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第7章:新春、急展開
第2話:誰でもうっかりやらかすことはある
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聖別式が終わって家路につく新成人たちの中に、レイたちをじっと見つめる一人の少女がいました。シェリルではありません。彼女は最初に儀式を済ませてすでに教会を離れています。
レイたちを見ていた少女の名前はマイラ。この町の南部で商店をしている家の娘です。
「あれは……間違いない」
そうつぶやいた直後、まるでホーミングミサイルのように、レイたちを追尾し始めました。
◆◆◆
「レイ兄」
いきなり昔懐かしい呼び方で話しかけられたレイは、驚いた顔で少女を見ました。整った顔をしていますが、小柄なサラと同じくらい小柄です。記憶にない顔ですが、眠そうな表情と呼び方には見覚えも聞き覚えもありました。
「えっと……ひょっとしてマイか?」
「そう。こんな超絶美少女、私しかいない」
そう言い放って、両手でサムズアップする少女。そのテンション低めのドヤ顔は、レイの記憶の中にガッツリと存在していました。
「マイだな」
「マイだね」
無表情で自信満々にそう言ったのは、日本でサラの妹だったマイ。口数は多くはありませんが、自分のことを超絶美少女だの可憐だのと平気で口にする点は姉譲りです。
「マイ、こっちで会うってことは、お前にも何かあったのか?」
「特に何も。死んだときに自称神様が、世界が違ってもレイ兄とまた会いたいかって聞いてきたから、当たり前って答えただけ」
「自称神様に会ったのか?」
「ん。それでレイ兄しか恋愛対象にできない呪いがかかるけどいいのかって聞かれたから、それが何か問題になるのかって答えた」
「答えるなよ」
レイはいろいろと思い出しました。マイはテンション低めですが、グイグイと迫ってくることがありました。その点ではお互いに気を遣っていたサラよりも扱いが楽でした。迫ってくるのなら避けられるのです。
「それで、お前がここから出てきたってことは、誰かが成人したのか?」
誰でも教会の中に入ることができます。親や兄弟姉妹が送ってくることもありますね。
「私」
「そうか。まあ生まれ変わってまで年の差が同じってことはないか」
前世では、マイはレイとサラの三つ下でした。小柄なのでもっと下に見えますが、どうやらマルタと同い年のようです。
「嘘は言わない。あ、本名はマイラだけど、マイって呼ばれてるからそっちで呼んで」
「慣れてるほうがわかりやすくていいよね。でも、シーヴとシャロン以外みんな似たような年齢になったね」
「そうだな」
サラが二人の名前を口にすると、マイはレイを見ました。
「レイ兄、知らない女性の名前が聞こえた」
「そりゃ会ったことがないはずだからな」
名前が出たついでに、マイをみんなに会わせようかとレイは考えました。
「それでレイ兄」
「どうした?」
「その人は誰?」
マイがマルタを見ながら言います。さっきからレイを挟んでサラの反対側に立り、みんなの話をふんふんと聞いていました。
「まあ先に紹介しておくか。俺たちが住んでる家の向かいに白鷺亭って宿屋があって、そこの看板娘のマルタだ。お前と同じく成人したばかりだ。マルタ、こっちがマイだ」
「初めましてぇ、マルタですぅ」
マルタがマイに頭を下げます。
「ん、よろしく、マイです」
同い年なので仲よくしてほしいとレイは二人を見ながら思いました。ところが、次のマイの言葉を聞いた瞬間、自分たちがやらかしたことに気づいたのです。
「一応聞くけど、マルタってこの話を聞かせてもいい人?」
「え?」
マイに言われて思い出した。レイとサラとシーヴは、前世に関する話は三人の中でしかしないことに決めていたのです。そしてレイは隣を見ました。するといつものように笑みを浮かべながら、マルタがレイの顔を見上げていました。
「不思議な雰囲気の人だなぁって思ってましたけどぉ、本当に異世界から来た人っているんですねぇ」
「あー、でもマルタはこんな話を信じるのか?」
「はいぃ。会ったことはありませんけどぉ、いるという話は聞いたことがありますからぁ」
今さらでしょうが、この世界には様々な世界からやってきた異世界人がいます。そう考えれば今さらですね。
人は死ぬと、その魂は天に還ります。そしてまたどこかの世界で生まれ変わるのです。そのときに記憶は消去されます。
ところが、魂に過去の記憶が残ったまま転生し、新しい体を得てから過去の記憶が戻ることもあります。
「ごめん、私もマイで驚いてうっかりしてた」
「俺もだな。まあ着いてから話すか。二人は時間はあるのか?」
「いくらでも大丈夫ですぅ」
「私も」
レイは家に着くまで、マイのこれまでの暮らしを聞きました。
◆◆◆
「ここだ」
「お店みたい」
「元々店だったところだ。今でも名残がある」
マイが店の中を見回していました。そして、ぶら下がっている毛皮を指しました。
「やっぱりレイ兄たちがパンダキラーだった」
「やっぱりってのはどういうことだ?」
「グレーターパンダの素材を売却するパーティーがいるって噂になってた」
乾燥中の毛皮を品定めするかのように見ながら、マイは自分が聞いたことのある話をレイにしました。
「知ってたのなら来たらよかったのに」
「冒険者ならダンジョンに入ってるか町の外に出てるはず。私にはさすがに無理」
「そうか。店をやってるって、ほとんど誰にも言ってないからな」
レイたちの話を聞いたことがあっても、ここに家があって店をしているとは気づかないでしょう。しかも、店を開けることはほとんどありません。毛皮に関しては、スーザンの店に少しだけ卸しています。
「お母さんが死ぬまでに一度はパンダの毛皮を着てみたいって言ってた」
「余ってるからあげてもいいけどな。あげるのが問題なら身内価格で売るか」
レイたちは冒険者ギルドに売却する以外に、自分たちで鞣して使っています。今も着ているマントはパンダの毛皮になっています。非常に目立ちますが、パンダではない真っ白な毛皮をたまに販売していますので、何の毛皮かは言わなければわからないでしょう。
「それはともかく、みんなを集めて説明だな」
「みんなビックリするよね」
「たぶんな。でも、マイを入れて、四人が日本人なんだよな」
レイはこの際、ラケルとケイト、シャロン、ディオナ、そして半分話してしまったマルタに事情を伝えることにしました。
「それでレイ様、異世界というのは本当にあるんですの?」
「ある。それは間違いない。実際に共通の話ができる」
レイがケイトの質問にそう答えると、サラとシーヴ、そしてマイの三人は首を縦に振りました。
「そしてこのマイが妹だと」
「俺のじゃなくてサラの元妹な。でも隣同士だったから家族みたいなものだった」
サラとマイがうなずきます。
「あ、そうだ、マイ。さっき聞こうと思って聞き損なった」
「なに?」
「お前はどうして死んだんだ?」
「たぶん普通に老衰。細かなことは覚えてないけど、九〇を過ぎても元気に暮らしてたのは覚えてる。エリは『寄る年波には勝てないね~』って言ってたけど」
「そうか」
自分やサラと違って、やることをやって生まれ変わったのなら問題はないかと、レイは安心しました。
「エリとはどなたですの?」
「前世での俺の妹だ」
レイにはシンという弟とエリカという妹、サラにはマイという妹とカイトという弟がいたことを説明しました。レイもサラも三人きょうだいの一番上だったと。
「レイは六人きょうだいの長男みたいだったよね」
「一番手のかかるのが長女のサラだったってのがな」
「いひひ、ごめんて」
しっかり者の順では、カイト、シン、マイ、エリカの順だとレイは考えていました。サラは別枠です。頼りになることもあれば、とんでもないことをしでかすこともありました。一番末っ子のカイトが最も落ち着いていたという点で、当時のサラとマイがどうだったかわかるでしょう。
家族の話から現在の活動の話になり、そこからパーティー名の話になりました。
「じゃあさ、あらためてパーティー名を『レイと乙女たち』にする?」
「しないしない。明らかにおかしいだろ?」
サラは最初にもその名前を提案しました。この広い世界、『〇〇と恋人たち』のようなパーティー名があるのは事実としても、レイにはそこまで主張する趣味はありません。
「サラさん。ディオナさんは特別として、私たち五人は乙女ではありません。あえて言うなれば『レイと非処女たち』では? 『レイと使用済み』『レイと貫通済み』でもかまいませんが」
「あー、そうだね」
シャロンのストレートな発言に女性の多くが顔を赤くしました。その話をじっと聞いていたマルタが手を挙げます。
「はい、マルタさん」
「シャロンさん、私たち二人がパーティーに加わればぁ、レイさんと経験済み五人と未経験二人でぇ、もう少しバランスが取れるのではぁ?」
「それはいい考えですね。『レイと乙女と非処女たち』にしますか? 語呂がいいですね」
「待て待て。斬新すぎだ」
「あ、失礼しました、旦那様。どうせすぐに全員が非処女になるはずですので、やはりパーティー名には使えませんね」
「いや、そうじゃなくてな」
そんな話をしているとレイの袖が引かれました。
「レイ兄、パーティー内でのヒエラルキーは下のほう?」
「そういうわけでもないんだけど、シャロンはハーフリングだからちょっと」
レイがマイの質問に答えていると、シャロンがそちらを向きました。
「私がちょっと可愛すぎるということですか?」
「ああ、今だけじゃなくて、昨日の夜も今朝も可愛かったぞ」
「は、はい。ありがとうございます……」
シャロンはストレートに褒められると上手に返せません。手をモジモジと動かしています。
「なるほど。他人をイジるわりに照れ屋だと」
「そんな感じだ」
「でも、レイ兄がタラシになってる」
「タラシって言うなよ」
そうは言い返したものの、自分でも少々軽くなっていると気づいているレイです。
「今さらだけど、二人はどんなジョブになったんだ?」
教会から出たところで合流し、そこから昔話をしながらここに来たので、ジョブの話はしていません。
「私は魔法少女」
「マルタは?」
「踊り子ですぅ」
マルタは宿屋の受付だけではなく酒場で給仕もしていました。テーブルの間をくるくると踊るように配膳や片付けをしていた影響でしょう。
「マルタが踊ると胸がすごいことになりそうだね」
「レイさんになら見られても平気ですよぉ。ほらぁ」
「揺らすな揺らすな」
わざと胸を下から持ち上げてレイに見せつけます。
「でもマルタには宿屋の仕事があるだろ?」
朝に白鷺亭を出て教会に向かい、そのままこの家に入りました。いくら向かいとはいえ、一度帰ってどうするかを家族と話し合ったほうがいいでしょう。いきなりパーティーメンバーに加えたとマルタを連れ出せば、彼女の両親にどんな顔をされるかわかったものではありません。
普通ならそうでしょうが、マルタの家族はレイを信用しています。息子の仕事の世話までしてくれましたからね。娘を任せる気満々なんです。
「大丈夫ですよぉ。どんなジョブでもレイさんにくっついていくって両親には言ってますからぁ」
マルタはそうは言いますが、やはり帰ってこなければ心配するだろうということで、今日のところは帰らせることにしました。家でお祝いもするでしょう。
帰るのはマイも同じです。マイの場合はもっと町の南なので、レイが送っていくことになりました。
「レイ兄とまた並んで歩けて嬉しい」
嬉しいと言うわりには表情が変わっていませんが、それでも違いがレイにはわかります。マイはレイの手を握っています。
「それにしても……別人に生まれ変わったはずなのに、特徴が変わらないな」
「それはレイ兄も同じ」
「そうか?」
「そう」
二人とも、顔も背格好もまったく違っています。もちろん声も。それでもマイはレイとサラに気づきました。話し方、身振り手振り、そしてなによりも表情。兄弟姉妹のつながりは、何十年経とうが世界が違おうが、途切れないものなのです。
レイたちを見ていた少女の名前はマイラ。この町の南部で商店をしている家の娘です。
「あれは……間違いない」
そうつぶやいた直後、まるでホーミングミサイルのように、レイたちを追尾し始めました。
◆◆◆
「レイ兄」
いきなり昔懐かしい呼び方で話しかけられたレイは、驚いた顔で少女を見ました。整った顔をしていますが、小柄なサラと同じくらい小柄です。記憶にない顔ですが、眠そうな表情と呼び方には見覚えも聞き覚えもありました。
「えっと……ひょっとしてマイか?」
「そう。こんな超絶美少女、私しかいない」
そう言い放って、両手でサムズアップする少女。そのテンション低めのドヤ顔は、レイの記憶の中にガッツリと存在していました。
「マイだな」
「マイだね」
無表情で自信満々にそう言ったのは、日本でサラの妹だったマイ。口数は多くはありませんが、自分のことを超絶美少女だの可憐だのと平気で口にする点は姉譲りです。
「マイ、こっちで会うってことは、お前にも何かあったのか?」
「特に何も。死んだときに自称神様が、世界が違ってもレイ兄とまた会いたいかって聞いてきたから、当たり前って答えただけ」
「自称神様に会ったのか?」
「ん。それでレイ兄しか恋愛対象にできない呪いがかかるけどいいのかって聞かれたから、それが何か問題になるのかって答えた」
「答えるなよ」
レイはいろいろと思い出しました。マイはテンション低めですが、グイグイと迫ってくることがありました。その点ではお互いに気を遣っていたサラよりも扱いが楽でした。迫ってくるのなら避けられるのです。
「それで、お前がここから出てきたってことは、誰かが成人したのか?」
誰でも教会の中に入ることができます。親や兄弟姉妹が送ってくることもありますね。
「私」
「そうか。まあ生まれ変わってまで年の差が同じってことはないか」
前世では、マイはレイとサラの三つ下でした。小柄なのでもっと下に見えますが、どうやらマルタと同い年のようです。
「嘘は言わない。あ、本名はマイラだけど、マイって呼ばれてるからそっちで呼んで」
「慣れてるほうがわかりやすくていいよね。でも、シーヴとシャロン以外みんな似たような年齢になったね」
「そうだな」
サラが二人の名前を口にすると、マイはレイを見ました。
「レイ兄、知らない女性の名前が聞こえた」
「そりゃ会ったことがないはずだからな」
名前が出たついでに、マイをみんなに会わせようかとレイは考えました。
「それでレイ兄」
「どうした?」
「その人は誰?」
マイがマルタを見ながら言います。さっきからレイを挟んでサラの反対側に立り、みんなの話をふんふんと聞いていました。
「まあ先に紹介しておくか。俺たちが住んでる家の向かいに白鷺亭って宿屋があって、そこの看板娘のマルタだ。お前と同じく成人したばかりだ。マルタ、こっちがマイだ」
「初めましてぇ、マルタですぅ」
マルタがマイに頭を下げます。
「ん、よろしく、マイです」
同い年なので仲よくしてほしいとレイは二人を見ながら思いました。ところが、次のマイの言葉を聞いた瞬間、自分たちがやらかしたことに気づいたのです。
「一応聞くけど、マルタってこの話を聞かせてもいい人?」
「え?」
マイに言われて思い出した。レイとサラとシーヴは、前世に関する話は三人の中でしかしないことに決めていたのです。そしてレイは隣を見ました。するといつものように笑みを浮かべながら、マルタがレイの顔を見上げていました。
「不思議な雰囲気の人だなぁって思ってましたけどぉ、本当に異世界から来た人っているんですねぇ」
「あー、でもマルタはこんな話を信じるのか?」
「はいぃ。会ったことはありませんけどぉ、いるという話は聞いたことがありますからぁ」
今さらでしょうが、この世界には様々な世界からやってきた異世界人がいます。そう考えれば今さらですね。
人は死ぬと、その魂は天に還ります。そしてまたどこかの世界で生まれ変わるのです。そのときに記憶は消去されます。
ところが、魂に過去の記憶が残ったまま転生し、新しい体を得てから過去の記憶が戻ることもあります。
「ごめん、私もマイで驚いてうっかりしてた」
「俺もだな。まあ着いてから話すか。二人は時間はあるのか?」
「いくらでも大丈夫ですぅ」
「私も」
レイは家に着くまで、マイのこれまでの暮らしを聞きました。
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「ここだ」
「お店みたい」
「元々店だったところだ。今でも名残がある」
マイが店の中を見回していました。そして、ぶら下がっている毛皮を指しました。
「やっぱりレイ兄たちがパンダキラーだった」
「やっぱりってのはどういうことだ?」
「グレーターパンダの素材を売却するパーティーがいるって噂になってた」
乾燥中の毛皮を品定めするかのように見ながら、マイは自分が聞いたことのある話をレイにしました。
「知ってたのなら来たらよかったのに」
「冒険者ならダンジョンに入ってるか町の外に出てるはず。私にはさすがに無理」
「そうか。店をやってるって、ほとんど誰にも言ってないからな」
レイたちの話を聞いたことがあっても、ここに家があって店をしているとは気づかないでしょう。しかも、店を開けることはほとんどありません。毛皮に関しては、スーザンの店に少しだけ卸しています。
「お母さんが死ぬまでに一度はパンダの毛皮を着てみたいって言ってた」
「余ってるからあげてもいいけどな。あげるのが問題なら身内価格で売るか」
レイたちは冒険者ギルドに売却する以外に、自分たちで鞣して使っています。今も着ているマントはパンダの毛皮になっています。非常に目立ちますが、パンダではない真っ白な毛皮をたまに販売していますので、何の毛皮かは言わなければわからないでしょう。
「それはともかく、みんなを集めて説明だな」
「みんなビックリするよね」
「たぶんな。でも、マイを入れて、四人が日本人なんだよな」
レイはこの際、ラケルとケイト、シャロン、ディオナ、そして半分話してしまったマルタに事情を伝えることにしました。
「それでレイ様、異世界というのは本当にあるんですの?」
「ある。それは間違いない。実際に共通の話ができる」
レイがケイトの質問にそう答えると、サラとシーヴ、そしてマイの三人は首を縦に振りました。
「そしてこのマイが妹だと」
「俺のじゃなくてサラの元妹な。でも隣同士だったから家族みたいなものだった」
サラとマイがうなずきます。
「あ、そうだ、マイ。さっき聞こうと思って聞き損なった」
「なに?」
「お前はどうして死んだんだ?」
「たぶん普通に老衰。細かなことは覚えてないけど、九〇を過ぎても元気に暮らしてたのは覚えてる。エリは『寄る年波には勝てないね~』って言ってたけど」
「そうか」
自分やサラと違って、やることをやって生まれ変わったのなら問題はないかと、レイは安心しました。
「エリとはどなたですの?」
「前世での俺の妹だ」
レイにはシンという弟とエリカという妹、サラにはマイという妹とカイトという弟がいたことを説明しました。レイもサラも三人きょうだいの一番上だったと。
「レイは六人きょうだいの長男みたいだったよね」
「一番手のかかるのが長女のサラだったってのがな」
「いひひ、ごめんて」
しっかり者の順では、カイト、シン、マイ、エリカの順だとレイは考えていました。サラは別枠です。頼りになることもあれば、とんでもないことをしでかすこともありました。一番末っ子のカイトが最も落ち着いていたという点で、当時のサラとマイがどうだったかわかるでしょう。
家族の話から現在の活動の話になり、そこからパーティー名の話になりました。
「じゃあさ、あらためてパーティー名を『レイと乙女たち』にする?」
「しないしない。明らかにおかしいだろ?」
サラは最初にもその名前を提案しました。この広い世界、『〇〇と恋人たち』のようなパーティー名があるのは事実としても、レイにはそこまで主張する趣味はありません。
「サラさん。ディオナさんは特別として、私たち五人は乙女ではありません。あえて言うなれば『レイと非処女たち』では? 『レイと使用済み』『レイと貫通済み』でもかまいませんが」
「あー、そうだね」
シャロンのストレートな発言に女性の多くが顔を赤くしました。その話をじっと聞いていたマルタが手を挙げます。
「はい、マルタさん」
「シャロンさん、私たち二人がパーティーに加わればぁ、レイさんと経験済み五人と未経験二人でぇ、もう少しバランスが取れるのではぁ?」
「それはいい考えですね。『レイと乙女と非処女たち』にしますか? 語呂がいいですね」
「待て待て。斬新すぎだ」
「あ、失礼しました、旦那様。どうせすぐに全員が非処女になるはずですので、やはりパーティー名には使えませんね」
「いや、そうじゃなくてな」
そんな話をしているとレイの袖が引かれました。
「レイ兄、パーティー内でのヒエラルキーは下のほう?」
「そういうわけでもないんだけど、シャロンはハーフリングだからちょっと」
レイがマイの質問に答えていると、シャロンがそちらを向きました。
「私がちょっと可愛すぎるということですか?」
「ああ、今だけじゃなくて、昨日の夜も今朝も可愛かったぞ」
「は、はい。ありがとうございます……」
シャロンはストレートに褒められると上手に返せません。手をモジモジと動かしています。
「なるほど。他人をイジるわりに照れ屋だと」
「そんな感じだ」
「でも、レイ兄がタラシになってる」
「タラシって言うなよ」
そうは言い返したものの、自分でも少々軽くなっていると気づいているレイです。
「今さらだけど、二人はどんなジョブになったんだ?」
教会から出たところで合流し、そこから昔話をしながらここに来たので、ジョブの話はしていません。
「私は魔法少女」
「マルタは?」
「踊り子ですぅ」
マルタは宿屋の受付だけではなく酒場で給仕もしていました。テーブルの間をくるくると踊るように配膳や片付けをしていた影響でしょう。
「マルタが踊ると胸がすごいことになりそうだね」
「レイさんになら見られても平気ですよぉ。ほらぁ」
「揺らすな揺らすな」
わざと胸を下から持ち上げてレイに見せつけます。
「でもマルタには宿屋の仕事があるだろ?」
朝に白鷺亭を出て教会に向かい、そのままこの家に入りました。いくら向かいとはいえ、一度帰ってどうするかを家族と話し合ったほうがいいでしょう。いきなりパーティーメンバーに加えたとマルタを連れ出せば、彼女の両親にどんな顔をされるかわかったものではありません。
普通ならそうでしょうが、マルタの家族はレイを信用しています。息子の仕事の世話までしてくれましたからね。娘を任せる気満々なんです。
「大丈夫ですよぉ。どんなジョブでもレイさんにくっついていくって両親には言ってますからぁ」
マルタはそうは言いますが、やはり帰ってこなければ心配するだろうということで、今日のところは帰らせることにしました。家でお祝いもするでしょう。
帰るのはマイも同じです。マイの場合はもっと町の南なので、レイが送っていくことになりました。
「レイ兄とまた並んで歩けて嬉しい」
嬉しいと言うわりには表情が変わっていませんが、それでも違いがレイにはわかります。マイはレイの手を握っています。
「それにしても……別人に生まれ変わったはずなのに、特徴が変わらないな」
「それはレイ兄も同じ」
「そうか?」
「そう」
二人とも、顔も背格好もまったく違っています。もちろん声も。それでもマイはレイとサラに気づきました。話し方、身振り手振り、そしてなによりも表情。兄弟姉妹のつながりは、何十年経とうが世界が違おうが、途切れないものなのです。
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