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第5章:初夏、新たなる出会い
第14話:ゴーレムは素材が高ければ強いというわけではない
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ガコンッッッ‼
レイが金属製のクラブで殴りつけたのはハードアルマジロの上位種のアイアンアルマジロです。甲皮の表面が鉄で覆われていますので、殴ると手が痺れるだけです。しかも転がってきますので、なお危険です。避けそこなえば潰されるでしょう。
「無理そうだね」
「手が痺れた。ラケル、ケイト、頼む!」
倒すためには転がっていないときに攻撃するしかありません。レイとサラとシーヴは警戒を行い、完全に主力はラケルとケイトになりました。
「いきます!」
「吹き飛んでおしまいなさいっ!」
巨大なニンジンやダイコンがくねくねと動くのを見て気が滅入っていたケイトですが、ここにきて復活しました。やはり強い魔物を相手にすると元気になるようです。全身からオーラを放っています。
ドコンッッッ‼ ガコンッッッ‼
後ろ脚で立って威嚇する巨大なアルマジロの頭を、ラケルが叩き潰し、ケイトが吹き飛ばしていきます。
「あれでこそケイだよね」
「あれがお嬢様のすることかどうかはわからないけどな」
お嬢様は魔物の頭を吹き飛ばして「やりましたわ」と喜んだりはしないでしょう。
「いろいろと扱いの難しい方ですので」
「難しくはないだろう」
「そうそう。単純だよね」
「聞こえていますわ!」
ダンジョンにケイトの不満の声が響き渡りました。
◆◆◆
地下一三階。一行の耳に聞き慣れない音と振動が伝わりました。
「あれがゴーレムか」
人の姿をしているものの、歩くとギャリギャリという音がします。ストーンゴーレムと呼ばれる魔法生物です。
「どこかにemethとか書いていないのかな?」
「そういう話は聞きませんね」
この世界のゴーレムはユダヤ教とは関係がありませんので、eを消して倒すことはできません。その代わりに頭ににあるコアと呼ばれる魔石の一種を壊すと動きが止まります。
「魔法生物の一種です。自我は持たず、半自動的に動くそうですね」
「半自動的ってどういうことです?」
「敵が入ってきたら襲いかかるとか、生きている者がいなくなれば止まるとかです」
「ダンジョンが動かしてるとか、そういうことなのです?」
シーヴがラケルに説明しています。そうやって分析するのもいいですが、ぼーっとしていると危険ですよ。
「では倒します。ハッ‼」
ガコンッ‼ ゴスン……
ラケルのハンマーを食らってストーンゴーレムが砕けます。
「わたくしも負けませんわっ!」
ドゴンッッッ‼ バコンッ! ガランガラガラガラ……
ケイトの自称メイスがゴーレムの頭を打ち抜きます。
「助かるね」
「私たちではどうにもなりませんからね」
「俺でもあの二人ほど軽々とは倒せないな」
サラとシーヴの武器ではストーンゴーレムは倒せません。確実に剣が折れます。ウッゴドーレムでも無理でしょう。武闘家のように、自分の肉体のみで戦うジョブの場合、硬い相手を倒す特殊なスキルを持っていることがありますが、残念ながらサラたちにはありません。
五体のストーンゴーレムを粉砕した二人がレイのところに戻ってきました。
「二人とも、おつかれさま。どうだった?」
「問題ありませんです」
「わたくしも大丈夫ですわ」
「この階層は二人が頼りだな」
それを聞いたラケルとケイトがさらにやる気を出したのは言わなくてもわかるでしょう。
◆◆◆
地下一四階。
「ハイッ‼」
「ヤッ‼」
ガコンッッ‼ ドゴン‼
ケイトとラケルが気合いを入れてゴーレムを粉砕していきます。攻撃が当たりさえすれば一撃です。残り四人は二人の後ろから付いていくだけになっています。
「上級ジョブが強力な武器を持てばこうなるか」
「それならさあ、他のパーティーも楽に倒せるはずだよね?」
このあたりの階は硬い魔物が多いので苦労すると聞いています。駆け出しパーティーならそうでしょうが、ある程度の経験があれば問題ないのではないかとサラは思ったのです。
ケイトの自称メイスは別枠にするとしても、たとえばサラにもゴーレムを粉砕するくらいの力はあります。打撃武器がないので戦闘に参加していないだけです。
ラケルのように元々腕力のある冒険者が上級ジョブになることもよくあります。獣人族の冒険者が上級ジョブになればゴーレムくらいは倒せるだろうと。
「上級ジョブがこのダンジョンにいるかどうかですね。職を求めて王都に向かう人が多いでしょう」
「私が王都を通ったときは武闘大会が行われていました。腕に自身のある人が集まっていたはずです」
「そうか。冒険者として上を目指すんじゃなくて仕官先を探すなら王都しかないよな」
腕に自身がある人なら王都へ行って王国騎士になれるチャンスを探すでしょう。冒険者はあくまでフリーターやバイトのような存在です。公務員である王国騎士とは雲泥の差なんです。
◆◆◆
地下一五階。レイたちは特に問題もなくボス部屋の前まで来ました。
「とりあえず硬い敵ばかりなのは周りを見たら分かるな」
「みなさん装備が特徴的ですわ」
ケイトが言ったように、ここで順番待ちをしている冒険者たちは、超巨大なハンマーなど、他では見ないような武器を持っています。
「お前たちは初めてか?」
すぐ前にいた六人組パーティーの男性がレイの声をかけました。
「ええ。まだ潜ったのが数回目なので」
「それでここまでとはなかなかだな。俺たちは『ヒムラスの砦』だ」
「俺たちは『行雲流水です』
まだ時間があるということで、自己紹介となりました。レイに話しかけたのがリーダーで、ネストリという重騎士でした。
「ここのボス部屋はちょっと特殊だ。倒すのが無理だと思えば全員が武器を捨てて床に伏せれば命を助けてくれる。そのあたりの壁から放り出されるけどな」
ネストリから聞いた内容はヒューと同じものでした。ということは、ここしばらくはボスは変わっていないということになります。
レイたちが説明を聞いていると、ボス部屋の壁に黒い穴ができ、そこから六人の冒険者が転がり出ました。そのまま床を叩いて悔しがっています。
「あんな感じだ。それに一五分経っても倒せないと同じように放り出される。知ってると思うが、死んだら壁からステータスカードだけが出てくるからな。それでボスを倒したかどうかがわかる」
「なるほど。ありがとうございます」
「俺たちも今回で五回目だ。そろそろ下に向かいたいな。武器代もかかるからなあ」
彼らも打撃力重視の武器を手にしています。ボス攻略を失敗すると、武器は放棄することになりますので、装備を調えてまたこの階層にチャレンジしなければなりません。武器は返してもらえないので武器代がかさむのです。
「複数パーティーで戦うことは少ないんですか?」
「ここで組むならもっと前から組んでるだろ? ギブアップの判断もあるから、即席パーティーでは危ないな」
「それもそうですね」
ここのボス部屋ではギブアップが可能です。全員が武器を捨ててうつ伏せになれば放り出されるだけで済みます。その際に武器はすべて失うことになります。戦闘を継続するかギブアップするか。そこの判断を間違えれば命を落とすことになるのです。
「おっと、俺たちの番だ。じゃあな」
ネストリたちがボス部屋に入り、扉が閉まりました。それから五分、ガチャッとロックが外れる音がしました。六人が壁から放り出されることはありませんでしたし、ステータスカードも出てきません。無事にボスを倒せた証拠です。
「それじゃあ行くか」
レイは扉を押して中に入ります。五人がそれに続きました。
「さて、どんなゴーレムだ?」
扉が閉まってボス部屋の明るくなります。そこには巨大な金色のゴーレムがいました。
「キンキラキンだな」
「金です?」
「いや、金とは限らないぞ」
金色の金属はいろいろあります。
「旦那様は金のように見えて金ではない金属をご存知なのですか?」
「ありふれた金属なら真鍮だろうなあ。他には黄鉄鉱か砲金か。パッと見て区別するのは無理だろ」
手元に置いて調べれば違いがわかるかもしれませんが、遠目にどれなのかを言い当てろと言われればかなり難しいでしょう。
「さっそく倒しましょう。かなり大きいみたいですので、ここは私がやりますわ」
ケイトが自称メイスを構えます。このメイスでも頭までギリギリ届くかどうかの巨大さです。ラケルのハンマーではリーチが足りません。
「ハイッ!」
ケイトが自称メイスを突き出すと、ゴーレムはのけ反って躱そうとしました。
ドガンッ‼
メイスの先端は頭までは届かず、ゴーレムの喉のすぐ下を突きました。その瞬間、ゴーレムの頭が吹き飛んで宙を舞い、離れた場所で鈍い音を立てて床に落ちました。
ガゴーン……ガンッ、ガンッ……ガラガラガラン……ズズーン
頭の転がるのが止まると、ゴーレムの体が後ろに向かってゆっくりと倒れ、大きな音が響き渡りました。
「金でも砕けるんだな」
「すごい威力です」
ゴーレムの周辺にはゴーレムの破片が落ちていました。さすがに粉々にはなっていませんが、指の先ほどの欠片がいくつも見えます。金属が砕けるくらいの威力なので、パンダの頭が吹き飛んでもおかしくないでしょう。ここにいる全員がそう思いました。
「シーヴ、やっぱりこれは金なのか?」
「ええっと……金ですね。金貨と同じ純度です」
「よし、集めよう」
みんなで床に落ちている金の欠片を拾い始めました。するとゴーレムの頭を拾いにいっていたサラが、驚いた顔をしながら戻ってきました。
「レイ、まだ頭が生きてる」
「え?」
サラが持っているゴーレムの目が、まだ光ったままでした。
「頭だけでもいいのか。さすが魔法生物……あれ?」
「どしたの?」
「マジックバッグに入らない」
レイは受け取ったゴーレムの頭をマジックバッグに入れようとしましたが、入りませんでした。
「てことはさあ、それって生き物?」
「入らないんだからそうなんだろうな」
魔法生物ですよ。ある程度の知能のあるものは生物だとみなされます。
「レイ、本体をマジックバッグに入れたほうがいいかもしれません。頭と胴体がくっつく可能性があります」
「それならそっちを先に入れておくか」
レイがゴーレムの胴体をマジックバッグに入れると奥の扉が開き、部屋の中央に宝箱が現れました。シーヴが宝箱を調べて開けます。
「中身は……金貨ですね。三枚入っています」
「微妙だね」
ゴーレムの体が金貨何万枚になるかわかりません。それを考えれば、三枚は誤差も誤差でしょう。
「旦那様、その頭をこのまま運んでも大丈夫ですか?」
コアが生きていますが、胴体がなくなったためか、ボスを倒したという判定になったようです。
階段への扉が開いたので移動してもよかったのですが、ボスを一分もかけずに倒してしまいました。それならもうしばらくここにいても悪くはないだろうと考え、ゴールドゴーレムの頭をどうするかを検討することにしました。まだ目が光っています。
「生きてるのに倒したっていう判定だよね」
「だな。シーヴ、こういうことはありえるのか?」
「ありえなくはないと思いますけど、珍しいでしょうね。でも、どうやって持っていきますか?」
この頭はマジックバッグには入りません。それでも頭から切り離された胴体部分は入りました。つまり重要なのは頭ということになります。
レイたちが金でできた頭を前にして話をしていると、頭がグニグニと形を変えて棒人間のような姿になりました。
「逃げたらダメです」
逃げようとしたところ、胴体をラケルにつかまれたゴーレム(棒人間)がジタバタと暴れます。
「そこにコアがあるんだよね? コアだけ取り出せない?」
「そうだな。コアだけ取り出せれば残りの部分も金にできるか。コアになれば動けないだろう」
「それなら割ります」
「コアが気になるから、できれば傷つけないようにしてくれ」
「注意します」
ラケルは棒人間ゴーレムの頭だけを残して胴体を引きちぎり、それからリンゴでも割るかのように頭をパカッと割りました。すると丸いガラス玉のようなものが転がり出ます。サイズは直径五センチほど。表面には細かな模様がびっしりと刻み込まれています。
「これがコアか」
「不思議な模様ですわ」
全員がゴーレムのコアを見終わるとレイが受け取りました。
「そろそろ出る?」
「そうだな。邪魔になる前に出ようか」
扉を通って階段を降りると、一行は転移部屋からダンジョンを出ました。
レイが金属製のクラブで殴りつけたのはハードアルマジロの上位種のアイアンアルマジロです。甲皮の表面が鉄で覆われていますので、殴ると手が痺れるだけです。しかも転がってきますので、なお危険です。避けそこなえば潰されるでしょう。
「無理そうだね」
「手が痺れた。ラケル、ケイト、頼む!」
倒すためには転がっていないときに攻撃するしかありません。レイとサラとシーヴは警戒を行い、完全に主力はラケルとケイトになりました。
「いきます!」
「吹き飛んでおしまいなさいっ!」
巨大なニンジンやダイコンがくねくねと動くのを見て気が滅入っていたケイトですが、ここにきて復活しました。やはり強い魔物を相手にすると元気になるようです。全身からオーラを放っています。
ドコンッッッ‼ ガコンッッッ‼
後ろ脚で立って威嚇する巨大なアルマジロの頭を、ラケルが叩き潰し、ケイトが吹き飛ばしていきます。
「あれでこそケイだよね」
「あれがお嬢様のすることかどうかはわからないけどな」
お嬢様は魔物の頭を吹き飛ばして「やりましたわ」と喜んだりはしないでしょう。
「いろいろと扱いの難しい方ですので」
「難しくはないだろう」
「そうそう。単純だよね」
「聞こえていますわ!」
ダンジョンにケイトの不満の声が響き渡りました。
◆◆◆
地下一三階。一行の耳に聞き慣れない音と振動が伝わりました。
「あれがゴーレムか」
人の姿をしているものの、歩くとギャリギャリという音がします。ストーンゴーレムと呼ばれる魔法生物です。
「どこかにemethとか書いていないのかな?」
「そういう話は聞きませんね」
この世界のゴーレムはユダヤ教とは関係がありませんので、eを消して倒すことはできません。その代わりに頭ににあるコアと呼ばれる魔石の一種を壊すと動きが止まります。
「魔法生物の一種です。自我は持たず、半自動的に動くそうですね」
「半自動的ってどういうことです?」
「敵が入ってきたら襲いかかるとか、生きている者がいなくなれば止まるとかです」
「ダンジョンが動かしてるとか、そういうことなのです?」
シーヴがラケルに説明しています。そうやって分析するのもいいですが、ぼーっとしていると危険ですよ。
「では倒します。ハッ‼」
ガコンッ‼ ゴスン……
ラケルのハンマーを食らってストーンゴーレムが砕けます。
「わたくしも負けませんわっ!」
ドゴンッッッ‼ バコンッ! ガランガラガラガラ……
ケイトの自称メイスがゴーレムの頭を打ち抜きます。
「助かるね」
「私たちではどうにもなりませんからね」
「俺でもあの二人ほど軽々とは倒せないな」
サラとシーヴの武器ではストーンゴーレムは倒せません。確実に剣が折れます。ウッゴドーレムでも無理でしょう。武闘家のように、自分の肉体のみで戦うジョブの場合、硬い相手を倒す特殊なスキルを持っていることがありますが、残念ながらサラたちにはありません。
五体のストーンゴーレムを粉砕した二人がレイのところに戻ってきました。
「二人とも、おつかれさま。どうだった?」
「問題ありませんです」
「わたくしも大丈夫ですわ」
「この階層は二人が頼りだな」
それを聞いたラケルとケイトがさらにやる気を出したのは言わなくてもわかるでしょう。
◆◆◆
地下一四階。
「ハイッ‼」
「ヤッ‼」
ガコンッッ‼ ドゴン‼
ケイトとラケルが気合いを入れてゴーレムを粉砕していきます。攻撃が当たりさえすれば一撃です。残り四人は二人の後ろから付いていくだけになっています。
「上級ジョブが強力な武器を持てばこうなるか」
「それならさあ、他のパーティーも楽に倒せるはずだよね?」
このあたりの階は硬い魔物が多いので苦労すると聞いています。駆け出しパーティーならそうでしょうが、ある程度の経験があれば問題ないのではないかとサラは思ったのです。
ケイトの自称メイスは別枠にするとしても、たとえばサラにもゴーレムを粉砕するくらいの力はあります。打撃武器がないので戦闘に参加していないだけです。
ラケルのように元々腕力のある冒険者が上級ジョブになることもよくあります。獣人族の冒険者が上級ジョブになればゴーレムくらいは倒せるだろうと。
「上級ジョブがこのダンジョンにいるかどうかですね。職を求めて王都に向かう人が多いでしょう」
「私が王都を通ったときは武闘大会が行われていました。腕に自身のある人が集まっていたはずです」
「そうか。冒険者として上を目指すんじゃなくて仕官先を探すなら王都しかないよな」
腕に自身がある人なら王都へ行って王国騎士になれるチャンスを探すでしょう。冒険者はあくまでフリーターやバイトのような存在です。公務員である王国騎士とは雲泥の差なんです。
◆◆◆
地下一五階。レイたちは特に問題もなくボス部屋の前まで来ました。
「とりあえず硬い敵ばかりなのは周りを見たら分かるな」
「みなさん装備が特徴的ですわ」
ケイトが言ったように、ここで順番待ちをしている冒険者たちは、超巨大なハンマーなど、他では見ないような武器を持っています。
「お前たちは初めてか?」
すぐ前にいた六人組パーティーの男性がレイの声をかけました。
「ええ。まだ潜ったのが数回目なので」
「それでここまでとはなかなかだな。俺たちは『ヒムラスの砦』だ」
「俺たちは『行雲流水です』
まだ時間があるということで、自己紹介となりました。レイに話しかけたのがリーダーで、ネストリという重騎士でした。
「ここのボス部屋はちょっと特殊だ。倒すのが無理だと思えば全員が武器を捨てて床に伏せれば命を助けてくれる。そのあたりの壁から放り出されるけどな」
ネストリから聞いた内容はヒューと同じものでした。ということは、ここしばらくはボスは変わっていないということになります。
レイたちが説明を聞いていると、ボス部屋の壁に黒い穴ができ、そこから六人の冒険者が転がり出ました。そのまま床を叩いて悔しがっています。
「あんな感じだ。それに一五分経っても倒せないと同じように放り出される。知ってると思うが、死んだら壁からステータスカードだけが出てくるからな。それでボスを倒したかどうかがわかる」
「なるほど。ありがとうございます」
「俺たちも今回で五回目だ。そろそろ下に向かいたいな。武器代もかかるからなあ」
彼らも打撃力重視の武器を手にしています。ボス攻略を失敗すると、武器は放棄することになりますので、装備を調えてまたこの階層にチャレンジしなければなりません。武器は返してもらえないので武器代がかさむのです。
「複数パーティーで戦うことは少ないんですか?」
「ここで組むならもっと前から組んでるだろ? ギブアップの判断もあるから、即席パーティーでは危ないな」
「それもそうですね」
ここのボス部屋ではギブアップが可能です。全員が武器を捨ててうつ伏せになれば放り出されるだけで済みます。その際に武器はすべて失うことになります。戦闘を継続するかギブアップするか。そこの判断を間違えれば命を落とすことになるのです。
「おっと、俺たちの番だ。じゃあな」
ネストリたちがボス部屋に入り、扉が閉まりました。それから五分、ガチャッとロックが外れる音がしました。六人が壁から放り出されることはありませんでしたし、ステータスカードも出てきません。無事にボスを倒せた証拠です。
「それじゃあ行くか」
レイは扉を押して中に入ります。五人がそれに続きました。
「さて、どんなゴーレムだ?」
扉が閉まってボス部屋の明るくなります。そこには巨大な金色のゴーレムがいました。
「キンキラキンだな」
「金です?」
「いや、金とは限らないぞ」
金色の金属はいろいろあります。
「旦那様は金のように見えて金ではない金属をご存知なのですか?」
「ありふれた金属なら真鍮だろうなあ。他には黄鉄鉱か砲金か。パッと見て区別するのは無理だろ」
手元に置いて調べれば違いがわかるかもしれませんが、遠目にどれなのかを言い当てろと言われればかなり難しいでしょう。
「さっそく倒しましょう。かなり大きいみたいですので、ここは私がやりますわ」
ケイトが自称メイスを構えます。このメイスでも頭までギリギリ届くかどうかの巨大さです。ラケルのハンマーではリーチが足りません。
「ハイッ!」
ケイトが自称メイスを突き出すと、ゴーレムはのけ反って躱そうとしました。
ドガンッ‼
メイスの先端は頭までは届かず、ゴーレムの喉のすぐ下を突きました。その瞬間、ゴーレムの頭が吹き飛んで宙を舞い、離れた場所で鈍い音を立てて床に落ちました。
ガゴーン……ガンッ、ガンッ……ガラガラガラン……ズズーン
頭の転がるのが止まると、ゴーレムの体が後ろに向かってゆっくりと倒れ、大きな音が響き渡りました。
「金でも砕けるんだな」
「すごい威力です」
ゴーレムの周辺にはゴーレムの破片が落ちていました。さすがに粉々にはなっていませんが、指の先ほどの欠片がいくつも見えます。金属が砕けるくらいの威力なので、パンダの頭が吹き飛んでもおかしくないでしょう。ここにいる全員がそう思いました。
「シーヴ、やっぱりこれは金なのか?」
「ええっと……金ですね。金貨と同じ純度です」
「よし、集めよう」
みんなで床に落ちている金の欠片を拾い始めました。するとゴーレムの頭を拾いにいっていたサラが、驚いた顔をしながら戻ってきました。
「レイ、まだ頭が生きてる」
「え?」
サラが持っているゴーレムの目が、まだ光ったままでした。
「頭だけでもいいのか。さすが魔法生物……あれ?」
「どしたの?」
「マジックバッグに入らない」
レイは受け取ったゴーレムの頭をマジックバッグに入れようとしましたが、入りませんでした。
「てことはさあ、それって生き物?」
「入らないんだからそうなんだろうな」
魔法生物ですよ。ある程度の知能のあるものは生物だとみなされます。
「レイ、本体をマジックバッグに入れたほうがいいかもしれません。頭と胴体がくっつく可能性があります」
「それならそっちを先に入れておくか」
レイがゴーレムの胴体をマジックバッグに入れると奥の扉が開き、部屋の中央に宝箱が現れました。シーヴが宝箱を調べて開けます。
「中身は……金貨ですね。三枚入っています」
「微妙だね」
ゴーレムの体が金貨何万枚になるかわかりません。それを考えれば、三枚は誤差も誤差でしょう。
「旦那様、その頭をこのまま運んでも大丈夫ですか?」
コアが生きていますが、胴体がなくなったためか、ボスを倒したという判定になったようです。
階段への扉が開いたので移動してもよかったのですが、ボスを一分もかけずに倒してしまいました。それならもうしばらくここにいても悪くはないだろうと考え、ゴールドゴーレムの頭をどうするかを検討することにしました。まだ目が光っています。
「生きてるのに倒したっていう判定だよね」
「だな。シーヴ、こういうことはありえるのか?」
「ありえなくはないと思いますけど、珍しいでしょうね。でも、どうやって持っていきますか?」
この頭はマジックバッグには入りません。それでも頭から切り離された胴体部分は入りました。つまり重要なのは頭ということになります。
レイたちが金でできた頭を前にして話をしていると、頭がグニグニと形を変えて棒人間のような姿になりました。
「逃げたらダメです」
逃げようとしたところ、胴体をラケルにつかまれたゴーレム(棒人間)がジタバタと暴れます。
「そこにコアがあるんだよね? コアだけ取り出せない?」
「そうだな。コアだけ取り出せれば残りの部分も金にできるか。コアになれば動けないだろう」
「それなら割ります」
「コアが気になるから、できれば傷つけないようにしてくれ」
「注意します」
ラケルは棒人間ゴーレムの頭だけを残して胴体を引きちぎり、それからリンゴでも割るかのように頭をパカッと割りました。すると丸いガラス玉のようなものが転がり出ます。サイズは直径五センチほど。表面には細かな模様がびっしりと刻み込まれています。
「これがコアか」
「不思議な模様ですわ」
全員がゴーレムのコアを見終わるとレイが受け取りました。
「そろそろ出る?」
「そうだな。邪魔になる前に出ようか」
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