157 / 190
第7章:新春、急展開
第28話:あっちでバタバタ、こっちでドタドタ
しおりを挟む
レイとフィルシーがダンジョンに向かうと、残ったメンバーは残り四〇人のエルフに社会体験をさせるという仕事に取りかかります。エリは家に残って魔道具作りをしたり、家に残るエルフたちの世話をします。
サラ、シーヴ、ラケル、ケイト、シャロン、マルタ、マイ、ドロシーが何組かに分かれて行動することになりました。
「私は食材とかかな。マイ、ドロシー、来てくれる?」
「ん、わかった」
「大丈夫です」
こちらは買い出しです。荷物はマジックバッグなどに入れればいいとしても、買い忘れがないか、一つずつ確認しなければなりません。それも当然で、五〇人が一か月近く滞在するわけです。その間の料理は交代でするとしても、食材は用意しなければなりません。
そのエルフたちですが、ジンマでは普通に暮らしていました。一〇〇歳になっていないと子供扱いされますが、子供っぽさがそこかしこに現れるだけで、生活能力がゼロというわけではありません。ただ、料理が上手だとしても、食材がなければどうしようもありません。
「それなら、私は生活用品を中心に挨拶して回ります。ケイトもお願いします」
「わかりましたわ」
こちらは、食器やタオルなどの生活用品を買い出しに出かけます。自分たちが使うものは持ってきたはずのエルフたちですが、それでもやはり、あれがないこれがないと、昨日の夜もバタバタしていました。余ってもいいので大量に購入することになりました。
「ラケルさん、マルタさん。私たちは家での作業を指導しましょう」
「染め物でいいです?」
「ミードの仕込みもありますよぉ」
シャロンたちは、いわゆる内職をさせる組になりました。シャロンは手先が器用で、ラケルも染め物などは得意です。マルタは少々おっとりしているので、引率には向いていません。この組にいるのがいいでしょうね。
一度に四〇人が出かけると大変ですので、午前と午後で半分ずつに分けることになりました。サラ・マイ組が一〇人、シーヴ・ケイト組が一〇人、シャロン・ラケル・マルタ組は家に残り、二〇人に染め物やミードの仕込みなど、敷地内でできることを指導します。
「わたしも午後は手伝うね~」
エリは午前中はゴーレムたちと一緒に魔道具作り、午後は誰かと組んで街中に出ることになりました。
◆◆◆
「はいはい。よそ見しないで歩く。メリシア、ヘンドリカ、そっち行っちゃダメ」
「いなくなったら、三日間おやつ抜き」
マイがボソッと口にすると、二人はすぐに戻ってきました。
「姉さん、実は先生が向いてた?」
「いやあ、どうかな。日本なら保護者から苦情が来たかもしれないね」
実際におやつ抜きの刑やご飯抜きの刑にすることはありませんが、そう言わないとじっとしていないのが、クラストンに来ている五〇人のエルフたちです。
彼女たちの中で、最年長がクリステルの五七歳、最年少がタバサとタビサの双子で二二歳。ドロシーとフィルシーの双子は、タバサとタビサと三つ年上てしかありませんが、一か月ほどクラストンで暮らした影響で、すいぶんと大人びてきました。それでも、レイたちからすると、急に子供のようになることがあり、まったく気が抜けません。
「ああ、サラちゃん、ケイトちゃん、お久しぶり。マイ、もうちょっと顔を見せなさい。今日は大勢でどうしたの?」
「ん、買い出し」
おわかりのように、ここはクラストンの南門に近いところにある商店。マイの実家です。
「とりあえず、小麦と大豆を五袋ずつ。他には……」
「出汁の乾物です」
「あ、そうだった。乾燥きのこをそのザルに二山ほど」
「姉さん、塩と砂糖も。みんな、舐めたらダメ。買ってから」
マイは前世の記憶があることを両親に伝えています。そして、かつての姉や、隣家の兄妹もこの町にいることを。それを聞いたとき、両親は驚いた顔をしましたが、信じないということはありませんでした。どう考えても普通の娘ではなかったからです。
そして、マイの相手というのが、この町でそこそこ有名な『パンダキラー』と呼ばれるパーティーのリーダーで、貴族の息子で、冒険者ギルドのギルド長の甥でもあるレイです。レイはグレーターパンダの毛皮でできたコートを持って挨拶に来たことがあります。もちろん、大歓迎されましたよ。純白のコートですからね。
◆◆◆
「あら、シーヴさん、ケイトさん、また大勢引き連れて」
「こんにちは、スーザンさん」
「お久しぶりです」
シーヴとケイトは、もはや馴染みとなったスーザンの店に来ています。
「はい、みなさん。ご挨拶を」
「「「こんにちは」」」
「はい、こんにちは」
ケイトの合図で挨拶したエルフたちに、スーザンもはっきりとした挨拶を返しました。
「娘から聞いたんだけど、もっと人数が増えるの?」
「ええ、最初は二〇〇人と言われました。さすがにそれは無理だと伝えて、減らしてもらって五〇人ですけど、おそらく次回はもっと増えるかと」
「そっちのほうは大丈夫だとレイさんに伝えておいてもらえる?」
「はい、わかりました」
ここではタオルや衣料品など、布物を補充していく一行。服などはある程度は持ってきていますが、やはり忘れ物をしたのが一人二人ではないので、まとめて買っておこうということになりました。服はあるものの、下着をすべて忘れたとか、スカートはあるのにシャツがないというパターンもあります。
正直なところ、サラとマイとラケルとシャロンがいれば、衣料品店くらいは経営できるのですが、ある程度は街中にお金を落としたいと考えているレイなので、あちこちで分けて買い物をさせることになっています。
「それでは、また来ますわ」
シーヴが前、ケイトが後ろ、その間にエルフたちを挟んで出ていきました。
「なんとも賑やかな子たちだねえ。マッシカ、ティルア……あと誰だっけ?」
スーザンは一〇人から、かわるがわる名前を教えられました。しかし、ハイテンションで話すエルフたちの名前を全員分覚えることはできませんでした。客商売なので名前を覚えるのも仕事のうちですが、一瞬で覚えられるほど器用ではありません。
「レイさんに一覧にしてもらおうかしら」
後日、スーザンはエルフたちの名前の一覧を作ってもらうことになります。役立つかどうかは別として。
◆◆◆
「はい、マッサージ機終わり~」
エリは午前の仕事を終わらせました。コイン式マッサージ機です。これは町にある宿屋に納品されるものです。意外にも、宿屋一軒につき五台から一〇台ほど買ってくれることになりました。
高価なのは間違いありませんが、使ってみると肩こりが楽になるのがわかります。それに、一台しかないと奪い合いになります。どうしても並ぶ列ができてしまうため、何台も並べて設置するという店が増えました。
さらに、マッサージ屋という店ができることになりました。これはマッサージ機だけを置いている店で、好きなときに使って帰るという、非常に割り切った商売です。掃除と監視のために一人か二人は置くようですが、接客が必要ないため、場所があって初期投資ができるなら儲かると考えた人がいたのです。
「それで~、昼からわたしはどこに行けばいいの~?」
「エリは家具を頼むね。既製品が買えるならそれでもいいし、なければ注文でもいいし。そこはエリのセンスで」
「机だけあってもダメだったか~」
「あれがあるのは助かるけどね」
サラが言うように、エルフたちは二月堂机のような低い机と座布団は持ってきました。多くのエルフは、タタミマットの上で生活するので、二月堂机のような机が便利なんです。
ところが、物を収納するクローゼットや棚がまったく足りません。今は行李に入れて積み重ねてあります。積むことができる行李ですが、あまり積むと崩れそうです。だから、棚を用意して、そこに並べていけばいいとエリは考えました。
◆◆◆
エリとシャロンとラケルは一〇人を連れて出かけます。目的地は木工店。家具だけでなく、いろいろな木製品を作っています。
「「「こんにちは!」」」
「お、おう、こんにちは」
エルフたちの元気のいい挨拶に、木工店の店主が驚いて腰が引けました。
「木の棚はあります?」
「棚か。どういうのだ?」
ラケルは行李を一つ取り出しました。
「これをいくつも並べられる棚がいいです」
「それなら、これくらいか」
店主が指したのは、高さ一八〇センチほどの、五段の棚でした。
「蓋がないから食器はホコリをかぶるかもしれないが、箱なら大丈夫だろう」
「エリ、どうです?」
聞かれたエリは、棚を触って強度の確認をします。行李には衣類だけでなく、身の回りのものが何でも入っています。それをいくつも入れるとなると、それなりの重さになりますので、棚板が歪む可能性もあります。
「いいと思うよ~」
「それならあるだけ欲しいです」
「あるだけって……ちょっと待ってくれ」
店主は奥に確認に行きました。
「これを入れて八つある」
「それなら八つともです。持って帰ります」
ラケルはマジックバッグを見せながら言いました。
「それは助かるが……」
「……あれも買います」
「ごめんね~。ちょっと目を離したスキに~」
「止めきれませんでした」
天井から吊り下げられている木のモビールを、エルフたちがつつき倒していました。
◆◆◆
今日の夕食は、いつもよりも大人数になっています。アンナとリリーだけでなく、レックスとステイシーとレイラも来ていました。
「今日はどうだった?」
「食材のほうは、まあ大丈夫だったかな?」
「でも、食べ物は誘惑が多い」
口に入れることはありませんでしたが、注意しなければ入れたでしょう。
「日用品もOKです」「
「スーザンさんから、今後は増えても大丈夫だと聞きましたわ」
「ああ、あれか。次はもっと増えるかもしれないからな」
午前組は問題なかったようですが、エリが死んだような顔をしています。
「棚を買いに行ったんだけど~、あの子たちには誘惑が多すぎて~」
「たとえば?」
「天井からモビールがぶら下がってたんだけど~、棒でつつき始めてね~」
くるくる回るから楽しかったんでしょう。傷がついたのを入れ、全部で六つ購入し、部屋の天井に取り付けました。
「事情を説明したら、お店の人は笑って許してくれましたです」
「まあ、代金を支払ったら大丈夫だろう。壊すつもりはなかったんだろうし」
そのうちに飽きるはずなので、それまで壊れなければいいんじゃないでしょうか。
「レイ様のほうはどうだったんですの?」
「ダンジョンはまあ、昨日と同じかな」
「同じだったね。六階に入ったところまで」
「ええ。でも、一度経験すると、次が楽ですね。明日はもっと楽になると思います」
ダンジョンのほうは昨日と変わらず、誰かがどこかに行きそうになると連れ戻し、最短距離でボス部屋を目指していました。天井に注意さえすれば怪我をするような魔物はいませんので、文字どおり社会体験です。
話を聞いていたレックスが、「ほ~ん」と感心したような声を出しました。
「大変だな」
「そこはあれよ、あれ」
「将来の予習ですね」
「予習?」
アンナとリリーの言葉に、レックスは首を傾げました。
「レックスさん、これですこれ」
「はい。みんなで育てようって話じゃないですか」
ステイシーとレイラはお腹を撫でました。
「ああ、子供か。たしかに」
シャロンがアンナとリリーに手伝いを頼んだとき、「エルフたちは子供みたいなものですので、将来の子育ての役に立ちますよ」と伝えていたのでした。やんちゃな子供になれば、今回の経験が活かせるでしょうね。
レックスのところは、四人で協力して子育てをするということに決めています。先にステイシーとレイラが妊娠したので、アンナとリリーは時期をずらしてと考えているようです。レイのほうは、どうなるんでしょうね?
サラ、シーヴ、ラケル、ケイト、シャロン、マルタ、マイ、ドロシーが何組かに分かれて行動することになりました。
「私は食材とかかな。マイ、ドロシー、来てくれる?」
「ん、わかった」
「大丈夫です」
こちらは買い出しです。荷物はマジックバッグなどに入れればいいとしても、買い忘れがないか、一つずつ確認しなければなりません。それも当然で、五〇人が一か月近く滞在するわけです。その間の料理は交代でするとしても、食材は用意しなければなりません。
そのエルフたちですが、ジンマでは普通に暮らしていました。一〇〇歳になっていないと子供扱いされますが、子供っぽさがそこかしこに現れるだけで、生活能力がゼロというわけではありません。ただ、料理が上手だとしても、食材がなければどうしようもありません。
「それなら、私は生活用品を中心に挨拶して回ります。ケイトもお願いします」
「わかりましたわ」
こちらは、食器やタオルなどの生活用品を買い出しに出かけます。自分たちが使うものは持ってきたはずのエルフたちですが、それでもやはり、あれがないこれがないと、昨日の夜もバタバタしていました。余ってもいいので大量に購入することになりました。
「ラケルさん、マルタさん。私たちは家での作業を指導しましょう」
「染め物でいいです?」
「ミードの仕込みもありますよぉ」
シャロンたちは、いわゆる内職をさせる組になりました。シャロンは手先が器用で、ラケルも染め物などは得意です。マルタは少々おっとりしているので、引率には向いていません。この組にいるのがいいでしょうね。
一度に四〇人が出かけると大変ですので、午前と午後で半分ずつに分けることになりました。サラ・マイ組が一〇人、シーヴ・ケイト組が一〇人、シャロン・ラケル・マルタ組は家に残り、二〇人に染め物やミードの仕込みなど、敷地内でできることを指導します。
「わたしも午後は手伝うね~」
エリは午前中はゴーレムたちと一緒に魔道具作り、午後は誰かと組んで街中に出ることになりました。
◆◆◆
「はいはい。よそ見しないで歩く。メリシア、ヘンドリカ、そっち行っちゃダメ」
「いなくなったら、三日間おやつ抜き」
マイがボソッと口にすると、二人はすぐに戻ってきました。
「姉さん、実は先生が向いてた?」
「いやあ、どうかな。日本なら保護者から苦情が来たかもしれないね」
実際におやつ抜きの刑やご飯抜きの刑にすることはありませんが、そう言わないとじっとしていないのが、クラストンに来ている五〇人のエルフたちです。
彼女たちの中で、最年長がクリステルの五七歳、最年少がタバサとタビサの双子で二二歳。ドロシーとフィルシーの双子は、タバサとタビサと三つ年上てしかありませんが、一か月ほどクラストンで暮らした影響で、すいぶんと大人びてきました。それでも、レイたちからすると、急に子供のようになることがあり、まったく気が抜けません。
「ああ、サラちゃん、ケイトちゃん、お久しぶり。マイ、もうちょっと顔を見せなさい。今日は大勢でどうしたの?」
「ん、買い出し」
おわかりのように、ここはクラストンの南門に近いところにある商店。マイの実家です。
「とりあえず、小麦と大豆を五袋ずつ。他には……」
「出汁の乾物です」
「あ、そうだった。乾燥きのこをそのザルに二山ほど」
「姉さん、塩と砂糖も。みんな、舐めたらダメ。買ってから」
マイは前世の記憶があることを両親に伝えています。そして、かつての姉や、隣家の兄妹もこの町にいることを。それを聞いたとき、両親は驚いた顔をしましたが、信じないということはありませんでした。どう考えても普通の娘ではなかったからです。
そして、マイの相手というのが、この町でそこそこ有名な『パンダキラー』と呼ばれるパーティーのリーダーで、貴族の息子で、冒険者ギルドのギルド長の甥でもあるレイです。レイはグレーターパンダの毛皮でできたコートを持って挨拶に来たことがあります。もちろん、大歓迎されましたよ。純白のコートですからね。
◆◆◆
「あら、シーヴさん、ケイトさん、また大勢引き連れて」
「こんにちは、スーザンさん」
「お久しぶりです」
シーヴとケイトは、もはや馴染みとなったスーザンの店に来ています。
「はい、みなさん。ご挨拶を」
「「「こんにちは」」」
「はい、こんにちは」
ケイトの合図で挨拶したエルフたちに、スーザンもはっきりとした挨拶を返しました。
「娘から聞いたんだけど、もっと人数が増えるの?」
「ええ、最初は二〇〇人と言われました。さすがにそれは無理だと伝えて、減らしてもらって五〇人ですけど、おそらく次回はもっと増えるかと」
「そっちのほうは大丈夫だとレイさんに伝えておいてもらえる?」
「はい、わかりました」
ここではタオルや衣料品など、布物を補充していく一行。服などはある程度は持ってきていますが、やはり忘れ物をしたのが一人二人ではないので、まとめて買っておこうということになりました。服はあるものの、下着をすべて忘れたとか、スカートはあるのにシャツがないというパターンもあります。
正直なところ、サラとマイとラケルとシャロンがいれば、衣料品店くらいは経営できるのですが、ある程度は街中にお金を落としたいと考えているレイなので、あちこちで分けて買い物をさせることになっています。
「それでは、また来ますわ」
シーヴが前、ケイトが後ろ、その間にエルフたちを挟んで出ていきました。
「なんとも賑やかな子たちだねえ。マッシカ、ティルア……あと誰だっけ?」
スーザンは一〇人から、かわるがわる名前を教えられました。しかし、ハイテンションで話すエルフたちの名前を全員分覚えることはできませんでした。客商売なので名前を覚えるのも仕事のうちですが、一瞬で覚えられるほど器用ではありません。
「レイさんに一覧にしてもらおうかしら」
後日、スーザンはエルフたちの名前の一覧を作ってもらうことになります。役立つかどうかは別として。
◆◆◆
「はい、マッサージ機終わり~」
エリは午前の仕事を終わらせました。コイン式マッサージ機です。これは町にある宿屋に納品されるものです。意外にも、宿屋一軒につき五台から一〇台ほど買ってくれることになりました。
高価なのは間違いありませんが、使ってみると肩こりが楽になるのがわかります。それに、一台しかないと奪い合いになります。どうしても並ぶ列ができてしまうため、何台も並べて設置するという店が増えました。
さらに、マッサージ屋という店ができることになりました。これはマッサージ機だけを置いている店で、好きなときに使って帰るという、非常に割り切った商売です。掃除と監視のために一人か二人は置くようですが、接客が必要ないため、場所があって初期投資ができるなら儲かると考えた人がいたのです。
「それで~、昼からわたしはどこに行けばいいの~?」
「エリは家具を頼むね。既製品が買えるならそれでもいいし、なければ注文でもいいし。そこはエリのセンスで」
「机だけあってもダメだったか~」
「あれがあるのは助かるけどね」
サラが言うように、エルフたちは二月堂机のような低い机と座布団は持ってきました。多くのエルフは、タタミマットの上で生活するので、二月堂机のような机が便利なんです。
ところが、物を収納するクローゼットや棚がまったく足りません。今は行李に入れて積み重ねてあります。積むことができる行李ですが、あまり積むと崩れそうです。だから、棚を用意して、そこに並べていけばいいとエリは考えました。
◆◆◆
エリとシャロンとラケルは一〇人を連れて出かけます。目的地は木工店。家具だけでなく、いろいろな木製品を作っています。
「「「こんにちは!」」」
「お、おう、こんにちは」
エルフたちの元気のいい挨拶に、木工店の店主が驚いて腰が引けました。
「木の棚はあります?」
「棚か。どういうのだ?」
ラケルは行李を一つ取り出しました。
「これをいくつも並べられる棚がいいです」
「それなら、これくらいか」
店主が指したのは、高さ一八〇センチほどの、五段の棚でした。
「蓋がないから食器はホコリをかぶるかもしれないが、箱なら大丈夫だろう」
「エリ、どうです?」
聞かれたエリは、棚を触って強度の確認をします。行李には衣類だけでなく、身の回りのものが何でも入っています。それをいくつも入れるとなると、それなりの重さになりますので、棚板が歪む可能性もあります。
「いいと思うよ~」
「それならあるだけ欲しいです」
「あるだけって……ちょっと待ってくれ」
店主は奥に確認に行きました。
「これを入れて八つある」
「それなら八つともです。持って帰ります」
ラケルはマジックバッグを見せながら言いました。
「それは助かるが……」
「……あれも買います」
「ごめんね~。ちょっと目を離したスキに~」
「止めきれませんでした」
天井から吊り下げられている木のモビールを、エルフたちがつつき倒していました。
◆◆◆
今日の夕食は、いつもよりも大人数になっています。アンナとリリーだけでなく、レックスとステイシーとレイラも来ていました。
「今日はどうだった?」
「食材のほうは、まあ大丈夫だったかな?」
「でも、食べ物は誘惑が多い」
口に入れることはありませんでしたが、注意しなければ入れたでしょう。
「日用品もOKです」「
「スーザンさんから、今後は増えても大丈夫だと聞きましたわ」
「ああ、あれか。次はもっと増えるかもしれないからな」
午前組は問題なかったようですが、エリが死んだような顔をしています。
「棚を買いに行ったんだけど~、あの子たちには誘惑が多すぎて~」
「たとえば?」
「天井からモビールがぶら下がってたんだけど~、棒でつつき始めてね~」
くるくる回るから楽しかったんでしょう。傷がついたのを入れ、全部で六つ購入し、部屋の天井に取り付けました。
「事情を説明したら、お店の人は笑って許してくれましたです」
「まあ、代金を支払ったら大丈夫だろう。壊すつもりはなかったんだろうし」
そのうちに飽きるはずなので、それまで壊れなければいいんじゃないでしょうか。
「レイ様のほうはどうだったんですの?」
「ダンジョンはまあ、昨日と同じかな」
「同じだったね。六階に入ったところまで」
「ええ。でも、一度経験すると、次が楽ですね。明日はもっと楽になると思います」
ダンジョンのほうは昨日と変わらず、誰かがどこかに行きそうになると連れ戻し、最短距離でボス部屋を目指していました。天井に注意さえすれば怪我をするような魔物はいませんので、文字どおり社会体験です。
話を聞いていたレックスが、「ほ~ん」と感心したような声を出しました。
「大変だな」
「そこはあれよ、あれ」
「将来の予習ですね」
「予習?」
アンナとリリーの言葉に、レックスは首を傾げました。
「レックスさん、これですこれ」
「はい。みんなで育てようって話じゃないですか」
ステイシーとレイラはお腹を撫でました。
「ああ、子供か。たしかに」
シャロンがアンナとリリーに手伝いを頼んだとき、「エルフたちは子供みたいなものですので、将来の子育ての役に立ちますよ」と伝えていたのでした。やんちゃな子供になれば、今回の経験が活かせるでしょうね。
レックスのところは、四人で協力して子育てをするということに決めています。先にステイシーとレイラが妊娠したので、アンナとリリーは時期をずらしてと考えているようです。レイのほうは、どうなるんでしょうね?
42
お気に入りに追加
542
あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる