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第7章:新春、急展開
第16話:エルフという友人
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「お兄ちゃん、おはよ♡ 大好き~♡」
「……おはよう」
レイが目を覚ますと、そこにはエリがいました。ベッドの中に。裸で。裸なのはエリだけではありません。当然レイもです。
「なんか途中からおかしくなった気がしたんだけよなあ」
昨日はレイたちの歓迎会が行われていました。レイたちが用意した料理にエルフたちは感激し、エルフたちが用意した料理にレイたちは舌鼓を打ちました。そして、料理とくればお酒です。エルフの女性たちがレイに次々と酒を注いでいました。
レイはお酒が苦手ではありませんし、弱くもありません。アルコールは毒物だと判断されますので、酔ったかなと思って【解毒】を使いました。だから、酔うはずはないんです。
ところが、昨日は途中から妙な気分になりました。気がつけばエリに手を引かれて部屋に入り、そして何があったかは言うまでもないでしょう。はい、ナニですね。
「ごめんなさ~い。先に謝っとくね~」
エリは両手を顔の前で合わせてごめんなさいのポーズをしながらレイに説明しました。
レイとエリ、サラとマイ、かつて隣同士だった四人がここで再会しました。そしてサラとマイがすでにレイに抱かれていることをエリは知りました。そうすれば次は自分もと考えてもおかしくないでしょう。エリは以前からお兄ちゃんが大好きだったからです。
ところが、ここに一つ大きなハードルがありました。それがレイのやや堅苦しい考えです。前世で実の妹だったエリのことは、こっちで生まれ変わっても妹としてしか見ないだろうと、サラとマイ、さらにはエリ自身も考えました。だから、気分が高まるエルフの薬をこっそりとお酒に混ぜたのです。
「……怒れないじゃないか」
レイは両手で顔を覆いました。
「ホントにごめんなさ~い。でも~、昔からお兄ちゃんのことが大好きだったんだから~」
レイはエリにとって正義の味方でした。常に一本の芯がありました。サラと同じように中二病だった自分に、何が正しいのか、何が間違っているのか、それをきちんと教えてくれました。だから、いつの間にか兄であるレイに恋をしていたのです。しかし、その願望が日本では叶えられることはありませんでした。
あの年の年末、エリは久しぶりにアメリカから戻ってくる兄の胸に、年甲斐もなく顔をグリグリと押し付けようと思っていました。ところが、帰省直前に実家からレイの訃報が届いたのです。夏にはサラも亡くなっていました。それ以降、エリは亡くなった兄のことだけを考えて過ごしていたのです。
しかし、何かの偶然でエリは生まれ変わりました。過去の記憶もあります。直感のようなものが働いて、エリはレイがこの世界のどこかで生まれ変わっているはずだと感じていました。そして出会えたのです。策を講じても仕方がありませんね。むしろ、障害がなくなったのなら、何があっても
「いや、腹を立てたわけじゃないんだぞ」
レイはエリの頭を撫でます。レイにはエリを叱った記憶はありません。エリは彼にとって出来のいい妹でした。レイが真面目に振る舞おうとしていたように、エリも真剣に妹をしていたのです。
「日本でもこうやってお兄ちゃんに抱かれたかったな~」
「それは大問題だな。家族会議になるだろう」
「だよね~。でも~、今なら子供もOKだから~」
しばらく昔話を続けた二人は、話が途切れたタイミングでベッドから出て着替えると、部屋を出ました。
◆◆◆
「朝食のご用意ができています」
レイとエリが腕を組みながら部屋に入ると、すでにサラとマイとシャロンが座っていました。サラとマイは、二人の様子を見ると、そろって右手の親指を突き出しました。
「気分的には騙し討ちだけどな」
「終わりよければすべてよしでしょう」
「お前が言うのか?」
シャロンの言葉にレイは苦笑いをします。これがエリだったからよかったものの、別の女性を抱かせられたなら、さすがのレイでも怒ったでしょう。かつてシャロンに激怒したように。
あのときレイは、シャロンを縛ってから媚薬を飲ませ、部屋から音がもれないようにした上で放置しました。女性にあれほどのことをしたことは、前世でも今世でもあの一度きりです。それくらいレイは怒ったのです。
「みんな竿姉妹ってことでいいじゃん。それよりも、ごはんごはん」
「まあ、いいけどな」
レイがエリを抱いたからといって、誰かが損をすることはありません。それがわかっているからこそ、レイはそれ以上は言わないことにしました。
さて、用意された朝食は和食ではありませんが、それでも醤油や味噌を使った料理はレイたちの胃袋を満足させる物でした。
一行が食事を終えたころ、廊下の向こうからバタバタという音が聞こえてきました。バンという音とともに、レオンスが走り込んできました。
「レイ殿レイ殿、いやいやあれは素晴らしい! 褒めてつかわす!」
レオンスはレイの手をつかんでブンブンと振り回しました。
「昨日の夜は半信半疑で妻を全員ベッドに呼んだのだが、終わってみればみんな大喜びでな。これなら間違いなく子供ができると話をしていた」
レイがエリと一緒にベッドに入ったころ、サラが自分のマジックバッグにあった薬をレオンスに渡していたのでした。
サラが渡したのは、濃度が三倍程度に抑えられている媚薬と下級体力回復薬です。媚薬にも体力回復薬と同じ成分が入っていますが、成分的にはそれほど多くはありません。エルフは人間に比べて体力面ではかなり落ちますので、体力回復薬も一緒に服用するようにとサラは伝えたのです。
「これほど爽快な目覚めは久しぶりで、今夜も妻たちを抱こうという気分になっている。こんな気分は生まれてこの方、これまで一度もなかった」
「それでしたら薬も定期的に持ってきましょうか? ポーションはかさばるので錠剤になると思いますが」
「できるなら頼む。他の者たちにも分け与えたいので多めに頼む。褒美は何がいい? 女でいいか? 男が少ないから女が余っている。熟れた体を持て余している女は多いぞ。五人でも一〇人でも好きなだけ持って行ってくれ」
「いえいえ、相手はもう十分いますので」
家はあります。収入もあります。国王にもなぜか頼られています。それでも性欲解消のためだけに恋人を増やしているつもりはありません。
「そもそも人間の俺に抱かれたくはないのでは?」
種族の違いというのはそれなりに大きいでしょう。レイの頭の中身は日本人部分がほとんどなので、エルフと聞いても忌避感はありませんが、人間でも結婚相手に他種族は嫌だという人は実は多いのです。
寿命が人間の一〇倍以上あるエルフにしてみれば、人間はあっという間に死んでしまう生き物でしょう。エルフから見ると、人間は恋愛や結婚の相手としてはどうなのだろうかとレイは思ったのでした。
「いや、一概にそういうわけでもないぞ。昨日この場にいた女たちはレイ殿に好意を持っているはずだ。そこの双子の顔を見てもわかるだろう」
レイたちの食事の準備をしたのがドロシーとフィルシーの二人です。今は片付けを終えて部屋の端に控えています。昨日レイとシャロンをこの集会所まで案内したうちの二人で、宴会の際に近くでモリモリとお肉とご飯を食べていたのが彼女たちだとレイにもわかりました。柔らかい笑みを浮かべ、そのときに渡したチュニックを今日も着ています。
「そうだそうだ、レイ殿の家に滞在するのはその二人になる。昨日のうちに説明しておいた」
「私たちはレイさんに従います」
「よろしくお願いします」
「俺というよりもエリにだろう」
「レイが家長だから、レイに従うってことになったんだよね、昨日のうちに」
レイがエリと宴会の会場を出てから、サラが中心になって話し合いが行われました。細部はそこで決まったのです。
エリがレイにくっついてクラストンに移住するのは決まりです。ドロシーとフィルシーの二人は身の回りのものだけを持ってクラストンでホームステイをすることになりました。最初は寝具も持っていくという話になりかけましたが、客間があるのでそこを使えばいいということに落ち着きました。二人がジンマに戻っても、交代で誰かが来るかもしれないからです。
「……おはよう」
レイが目を覚ますと、そこにはエリがいました。ベッドの中に。裸で。裸なのはエリだけではありません。当然レイもです。
「なんか途中からおかしくなった気がしたんだけよなあ」
昨日はレイたちの歓迎会が行われていました。レイたちが用意した料理にエルフたちは感激し、エルフたちが用意した料理にレイたちは舌鼓を打ちました。そして、料理とくればお酒です。エルフの女性たちがレイに次々と酒を注いでいました。
レイはお酒が苦手ではありませんし、弱くもありません。アルコールは毒物だと判断されますので、酔ったかなと思って【解毒】を使いました。だから、酔うはずはないんです。
ところが、昨日は途中から妙な気分になりました。気がつけばエリに手を引かれて部屋に入り、そして何があったかは言うまでもないでしょう。はい、ナニですね。
「ごめんなさ~い。先に謝っとくね~」
エリは両手を顔の前で合わせてごめんなさいのポーズをしながらレイに説明しました。
レイとエリ、サラとマイ、かつて隣同士だった四人がここで再会しました。そしてサラとマイがすでにレイに抱かれていることをエリは知りました。そうすれば次は自分もと考えてもおかしくないでしょう。エリは以前からお兄ちゃんが大好きだったからです。
ところが、ここに一つ大きなハードルがありました。それがレイのやや堅苦しい考えです。前世で実の妹だったエリのことは、こっちで生まれ変わっても妹としてしか見ないだろうと、サラとマイ、さらにはエリ自身も考えました。だから、気分が高まるエルフの薬をこっそりとお酒に混ぜたのです。
「……怒れないじゃないか」
レイは両手で顔を覆いました。
「ホントにごめんなさ~い。でも~、昔からお兄ちゃんのことが大好きだったんだから~」
レイはエリにとって正義の味方でした。常に一本の芯がありました。サラと同じように中二病だった自分に、何が正しいのか、何が間違っているのか、それをきちんと教えてくれました。だから、いつの間にか兄であるレイに恋をしていたのです。しかし、その願望が日本では叶えられることはありませんでした。
あの年の年末、エリは久しぶりにアメリカから戻ってくる兄の胸に、年甲斐もなく顔をグリグリと押し付けようと思っていました。ところが、帰省直前に実家からレイの訃報が届いたのです。夏にはサラも亡くなっていました。それ以降、エリは亡くなった兄のことだけを考えて過ごしていたのです。
しかし、何かの偶然でエリは生まれ変わりました。過去の記憶もあります。直感のようなものが働いて、エリはレイがこの世界のどこかで生まれ変わっているはずだと感じていました。そして出会えたのです。策を講じても仕方がありませんね。むしろ、障害がなくなったのなら、何があっても
「いや、腹を立てたわけじゃないんだぞ」
レイはエリの頭を撫でます。レイにはエリを叱った記憶はありません。エリは彼にとって出来のいい妹でした。レイが真面目に振る舞おうとしていたように、エリも真剣に妹をしていたのです。
「日本でもこうやってお兄ちゃんに抱かれたかったな~」
「それは大問題だな。家族会議になるだろう」
「だよね~。でも~、今なら子供もOKだから~」
しばらく昔話を続けた二人は、話が途切れたタイミングでベッドから出て着替えると、部屋を出ました。
◆◆◆
「朝食のご用意ができています」
レイとエリが腕を組みながら部屋に入ると、すでにサラとマイとシャロンが座っていました。サラとマイは、二人の様子を見ると、そろって右手の親指を突き出しました。
「気分的には騙し討ちだけどな」
「終わりよければすべてよしでしょう」
「お前が言うのか?」
シャロンの言葉にレイは苦笑いをします。これがエリだったからよかったものの、別の女性を抱かせられたなら、さすがのレイでも怒ったでしょう。かつてシャロンに激怒したように。
あのときレイは、シャロンを縛ってから媚薬を飲ませ、部屋から音がもれないようにした上で放置しました。女性にあれほどのことをしたことは、前世でも今世でもあの一度きりです。それくらいレイは怒ったのです。
「みんな竿姉妹ってことでいいじゃん。それよりも、ごはんごはん」
「まあ、いいけどな」
レイがエリを抱いたからといって、誰かが損をすることはありません。それがわかっているからこそ、レイはそれ以上は言わないことにしました。
さて、用意された朝食は和食ではありませんが、それでも醤油や味噌を使った料理はレイたちの胃袋を満足させる物でした。
一行が食事を終えたころ、廊下の向こうからバタバタという音が聞こえてきました。バンという音とともに、レオンスが走り込んできました。
「レイ殿レイ殿、いやいやあれは素晴らしい! 褒めてつかわす!」
レオンスはレイの手をつかんでブンブンと振り回しました。
「昨日の夜は半信半疑で妻を全員ベッドに呼んだのだが、終わってみればみんな大喜びでな。これなら間違いなく子供ができると話をしていた」
レイがエリと一緒にベッドに入ったころ、サラが自分のマジックバッグにあった薬をレオンスに渡していたのでした。
サラが渡したのは、濃度が三倍程度に抑えられている媚薬と下級体力回復薬です。媚薬にも体力回復薬と同じ成分が入っていますが、成分的にはそれほど多くはありません。エルフは人間に比べて体力面ではかなり落ちますので、体力回復薬も一緒に服用するようにとサラは伝えたのです。
「これほど爽快な目覚めは久しぶりで、今夜も妻たちを抱こうという気分になっている。こんな気分は生まれてこの方、これまで一度もなかった」
「それでしたら薬も定期的に持ってきましょうか? ポーションはかさばるので錠剤になると思いますが」
「できるなら頼む。他の者たちにも分け与えたいので多めに頼む。褒美は何がいい? 女でいいか? 男が少ないから女が余っている。熟れた体を持て余している女は多いぞ。五人でも一〇人でも好きなだけ持って行ってくれ」
「いえいえ、相手はもう十分いますので」
家はあります。収入もあります。国王にもなぜか頼られています。それでも性欲解消のためだけに恋人を増やしているつもりはありません。
「そもそも人間の俺に抱かれたくはないのでは?」
種族の違いというのはそれなりに大きいでしょう。レイの頭の中身は日本人部分がほとんどなので、エルフと聞いても忌避感はありませんが、人間でも結婚相手に他種族は嫌だという人は実は多いのです。
寿命が人間の一〇倍以上あるエルフにしてみれば、人間はあっという間に死んでしまう生き物でしょう。エルフから見ると、人間は恋愛や結婚の相手としてはどうなのだろうかとレイは思ったのでした。
「いや、一概にそういうわけでもないぞ。昨日この場にいた女たちはレイ殿に好意を持っているはずだ。そこの双子の顔を見てもわかるだろう」
レイたちの食事の準備をしたのがドロシーとフィルシーの二人です。今は片付けを終えて部屋の端に控えています。昨日レイとシャロンをこの集会所まで案内したうちの二人で、宴会の際に近くでモリモリとお肉とご飯を食べていたのが彼女たちだとレイにもわかりました。柔らかい笑みを浮かべ、そのときに渡したチュニックを今日も着ています。
「そうだそうだ、レイ殿の家に滞在するのはその二人になる。昨日のうちに説明しておいた」
「私たちはレイさんに従います」
「よろしくお願いします」
「俺というよりもエリにだろう」
「レイが家長だから、レイに従うってことになったんだよね、昨日のうちに」
レイがエリと宴会の会場を出てから、サラが中心になって話し合いが行われました。細部はそこで決まったのです。
エリがレイにくっついてクラストンに移住するのは決まりです。ドロシーとフィルシーの二人は身の回りのものだけを持ってクラストンでホームステイをすることになりました。最初は寝具も持っていくという話になりかけましたが、客間があるのでそこを使えばいいということに落ち着きました。二人がジンマに戻っても、交代で誰かが来るかもしれないからです。
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