異世界は流されるままに

椎井瑛弥

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第7章:新春、急展開

第19話:エルフたちのホームステイとお仕事

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 五分もしないうちに全員がリビングに集まりました。レイ、サラ、シーヴ、ラケル、ケイト、シャロン、マルタ、マイ。そこに新しく来ることになったエリ、ドロシー、フィルシー。さらにディオナと働き蜂がたくさん。

「みんなに報告しておく。まずこのエリがパーティーに入った。前世での俺の妹だった」
「よろしくお願いしますっ!」

 エリはいつになく元気に頭を下げました。基本的には間延びしたような話し方ですが、そうでないときもあるんです。

「ドロシーとフィルシーの二人は、人間の町に慣れるために三週間ほどこの町に滞在することになった。ジンマで族長をしているレオンスさんは、若いエルフたちに、もう少し外に出てもらいたいらしい」

 レイは同行しなかったメンバーに、どうしてエルフが引きこもるようになったのかを説明しました。エルフの中にも森の外に出たいのに、好奇心よりも恐怖心が勝って踏み出せない人もいます。それをこの店を下宿屋のように使って慣れさせようということになったと。

「ご主人さま、二人には何をさせるのです?」
「それをみんなで考えたい。冒険者ギルドに登録したから冒険者でもいいし、まったく別のことでもいい。冒険者をするなら一度は全員で動いて、それから二手に分かれてもいいな。さすがに全員は多すぎだろう」

 パーティーの人数は決まっているわけではありません。ただ、エリとドロシーとフィルシーの三人が加わると一〇人を超えました。さすがに多すぎる気がするので、二手に分かれてもいいだろうとレイは思っています。

「そういえば、ドロシーとフィルシーのジョブはなんだ?」
「「精霊使いです」」
「わたしは無理だったんだよね~」

 なぜかエリは魔法少女で、マイと同じです。マイが使えるのは白魔法と黒魔法ですが、エリはエルフなので精霊魔法も使えます。ですが、精霊使いのジョブを持っているドロシーとフィルシーに比べれば効果が落ちてしまいます。

「黒魔法は中級まで、白魔法は初級まで、精霊魔法は中級まで、物理攻撃力はそこそこ、物理防御力は低め。超サマ〇トリアの王子っ?」
「突き抜けてる能力はないのか?」
「ん~~~っ、ないかなあ……えっ? あ、はいはい、うん、そうそうっ」
「エリ、どしたの?」

 いきなり独り言を口にし始めたエリをサラが心配し始めました。

「えっとね~、ディオナさんと頭の中で話ができるみたいだよっ」
「それはエルフ固有の能力なのか? マイはどうだ?」

 レイがそう聞くと、マイはディオナのほうを向きましたが、首を横に振りました。

「私は無理。条件があるんだと思う。ドロシーとフィルシーは?」
「……聞こえます」
「……私もです」
「ということは、エルフの能力なのかもしれないな。しかし、筆談じゃなくても通じるのは助かるな」

 ディオナは蜂としては表情が豊かなのですが、それでもレイたちが完全に表情を読み取ることはできません。基本的には筆談になっています。だから、この家のいたるところにメモ帳が置かれています。

「そうだ、ジンマの族長のレオンスさんから布の注文をもらった。布そのものはこうやって向こうが用意するから、それを預かってこっちで染めて、次に行った時に返すって流れになる。それを染めるのを二人にはやってもらってもいいと思う。自分たちが染めた布で作った服を着ると思うと、やり甲斐があるだろう」
「そうなると、王都の王族や貴族とエルフがこの布で作った服を着ることになるんですか?」
「そろそろ一般向けに販売したいから、頃合いかなと思うんだけど」

 シーヴの質問に答えたとおり、レイはそろそろ一般販売をしようと考えています。そして、独占を続けるつもりはありません。欲がないと思うかもしれませんが、秘密というのは大きければ大きいほど、なんとしてでも手に入れようという輩が現れるものです。その前に、ここだけではなく別の場所でも作れるようになればいいのです。
 ただし、染料の製法はしばらく秘密にしておきます。そして、ある程度一般的になったら製法を薬剤師ギルドにでも教えればいいと考えていました。

「一定の儲けが出るまでは秘密にしておいて、途中からは公開するということですね?」
「ああ。誰もが身に着ける段階になったら完全に公開したらいい」

 染料を作るためだけに、誰がわざわざ魔法で作り出した水を使おうなどと考えるでしょうか。当分は秘密は漏れないでしょう。

「レイさん、私たちにそれを話してもよかったんですか?」

 ドロシーが心配しますが、レイはどこ吹く風です。

「最初から隠してないだろ? それに値段も高くないからな。染料を用意するほうが手間がかかるくらいだ」

 染料の材料となる植物をひたすら集めます。普通に使う一〇〇倍ほどです。魔法で出した水を使ってひたすら濃度の高い染料を作ります。それからその染料を使って布をえます。
 染め物にえるとはおかしな言い方ですが、染めると呼べるものでもありません。余分な染料を落としたらざっと洗って、一晩塩水に漬けます。乾かせば色落ちしなくなります。
 魔法で出した水というと、薬剤師ギルドに販売している薬があります。なぜか薬については、レイが出した水で作らないと効果が出ません。しかし、染め物のほうは、ケイトの出した水でも問題なく染まり、色落ちもしていません。

「二人は何をしたいかも考えてみてくれ。たいていのことはできるはずだ」
「「わかりました」」

 ドロシーとフィルシーの仕事については、グレーターパンダを狩る、ダンジョンで魔物を狩る、染め物をするなどなど、しばらくは誰かにくっついていろいろと試してみることになりました。

「エリ、ここで暮らすのに必要なものはなんかあるか?」

 エリたち三人は身の回りのものだけ持ってきました。それ以外については、クラストンで買えばいいとレイが言ったからです。それも彼の計画に入っていました。

「え~っとねえ~、ベッドとかはあるの~?」
「一応あるぞ。客間を用意してあるから、そこを使ってもらおうと思う。でもマットレスがないな。買い出しに行こうか」

 とりあえずベッドのみ購入してありますが、マットレスと枕がありません。急に来客があっても買いに行けばいいと思っていたからです。そもそも知り合いが少ないので、宿泊客はもっと少ないでしょう。
 この国には日本のような掛け布団と敷き布団はありません。木でできたベッドの上にクッション性のあるマットレスを敷き、そこにカバーをかけます。上は薄手の毛布を重ねます。袋の中に綿を入れた日本の掛け布団のようなものは高価なので、一般的ではありません。貴族なら羽毛を入れたり綿を入れたりして、軽くて暖かな布団を使います。

「ちなみに、綿を入れた布団は作ってある。ただ、買い物に出かけることも大切だろう」
「だね~。ご近所さんとは仲よくしないとね~」

 マットレス以外は予備を置いているんですが、この際、三人の分はすべて店で買おうとレイは考えました。エリが言ったように、近所付き合いは大切です。

 ◆◆◆

「レイさん、いらっしゃい」
「スーザンさん、まだやってます?」

 店に人がいるのならやっているのはわかりますが、なんとなく前世の記憶から、遅い時間に入るときにはそう聞いてしまうレイです。

「大丈夫ですよ……って後ろの人たちは?」
「うちでしばらく暮らすことになったエリとドロシーとフィルシーです」
「「「こんばんは」」」
「あ、こんばんは」

 大きく頭を下げた三人に、店主のスーザンは驚いた顔をしました。

「衣料品とか、生活用品を買いにくることもあると思いますので、よろしくお願いしますね」
「うちはいつでも大丈夫よ。店主のスーザンです。私か娘のキャルのどっちかはいるから、何か必要なものがあったらいつでも来てね」
「「「はい」」」

 大きな声ではきはきと返事をする三人に、スーザンは思わず顔がほころびました。

「とりあえず、マットレスを三枚、枕を三つ、毛布とタオルを六枚ずつお願いします」

 レイは出してもらった商品をマジックバッグに入れて代金を支払いました。

「レイさん、今さらだけどさ、エルフを見たって人はほとんどいないだろうね」
「噂話だけ一人歩きしてるところがありますからね」
「聞くのと見るのとは大違いだね」
「ええ。みんないい子ばかりですよ」

 いい子といっても、ドロシーとフィルシーはレイよりかなり年上ですが、場合によっては彼女たちの行動は小学生レベルです。

「レイさんレイさん、パンツに穴があいてる」
「穿いてみていい?」
「穿かずに戻しなさい。というか、スーザンさん、あんなのありましたか?」

 レイは二人が手にしているセクシーランジェリーを見て、首をひねりました。この店には何度も来ていますが、初めてあのような下着を見たからです。

「少し前にシーヴちゃんとサラちゃんが来て、サンプルを置いてったんだよ。それで、試しに作ってみたら好評でね」

 サラたちがカラフルな水着や下着を作ったのは去年のことです。なかなかカラフルな服はハードルが高かったので、それよりも前にセクシーランジェリーを流行らせようとしたようですね。それも間違いではないでしょう。何かが流行るとき、そのきっかけはエロであることが多いんです。
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