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第3章:冬の終わり、山も谷もあってこその人生
第19話:ラケルの戦闘スタイル(危ないので真似をしてはいけません)
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「ふっ!」
ガンッッッ‼
ホーンラビットが盾で弾き飛ばされます。
「来いです」
ドゴンッッッ‼
ヒュージキャタピラーが押し返されてひっくり返ります。
レイたち『行雲流水』はラケルを先頭に、オスカーの町へ向かう街道から少し離れ、森の近くを歩いていました。街道から離れれば離れるほど魔物が出やすくなります。そこで連戦すればどうなるかを確認していたのです。
「間違いなく楽だな」
「楽ですね」
前はラケルに任せて問題ありません。レイとサラが左右を、シーヴが後方の警戒をしています。魔物が出ればラケルが止めてひっくり返して殴り飛ばします。そこを他のメンバーがとどめを刺すというパターンができあがりました。
「いくらでも戦います!」
ラケルが「ふんす」と得意顔になります。
「盾使いがここまで丈夫だとは聞いたことがありません」
「ラケルは犬人ってことも関係あるだろうけどな」
ラケルは一般ジョブの盾使いですが、犬人は腕力や脚力、瞬発力、持久力などが高くなっています。本人の素の能力はステータスカードを見てもわかりませんが、攻撃力は上級ジョブに匹敵するでしょう。
ところが、魔法関係に関しては一般ジョブの中でも下限に近く、魔力量も多くありません。
「魔力切れには注意しろよ。魔石は好きなだけ使っていいから」
「ありがとうございます」
「向こうからカラムベアーが来ます。数は一二」
一段落ついたかと思うと、また【索敵】に魔物の反応がありました。
「またいきます!」
「無茶だけはするなよ」
レイはラケルに声をかけます。ここまで相手にした魔物は問題ありませんでしたが、カラムベアーの集団が相手ではとうなるかはわかりません。
「大丈夫です!」
ラケルはマジックバッグから魔石の入った袋を取り出すと、その中から三つほど魔石をつまみ出しました。それらを握りしめるのではなく、口に入れました。
「ひひまふ」
ラケルが【剛力】と【身体強化】と【シールドチャージ】で先頭にいるカラムベアーを吹き飛ばします。すぐに離脱し、またすぐに次の個体に向かいます。
右に左に、次々とカラムベアーが弾き飛ばされます。右はレイが、左はサラが担当し、飛んできたカラムベアーにすかさずとどめを刺していきます。
◆◆◆
「ふうっ、ふうっ、ふうっ……」
「ラケル、怪我はないか?」
肩で息をするラケルにレイが心配して声をかけます。
「らいりょうぶれす。れも、おおきなまものをふきとばふとつかれまふ」
「一〇倍はあるからなあ」
ラケルは耳まで入れて身長一六〇センチほどですが、筋肉があるので体重は重めです。それでもせいぜい六〇キロから七〇キロでしょう。そこに鉄の塊のようなウォーハンマーと盾と合わせても二〇〇キロほどしかありません。
そんな彼女が相手をしていたのが、重さ数トンに達するラインベアーやカラムベアーです。止めるだけならまだしも、弾き飛ばすのは大変な作業になります。スキルを連発するので魔力の消耗が激しくなります。魔石で補わなければなりませんが、戦闘中は両手が塞がっています。それならどうしたらいいのか。魔石を口に入れればいいのです。
「ぺっ」
ラケルは手のひらに魔石を一つ吐き出しました。
「そんな使い方もあるんだね」
「触れていれば大丈夫です」
魔石は普通は手に持って使うものです。まさかラケルが口に入れるとは、レイにもサラにも想像できませんでした。ところが、あらためて考えてみれば、手に持って使うことができるなら、口の中に入れても鼻の穴に入れても使えるわけです。触れていればいいわけですからね。
魔石は中に含まれている魔力がなくなるまで使うことができます。魔力がなくなるにつれて小さくなり、最後は消えてしまいますので、口の中にある間は魔力が補充できるということです。
魔力が回復できる点は魔石も魔力回復薬も同じですが、魔石の場合は体から減った分だけ補うこともできます。薬の場合は上限値を超えた分は無駄になってしまいます。魔石のほうが無駄なく使えますが、魔物の頭を割って取り出したあと、きれいにしておかなければいけません。
「その使い方がいいなら止めないけど、間違っても喉に詰まらせるなよ」
「はい。気をつけます」
うっかり飲み込むと喉に詰まりそうです。ちなみに、魔石を口に入れる使い方は一般的ではありません。真似をしてはいけませんよ。
◆◆◆
一行はラケルを鍛えつつ南へ向かいます。魔物の少ない街道沿いではなく、わざわざ森の近くを歩いて遭遇率を上げています。キャンベルで一泊すると、また森の近くを通って南へ向かいます。その日の夕方には背の高い城壁で囲まれた町オスカーが見えました。
「あれがオスカーです。このあたりは石材で有名ですね」
「だから城壁があんなに立派なんだな」
「いかにも剣と魔法の世界って気がするね」
「アピールのためでもあるのでしょう」
貴族同士が争うことは滅多にありませんが、それでも小競り合いが起きることはあります。そのために領地の端には砦を兼ねた町が置かれます。オスカーもその一つです。
「ラケルはこのあたりには来たことがあるのか?」
「ありませんです。私はもっと西のほうでしたです」
ラケルが活動していたのはアシュトン子爵領の中で一番西にある町シェルビーニからオグデン、そしてそこから南に下がってバーノンあたりまでで、それ以外にはほとんど行っていません。
話をしながらオスカーの町に到着したレイたちが気づいたのは、城門にいる衛兵の人数がこれまでの町に比べて明らかに多いことでした。
「なんか物々しい雰囲気になってる?」
サラがいつものように親しげに衛兵に訪ねました。聞かれた衛兵は特に警戒した様子もなくサラを見ます。
「去年くらいから盗賊が増えてなあ。それで念入りにチェックを行うようになったからだろうな」
「そっか。ありがとう」
この世界には空を飛ぶ種族がいるため、城門でのステータスカードのチェックはほとんど行われていません。町の周囲何キロも見張ることは不可能だからです。ただし、盗賊団のメンバーが紛れ込むことが考えられるので、今年からチェックをするようになりました。だからレイたちもステータスカードを取り出して読み取り用の魔道具に触れさせます。
「よし、みんな問題なしだ。それで、このあたりは初めてか? ここで活動するなら盗賊には気をつけろよ。規模とかはよくわかってないらしいが、多いらしいとは聞いている。具体的な規模は不明だ」
何度か調査隊が組まれ、あちこちへと出かけましたが、いまだに見つかっていません。その間にも到着するはずの馬車が来ないという報告が増えていきます。
「ところで、オススメの宿屋ってありますか?」
「オススメなあ……」
レイの質問に、衛兵は兜に手をやってから空を見た。
「今は冒険者が減ってるから宿屋は空きが多いって話だ。北から来たのなら聞いてるかもしれないが、どこも食材不足でな、食事はあまり期待しないほうがいい」
「そうですか。ありがとうございます」
宿屋はそこそこ数があるということですが、やはり食事に関してはかなりメニューが限られるということを聞きました。
四人は門を通り抜けるとそのまま南に向かって歩きました。領境の町なので、雰囲気はライルやコクランに近いものがあります。ただ、衛兵も言っていたように、冒険者はそれほど多くはありません。そして、なんとなく雰囲気が重苦しく感じられます。
「宿屋か、それともまた借家か」
オスカーは領境の町です。南には森と荒野が広がっていますので魔物は多いでしょう。どれくらい活動するかにもよりますが、借家のほうが気楽に暮らせます。宿屋は食事の心配がありませんが、食材不足となればあまり期待できません。
「売るのは丸ごとでいいでしょうし、場合によってはメルフォートの宿屋のように、食材を渡して作ってもらえばいいのではないですか?」
「それもありだよね。借家ばかりだと高くなるし」
宿屋の部屋代と食事代の合計金額と借家の賃料のどちらが安いかという話です。レイたちの場合、多少高くても過ごしやすいほうがいいと考えていますが、毎回借家を借りていては高くつきすぎるでしょう。
歩きながら話し合った結果、今回は宿屋を使うということになりました。料理やスープのストックは十分にあります。どの宿屋でもあまり変わらないだろうと、目についた宿屋に入ることにしました。その前に冒険者ギルドのチェックです。
「あれか」
「サイズは中くらい?」
「そうですね。領都ほど仕事の種類は多くないと思います。ここなら、それこそ魔物狩りでしょう。南にいくらでもいるでしょうから」
特に大きくも小さくもない冒険者ギルドのロビーに入ると、たしかに微妙な時間なのは間違いありませんが、あまり冒険者がいません。
「やっぱり少ないよね」
「そうですね。普通ならこの時間でも、もう少しいそうですね」
四人は依頼票の掲示板があるところに向かいます。前まで来ると、通常依頼の掲示板には、ほとんど依頼票がないのがわかりました。あっても護衛の依頼くらいのものです。一方で、常時依頼の掲示板のほうにはびっしりという言葉が似合うほど依頼票が貼り付けられています。
「魔物肉の値段が高いな。薬の素材もだけど」
「稼ぎ時だね」
「護衛の仕事も高いですけどね」
「魔物と戦うほうが個人的には好きです」
オグデンからこの町に来るまでにメルフォート、バーノン、キャンベルと通ってきましたが、やはり食料についてはかなり値段が上がっています。そして、冒険者ギルドでの魔物肉の買い取り価格も上がっています。盗賊団の影響で物流が混乱しているのでしょう。
物流を改善しようとすると多くの冒険者が護衛の仕事で馬車に同行します。そうすると魔物肉を持ち込む冒険者が減り、肉の価格が上がります。そのために街の飲食店では値段が上がっています。上がりすぎれば誰もが食べにいく回数を減らします。そうなると売り上げも下がります。
「盗賊退治をするのです?」
「いやあ、受けるつもりはないぞ。何人いるかもわからないからな」
レイが指を向けた先には、盗賊に注意するようにという警告と、盗賊を退治してステータスカードを回収すれば報奨金を支払うという依頼がありました。依頼主は冒険者ギルドと商人ギルド。実際には領主かこの町の代官からということでしょう。
去年からこのあたりで盗賊被害が増え始めました。数少ない生き残りの証言によると、襲撃の規模は二〇人を超えているかもしれないということで、ギルドとしてもどうにかしたいところですが、どこにいるかわからないのでどうにもできないという状態です。
これまで何度か小規模な調査隊が組まれましたが、成果はありませんでした。大規模な討伐隊が町を出てしまうと、治安の面でも不安が残ります。せめてどのあたりにいるかだけでもわかれば助かると考え、ギルドが出した依頼が上のようなものでした。
「どうも二〇人以上、ヘタすると三〇人を超える可能性もあるそうだ。まあ俺たちだけじゃ無理だろう。他のパーティーと組めればいいけど、知り合いもいないからな」
「そうですね。こんなところで無理をしても仕方ありません」
「もしばったり出会ったら倒すくらい?」
「逃げられそうなら逃げたほうがいいだろ」
わかっていないのは盗賊の規模だけではありません。強力なスキルや魔法を持っているのかどうかなど、何もわかっていないのです。
情報がなければ戦うことはできません。魔物についても、たとえばどれくらいの集団で現れることが多いのか、どのような攻撃をしてくるのか、
見た目と比べて驚くほど身体能力の高い四人ですが、それでも腕は合計で八本しかありません。何十人もの盗賊に包囲されて魔法を撃ち込まれれば、たまったものではありません。
「しばらくこの町で様子見だな。盗賊の情報が入れば、それに従って動く。焦って出かけてばったり出くわしても嫌だからな。俺たちは俺たちらしく、魔物を狩って持ち込む仕事を頑張ればいい。
「まさにそのとおりです!」
「うおっ」
いきなり男性から声をかけられてレイが飛び退く。
「あ、驚かせて申し訳ありません。職員のパーシーと申します。他の町から来られたそうですが、この近辺の情報はお聞きですか?」
「ええ、北から来たばかりで、盗賊被害が出ているという話なら」
「はい。そのせいで多くの冒険者が護衛の仕事を受けて町を出ています。冒険者が多いはずのこの町でも、持ち込まれる魔物肉の量が減っていますので、買取価格を上げて対応しています。丸ごとでも高めの買取価格になっておりますので、ぜひご利用を」
パーシーは大きく頭を下げて頼み込みます。
「明日からしばらくこの町で活動しますので、毎日ではないと思いますけど持ってきますよ」
「よろしくお願いします」
もう一度頭を下げると、パーシーはカウンターの中に戻っていきました。
「言ったからには活動しないとね」
「そうですね。できるだけたくさん集めましょう」
「頑張ります!」
「それならしばらくはこの町だな」
いつまでこの町にいるかは決めていませんが、領境で魔物が多いのなら長めに滞在してもいいとレイは考えています。
「それならちょっと考えがあるんだけど」
サラが四人を端に集めました。
ガンッッッ‼
ホーンラビットが盾で弾き飛ばされます。
「来いです」
ドゴンッッッ‼
ヒュージキャタピラーが押し返されてひっくり返ります。
レイたち『行雲流水』はラケルを先頭に、オスカーの町へ向かう街道から少し離れ、森の近くを歩いていました。街道から離れれば離れるほど魔物が出やすくなります。そこで連戦すればどうなるかを確認していたのです。
「間違いなく楽だな」
「楽ですね」
前はラケルに任せて問題ありません。レイとサラが左右を、シーヴが後方の警戒をしています。魔物が出ればラケルが止めてひっくり返して殴り飛ばします。そこを他のメンバーがとどめを刺すというパターンができあがりました。
「いくらでも戦います!」
ラケルが「ふんす」と得意顔になります。
「盾使いがここまで丈夫だとは聞いたことがありません」
「ラケルは犬人ってことも関係あるだろうけどな」
ラケルは一般ジョブの盾使いですが、犬人は腕力や脚力、瞬発力、持久力などが高くなっています。本人の素の能力はステータスカードを見てもわかりませんが、攻撃力は上級ジョブに匹敵するでしょう。
ところが、魔法関係に関しては一般ジョブの中でも下限に近く、魔力量も多くありません。
「魔力切れには注意しろよ。魔石は好きなだけ使っていいから」
「ありがとうございます」
「向こうからカラムベアーが来ます。数は一二」
一段落ついたかと思うと、また【索敵】に魔物の反応がありました。
「またいきます!」
「無茶だけはするなよ」
レイはラケルに声をかけます。ここまで相手にした魔物は問題ありませんでしたが、カラムベアーの集団が相手ではとうなるかはわかりません。
「大丈夫です!」
ラケルはマジックバッグから魔石の入った袋を取り出すと、その中から三つほど魔石をつまみ出しました。それらを握りしめるのではなく、口に入れました。
「ひひまふ」
ラケルが【剛力】と【身体強化】と【シールドチャージ】で先頭にいるカラムベアーを吹き飛ばします。すぐに離脱し、またすぐに次の個体に向かいます。
右に左に、次々とカラムベアーが弾き飛ばされます。右はレイが、左はサラが担当し、飛んできたカラムベアーにすかさずとどめを刺していきます。
◆◆◆
「ふうっ、ふうっ、ふうっ……」
「ラケル、怪我はないか?」
肩で息をするラケルにレイが心配して声をかけます。
「らいりょうぶれす。れも、おおきなまものをふきとばふとつかれまふ」
「一〇倍はあるからなあ」
ラケルは耳まで入れて身長一六〇センチほどですが、筋肉があるので体重は重めです。それでもせいぜい六〇キロから七〇キロでしょう。そこに鉄の塊のようなウォーハンマーと盾と合わせても二〇〇キロほどしかありません。
そんな彼女が相手をしていたのが、重さ数トンに達するラインベアーやカラムベアーです。止めるだけならまだしも、弾き飛ばすのは大変な作業になります。スキルを連発するので魔力の消耗が激しくなります。魔石で補わなければなりませんが、戦闘中は両手が塞がっています。それならどうしたらいいのか。魔石を口に入れればいいのです。
「ぺっ」
ラケルは手のひらに魔石を一つ吐き出しました。
「そんな使い方もあるんだね」
「触れていれば大丈夫です」
魔石は普通は手に持って使うものです。まさかラケルが口に入れるとは、レイにもサラにも想像できませんでした。ところが、あらためて考えてみれば、手に持って使うことができるなら、口の中に入れても鼻の穴に入れても使えるわけです。触れていればいいわけですからね。
魔石は中に含まれている魔力がなくなるまで使うことができます。魔力がなくなるにつれて小さくなり、最後は消えてしまいますので、口の中にある間は魔力が補充できるということです。
魔力が回復できる点は魔石も魔力回復薬も同じですが、魔石の場合は体から減った分だけ補うこともできます。薬の場合は上限値を超えた分は無駄になってしまいます。魔石のほうが無駄なく使えますが、魔物の頭を割って取り出したあと、きれいにしておかなければいけません。
「その使い方がいいなら止めないけど、間違っても喉に詰まらせるなよ」
「はい。気をつけます」
うっかり飲み込むと喉に詰まりそうです。ちなみに、魔石を口に入れる使い方は一般的ではありません。真似をしてはいけませんよ。
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一行はラケルを鍛えつつ南へ向かいます。魔物の少ない街道沿いではなく、わざわざ森の近くを歩いて遭遇率を上げています。キャンベルで一泊すると、また森の近くを通って南へ向かいます。その日の夕方には背の高い城壁で囲まれた町オスカーが見えました。
「あれがオスカーです。このあたりは石材で有名ですね」
「だから城壁があんなに立派なんだな」
「いかにも剣と魔法の世界って気がするね」
「アピールのためでもあるのでしょう」
貴族同士が争うことは滅多にありませんが、それでも小競り合いが起きることはあります。そのために領地の端には砦を兼ねた町が置かれます。オスカーもその一つです。
「ラケルはこのあたりには来たことがあるのか?」
「ありませんです。私はもっと西のほうでしたです」
ラケルが活動していたのはアシュトン子爵領の中で一番西にある町シェルビーニからオグデン、そしてそこから南に下がってバーノンあたりまでで、それ以外にはほとんど行っていません。
話をしながらオスカーの町に到着したレイたちが気づいたのは、城門にいる衛兵の人数がこれまでの町に比べて明らかに多いことでした。
「なんか物々しい雰囲気になってる?」
サラがいつものように親しげに衛兵に訪ねました。聞かれた衛兵は特に警戒した様子もなくサラを見ます。
「去年くらいから盗賊が増えてなあ。それで念入りにチェックを行うようになったからだろうな」
「そっか。ありがとう」
この世界には空を飛ぶ種族がいるため、城門でのステータスカードのチェックはほとんど行われていません。町の周囲何キロも見張ることは不可能だからです。ただし、盗賊団のメンバーが紛れ込むことが考えられるので、今年からチェックをするようになりました。だからレイたちもステータスカードを取り出して読み取り用の魔道具に触れさせます。
「よし、みんな問題なしだ。それで、このあたりは初めてか? ここで活動するなら盗賊には気をつけろよ。規模とかはよくわかってないらしいが、多いらしいとは聞いている。具体的な規模は不明だ」
何度か調査隊が組まれ、あちこちへと出かけましたが、いまだに見つかっていません。その間にも到着するはずの馬車が来ないという報告が増えていきます。
「ところで、オススメの宿屋ってありますか?」
「オススメなあ……」
レイの質問に、衛兵は兜に手をやってから空を見た。
「今は冒険者が減ってるから宿屋は空きが多いって話だ。北から来たのなら聞いてるかもしれないが、どこも食材不足でな、食事はあまり期待しないほうがいい」
「そうですか。ありがとうございます」
宿屋はそこそこ数があるということですが、やはり食事に関してはかなりメニューが限られるということを聞きました。
四人は門を通り抜けるとそのまま南に向かって歩きました。領境の町なので、雰囲気はライルやコクランに近いものがあります。ただ、衛兵も言っていたように、冒険者はそれほど多くはありません。そして、なんとなく雰囲気が重苦しく感じられます。
「宿屋か、それともまた借家か」
オスカーは領境の町です。南には森と荒野が広がっていますので魔物は多いでしょう。どれくらい活動するかにもよりますが、借家のほうが気楽に暮らせます。宿屋は食事の心配がありませんが、食材不足となればあまり期待できません。
「売るのは丸ごとでいいでしょうし、場合によってはメルフォートの宿屋のように、食材を渡して作ってもらえばいいのではないですか?」
「それもありだよね。借家ばかりだと高くなるし」
宿屋の部屋代と食事代の合計金額と借家の賃料のどちらが安いかという話です。レイたちの場合、多少高くても過ごしやすいほうがいいと考えていますが、毎回借家を借りていては高くつきすぎるでしょう。
歩きながら話し合った結果、今回は宿屋を使うということになりました。料理やスープのストックは十分にあります。どの宿屋でもあまり変わらないだろうと、目についた宿屋に入ることにしました。その前に冒険者ギルドのチェックです。
「あれか」
「サイズは中くらい?」
「そうですね。領都ほど仕事の種類は多くないと思います。ここなら、それこそ魔物狩りでしょう。南にいくらでもいるでしょうから」
特に大きくも小さくもない冒険者ギルドのロビーに入ると、たしかに微妙な時間なのは間違いありませんが、あまり冒険者がいません。
「やっぱり少ないよね」
「そうですね。普通ならこの時間でも、もう少しいそうですね」
四人は依頼票の掲示板があるところに向かいます。前まで来ると、通常依頼の掲示板には、ほとんど依頼票がないのがわかりました。あっても護衛の依頼くらいのものです。一方で、常時依頼の掲示板のほうにはびっしりという言葉が似合うほど依頼票が貼り付けられています。
「魔物肉の値段が高いな。薬の素材もだけど」
「稼ぎ時だね」
「護衛の仕事も高いですけどね」
「魔物と戦うほうが個人的には好きです」
オグデンからこの町に来るまでにメルフォート、バーノン、キャンベルと通ってきましたが、やはり食料についてはかなり値段が上がっています。そして、冒険者ギルドでの魔物肉の買い取り価格も上がっています。盗賊団の影響で物流が混乱しているのでしょう。
物流を改善しようとすると多くの冒険者が護衛の仕事で馬車に同行します。そうすると魔物肉を持ち込む冒険者が減り、肉の価格が上がります。そのために街の飲食店では値段が上がっています。上がりすぎれば誰もが食べにいく回数を減らします。そうなると売り上げも下がります。
「盗賊退治をするのです?」
「いやあ、受けるつもりはないぞ。何人いるかもわからないからな」
レイが指を向けた先には、盗賊に注意するようにという警告と、盗賊を退治してステータスカードを回収すれば報奨金を支払うという依頼がありました。依頼主は冒険者ギルドと商人ギルド。実際には領主かこの町の代官からということでしょう。
去年からこのあたりで盗賊被害が増え始めました。数少ない生き残りの証言によると、襲撃の規模は二〇人を超えているかもしれないということで、ギルドとしてもどうにかしたいところですが、どこにいるかわからないのでどうにもできないという状態です。
これまで何度か小規模な調査隊が組まれましたが、成果はありませんでした。大規模な討伐隊が町を出てしまうと、治安の面でも不安が残ります。せめてどのあたりにいるかだけでもわかれば助かると考え、ギルドが出した依頼が上のようなものでした。
「どうも二〇人以上、ヘタすると三〇人を超える可能性もあるそうだ。まあ俺たちだけじゃ無理だろう。他のパーティーと組めればいいけど、知り合いもいないからな」
「そうですね。こんなところで無理をしても仕方ありません」
「もしばったり出会ったら倒すくらい?」
「逃げられそうなら逃げたほうがいいだろ」
わかっていないのは盗賊の規模だけではありません。強力なスキルや魔法を持っているのかどうかなど、何もわかっていないのです。
情報がなければ戦うことはできません。魔物についても、たとえばどれくらいの集団で現れることが多いのか、どのような攻撃をしてくるのか、
見た目と比べて驚くほど身体能力の高い四人ですが、それでも腕は合計で八本しかありません。何十人もの盗賊に包囲されて魔法を撃ち込まれれば、たまったものではありません。
「しばらくこの町で様子見だな。盗賊の情報が入れば、それに従って動く。焦って出かけてばったり出くわしても嫌だからな。俺たちは俺たちらしく、魔物を狩って持ち込む仕事を頑張ればいい。
「まさにそのとおりです!」
「うおっ」
いきなり男性から声をかけられてレイが飛び退く。
「あ、驚かせて申し訳ありません。職員のパーシーと申します。他の町から来られたそうですが、この近辺の情報はお聞きですか?」
「ええ、北から来たばかりで、盗賊被害が出ているという話なら」
「はい。そのせいで多くの冒険者が護衛の仕事を受けて町を出ています。冒険者が多いはずのこの町でも、持ち込まれる魔物肉の量が減っていますので、買取価格を上げて対応しています。丸ごとでも高めの買取価格になっておりますので、ぜひご利用を」
パーシーは大きく頭を下げて頼み込みます。
「明日からしばらくこの町で活動しますので、毎日ではないと思いますけど持ってきますよ」
「よろしくお願いします」
もう一度頭を下げると、パーシーはカウンターの中に戻っていきました。
「言ったからには活動しないとね」
「そうですね。できるだけたくさん集めましょう」
「頑張ります!」
「それならしばらくはこの町だな」
いつまでこの町にいるかは決めていませんが、領境で魔物が多いのなら長めに滞在してもいいとレイは考えています。
「それならちょっと考えがあるんだけど」
サラが四人を端に集めました。
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ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
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