新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第一章 第二部

独白:リゼッタのマジックバッグ

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 私にはケネスからマジックバッグが与えられています。斜め掛けのタイプです。元々これはカローラ様からケネスに与えられたものの一つです。ケネスは背中のリュックと腰のウェストバッグを使っていますので、これ以上はいらないからと私が使うことになりました。「正直ウェストバッグだけでもいいんだけどなあ」と言っていましたが、王侯貴族が土下座してでも欲しがるくらいの性能ですよ。

 彼には余程のことがない限り危険はないはずですが、それでも万が一に備えてリスクを分散させるために、この鞄にもしばらく生活できるだけの物資が移し替えられています。



 彼は旅の途中である母娘おやこを助けました。エリーさん、その母親のほうですが、彼女は驚くほど積極的にケネスに自分をアピールしています。私にもあれくらいの積極性があればいいのですが。もちろん夜はきちんと可愛がってもらっていますよ。

 でもケネスを入れて三人が仲良く話していると、まるで本当の家族のように思えてモヤモヤします。決して二人を嫌っているわけではないのですが。

 そのエリーさんが服を作りたいと言ったので布を渡しました。ユーヴィ市で買い込んだ物です。彼女は私より背が高くてスタイルが良いので、私の服では合いません。特に胸元が……なぜでしょう、目から汗が出てきますね……

 手先が器用なのでしょう、渡した翌日にはすでにいくつも服が完成していました。しかもケネスの住んでいた世界にもあった物です。それを見た彼は冷静なふりをしていましたが、いつも近くにいる私には分かります。嬉しさがにじみ出ていました。最近は微妙な表情の変化が分かるようになってきました。

 私とカロリッタさんの分まで作ってくれることになったので、これから彼女に追加の布を渡しに行きましょうか……

 おや? 鞄の中に見慣れない大きな包みが入っていますね。そしてこれは手紙でしょうか。

 ええと、『リゼッタへ このマネキンに合うドレスも作ってくれるようにエリーさんに頼んでください。様々な種類の布を入れておきました。全て好きに使ってもらって構いません。足りないようならいくらでも追加しますので手紙で連絡してください。裁縫に使う魔道具や下着にピッタリな布や素材なども入れてありますので、全て彼女に渡してください。できあがったドレスは包んでこの鞄に入れておいてください。 カローラ』と書かれていました。

 まさかのカローラ様からの依頼でした。布を取り出してみると、表面が滑らかで手触りが素晴らしい布が多いですね。このあたりはレースですね。うっとりするようなデザインです。もちろん魔道具も布も全てエリーさんに渡しました。彼女はその魔道具自体は使ったことはないそうですが、使い方は分かるので問題ないと言っていました。



 エリーさんに布を渡した翌日、仕事が早いですね、ドレスが完成したと言ってエリーさんが荷物を抱えて部屋にやってきました。いつの間に作ったのでしょうか。

 長さや素材が違う四着のドレスが手渡されました。チャイナドレスとか旗袍チイパオとか呼ばれるものです。先日彼女が着ていたものですね。

 まずは柔らかいながらもしっかりとした布で作られた、デザインの違うチャイナドレスが二着ありました。この二着は外出用だそうです。彼女の故郷では貴族のパーティー用の衣装としても着られるものだそうです。裾から太ももあたりまでスリットが入っていますね。これは足を長く見せる効果があるそうです。

 それ以外に薄手でサラサラした手触りのよいドレスがデザイン違いで二着。これらは裾の短いで、布は限りなく薄く、下着や肌が透けそうですね。そしてスリットと言うより、わきから裾までが完全に開いています。前と後ろにしか布がありません。そして横は紐で編むような形ですね。何がとはあえて言いませんが、隠せてませんよね。

 さらには様々な下着。これやこれなどは下着というか、もはや紐とか網とか言うものでは? これで何か隠せるものがありますか? 着ける意味がありますか? 着ける方が恥ずかしくなりそうですね。

 私の分だけではなく、カローラ様のマネキンに合わせた物も渡してもらいました。一応説明を聞きましたが、私が受け取ったものとサイズ意外はほとんど同じです。ただしなので水垢離みずごりをして心身を清めてから取り掛かったそうです。清める意味はあるのでしょうか? むしろこのドレスと下着がけがれの象徴では?

 エリーさんはこれからカロリッタさんにも渡しに行くそうです。

 カローラ様の分として渡された物は連絡の手紙とともに鞄に入れておきました。後日ドレスの代わりに大量の布や魔道具が追加されていて驚きました。お褒めの言葉が書かれた手紙もいただきました。もちろんまたエリーさんに全て渡しました。



 この時からエリーさんは、私とカロリッタさんにとって戦友ともとなりました。正妻の座を譲るつもりはありませんが、彼女が私を排除しようと思わない限り、彼女がここにいることについて私は決して文句は言いません。

 それにしてもこのドレスは……下着は……彼女の発想は……神はここに御座おわしましたか。
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