが必要不可欠なものです」
「そうですよ~。美の追求に不要なものはありません~」
「さすがは奥様方、よくご存知で。当店には女性に不要なものなど何一つございません。全て女性の美にとっての必需品でございます。当店は品揃えに関しましてはこの町で一番だと自負しておりますが、店頭には並べていないものも多数ございます。もしお目当てのものが見つからないようであれば倉庫を探してまいります。いくらでもお申し付けください」
「煽らないでくれる?」
この店でまとめ買いをして満足したのか、女性陣はその後は宿屋へ戻った。まあ普段はお金がかからない生活をしているから資金面では問題ないけど、王都までまだ町はあるんだからね。
「え? 準備運動? 何の?」
俺TUEEEしたいわけじゃないし、ハーレムを作りたいわけでもない。そういうのはできれば全力で回避したいけど、カローラさんの庇護下に入ったおかげでそれは到底無理な話だと最近は思うようになった。でも回避できるなら回避するよ。諦めかけてはいるけどまだ投げ出してはいないから。
今はラクヴィ伯爵領の一番東の町であるパイデ市を横目に通り過ぎ、もうそろそろ王家の直轄領。僕のお供は相変わらずリゼッタとカロリッタ。マイカは図書室の司書とミシェルの家庭教師をしつつエリーやマリアンの手伝いという、なんでも屋をしている。社会人時代は少し気が弱いところがあったけど、それもこの一八年で治ったのか、そういうところは見えない。むしろ強くなった気がする。
フェリン王国は中央やや北寄りに直轄領があって、南北を公爵領、東西を伯爵領が守っている。子爵領と男爵領はその外側。侯爵は宮廷貴族だけにある爵位で領地は持たない。領地貴族として侯爵と同等の地位にあるのが辺境伯。辺境伯領は東から南東にかけての国境にある。
マイカの情報によると、ラクヴィ伯爵領より西側にはあまり貴族領がないそうだ。あってもほとんどが男爵領。ラクヴィ伯爵領だって東に町が多いしね。
そもそも国を守るために貴族がいるわけなので、北のヴェリキ王国、東のレトモ王国、南のクルディ王国から国を守るというのが本来の仕事。西は国境を接している国がないのでどちらかと言えば放ったらかしらしい。そりゃ当時のキヴィオ男爵が躍起になって領地を広げて住民を増やそうとしたのがよく分かる。中央を見返してやりたいよね。
直轄領はかなり広いけど、貴族を全て敵に回して勝てるほどの力はない。だから王家と貴族は表面上は仲良くやっているようだ。
王都のヴィリョンは当然この国で一番大きく、人口は一五万人を超えている。ヴィリョンを中心として八方向に、それぞれ五日ほどの距離に町があり、町と町とが輪のように街道で結ばれている。さらにその外側にもぐるっと一二の町があり、外側の輪を作っている。二重都市群と言われているらしい。
初代国王がこの国を建国した時、自分を助けてくれた八人の仲間たちに、王都防衛のための砦を作って一つずつ任せることにした。その砦が発展して人口五〇〇〇人から一万人ほどの町になった。さらにその外側にこれら八つの町を守るために一二の町ができ、今のような二重構造になったのだと。元々は外敵から王都を守るための町だったけど、今ではそのような意味も薄れ、単に王都を中心とした大経済圏となっている。
実際のところ、人口一〇万人を超える町は王都しかなく、王都と二重都市群だけで三〇万人、直轄領全体で五〇万人を超えている。まさにこの国の人と経済の中心地。二重都市群は物資の集積、保管、配送のための物流拠点となっている。
◆ ◆ ◆
この街道のずっと先に見えてきたのが直轄領の一番西の端にあるトゥーリ市。ここからスーレ市、パルツィ市、そして王都ヴィリョンの順に通る予定。スーレ市は二重都市群の外側の輪っか、パルツィ市は内側の輪っかのそれぞれ一番西側、王都から見たら真西になる。トゥーリ市は輪っかの外側にある直轄領の入り口のような町。
明日あたりにはトゥーリ市に入れるだろうか。そう言えば、マイカだけ仮証明書を書いてもらう必要があるのかな?
「急いで出てきたけど、マイカは何か身分証は持ってる?」
「はい、レオニートさんからの手紙に同封されてました。一応貴族としての身分証も持ってきましたけど、見せる場所を選びますから」
「でもさすがに領外までは手を伸ばしてはこないよね」
「はい、さすがに父にも限界があるでしょう。レオニートさんは本名と偽名の二つを用意してくれてました。時間がなかったので、母にお礼の手紙を頼んでおきました。自分で書けたらよかったんですけど」
「どこまで見越してたのか分からないけど、敵に回したくない人だね。あっそうだ、聞くのを忘れてたけど、エリアスさんが王都に戻る時に追いつかれることはないの? たまたま戻ってただけでしょ? 近付かれた気配はないけど」
「大丈夫だと思いますよ。しばらく父と兄には躾をすると母が言ってましたから。執事のルスランは父と兄が若い頃に教育係をしていたそうで、もう一度躾をやり直す必要があると張り切ってました。私も忘れてましたけど、先輩に肉体回復薬のお礼を伝えておいてほしいとルスランが言ってましたよ」
「あっ、お礼ね」
「はい、母からもです。あれだけあれば相当しっかりと躾ができると二人とも笑ってましたね。父と兄にはいい薬です」
「文字通り命が懸かったいい薬だね」
ルスランさんは大丈夫かなと心配したけど、問題なさそうだね。
「マリアンは人の町に出入りしていたんだから身分証は持ってるんだよね」
「うむ、商人ギルドのを持っておる」
「まだそれ使えるの?」
「これまで特に問題はなかったのう。あんなもの、そもそも形だけじゃろ。なくても入る方法はいくらでもあるしの」
「それを言ってしまえば終わりだけどね」
極端な話、僕だけが入ってどこかでみんなを外に出せばそれで済む話なんだけど、悪いことをするわけじゃないんだから、建前はできれば無視したくないんだよ。
冷房二八度はほとんど意味がないとしても、最終的にそこを目指すことは悪いことではないと思うんだよね。最初から無理と決めつけて冷房をガンガンに効かせるよりは、二五度か二六度くらいで様子を見ながら二七度の可能性を試すくらいはしてもいいんじゃないかなあ。
「とりあえず明日にはトゥーリ市に入る予定だから、みんなもそのつもりでね」
◆ ◆ ◆
「王都まではそれほど大きな都市はありませんけど、少しずつカラフルになりますね」
そう教えてくれたのは伯爵家令嬢として何度もここを通ったことがあるマイカ。箱入り娘だったけど、貴族の娘として社交のために王都へ行くのはある意味では仕事。父のエリアスさんもさすがに連れて行かないということはできなかったらしいとで、毎年は無理だったけど、この町にも寄ったことがあるらしい。
トゥーリ市は王家直轄領の中では一番西にある市。人口はそこまで多いわけではなく、五〇〇〇人程度。貴族領の領都であるキヴィオ市の二万人、ラクヴィ市の五万人と比べればずいぶん少なく感じる。ちなみにユーヴィ市は一五〇〇人。ルボルさんが人も物もないってぼやいてたのがよく分かる。戸籍管理をしているわけじゃないから、かなり誤差は出そうだけどね。
直轄領の中は市の数は多いけど、一つ一つはそこまで規模が大きくない。そりゃ王都周辺の二〇の市が全部五万人とかなら経済が崩壊するだろう。物資が絶対に足りないだろうし。
トゥーリ市は規模的にはそこまで大きくないけど、雰囲気は王都に近付いてきたからかカラフルになっている。建物の壁の色とか、人の着ている服の色とか。ユーヴィ市などは良く言えば落ち着いている、悪く言えば地味。ここでは服も綿と麻だけじゃなくて絹も見かけるね。
そう言いながら歩いている僕たちの服はエリーとマリアンが仕立てたもの。素材はユーヴィ市とキヴィオ市で買った物に加えてカローラさんから送られてきたらしい物も使われている。いつの間にか染色をするための小屋が解体小屋の近くに作られていて、衣装室に織り機が並んでいた。そのうち蚕とかを飼いそうな気がする。
このあたりは全てカローラさん事案なので、完成した織物は王族や貴族が土下座して欲しがる品質になるとか、そういうこともありそう。まあうちには貴族の娘もいるけどね。とりあえず外套を着てるから悪目立ちはしないだろうけど。
城門で教えてもらった宿屋にチェックインした。このあたりまで来れば物価も上がってくる。居間と四人用の寝室が二つある部屋で、一泊が一〇〇〇フローリン。キヴィオ市の金鶏亭が五泊で二〇〇〇フローリンだったので、広さも人数も違うけど二倍半になった。
商人が泊まるような宿屋はあるかと門衛に聞いたんだけど、思った以上に高級な宿屋を紹介してくれたらしい。お金があると思われたんだろうか。
でも裕福な人間なら歩いて旅はしないよね。女性が多い上に子連れで歩いて旅をしているから強いと思われたんだろうか。その方がありそう。
「ひろーい」
「さすがにこれ以上高いところに泊まるのはもったいないから、これが上限だね」
「お前様、金ならワシのところにある宝石やら壺やらを適当に売ればいくらでも作れるじゃろ。他に使い道もないしのう。家賃と思うていくらでも使っとくれ」
「それは最終手段にさせてもらうよ」
マリアンはうちで居候をしてるけど、家賃を受け取らない代わりにエリーの手伝いをしてもらってる。手伝いと言っても服関係がほとんどで、さすがに炊事洗濯までしてもらうつもりはない。そちらはマイカが「花嫁修業です」と頑張っている。
その花嫁修業という言葉に刺激されたのか、リゼッタとカロリッタもこれまで以上に家事をするようになったのはいいけど、「もっと家事を頑張ります」って、いや、裸エプロンは家事とは関係ないと思うよ。
さて、宿屋で部屋を確保したら、一度外に出てマーケティング・リサーチ。漢字にすると市場調査。ただの買い物だけど。
女性陣はやはり布物やアクセサリーが気になるらしい。変な言い方になるけど、服の質はおそらくうちの服の方が高い。でも派手すぎて着れない服が多いから、町中で着る無難な服は町で買った方がいい。流行も分かるしね。
「もう少し色味が強い方が好みなんじゃが」
「マリアン様は綺麗な黒髪ですから、淡い色もお似合いだと思いますよ」
「そうですよ、私なんて髪が真っ白だから、淡い色のドレスや着物が映えないんですよね。遠目にぼやけるそうです」
「綺麗な髪じゃと思うが、それはそれで難儀じゃのう」
もちろん、この町にだって派手な格好をしてる人はいる。でもそういう人は地位が高いかお金を持っているかのどちらか。そんな格好を真似する必要はないから、細かな装飾は付いているけど一見無難な服を僕たちは着ている。マリアンは除いて。
「この組紐は私の着物の帯留めと似ていますね」
「おお、リゼッタ殿の帯留めに使う組紐のう。あれはなかなかに華やかじゃのう」
「あれは故郷でよく見た図案を使いました。素材はカローラ様からいただいたものです。色合いはリゼッタ様に合うようにしましたが」
最近リゼッタは家で着物が多くなってきた。これがまたよく似合うんだ。小柄な若女将。
マイカもほとんどがメイド服か着物。カロリッタは着物はたまに着るくらいで、エリーはほとんど着物と割烹着。そんな状態になったのも、みんなが『あ~れ~』をやりたがったからなんだよね。
あれは実際にはネタとか宴会芸だと思うんだけど、くるくる回るのがどうも楽しかったらしい。回されるのも楽しいけど、回されている人を見るのはもっと楽しいとか。
そしてわざわざそれ用の長い帯や美しく脱げる着物を作ったり、布団に倒れる時のポーズを研究したりしていた。何度も付き合わされたけど、あれはあれでいいものだった。和室を用意させられた甲斐があったよ。マイカが来てからは回数が増えた気がする。
そんなことを考えている間にも、女性陣は大きめの商店に入って次から次へと商品を選んでいる。主に美容関係の商品を扱う店だね。店主と目が合った。気の毒なものを見る目でうんうんと頷いている。お金の面では問題ないよ。どちらかと言うと時間かな?
「必要なものがあれば並べていってね」
「旦那様、店には必要なものしか置かないものですよ。つまりここにある全てが必要不可欠なものです」
「そうですよ~。美の追求に不要なものはありません~」
「さすがは奥様方、よくご存知で。当店には女性に不要なものなど何一つございません。全て女性の美にとっての必需品でございます。当店は品揃えに関しましてはこの町で一番だと自負しておりますが、店頭には並べていないものも多数ございます。もしお目当てのものが見つからないようであれば倉庫を探してまいります。いくらでもお申し付けください」
「煽らないでくれる?」
この店でまとめ買いをして満足したのか、女性陣はその後は宿屋へ戻った。まあ普段はお金がかからない生活をしているから資金面では問題ないけど、王都までまだ町はあるんだからね。
「え? 準備運動? 何の?」
1
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる