103 / 184
第5章:初夏、新たなる出会い
第14話:ゴーレムは素材が高ければ強いというわけではない
しおりを挟む
ガコンッッッ‼
レイが金属製のクラブで殴りつけたのはハードアルマジロの上位種のアイアンアルマジロです。甲皮の表面が鉄で覆われていますので、殴ると手が痺れるだけです。しかも転がってきますので、なお危険です。避けそこなえば潰されるでしょう。
「無理そうだね」
「手が痺れた。ラケル、ケイト、頼む!」
倒すためには転がっていないときに攻撃するしかありません。レイとサラとシーヴは警戒を行い、完全に主力はラケルとケイトになりました。
「いきます!」
「吹き飛んでおしまいなさいっ!」
巨大なニンジンやダイコンがくねくねと動くのを見て気が滅入っていたケイトですが、ここにきて復活しました。やはり強い魔物を相手にすると元気になるようです。全身からオーラを放っています。
ドコンッッッ‼ ガコンッッッ‼
後ろ脚で立って威嚇する巨大なアルマジロの頭を、ラケルが叩き潰し、ケイトが吹き飛ばしていきます。
「あれでこそケイだよね」
「あれがお嬢様のすることかどうかはわからないけどな」
お嬢様は魔物の頭を吹き飛ばして「やりましたわ」と喜んだりはしないでしょう。
「いろいろと扱いの難しい方ですので」
「難しくはないだろう」
「そうそう。単純だよね」
「聞こえていますわ!」
ダンジョンにケイトの不満の声が響き渡りました。
◆◆◆
地下一三階。一行の耳に聞き慣れない音と振動が伝わりました。
「あれがゴーレムか」
人の姿をしているものの、歩くとギャリギャリという音がします。ストーンゴーレムと呼ばれる魔法生物です。
「どこかにemethとか書いていないのかな?」
「そういう話は聞きませんね」
この世界のゴーレムはユダヤ教とは関係がありませんので、eを消して倒すことはできません。その代わりに頭ににあるコアと呼ばれる魔石の一種を壊すと動きが止まります。
「魔法生物の一種です。自我は持たず、半自動的に動くそうですね」
「半自動的ってどういうことです?」
「敵が入ってきたら襲いかかるとか、生きている者がいなくなれば止まるとかです」
「ダンジョンが動かしてるとか、そういうことなのです?」
シーヴがラケルに説明しています。そうやって分析するのもいいですが、ぼーっとしていると危険ですよ。
「では倒します。ハッ‼」
ガコンッ‼ ゴスン……
ラケルのハンマーを食らってストーンゴーレムが砕けます。
「わたくしも負けませんわっ!」
ドゴンッッッ‼ バコンッ! ガランガラガラガラ……
ケイトの自称メイスがゴーレムの頭を打ち抜きます。
「助かるね」
「私たちではどうにもなりませんからね」
「俺でもあの二人ほど軽々とは倒せないな」
サラとシーヴの武器ではストーンゴーレムは倒せません。確実に剣が折れます。ウッゴドーレムでも無理でしょう。武闘家のように、自分の肉体のみで戦うジョブの場合、硬い相手を倒す特殊なスキルを持っていることがありますが、残念ながらサラたちにはありません。
五体のストーンゴーレムを粉砕した二人がレイのところに戻ってきました。
「二人とも、おつかれさま。どうだった?」
「問題ありませんです」
「わたくしも大丈夫ですわ」
「この階層は二人が頼りだな」
それを聞いたラケルとケイトがさらにやる気を出したのは言わなくてもわかるでしょう。
◆◆◆
地下一四階。
「ハイッ‼」
「ヤッ‼」
ガコンッッ‼ ドゴン‼
ケイトとラケルが気合いを入れてゴーレムを粉砕していきます。攻撃が当たりさえすれば一撃です。残り四人は二人の後ろから付いていくだけになっています。
「上級ジョブが強力な武器を持てばこうなるか」
「それならさあ、他のパーティーも楽に倒せるはずだよね?」
このあたりの階は硬い魔物が多いので苦労すると聞いています。駆け出しパーティーならそうでしょうが、ある程度の経験があれば問題ないのではないかとサラは思ったのです。
ケイトの自称メイスは別枠にするとしても、たとえばサラにもゴーレムを粉砕するくらいの力はあります。打撃武器がないので戦闘に参加していないだけです。
ラケルのように元々腕力のある冒険者が上級ジョブになることもよくあります。獣人族の冒険者が上級ジョブになればゴーレムくらいは倒せるだろうと。
「上級ジョブがこのダンジョンにいるかどうかですね。職を求めて王都に向かう人が多いでしょう」
「私が王都を通ったときは武闘大会が行われていました。腕に自身のある人が集まっていたはずです」
「そうか。冒険者として上を目指すんじゃなくて仕官先を探すなら王都しかないよな」
腕に自身がある人なら王都へ行って王国騎士になれるチャンスを探すでしょう。冒険者はあくまでフリーターやバイトのような存在です。公務員である王国騎士とは雲泥の差なんです。
◆◆◆
地下一五階。レイたちは特に問題もなくボス部屋の前まで来ました。
「とりあえず硬い敵ばかりなのは周りを見たら分かるな」
「みなさん装備が特徴的ですわ」
ケイトが言ったように、ここで順番待ちをしている冒険者たちは、超巨大なハンマーなど、他では見ないような武器を持っています。
「お前たちは初めてか?」
すぐ前にいた六人組パーティーの男性がレイの声をかけました。
「ええ。まだ潜ったのが数回目なので」
「それでここまでとはなかなかだな。俺たちは『ヒムラスの砦』だ」
「俺たちは『行雲流水です』
まだ時間があるということで、自己紹介となりました。レイに話しかけたのがリーダーで、ネストリという重騎士でした。
「ここのボス部屋はちょっと特殊だ。倒すのが無理だと思えば全員が武器を捨てて床に伏せれば命を助けてくれる。そのあたりの壁から放り出されるけどな」
ネストリから聞いた内容はヒューと同じものでした。ということは、ここしばらくはボスは変わっていないということになります。
レイたちが説明を聞いていると、ボス部屋の壁に黒い穴ができ、そこから六人の冒険者が転がり出ました。そのまま床を叩いて悔しがっています。
「あんな感じだ。それに一五分経っても倒せないと同じように放り出される。知ってると思うが、死んだら壁からステータスカードだけが出てくるからな。それでボスを倒したかどうかがわかる」
「なるほど。ありがとうございます」
「俺たちも今回で五回目だ。そろそろ下に向かいたいな。武器代もかかるからなあ」
彼らも打撃力重視の武器を手にしています。ボス攻略を失敗すると、武器は放棄することになりますので、装備を調えてまたこの階層にチャレンジしなければなりません。武器は返してもらえないので武器代がかさむのです。
「複数パーティーで戦うことは少ないんですか?」
「ここで組むならもっと前から組んでるだろ? ギブアップの判断もあるから、即席パーティーでは危ないな」
「それもそうですね」
ここのボス部屋ではギブアップが可能です。全員が武器を捨ててうつ伏せになれば放り出されるだけで済みます。その際に武器はすべて失うことになります。戦闘を継続するかギブアップするか。そこの判断を間違えれば命を落とすことになるのです。
「おっと、俺たちの番だ。じゃあな」
ネストリたちがボス部屋に入り、扉が閉まりました。それから五分、ガチャッとロックが外れる音がしました。六人が壁から放り出されることはありませんでしたし、ステータスカードも出てきません。無事にボスを倒せた証拠です。
「それじゃあ行くか」
レイは扉を押して中に入ります。五人がそれに続きました。
「さて、どんなゴーレムだ?」
扉が閉まってボス部屋の明るくなります。そこには巨大な金色のゴーレムがいました。
「キンキラキンだな」
「金です?」
「いや、金とは限らないぞ」
金色の金属はいろいろあります。
「旦那様は金のように見えて金ではない金属をご存知なのですか?」
「ありふれた金属なら真鍮だろうなあ。他には黄鉄鉱か砲金か。パッと見て区別するのは無理だろ」
手元に置いて調べれば違いがわかるかもしれませんが、遠目にどれなのかを言い当てろと言われればかなり難しいでしょう。
「さっそく倒しましょう。かなり大きいみたいですので、ここは私がやりますわ」
ケイトが自称メイスを構えます。このメイスでも頭までギリギリ届くかどうかの巨大さです。ラケルのハンマーではリーチが足りません。
「ハイッ!」
ケイトが自称メイスを突き出すと、ゴーレムはのけ反って躱そうとしました。
ドガンッ‼
メイスの先端は頭までは届かず、ゴーレムの喉のすぐ下を突きました。その瞬間、ゴーレムの頭が吹き飛んで宙を舞い、離れた場所で鈍い音を立てて床に落ちました。
ガゴーン……ガンッ、ガンッ……ガラガラガラン……ズズーン
頭の転がるのが止まると、ゴーレムの体が後ろに向かってゆっくりと倒れ、大きな音が響き渡りました。
「金でも砕けるんだな」
「すごい威力です」
ゴーレムの周辺にはゴーレムの破片が落ちていました。さすがに粉々にはなっていませんが、指の先ほどの欠片がいくつも見えます。金属が砕けるくらいの威力なので、パンダの頭が吹き飛んでもおかしくないでしょう。ここにいる全員がそう思いました。
「シーヴ、やっぱりこれは金なのか?」
「ええっと……金ですね。金貨と同じ純度です」
「よし、集めよう」
みんなで床に落ちている金の欠片を拾い始めました。するとゴーレムの頭を拾いにいっていたサラが、驚いた顔をしながら戻ってきました。
「レイ、まだ頭が生きてる」
「え?」
サラが持っているゴーレムの目が、まだ光ったままでした。
「頭だけでもいいのか。さすが魔法生物……あれ?」
「どしたの?」
「マジックバッグに入らない」
レイは受け取ったゴーレムの頭をマジックバッグに入れようとしましたが、入りませんでした。
「てことはさあ、それって生き物?」
「入らないんだからそうなんだろうな」
魔法生物ですよ。ある程度の知能のあるものは生物だとみなされます。
「レイ、本体をマジックバッグに入れたほうがいいかもしれません。頭と胴体がくっつく可能性があります」
「それならそっちを先に入れておくか」
レイがゴーレムの胴体をマジックバッグに入れると奥の扉が開き、部屋の中央に宝箱が現れました。シーヴが宝箱を調べて開けます。
「中身は……金貨ですね。三枚入っています」
「微妙だね」
ゴーレムの体が金貨何万枚になるかわかりません。それを考えれば、三枚は誤差も誤差でしょう。
「旦那様、その頭をこのまま運んでも大丈夫ですか?」
コアが生きていますが、胴体がなくなったためか、ボスを倒したという判定になったようです。
階段への扉が開いたので移動してもよかったのですが、ボスを一分もかけずに倒してしまいました。それならもうしばらくここにいても悪くはないだろうと考え、ゴールドゴーレムの頭をどうするかを検討することにしました。まだ目が光っています。
「生きてるのに倒したっていう判定だよね」
「だな。シーヴ、こういうことはありえるのか?」
「ありえなくはないと思いますけど、珍しいでしょうね。でも、どうやって持っていきますか?」
この頭はマジックバッグには入りません。それでも頭から切り離された胴体部分は入りました。つまり重要なのは頭ということになります。
レイたちが金でできた頭を前にして話をしていると、頭がグニグニと形を変えて棒人間のような姿になりました。
「逃げたらダメです」
逃げようとしたところ、胴体をラケルにつかまれたゴーレム(棒人間)がジタバタと暴れます。
「そこにコアがあるんだよね? コアだけ取り出せない?」
「そうだな。コアだけ取り出せれば残りの部分も金にできるか。コアになれば動けないだろう」
「それなら割ります」
「コアが気になるから、できれば傷つけないようにしてくれ」
「注意します」
ラケルは棒人間ゴーレムの頭だけを残して胴体を引きちぎり、それからリンゴでも割るかのように頭をパカッと割りました。すると丸いガラス玉のようなものが転がり出ます。サイズは直径五センチほど。表面には細かな模様がびっしりと刻み込まれています。
「これがコアか」
「不思議な模様ですわ」
全員がゴーレムのコアを見終わるとレイが受け取りました。
「そろそろ出る?」
「そうだな。邪魔になる前に出ようか」
扉を通って階段を降りると、一行は転移部屋からダンジョンを出ました。
レイが金属製のクラブで殴りつけたのはハードアルマジロの上位種のアイアンアルマジロです。甲皮の表面が鉄で覆われていますので、殴ると手が痺れるだけです。しかも転がってきますので、なお危険です。避けそこなえば潰されるでしょう。
「無理そうだね」
「手が痺れた。ラケル、ケイト、頼む!」
倒すためには転がっていないときに攻撃するしかありません。レイとサラとシーヴは警戒を行い、完全に主力はラケルとケイトになりました。
「いきます!」
「吹き飛んでおしまいなさいっ!」
巨大なニンジンやダイコンがくねくねと動くのを見て気が滅入っていたケイトですが、ここにきて復活しました。やはり強い魔物を相手にすると元気になるようです。全身からオーラを放っています。
ドコンッッッ‼ ガコンッッッ‼
後ろ脚で立って威嚇する巨大なアルマジロの頭を、ラケルが叩き潰し、ケイトが吹き飛ばしていきます。
「あれでこそケイだよね」
「あれがお嬢様のすることかどうかはわからないけどな」
お嬢様は魔物の頭を吹き飛ばして「やりましたわ」と喜んだりはしないでしょう。
「いろいろと扱いの難しい方ですので」
「難しくはないだろう」
「そうそう。単純だよね」
「聞こえていますわ!」
ダンジョンにケイトの不満の声が響き渡りました。
◆◆◆
地下一三階。一行の耳に聞き慣れない音と振動が伝わりました。
「あれがゴーレムか」
人の姿をしているものの、歩くとギャリギャリという音がします。ストーンゴーレムと呼ばれる魔法生物です。
「どこかにemethとか書いていないのかな?」
「そういう話は聞きませんね」
この世界のゴーレムはユダヤ教とは関係がありませんので、eを消して倒すことはできません。その代わりに頭ににあるコアと呼ばれる魔石の一種を壊すと動きが止まります。
「魔法生物の一種です。自我は持たず、半自動的に動くそうですね」
「半自動的ってどういうことです?」
「敵が入ってきたら襲いかかるとか、生きている者がいなくなれば止まるとかです」
「ダンジョンが動かしてるとか、そういうことなのです?」
シーヴがラケルに説明しています。そうやって分析するのもいいですが、ぼーっとしていると危険ですよ。
「では倒します。ハッ‼」
ガコンッ‼ ゴスン……
ラケルのハンマーを食らってストーンゴーレムが砕けます。
「わたくしも負けませんわっ!」
ドゴンッッッ‼ バコンッ! ガランガラガラガラ……
ケイトの自称メイスがゴーレムの頭を打ち抜きます。
「助かるね」
「私たちではどうにもなりませんからね」
「俺でもあの二人ほど軽々とは倒せないな」
サラとシーヴの武器ではストーンゴーレムは倒せません。確実に剣が折れます。ウッゴドーレムでも無理でしょう。武闘家のように、自分の肉体のみで戦うジョブの場合、硬い相手を倒す特殊なスキルを持っていることがありますが、残念ながらサラたちにはありません。
五体のストーンゴーレムを粉砕した二人がレイのところに戻ってきました。
「二人とも、おつかれさま。どうだった?」
「問題ありませんです」
「わたくしも大丈夫ですわ」
「この階層は二人が頼りだな」
それを聞いたラケルとケイトがさらにやる気を出したのは言わなくてもわかるでしょう。
◆◆◆
地下一四階。
「ハイッ‼」
「ヤッ‼」
ガコンッッ‼ ドゴン‼
ケイトとラケルが気合いを入れてゴーレムを粉砕していきます。攻撃が当たりさえすれば一撃です。残り四人は二人の後ろから付いていくだけになっています。
「上級ジョブが強力な武器を持てばこうなるか」
「それならさあ、他のパーティーも楽に倒せるはずだよね?」
このあたりの階は硬い魔物が多いので苦労すると聞いています。駆け出しパーティーならそうでしょうが、ある程度の経験があれば問題ないのではないかとサラは思ったのです。
ケイトの自称メイスは別枠にするとしても、たとえばサラにもゴーレムを粉砕するくらいの力はあります。打撃武器がないので戦闘に参加していないだけです。
ラケルのように元々腕力のある冒険者が上級ジョブになることもよくあります。獣人族の冒険者が上級ジョブになればゴーレムくらいは倒せるだろうと。
「上級ジョブがこのダンジョンにいるかどうかですね。職を求めて王都に向かう人が多いでしょう」
「私が王都を通ったときは武闘大会が行われていました。腕に自身のある人が集まっていたはずです」
「そうか。冒険者として上を目指すんじゃなくて仕官先を探すなら王都しかないよな」
腕に自身がある人なら王都へ行って王国騎士になれるチャンスを探すでしょう。冒険者はあくまでフリーターやバイトのような存在です。公務員である王国騎士とは雲泥の差なんです。
◆◆◆
地下一五階。レイたちは特に問題もなくボス部屋の前まで来ました。
「とりあえず硬い敵ばかりなのは周りを見たら分かるな」
「みなさん装備が特徴的ですわ」
ケイトが言ったように、ここで順番待ちをしている冒険者たちは、超巨大なハンマーなど、他では見ないような武器を持っています。
「お前たちは初めてか?」
すぐ前にいた六人組パーティーの男性がレイの声をかけました。
「ええ。まだ潜ったのが数回目なので」
「それでここまでとはなかなかだな。俺たちは『ヒムラスの砦』だ」
「俺たちは『行雲流水です』
まだ時間があるということで、自己紹介となりました。レイに話しかけたのがリーダーで、ネストリという重騎士でした。
「ここのボス部屋はちょっと特殊だ。倒すのが無理だと思えば全員が武器を捨てて床に伏せれば命を助けてくれる。そのあたりの壁から放り出されるけどな」
ネストリから聞いた内容はヒューと同じものでした。ということは、ここしばらくはボスは変わっていないということになります。
レイたちが説明を聞いていると、ボス部屋の壁に黒い穴ができ、そこから六人の冒険者が転がり出ました。そのまま床を叩いて悔しがっています。
「あんな感じだ。それに一五分経っても倒せないと同じように放り出される。知ってると思うが、死んだら壁からステータスカードだけが出てくるからな。それでボスを倒したかどうかがわかる」
「なるほど。ありがとうございます」
「俺たちも今回で五回目だ。そろそろ下に向かいたいな。武器代もかかるからなあ」
彼らも打撃力重視の武器を手にしています。ボス攻略を失敗すると、武器は放棄することになりますので、装備を調えてまたこの階層にチャレンジしなければなりません。武器は返してもらえないので武器代がかさむのです。
「複数パーティーで戦うことは少ないんですか?」
「ここで組むならもっと前から組んでるだろ? ギブアップの判断もあるから、即席パーティーでは危ないな」
「それもそうですね」
ここのボス部屋ではギブアップが可能です。全員が武器を捨ててうつ伏せになれば放り出されるだけで済みます。その際に武器はすべて失うことになります。戦闘を継続するかギブアップするか。そこの判断を間違えれば命を落とすことになるのです。
「おっと、俺たちの番だ。じゃあな」
ネストリたちがボス部屋に入り、扉が閉まりました。それから五分、ガチャッとロックが外れる音がしました。六人が壁から放り出されることはありませんでしたし、ステータスカードも出てきません。無事にボスを倒せた証拠です。
「それじゃあ行くか」
レイは扉を押して中に入ります。五人がそれに続きました。
「さて、どんなゴーレムだ?」
扉が閉まってボス部屋の明るくなります。そこには巨大な金色のゴーレムがいました。
「キンキラキンだな」
「金です?」
「いや、金とは限らないぞ」
金色の金属はいろいろあります。
「旦那様は金のように見えて金ではない金属をご存知なのですか?」
「ありふれた金属なら真鍮だろうなあ。他には黄鉄鉱か砲金か。パッと見て区別するのは無理だろ」
手元に置いて調べれば違いがわかるかもしれませんが、遠目にどれなのかを言い当てろと言われればかなり難しいでしょう。
「さっそく倒しましょう。かなり大きいみたいですので、ここは私がやりますわ」
ケイトが自称メイスを構えます。このメイスでも頭までギリギリ届くかどうかの巨大さです。ラケルのハンマーではリーチが足りません。
「ハイッ!」
ケイトが自称メイスを突き出すと、ゴーレムはのけ反って躱そうとしました。
ドガンッ‼
メイスの先端は頭までは届かず、ゴーレムの喉のすぐ下を突きました。その瞬間、ゴーレムの頭が吹き飛んで宙を舞い、離れた場所で鈍い音を立てて床に落ちました。
ガゴーン……ガンッ、ガンッ……ガラガラガラン……ズズーン
頭の転がるのが止まると、ゴーレムの体が後ろに向かってゆっくりと倒れ、大きな音が響き渡りました。
「金でも砕けるんだな」
「すごい威力です」
ゴーレムの周辺にはゴーレムの破片が落ちていました。さすがに粉々にはなっていませんが、指の先ほどの欠片がいくつも見えます。金属が砕けるくらいの威力なので、パンダの頭が吹き飛んでもおかしくないでしょう。ここにいる全員がそう思いました。
「シーヴ、やっぱりこれは金なのか?」
「ええっと……金ですね。金貨と同じ純度です」
「よし、集めよう」
みんなで床に落ちている金の欠片を拾い始めました。するとゴーレムの頭を拾いにいっていたサラが、驚いた顔をしながら戻ってきました。
「レイ、まだ頭が生きてる」
「え?」
サラが持っているゴーレムの目が、まだ光ったままでした。
「頭だけでもいいのか。さすが魔法生物……あれ?」
「どしたの?」
「マジックバッグに入らない」
レイは受け取ったゴーレムの頭をマジックバッグに入れようとしましたが、入りませんでした。
「てことはさあ、それって生き物?」
「入らないんだからそうなんだろうな」
魔法生物ですよ。ある程度の知能のあるものは生物だとみなされます。
「レイ、本体をマジックバッグに入れたほうがいいかもしれません。頭と胴体がくっつく可能性があります」
「それならそっちを先に入れておくか」
レイがゴーレムの胴体をマジックバッグに入れると奥の扉が開き、部屋の中央に宝箱が現れました。シーヴが宝箱を調べて開けます。
「中身は……金貨ですね。三枚入っています」
「微妙だね」
ゴーレムの体が金貨何万枚になるかわかりません。それを考えれば、三枚は誤差も誤差でしょう。
「旦那様、その頭をこのまま運んでも大丈夫ですか?」
コアが生きていますが、胴体がなくなったためか、ボスを倒したという判定になったようです。
階段への扉が開いたので移動してもよかったのですが、ボスを一分もかけずに倒してしまいました。それならもうしばらくここにいても悪くはないだろうと考え、ゴールドゴーレムの頭をどうするかを検討することにしました。まだ目が光っています。
「生きてるのに倒したっていう判定だよね」
「だな。シーヴ、こういうことはありえるのか?」
「ありえなくはないと思いますけど、珍しいでしょうね。でも、どうやって持っていきますか?」
この頭はマジックバッグには入りません。それでも頭から切り離された胴体部分は入りました。つまり重要なのは頭ということになります。
レイたちが金でできた頭を前にして話をしていると、頭がグニグニと形を変えて棒人間のような姿になりました。
「逃げたらダメです」
逃げようとしたところ、胴体をラケルにつかまれたゴーレム(棒人間)がジタバタと暴れます。
「そこにコアがあるんだよね? コアだけ取り出せない?」
「そうだな。コアだけ取り出せれば残りの部分も金にできるか。コアになれば動けないだろう」
「それなら割ります」
「コアが気になるから、できれば傷つけないようにしてくれ」
「注意します」
ラケルは棒人間ゴーレムの頭だけを残して胴体を引きちぎり、それからリンゴでも割るかのように頭をパカッと割りました。すると丸いガラス玉のようなものが転がり出ます。サイズは直径五センチほど。表面には細かな模様がびっしりと刻み込まれています。
「これがコアか」
「不思議な模様ですわ」
全員がゴーレムのコアを見終わるとレイが受け取りました。
「そろそろ出る?」
「そうだな。邪魔になる前に出ようか」
扉を通って階段を降りると、一行は転移部屋からダンジョンを出ました。
54
お気に入りに追加
490
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~
月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。
目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。
「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」
突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。
和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。
訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。
「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」
だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!?
================================================
一巻発売中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる