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第7章:新春、急展開
第11話:避けられる依頼
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「レイさん、お願いしたい仕事があるのですが、お時間はありますか?」
その日、レイたちが冒険者ギルドに入ると、マーシャがそう言いながら近づきました。入った瞬間に多くの職員がレイたちに目を向けましたので、おそらく待ち構えていたのでしょう。
レイたち『行雲流水』は、ほぼ決まった時間に冒険者ギルドに立ち寄ります。朝は他の冒険者たちよりもやや遅めで、午後は夕方と呼ぶには早い時間です。
毎日顔を見せるとは限りませんが、三日続けて来ないことは滅多にありません。週に四日か五日はグレーターパンダの納品に来ていますので、ギルドとしても安心して待ち構えることができるのです。
「ええ、大丈夫ですよ」
レイの返事を聞くと、マーシャは一枚の紙を取り出しました。レイはそれを受け取るとざっと目を通します。
「え~っと、配達ですか?」
「はい。物が物ですので、信用も信頼もできる方にしかお願いできません。エルフの町ジンマへの配達になります」
「「「エルフ!」」」
滅多に聞かない名前に、四人の声がそろいました。驚かなかったのはシーヴとシャロンくらいです。そして、その名前を聞いた他の冒険者たちが気の毒そうな顔をしたことにシーヴもシャロンも気づきました。そしてその理由にも。
クラストンから東に二日ほど向かうと行き止まりになります。その先は深い森になっていますが、その森の中に人が「ジンマ」と呼んでいるエルフの町があるのです。
「でも配達ならいくらでも人がいるんじゃないですか?」
レイがそう聞いたのも無理はないでしょう。依頼票には荷物の配達としてはかなり高めの金額が書かれていたからです。
二日半かけて到着し、二日半かけて帰ることになります。往復で五、六日程度はかかるとして、その五倍ほどの金額が書かれています。レイたちは配達などの通常依頼は一度も受けていませんが、相場は知っています。
「旦那様、相手がエルフというだけで、周囲のこの反応です」
「ですね。誰もやりたがらないと以前に聞いたことがあるのを思い出しました」
そう言われてレイが周りを見ると、その話は振ってくれるなと言わんばかりに他の冒険者たちは顔を背けました。
「お二人の言葉のとおりです。嫌がられる仕事ですので配達人が確保しにくいのです。一度は引き受けてくれたとしても、二度目は断られます」
エルフは精霊族の中で最も長い寿命と最も美しい外見を持つ種族です。
背丈は人間と同じか若干低い程度ですが、人間に比べると線が細い体格をしています。美しい顔と長い耳を持ち、魔法が得意です。森の中で狩猟や耕作をして暮らしています。
ジンマにいるエルフたちがクラストンに来ることはありませんので、用事があるならこちらから向かわなければなりません。道のない森の中を半日ほど進まなければなりません。しかも、渡して終わりというだけではなく、取り引きをしなければならないのです。
「実は人数に制限がありまして、向こうの森に入るのは四人まで、その中で町に入れるのは二人までとなっています。大人数で押しかけて攻撃されたという記録もあります。だから腕に自信がある人にしか頼めません。賓客として扱ってもらえるわけではなく、どちらかといえば面倒な客扱いだそうです。それでも怒らずに交渉してくれる人でなければ任せられないのです」
エルフたちからすると、自分たちは昔から今の場所で暮らしてきたわけです。たまたま近くに人間の町ができたので「そちらが来るなら取り引きをしてやってもいい」ということになっただけです。
これまでにジンマに行った冒険者から聞いた話をまとめると、「嫌なら来なければいい。他に手に入れる手段はいくらでもある」という感じだとマーシャは説明します。
「おそらくですが、シャロンさんならそれほど嫌がられることはないと思います」
そう言いながらマーシャはレイの斜め後ろにいるシャロンに顔を向けました。
「たしかに私はハーフリングですが、エルフは自分たち以外を下に見ます。人間よりはマシという程度でしょう」
エルフは美しいものを好み、逆に美しくないものを嫌うと言われています。フェアリーやハーフリングに対してはそこまで毛嫌いしているわけではありませんが、エルフが一番だという考えが彼らの頭にはあり、そして世間的にもそういうものだと思われているのです。
「そこまでしてエルフから何を買うんですか?」
「魔道具です」
「ああ、そうか。うちにもありましたね」
エルフは寿命が長いおかげで様々な知識を持っています。そして、魔法だけでなく魔道具作りも得意です。それらがデューラント王国内で取り引きされています。
クラストンがやっていることは、人と接することを好まないエルフたちから魔道具を購入することです。なぜ面倒な相手と取引をするのかというと、たとえ同じ機能の魔道具でも、エルフが作ったというだけで、世間では値段の桁が一つ上がるからです。
しかも、エルフの作る魔道具には、非常に多機能なものが多いのです。人間では、それぞれの機能をもつ魔道具は作れても、それを一つにすることができないんです。
たとえば、魔石コンロという魔道具があります。煮炊きに使うものですが、人間が作るものは三段階から火力を選ぶことになりますが、エルフが作ったものは火力の調整が自由自在です。
エルフとの取り引きそのものは足元を見られて赤字になっても、その魔道具を他の貴族に売却すれば大きな黒字になります。だから今でも半年に一度の取り引きが続けられています。
「取り引きで使うマジックバッグをお渡しします。手紙と代金も中に入れますので、持ち逃げでもされればとんでもないことになるのです」
高価な商品の取り引きをするわけですので、信用のない人物には任せられません。その点ではレイは領主に気に入られている上に、ギルド長ザカリーの甥でもあります。その点では最も信用できるでしょう。
「わかりました。それなら明日でいいですか?」
「はい。半年に一度ということになっていますが、エルフは気が長いので、一か月くらい前後しても大丈夫です」
「いえいえ、明日には出ますので、そのときに受け取ります」
レイたちは家に戻って対策を立てることにしました。
◆◆◆
「とりあえず一週間ほどかかる。ジンマ行きのメンバーだけど、俺とシャロンは決定。悪いけどマルタは今回は留守番だな」
「そうですねぇ」
今でこそシャロンには魔法のメイド箒がありますが、それでも戦うことが好きではありません。レイは彼女に無理はさせたくありませんが、マーシャと同じように、人間だけよりもハーフリングのシャロンがいるほうが扱いがよくなるかもしれないと考えました。
マルタは完全に支援系の踊り子なので、戦闘能力はかなり低めです。そして森の中ではいつどこから魔物が現れるかわかりませんので、シャロンだけでなくマルタも守りながら進むとなるとなかなか骨が折れるでしょう。
「それならわたくしと一緒にパンダ狩りをしませんか? 『天使の微笑み』には負けていられません」
「そうですねぇ。狩りに出かけたりぃ、料理や染め物をしたりでしょうかぁ」
ケイトの武器は相変わらず自称メイスです。【衝撃】の魔法が組み込まれていて、魔物の頭が一瞬にして弾け飛びますが、森の中ではポールウェポンは使いにくいでしょう。
「残り二人はサラとマイ。ここは小回りを考えた。ラケルも森の中では戦いにくいだろう。パンダ狩りを手伝ってくれ。シーヴはそのサポートで」
「わかりましたです」
「ではパンダ狩りを基本として、一度くらいはダンジョンに潜りましょうか? それでいいですね?」
「ああ。無茶をしない程度に頑張ってくれ」
ジンマに行くのはレイとサラとマイの万能タイプ三人とシャロンという組み合わせに決まりました。
その日、レイたちが冒険者ギルドに入ると、マーシャがそう言いながら近づきました。入った瞬間に多くの職員がレイたちに目を向けましたので、おそらく待ち構えていたのでしょう。
レイたち『行雲流水』は、ほぼ決まった時間に冒険者ギルドに立ち寄ります。朝は他の冒険者たちよりもやや遅めで、午後は夕方と呼ぶには早い時間です。
毎日顔を見せるとは限りませんが、三日続けて来ないことは滅多にありません。週に四日か五日はグレーターパンダの納品に来ていますので、ギルドとしても安心して待ち構えることができるのです。
「ええ、大丈夫ですよ」
レイの返事を聞くと、マーシャは一枚の紙を取り出しました。レイはそれを受け取るとざっと目を通します。
「え~っと、配達ですか?」
「はい。物が物ですので、信用も信頼もできる方にしかお願いできません。エルフの町ジンマへの配達になります」
「「「エルフ!」」」
滅多に聞かない名前に、四人の声がそろいました。驚かなかったのはシーヴとシャロンくらいです。そして、その名前を聞いた他の冒険者たちが気の毒そうな顔をしたことにシーヴもシャロンも気づきました。そしてその理由にも。
クラストンから東に二日ほど向かうと行き止まりになります。その先は深い森になっていますが、その森の中に人が「ジンマ」と呼んでいるエルフの町があるのです。
「でも配達ならいくらでも人がいるんじゃないですか?」
レイがそう聞いたのも無理はないでしょう。依頼票には荷物の配達としてはかなり高めの金額が書かれていたからです。
二日半かけて到着し、二日半かけて帰ることになります。往復で五、六日程度はかかるとして、その五倍ほどの金額が書かれています。レイたちは配達などの通常依頼は一度も受けていませんが、相場は知っています。
「旦那様、相手がエルフというだけで、周囲のこの反応です」
「ですね。誰もやりたがらないと以前に聞いたことがあるのを思い出しました」
そう言われてレイが周りを見ると、その話は振ってくれるなと言わんばかりに他の冒険者たちは顔を背けました。
「お二人の言葉のとおりです。嫌がられる仕事ですので配達人が確保しにくいのです。一度は引き受けてくれたとしても、二度目は断られます」
エルフは精霊族の中で最も長い寿命と最も美しい外見を持つ種族です。
背丈は人間と同じか若干低い程度ですが、人間に比べると線が細い体格をしています。美しい顔と長い耳を持ち、魔法が得意です。森の中で狩猟や耕作をして暮らしています。
ジンマにいるエルフたちがクラストンに来ることはありませんので、用事があるならこちらから向かわなければなりません。道のない森の中を半日ほど進まなければなりません。しかも、渡して終わりというだけではなく、取り引きをしなければならないのです。
「実は人数に制限がありまして、向こうの森に入るのは四人まで、その中で町に入れるのは二人までとなっています。大人数で押しかけて攻撃されたという記録もあります。だから腕に自信がある人にしか頼めません。賓客として扱ってもらえるわけではなく、どちらかといえば面倒な客扱いだそうです。それでも怒らずに交渉してくれる人でなければ任せられないのです」
エルフたちからすると、自分たちは昔から今の場所で暮らしてきたわけです。たまたま近くに人間の町ができたので「そちらが来るなら取り引きをしてやってもいい」ということになっただけです。
これまでにジンマに行った冒険者から聞いた話をまとめると、「嫌なら来なければいい。他に手に入れる手段はいくらでもある」という感じだとマーシャは説明します。
「おそらくですが、シャロンさんならそれほど嫌がられることはないと思います」
そう言いながらマーシャはレイの斜め後ろにいるシャロンに顔を向けました。
「たしかに私はハーフリングですが、エルフは自分たち以外を下に見ます。人間よりはマシという程度でしょう」
エルフは美しいものを好み、逆に美しくないものを嫌うと言われています。フェアリーやハーフリングに対してはそこまで毛嫌いしているわけではありませんが、エルフが一番だという考えが彼らの頭にはあり、そして世間的にもそういうものだと思われているのです。
「そこまでしてエルフから何を買うんですか?」
「魔道具です」
「ああ、そうか。うちにもありましたね」
エルフは寿命が長いおかげで様々な知識を持っています。そして、魔法だけでなく魔道具作りも得意です。それらがデューラント王国内で取り引きされています。
クラストンがやっていることは、人と接することを好まないエルフたちから魔道具を購入することです。なぜ面倒な相手と取引をするのかというと、たとえ同じ機能の魔道具でも、エルフが作ったというだけで、世間では値段の桁が一つ上がるからです。
しかも、エルフの作る魔道具には、非常に多機能なものが多いのです。人間では、それぞれの機能をもつ魔道具は作れても、それを一つにすることができないんです。
たとえば、魔石コンロという魔道具があります。煮炊きに使うものですが、人間が作るものは三段階から火力を選ぶことになりますが、エルフが作ったものは火力の調整が自由自在です。
エルフとの取り引きそのものは足元を見られて赤字になっても、その魔道具を他の貴族に売却すれば大きな黒字になります。だから今でも半年に一度の取り引きが続けられています。
「取り引きで使うマジックバッグをお渡しします。手紙と代金も中に入れますので、持ち逃げでもされればとんでもないことになるのです」
高価な商品の取り引きをするわけですので、信用のない人物には任せられません。その点ではレイは領主に気に入られている上に、ギルド長ザカリーの甥でもあります。その点では最も信用できるでしょう。
「わかりました。それなら明日でいいですか?」
「はい。半年に一度ということになっていますが、エルフは気が長いので、一か月くらい前後しても大丈夫です」
「いえいえ、明日には出ますので、そのときに受け取ります」
レイたちは家に戻って対策を立てることにしました。
◆◆◆
「とりあえず一週間ほどかかる。ジンマ行きのメンバーだけど、俺とシャロンは決定。悪いけどマルタは今回は留守番だな」
「そうですねぇ」
今でこそシャロンには魔法のメイド箒がありますが、それでも戦うことが好きではありません。レイは彼女に無理はさせたくありませんが、マーシャと同じように、人間だけよりもハーフリングのシャロンがいるほうが扱いがよくなるかもしれないと考えました。
マルタは完全に支援系の踊り子なので、戦闘能力はかなり低めです。そして森の中ではいつどこから魔物が現れるかわかりませんので、シャロンだけでなくマルタも守りながら進むとなるとなかなか骨が折れるでしょう。
「それならわたくしと一緒にパンダ狩りをしませんか? 『天使の微笑み』には負けていられません」
「そうですねぇ。狩りに出かけたりぃ、料理や染め物をしたりでしょうかぁ」
ケイトの武器は相変わらず自称メイスです。【衝撃】の魔法が組み込まれていて、魔物の頭が一瞬にして弾け飛びますが、森の中ではポールウェポンは使いにくいでしょう。
「残り二人はサラとマイ。ここは小回りを考えた。ラケルも森の中では戦いにくいだろう。パンダ狩りを手伝ってくれ。シーヴはそのサポートで」
「わかりましたです」
「ではパンダ狩りを基本として、一度くらいはダンジョンに潜りましょうか? それでいいですね?」
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